夢見る帝国図書館

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 914
レビュー : 69
  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910208

作品紹介・あらすじ

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。

知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!

感想・レビュー・書評

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  • 国際子ども図書館の取材の帰り道、公園で出会った喜和子さん。
    彼女に突然図書館が主人公の「上野の図書館の歴史」について書いて欲しいと頼まれる。

    「ねえ、どうして、図書館ってものが作られたのか、あんた知ってる?」

    それは福沢諭吉の「ビブリオテーキ!」から始まった。
    永井荷風の父は日本初の図書館に悪戦苦闘した。
    図書館には夏目漱石、樋口一葉、島崎藤村、田山花袋 、谷崎潤一郎、菊池寛、芥川龍之介、宮沢賢治などなどが通いそれぞれ好きな書物を手にする。

    文豪たちの図書館での様子や交流はどんなものだったのだろう?想像するだけで楽しかった♪

    みんなの姿を図書館は100年以上見守り続けている。明治、大正、昭和、平成、そして令和…時代が変わってもずっと。

    戦争の話にも胸を打たれた。戦争は各地で様々なものを惜しみなく奪う。
    図書館では書物を、子供たちからは親や家を、上野動物園では可愛い動物たちを毒殺し命を奪った。動物のところは泣けてくる。

    図書館の歴史とともに喜和子さんの歴史も語られていく。今の姿からは想像できない喜和子さんの過去に驚く。
    喜和子さんは好きだけど、現代の話では時々集中が切れてしまった。
    たぶん、私が上野を知らないからと思う。東京国立博物館、国立西洋美術館、帝国図書館など。知っていればもっとその雰囲気を感じ取り楽しめた気がする。

    マハリクマハリタたけくらべ、マハリクマハリタたけくらべには笑った。

    • けいたんさん
      くるたん♪

      おはよう(^-^)/

      コメントありがとう♡
      装丁いいよね〜本好きにはたまらん。

      そうなんよ、図書館や文豪な...
      くるたん♪

      おはよう(^-^)/

      コメントありがとう♡
      装丁いいよね〜本好きにはたまらん。

      そうなんよ、図書館や文豪などは面白くてスラスラ読めたよ。戦争の話も為になった。
      でも、喜和子さんという人の人生がね…
      途中まではよかったけど、だんだん「あれ?なんでこんなに喜和子さんの人生を追っているんだっけ?」って思ってきて(笑)
      そこだけなんだよ。あとは楽しめました♪

      難しいとかではないんだよ。くるたんなら2日もあれば読めると思うから、あれ?と思う暇もないよ(*≧艸≦)
      2019/06/27
    • くるたんさん
      けいたん♪

      読了したよ♪
      うん、良かったー。言葉にするのは難しいぐらいすごく良かった。

      全てを見てきた図書館の描写はせつないものもあった...
      けいたん♪

      読了したよ♪
      うん、良かったー。言葉にするのは難しいぐらいすごく良かった。

      全てを見てきた図書館の描写はせつないものもあったね。動物園はたまらなかったね.˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚.
      2019/06/30
    • けいたんさん
      くるたん♪

      こんばんは(^-^)/
      早速読んでくれて嬉しいヾ(≧∪≦*)ノ〃
      そして、そんなによかったと思ってくれてホッとしたよ...
      くるたん♪

      こんばんは(^-^)/
      早速読んでくれて嬉しいヾ(≧∪≦*)ノ〃
      そして、そんなによかったと思ってくれてホッとしたよ。
      図書館の描写は切なかった。本が会話しているのもよかったね。
      動物園は…。・゚゚・(>_<)・゚゚・。
      くるたんのレビュー読むの楽しみだなぁ♪
      またゆっくりお邪魔しにいくね〜
      blue、あと一人になったよ。もう直ぐだ。
      2019/06/30
  • 「喜和子さんと知り合ったのは、かれこれ十五年ほど前のことだ。小説家になる以前のことで、上野公園のベンチだった」という文章ではじまります。
    喜和子さんは図書館に住むくらい通ったことのある、本好きな人。長屋のような造りの家に住んで、古本の『樋口一葉全集』を大事に持っています。
    わたしは、喜和子さんに「上野の図書館のことを書いてみない」と言われます。

