アメリカ紀行

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909516

作品紹介・あらすじ

哲学の中心はいま、アメリカにあるのか?ベストセラー『勉強の哲学』の直後、サバティカル(学外研究)で訪れたアメリカの地で、次なる哲学の萌芽は生まれるのか。聖なるもの、信頼、警報、無関係、分身、二人称──32のvariationsで奏でるアメリカ、新しい散文の形。

感想・レビュー・書評

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  • 千葉雅也(1978年~)は、フランス現代哲学及び表象文化論を専門とする、立命館大学大学院准教授で、2013年に発表したデビュー作『動きすぎてはいけない―ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』で表象文化論学会賞を受賞した、現在注目される現代思想家のひとり。
    本書は、2017年10月~2018年1月に、ハーバード大学ライシャワー日本研究所の客員研究員として米国に滞在した際の滞在記である。
    内容は、4ヶ月の滞在期間について、日々、何処へ行き、何をし、誰に逢い、何を話し、何を食べ、何を感じたかが、ほぼ時系列に書かれているのだが、思想家と呼ばれる人びとが、日常の自らの身辺の事象をどのように捉え、考えているのかが垣間見られ、興味をもって読み進めることができた。
    現代思想の専門的な切り口からの記述には残念ながら理解の及ばない部分もあったが、特に印象に残ったのは、アメリカ(西洋)と日本の発想・感覚の違いを語った以下のような点である。
    ひとつは、英語の会話では、「How are you?」、「Have a good day!」のような、まず相手を主語に立てるという感覚があり、一方、日本語の「どうも」、「すいません」、「お疲れ様」のような言葉は一人称と二人称の区別が曖昧、或いは非人称であり、アメリカに着いた当初、この違いになかなか慣れなかったということ。
    もうひとつは、日本に戻ってきて、店の店員がマニュアル的に異様なまでに丁寧なことに強い違和感を持ち、その日本の「おもてなし」と言われるものは他人への思いやりというものではなく、他人という、下手をすると荒れ狂う自然、畏れ多いものを鎮めるための儀式・地鎮祭としてのサービス過剰であり、それは西洋的な意味での人の尊厳を大事にするということとは全く違うのではないかということ。
    私は、著者と同じ宇都宮高校(本書の中にも、同校在学時にAssistant Language Teacherとして英語を教えていた大学教員とボストンで偶然再会した話が出てくる)のOBで、著者の活動には関心をもっているが、今後も、現代思想の専門外の人間との距離を縮めてくれる、本書のような作品も書き続けて欲しいと思う。
    (2019年9月了)

  • "享楽を立て直さねばならない”。その紀行。

    映画のよう。そして、千葉雅也氏の哲学が、どう生に応用されたり抽出されたりしているのかを、自ら演習して見せてくれているよう。哲学、批評、エッセイ、ツイート、小説、と形式をラインナップするごとに、氏の哲学の伝導性が高まっていく。



    ”「タスク処理をしていると書き上がる」ようなワークフローを実現出来ないか”

    ”いたるところで無関係性の結晶が燦めいている状況を、人は仮に「共感」と呼んでいるのではないだろうか。”

    ”包装とは儀礼だ”

    それから、村田沙耶香『コンビニ人間』を何度か連想した。

  • 唐木元さんがちらっと出てくるとのことで読んでみた。”エネルギッシュな人”という表現に納得と同意。車が男性性の投影であるからカーウォッシュはセクシャルに映るというのはナルホドだな。英語圏の二人称文化というのと英語の単語がわからずとも全体がモザイク超しではあるようだけれど意味はとれるというのにも首肯。

  • さらりと読めるエッセイ。旅気分が楽しめて悪くない本ではある。だけど、かつては非常に魅力的に思えていた部分、千葉雅也のちょっと捻りの効いた視点や印象に残る言葉遣いというようなものに、それほど新鮮さや魅力を感じなくなってきている自分に気づく。なんていうか、『欲望会議』やその本にまつわる振る舞いを見ていて、この捻りがもつ可能性みたいなものをあまり信じられなくなってきたように思う。きっとこういうエッセイやガチの哲学書だけを書いていたら、もっと違う印象だったのだけど。

  • 書きすぎず、それどころか、書かなさすぎるくらいで、なんというか、とても静かなアメリカ滞在記だった。例えば、出会った人たちとの関わりも、章が変わるごとに突如切断される。そして著者はよく移動する。

    ところどころ、俳句めいたものが挿入されていた。

    あれは、アメリカ都市部でせわしく行き交う人たちが束の間に交わし、乾いて宙に消えていく言葉たちへのオマージュだったのだろうか。

  • こんな風合いも千葉さんぽい。
    "あたらしい散文の形式、32のvariations" との 音楽的な評で、5月の終わりを楽しみにしていた。

    そして、惜しみつつ一気に読み終わってしまった。
    考察と繊細さと、たびたび胸打たれた当時のツイートを思い出したりもするから、フレーズから追体験するような不思議と、新たな感覚とが幾度もおこって、たのしい。
    読み心地は 人それぞれかな。

    果実のように酸味のあるコーヒーが、美味しそう。
    タイトルの文字の色に、個人の体験と未知のものを感じる。
    とても素敵な本。

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著者プロフィール

千葉雅也(ちば まさや)
1978年、栃木県生まれの研究者。専攻は哲学、表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。代表作に2013年第4回紀伊國屋じんぶん大賞受賞作『動きすぎてはいけない』、ベストセラーになった『勉強の哲学』などがある。『アメリカ紀行』などエッセイも執筆。『新潮』2019年9月号に、初小説「デッドライン」を掲載。

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