美しき愚かものたちのタブロー

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 1511
レビュー : 184
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910260

作品紹介・あらすじ

第161回直木賞候補作!

日本に美術館を創りたい。
ただ、その夢ひとつのために生涯を懸けた不世出の実業家・松方幸次郎。
戦時下のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り・日置釭三郎。
そして、敗戦国・日本にアートとプライドを取り戻した男たち――。
奇跡が積み重なった、国立西洋美術館の誕生秘話。
原田マハにしか書けない日本と西洋アートの巡りあいの物語!

感想・レビュー・書評

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  • 国立西洋美術館の成り立ちと、松方コレクションの劇的なストーリーが描かれています。上野にある国立西洋美術館、いつも人が賑わっていて、今や当たり前のように存在する美術館にこのようなすごい秘話があったとは正直とても驚きました。

    川崎造船所(現:川崎重工業)の社長でもあった松方幸次郎氏。なんと豪快な人がいたことか。あきれるやら感心するやら。まだ日本で本物の西洋画を見ることができなかった時代に、私財を投げ打って豪快に印象派を中心とした作品を数千点も買い集めたというのは、ちょっと考えらえないぐらい圧倒的な財力と行動力。しかも日本の若者のために、これからは本物の絵画(タブロー)を見て学んでいくことが日本のためになるという、すごく熱い思い。日本美術界にこんな豪傑がおられたとは改めて本当に感激しました。

    それにしても、この松方コレクションをめぐっては、時代に翻弄されて本当にドラマティックなことがあったんですね。1920年代といえば私が憧れる、パリが最も華やかだった時代。松方氏は、なんと、白内障でもう目がかなり見えなくなっても睡蓮の大作に取り組むモネにジヴェルニーで何度か会い、直接買い付けているというではありませんか。松方氏は絵画そのものよりも人を見て買い付けていたようです。モネという人物のすばらしさに触れて、ジヴェルニーのアトリエにある絵を丸ごと全部買いたいと申し出たというのは、モネファンとしてはたまらない話です。

    しかし、時代が時代。世界中が戦争をした時代に突入し、誰もが知っているようにパリはナチスドイツに陥落し、占拠されていたのですから、本当にその時代によくぞ松方コレクションが生き残ったと思います。ナチスドイツは、フランスを中心とした前衛画家の絵を否定していたようですから、見つかっていたら間違いなく破壊されていたんではないかと思います。そういう意味では、松方氏の熱い熱い思いによりコレクションされたこと、そしてそれをナチスドイツから死守した人、そしてフランスに接収されたコレクションを「寄贈返還」してもらうために働きかけた人、実に様々な人の必死の思いが襷渡しのようにつながって、本当に奇跡のように現代に受け継がれているんだなと改めて驚愕せざるを得ませんでした。

    正直この本を読むまでは、松方氏という金持ちの人がホイホイとコレクションして寄贈したんだろう、ぐらいにしか思っていませんでしたが、これほどドラマティックな話が背景にあったとは信じられないぐらい驚き、また日本国内でそんな貴重な絵画を観れるとはなんと自分たちは恵まれているのかと感謝の思いでいっぱいになりました。

    2019年の6/11から始まる国立西洋美術館での「松方コレクション展」。フランスがどうしても返還してくれなかったゴッホの「アルルの寝室」もオルセー美術館からやってくるようです。モネ、ルノワール、ドガ、マネ、ゴッホ、ゴーギャン、松方コレクションが大集結して見られる非常に素晴らしい機会です。私は是非ともこの機会に堪能しようと思っています。

    ちなみにこの物語は3年前にマハさんが「たゆたえども沈まず」の件で国立西洋美術館の館長さんにインタビューしていた際に、3年後に「松方コレクション展」をすると知ったそうで、是が日にもその開催日までにこの本を間に合わせたいというマハさんの熱い思いも込められています。その思いをしっかり受け止め、鑑賞してきたいと思っています。

    • まことさん
      わかっています(^^♪
      わかっています(^^♪
      2019/06/24
    • まことさん
      マハさん、受賞ならず、残念でしたね!
      でも、ここ数か月にわたりマハさんの作品を追いかけて、とても楽しかったです。
      どうもありがとうござい...
      マハさん、受賞ならず、残念でしたね!
      でも、ここ数か月にわたりマハさんの作品を追いかけて、とても楽しかったです。
      どうもありがとうございました<(_ _)>
      まだ、あと数作品残っていますし、これからも、どうぞよろしくお願いします!!
      2019/07/17
    • kanegon69 さん
      残念です。個人的には納得いかない!泣
      残念です。個人的には納得いかない!泣
      2019/07/17
  • 本文P273より