    喜和子さんの生涯を探るわたしの旅とともに、作中作の『夢見る帝国図書館』が1-25まではさまれている構成です。
    帝国図書館に通った作家も多く登場します。
    夏目漱石・幸田露伴・淡島寒月・尾崎紅葉・樋口一葉・森鴎外・徳富蘆花・島崎藤村・田山花袋・和辻哲郎・谷崎潤一郎・菊池寛・佐野文夫・芥川龍之介・宮沢賢治・古谷信子・宮本百合子・林芙美子・小林多喜二。
    時代の移り変わりとともに図書館を訪れる作家たちも代替わりしていく様子が面白かったです。

    私は、芥川龍之介や宮沢賢治が好きなので、10のハッサン・カンの教えを芥川が乞い『魔術』という小説(童話)を書いた話と、9の宮沢賢治の恋というカムパネラとジョバンニの「図書館幻想」が特に面白く読めました。
    また、上野動物園で絶命するまで芸をし続けた、象のトンキーさんの有名なとても悲しい話も、作中作に含まれています。

    一方、喜和子さんの物語は『としょかんのこじ』(図書館の孤児)という喜和子さんのことを書いた童話作家を探す話と喜和子さんの生立ちと家族が中心で、すべてのはじまりとなるラストの一文がとても素敵でした。

    喜和子さんの名前も「平和を喜ぶ子」という意味で、この作品にぴったりとピースのようにはまっていました。

  • 一人の老女、喜和子さんとの出会い。

    そこから帝国図書館の歴史と喜和子さんの人生を紐解いていく物語。

    本を閉じた瞬間、鼻の奥がツンとし、あ、この本、好きだ、そう強く感じた。
    自由に本を手に取れる幸せ、自由に呼吸し生きられる幸せ、随所に自由というものの尊さが感じられ、歴史の積み重ねが今の自由の礎を築いた、そう思うとより感慨深い。

    全てを見つめてきた図書館の眼差しは時に優しく時にせつない。文豪たちを見守る姿は微笑ましく、戦火の渦に巻き込まれた息づく本、動物たちに胸がしめつけられる。

    ふわっとスカート膨らませ、ふわっと心に舞い降りふわっと去っていく、そんな喜和子さんを思い浮かべ、図書館の本が醸し出すあの匂いを思い浮かべる…言葉にならない魅力が随所に溢れた作品。

    • けいたんさん
      こんばんは(^-^)/

      わぁ、くるたんこんなに気に入ってくれて嬉しいわ♪
      喜和子さんチャーミングだよね。
      図書館がみんなを見守る...
      こんばんは(^-^)/

      わぁ、くるたんこんなに気に入ってくれて嬉しいわ♪
      喜和子さんチャーミングだよね。
      図書館がみんなを見守るって設定がいいよね。
      動物たちの芸の話で涙が出たわ。みんな生きたかったんだよね。
      2019/07/02
    • くるたんさん
      けいたん♪こちらにもありがとう♡

      うん、図書館の物語は良かったね♪
      動物園は泣けたし、樋口一葉に恋してるのは可愛かったね♪

      喜和子さん、...
      けいたん♪こちらにもありがとう♡

      うん、図書館の物語は良かったね♪
      動物園は泣けたし、樋口一葉に恋してるのは可愛かったね♪

      喜和子さん、チャーミング!まさにそれだね♪
      なんか憎めない。
      過去の人生、たしかに長かったね。どれが本当だったのか…
      それもまたふわふわした感じを受けたわ✧*。(ˊᗜˋ*)✧*。
      2019/07/02
  • 「ビブリオテーキ!」
    福沢諭吉の発した西洋言葉が「図書館」の始まりだったとは。
    博覧会のオマケのように造られたことに憤慨した永井九一郎(永井荷風の父)の言い放つ「ペンは剣よりも強し」。
    戦争により図書館の存続も幾度となく危ぶまれ幾度となく復活を遂げる。
    そんな先人達の奮闘により図書館の歴史が積み重ねられる。
    お金がない、書棚が買えない、蔵書が置けない…ないない尽くしの図書館の歴史には驚かされることばかり。
    谷崎潤一郎、菊池寛、芥川龍之介、樋口一葉、森鴎外…文豪達の図書館での数々のエピソードも読んでいてワクワクする。
    かの文豪達もせっせと図書館通いをしていたとは。
    日本の文学界を造り上げてきたのは図書館と言っても過言ではない。

    そしてこれら図書館の歴史と平行して繰り広げられる喜和子さんの物語。
    年齢を重ねても子供のように屈託のないチャーミングな喜和子さん。
    けれど次第に明るみになる喜和子さんの、秘められた戦後の辛い体験の数々には胸を締め付けられる。
    喜和子さんの生涯を掛けて探し求めた「探し物」。
    その探し物に託された貴い夢。
    「いつか、図書館で会おう」
    秘密のメッセージに込められた平和な時代への希望。
    図書館を夢見る少女の遥かなる願い。
    当たり前に気軽に図書館へ行ける現代を生きる我々も、決して忘れてはいけないことがたくさん詰まった物語だった。

    これからは心して図書館へ通います。

  • 作中作の「夢見る帝国図書館」がいい。
    図書館が金欠にあえぐ姿をえがきつつも、コミカルなセリフ回しでどことなくユーモラス。
    擬人化された帝国図書館にあたたかみがある。
    有名な文豪たちのエピソードもおもしろい。

    現実では、喜和子を介して、人と人とがつながっていく。
    それぞれに見える喜和子、それぞれの感情の微妙な違いがこまやか。

    だんだんと明かされていく、喜和子の過去とは。
    独特の雰囲気をもつ作品で、おもしろかった。

    monde氏の〈路地裏bookshelf〉をつかった、本棚の中にあらわれる路地裏。
    表紙のデザインも素敵で、内容にぴったり。

  • 題名に「図書館」と入ってるだけで、読んでみたくなる。その前に「帝国」とある。「大英帝国」のことかな、と考える。まだその上に「夢見る」とついている。ユメ子さん? シャンソン人形? 図書館はふつう夢を見ない。見ないだろう? いや、見るのか? まあ、どちらでもいい。こうまで不可解なものは中身に目を通すしかない。

    「私」が喜和子さんにあったのは上野である。国際子ども図書館を取材して一息ついて大噴水前のベンチに座っていたら、隣に座った人がいた。それが喜和子さんだ。古い着物をパッチワークしたコートを着、粋な手つきで煙草を吸い始める六十代の小柄な女性。煙草の煙にむせた「私」に「きっと、あれだよ、花粉症」なんて言って、すましている。身勝手なようでいて、人は悪くない。突き抜けた感じが当時の「私」には新鮮で、すぐに仲良くなった。

    それからちょくちょく二人で会って、ランチをしたり、甘いものを食べたりするようになる。谷中の路地の奥にある大正時代に建てられた長屋が一軒だけ残ったような喜和子さんの小さな家にお呼ばれもする。上野界隈をこよなく愛する喜和子さんは上野の図書館を主人公にした小説が書きたい。その題名が「夢見る帝国図書館」。書きたいのだが文章を書くのは苦手。で、作家である「私」にそれを書くように勧め、ぼつぼつと構想を語り出す。

    この「夢見る帝国図書館」のエピソードが、小説本編とは別仕立てで、話の合間に挿入される。賢治の同性の友に寄せる気持ち、宇野浩二が震災時に遭遇した自警団の恐怖、ハッサン・カンのモデル等々。帝国図書館に通った明治・大正・昭和の文士の逸話、これがべらぼうに面白い。永井荷風の父、久一郎の奮闘に始まる帝国図書館の歴史だけでも図書館通になれる。「お金がない。お金がもらえない。書棚が買えない。蔵書が置けない。図書館の歴史はね、金欠の歴史と言っても過言ではないわね」と喜和子さんは言う。

    本編となるのは、なんだか不思議な喜和子さんの「女の一生」の謎解きだ。本人は自分の過去を詳らかにせず、話半ばで早々とあの世に逝ってしまう。「夢見る帝国図書館」は「私」が書くしかない。それが喜和子さんの遺志でもあった。そんな訳で「私」は喜和子さんの昔のことを人づてに聞いて回ることになる。戦後の上野にまだバラックがあった時代、三、四歳だった喜和子さんは、そこで「お兄さん」と慕う男の人と一緒に暮らしていたという。

    「夢見る帝国図書館」は、復員兵のお兄さんが書こうとしていた小説だった。ちっちゃな喜和子さんはお兄さんの背嚢に入って、図書館に通い、夜はそこで眠ったりもしたらしい。夜になると、隣の動物園から動物たちもやってくる。そんな夢のような話を書いた童話「としょかんのこじ」が国立国会図書館に残っていた。作者の名は城内亮平。手がかりを一つ一つ調べていくうちに、「私」は喜和子さんの数奇な人生に巡り会う。