    タブローが松方幸次郎という不世出の実業家の心を動かし、彼の生き方を変えようとしている。
    美術の持つ底知れぬ力に彼は驚き、そのすばらしさを、「こんな時世」だからこそ日本国民に伝えたいと願っているのだ。
    ー役に立ちたい。
    田代は切実にそう思った。そのためにはどうしたらいいのか。
    ータブローだ。
    名画を傑作をみつけて、それを日本に持ち帰ってもらうのだ。そのためにこそ自分は尽くしたい。

    以上抜粋。
    ラスト数ページでは、感極まり、涙が止まりませんでした。

    閑話休題。
    この作品を読んで、ささやかですが、私も自分の美術館を作りたくなりました。
    以前にとある企業からいただいた超豪華なプラスティック製の、オランジュリー美術館の特大カレンダーが家にあり、絵の部分だけ切り離して飾れるようになっています。
    絵が6枚あるのですが、ルノワールの<ジュリー・マネ>という三毛猫を抱いた少女の絵だけは、以前から飾っていたのですが、他の絵も飾ろうと思いました。
    モネの<睡蓮の池、緑のハーモニー>は緑が鮮やかでとても美しく、ゴッホの<銅の花瓶の花(あみがさ百合)>は筆のタッチが素晴らしく色彩も豊か。シスレーの<雪のルーヴシエンヌ>はとっても静謐で美しく、絶対飾ろうと思いました。モネとゴッホは特にマハさんのこの作品他の影響で、お気に入りになりそうです。

    絵<タブロー>とは人の心を幸せに豊かにしてくれますね。
    それに気づかせてくれたこの作品とマハさんには感謝の気持ちでいっぱいです。

    • kanegon69 さん
      震災ものが嫌でなければ、翔ぶ少女はオススメ。児童向けですが、私はゼロ先生になりたいと思っちゃいます
      震災ものが嫌でなければ、翔ぶ少女はオススメ。児童向けですが、私はゼロ先生になりたいと思っちゃいます
      2019/06/24
    • kanegon69 さん
      では、また感想楽しみにしています^_^
      では、また感想楽しみにしています^_^
      2019/06/24
    • まことさん
      ありがとうございます!
      今回、図書館には、全然、別の作品を予約してしまったので、次回に予約します。(予約枠が決められているので)
      楽しみ...
      ありがとうございます!
      今回、図書館には、全然、別の作品を予約してしまったので、次回に予約します。(予約枠が決められているので)
      楽しみです(^^♪
      2019/06/25
  • なんだろう、この読後感。素晴らし過ぎる。
    国立西洋美術館が出来るまでにこんなドラマがあったとは。
    時代というものもあったのだろう。
    松方という実業家がいて、田代という美術家がいて。
    最後の日置にいたっては涙無くしては読み進める事が出来ないくらい。

    こんなにもフランス美術を愛する人たち。
    本物を日本で見て欲しいという熱い思い。

    なんという愚かものたちだったのだろう。
    でも、あなた達のおかげで素晴らしい作品を見る事が出来る事に本当に感謝します。

  • 日本に美術館を創りたい。
    その夢のために集められながら、数奇な運命をたどった〈松方コレクション〉の物語。

    おもしろかった。

    松方コレクションの陰に、こんなドラマがあったとは。

    美術の素人でありながら、ひとつの信念をもって、豪快に買い集める松方。
    彼の思いに共感し、その夢の実現のため、苦難のときも協力し続ける人々。

    人物も魅力的。

    松方幸次郎も、日置釭三郎も、成瀬正一も実在の人物で、主人公も矢代幸雄がモデルと思われる。

    いち個人でありながら、美術館創設のために膨大な美術品を集めるとか。
    個人の所有物でありながら、フランスに没収されてしまうとか。

    スケールの大きな話で、こんな広い視野をもって生きた人が現実にいたことが、驚き。

  • この小説の主人公は誰か。

    「わしは絵のことはわからん」と言いながら西洋絵画を買い求め、本物を見たことがない日本の若者のために美術館設立を夢見た松方幸次郎、ではない。

    この小説の主人公は、『松方コレクション』そのものだと思う。

    国立西洋美術館の『松方コレクション』はいかにして収集され、第二次世界大戦をくぐり抜け、そしてフランスから『寄贈返還』されたのか…

    読み応えがありました。
    何度も涙ぐみながら読みました。
    絵画の素晴らしさに感動する気持ち、反対に思いを遂げられない悔しさや虚しさ。
    とくに後半、日置さんのくだりは…なんだかもう…アートを愛する立場というより、松方さんに対する忠義からというのが遣る瀬無いというかなんというか…

    美術館で本物の絵画を楽しむことができる、その裏にたくさんの方の尽力があって、それがどれほど幸せでありがたいことなのかとしみじみ考えてしまいました。

    • やまさん
      e_c_o_nさん
      こんばんは。
      やま
      e_c_o_nさん
      こんばんは。
      やま
      2019/11/09
  • 日本に西洋美術専門の美術館を創る!
    今では当たり前のように、日本に居ながらにして見ることのできる西洋美術。
    我々が本物の西洋美術に出逢えることは奇跡的なことだった。