    喜和子さんの愛人の元大学教授やインテリのホームレスが語る喜和子さんの身の上話にはどこか絵空事めいたものがある。だいたい、幼い少女がなぜ一人で上野で暮らしていたのだ。アナグラムやら、暗号やらが繰り出され、喜和子さんの少女時代を探るところは、ちょっとしたミステリ仕立てになっている。ネタバレになるので詳しくは明かせないが、「私」が出会った頃の喜和子さんは過去の生を生き直している最中だった。そのテキストが「夢見る帝国図書館」だったのだ。

    お兄さんの影響もあるのだろう、何もない部屋に全集を揃えるほど一葉好きの喜和子さんが「私」に遺した書きかけの原稿が、一葉女史が書きそうな、なかなか句点が出てこない文体で、もちろん、作家中島京子による文体模倣なのだが、一葉に憧れた一人の女が、おそらく暗記するほど身に染みついた筆致で、幼かったころの上野の、徳川様由来の紋所から「葵部落」と名づけられたバラック小屋で暮らす日々を振り返る文章の洒脱さったらない。

    いつの時代、誰の前にも平等に開かれているのが図書館だ。世の中が怪しくなると、まず本当のことを書いた本が図書館から消える。本や図書館がいかに戦争と折り合いが悪かったか。金欠、本の焼失の元凶は、明治以来大日本帝国が次々と引き起こしてきた戦争である。都合の悪いことは人の目から隠され、あったことがないことにされる。戦争から生きて帰った者には、死者に代わってやるべきことがあった。お兄さんの場合、それは小説を書くことだった。「としょかんのこじ」の「後記」に詩のようなものが付されている。

    とびらはひらく
    おやのない子に
    脚をうしなった兵士に
    ゆきばのない老婆に
    陽気な半陰陽たちに
    怒りをたたえた野生の熊に
    悲しい瞳を持つ南洋生まれの象に
    あれは
    火星へ行くロケットに乗る飛行士たち
    火を囲むことを覚えた古代人たち
    それは
    ゆめみるものたちの楽園
    真理がわれらを自由にするところ

    「真理がわれらを自由にする」は国立国会図書館の図書カウンター上部に、今もギリシア語原文と並んで刻まれている。

  • 「としょかんのこじ」谷口ジロー氏に描いて貰いたい(無理だよねぇ)

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    「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
    作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
    日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
    喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。

    知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910208

  • 【本に学び、本を守り、本を愛した人々の物語】私が年の離れた友人から依頼されたのは「図書館が主人公の小説」だった。上野に出来た日本初の国立図書館を巡る本と人の歴史物語。

  • 日本で初めての図書館の歴史は
    上野の歴史を辿る物語でもある。
    戦時下の言論統制で没収されたたくさんの本、
    植民地から略奪してきたたくさんの貴重な資料、
    そんなもので知恵と自由が詰まったはずの図書館が溢れてしまった時代があったんだな。。。

    動物園のすぐ隣にあった図書館にはきっと
    人間の勝手な理屈で餓死させられていった象の悲しい叫びも届いていたんだろう。
    「帝国図書館」が語る『かわいそうなぞう』の話は、悲し過ぎて息が苦しくなるほどでした。

    国が間違った方向に進もうとするとき、真っ先に犠牲になるのは、本を読む自由や精神の自由
    そして抵抗することのできない動物や子供たちだ。
    終戦後浮浪児だった喜和子の一生を通して、
    改めて自由に本が読めることの大切さに思いを馳せるのでした。

  • 読み終えてすぐ、ラストの詩らしきものに綴られた言葉にすべてが凝縮されているとまず思った。喜和子が戦後のどさくさに一緒に暮らした城内亮平(瓜生平吉)が童話「としょかんのこじ」の後記に書いたものだ。

    とびらはひらく
    おやのない子に 足を失った兵士に 行き場のない老婆に
    陽気な半陰陽たちに 怒りをたたえた野生の熊に 悲しい瞳をもつ南洋生まれの象に 
    あれは火星へ行くロケットに乗る飛行士たち 火を囲むことを覚えた古代人たち
    それは夢みるものたちの楽園 真理がわれらを自由にするところ
    (”真理がわれらを自由にする”は、国立国会図書館の東京本館目録ホールの図書カウンターの上部に、ギリシア語の原文と並んで刻まれているそうだ)