    当時、白黒の雑誌の切り抜きでしか見ることのできなかった西洋美術。
    実物の艶やかな色彩を日本にいる人達にも見せてやりたいーー男達の果てしない夢は広がる。
    大震災、不況、戦争等あらゆる災厄が男達の志を次々に折っていく。
    けれどタブロー(絵画)に魅せられた男達は決して諦めない。

    「僕はタブローのことばっかり考えて夢中になっている、どうしようもない愚かものです。ほかには、なんにもない。…それでも、とても幸運な、幸福な愚かものなんだと思います」
    愚かもの達のお陰で今、我々は本物のタブローと、画家のタブローに込めた想いを体感できるのだ。
    そして我々読者は、原田マハ、という本物のキュレーター兼小説家のお陰で、この作品に出逢うことができた。
    それはとても幸運なことだ、としみじみ嬉しい。

  • めちゃくちゃどきどきしました。
    松方幸次郎という傑物のまわりで、
    どれだけの人間が刺激を得て生きていたのだろう。
    こういう人物と一緒に仕事ができるならば、
    自分の時間をささげても惜しくないと思って
    まさに身命を賭して生きていたのだろうなぁ。

    画質の荒い白黒でしか見ることができなったタブローの
    本物の色彩の豊かさを初めて目の当たりにした
    日本の若者たちの衝撃はどれほどだったのだろう。
    こうして日本は一歩一歩、
    今の日本になっていったんだなぁと
    美術館の歴史としてはもちろんのこと、
    日本の歴史をおおいに感じさせられた1冊でした。

  • 2020.1.2.東京国立西洋美術館の基礎となった松方コレクション。川崎造船所の社長、松方幸次郎が収集したヨーロッパの名画の数々は敗戦後フランスに留め置かれ、首相吉田茂の号令のもと返還を求めフランス政府に交渉する過程が描かれる。
    前回の直木賞の総評でドキュメンタリー作品のような様相だったような評価がされていて、読むのにまた時間がかかるのではないかと心配していたが、昨年秋、また、その前にも催された松方コレクション展を観ていたせいか出てくる絵画の一つ一つが思い出されらとても豊かな時間を過ごすことができた。


    松方さんは、あたまではなく、心でタブロウを見ていられました。松方さんは、日本一、いや世界一素晴らしい真のコレクターです。
    一夏をともにすごして田代が松方の中に見出したのは、まっすぐにタブロウに向き合う真実のコレクターの姿だった。

    金にあかせて絵画の一つ一つの意味を考えることなく買い漁る…そんな姿を自らも感じていたのでないかとの危惧に松方と行動を共にした美術史家田代は温かい目を松方に向ける。

    比較することも非常に不遜なことながら、私は展覧会に行くのがとても好きで主だった美術展覧会は何をさておきいくことにしている。でも、絵画の何が分かっているわけではない…でも心惹かれる絵がその展覧会には必ずあり、満たされた思いで帰途につく。松方幸次郎はそんな体験を日本の人々にして欲しいと思い、日本に美術館を建設すべく私財を投げ打って絵画を買い集めた。その成果はその時だけではなく、半世紀を超えた現在もそしてこれから未来も日本文化に生き続ける。一つ一つの絵を専門家的に分かっているわけではないという言葉に対し、田代がは答えたセリフは心の奥底に染み入った。

    新年にふさわしい読み応えのある作品だったと思う。

  • 松方コレクション誕生秘話の物語です。

    松方さんだけでなく、彼の近くにいた人たち。「タブロー」を戦争から守った人たち。
    そんな人たちに守られた絵だったんだなと改めて認識しました。
    ほんとに奇跡ですよね。それがわかる一冊です。

    改めてコレクションの数々を上野で見たいと思います。
    こんなストーリーを書いてくださった原田さんにも感謝。

  • 松方コレクションについては昔色々と調べたこともあったので、大変馴染み深く、懐かしい心持ちで読んだ。原田味付けは面白く、ただ少々あっさりしすぎ感なような。自分の持つ松方氏イメージとの違いが顕著でそこがまた面白かった。

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著者プロフィール

原田マハ(はらだ まは)
1962年東京都生まれ。小6から高校卒業まで岡山で育つ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2002年よりフリーのキュレーターとなる。2005年小説化デビュー作の『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、『キネマの神様』で第8回酒飲み書店員大賞をそれぞれ受賞。2013年には『ジヴェルニーの食卓』で第149回直木賞候補、2016年『暗幕のゲルニカ』で第155回直木賞候補となる。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞受賞。2019年『美しき愚かものたちのタブロー』で第161回直木賞候補に。

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