    上野公園のベンチで、作者とおぼしき「わたし」は、短い白髪で端切れを接ぎ合わせたコートと頭陀袋めいたスカートを着た喜和子さんと出会い、帝国図書館のことを書いてみないかと誘われて本書は始まった。
    帝国図書館の来歴と喜和子の人生を知る物語との2つのパートが交互に編まれている。
    ”夢みる帝国図書館”パートの25章部分は、後に作家となった「わたし」が書いているのだろうと推測して読んだが疑問が残った。でもどちらでも構わないのだ。幼い頃の喜和子が一緒に住んでいた「兄さん」(童話作家)やその恋人の話を下敷きにして喜和子が想像した話や、帝国図書館ができるまでの社会情勢を基に、図書館を訪れただろう名だたる文豪たちのエピソードが次々と盛り込まれている。興味深い作家たちの逸話では、読んでいたらもっと首肯できるだろうと、自らの勉強不足を幾度恨めしく思わされたことか。
    有名な上野動物園の象の花子のこと。戦争で餌が不足したり、檻から逃走する動物が危険だからじゃなく、戦争をする心を子供たちに植え付けるためだったとあった。戦意高揚のための抹殺!「動物をみて和む日々はおしまい。我が国は戦争をしているのだから犠牲が必要だ。お国のために命を捧げる覚悟が必要です。動物たちも死にます。お国のために崇高な犠牲となって。このような犠牲を強いたのは憎い憎い敵国ー、だから武器を手に取り、1人でも多くの敵を殺しましょう!」。
    他にも日本陸軍が侵攻した香港で図書を略奪したこと、東京が空襲にさらされ戦局が厳しくなり蔵書が疎開されたことなどが描かれていた。
    喜和子死後の章に入り、40歳で離婚し上京した彼女と関わった人々により、彼女がたどった本当の人生が謎解かれる。
    喜和子は宮崎で結婚し娘・祐子をもうけている。その娘が18歳になるのを待ち、封建的だった婚家先を飛び出していた。祐子はそんな母を憎んでいる。祐子の一人娘・紗都に喜和子を理解してあげたらと諭される。祐子が言う。「上野の生活の方が、宮崎で人並みに暮らした日々よりもお母さんにとっては大事だとでもいうの? 思うようにならないことがたくさんあったのはわかるけれど、家族と暮らし父と結婚をして娘を授かった生活よりも、なんだかよくわからない戦後のどさくさ紛れみたいな日々の方が大事だったっていうの? 普通は、忘れたいのはそっちのほうじゃないの?」。それに対し紗都は「大事だったのは戦後のどさくさ紛れの生活じゃなくて、自分で決断して家を出て来て始めた40代からの生活だったんじゃないの。物心ついた時は親戚の家をたらい回しされ、居心地がいいとは言えなかった。再婚した宮崎のお母さんの家に引き取られても肩身の狭い想いは消えなかった、そして結婚生活にも裏切られている」「だから喜和子さんは娘を18まで育ててから、独りで上京し図書館に通い自分で自分を育て直したんじゃないの。記憶の断片をたどって、自分が自分であるために必要な物語を作ろうとしたんじゃないの」と返している。喜和子自身はそこまで娘に酷いことをしていないと思っている。娘の気持ちが分からないでもないが、喜和子は18歳になる娘を見届けて行動を起こしているのだから母親としての責務は充分果たしていると思う。家を出るのも勇気、留まるも勇気が要っただろうなぁ。40歳で自分の生き様を探そうと新たなスタートを切った喜和子の思いは大きく、並々ならぬ決意だっただろう。
    さほどの蓄えもなく東京で暮らし始めた喜和子は、飲食業で働いたり大学教授の愛人となりながら、古本屋で見つけた『樋口一葉』全集をそろえ居心地の良い部屋に包まれる生活を送った。
    喜和子が語っている。「お金はいちばん大事、お金がないと書棚が買えない。蔵書が置けない。図書館の歴史は金欠の歴史」
    喜和子の生涯が、福沢諭吉が西洋にある『ビブリオテーキ』を日本に創設しようと明治政府に提言してから、戦争に翻弄され財源がないと幾度も立ち止まざる得なかった図書館の歴史と重なった。
    散骨希望が叶えられ、喜和子は彼女にふさわしく大海原へ旅立ちきっと諸国を漫遊していることだろう。

    ※喜和子の本名は貴和子なのだが、平和を喜ぶという意味をとって、敢えて喜和子と改名しているのもさすがです。

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著者プロフィール

中島京子(なかじま きょうこ)
1964年東京都生まれの作家。『FUTON』でデビュー。著書に『小さいおうち』(直木賞)、『かたづの!』(河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞)、『長いお別れ』(中央公論文芸賞)等。2019年5月15日、新刊『夢見る帝国図書館』を刊行。

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