【第162回 直木賞受賞作】熱源

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2720
レビュー : 260
  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910413

作品紹介・あらすじ

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

感想・レビュー・書評

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  • 第162回直木賞受賞作。
    八か月間図書館で予約待ちでした。

    私は、同じ日本でありながらアイヌのことは全く知らなかったので勉強になりました。
    北海道には、中学生の時、親の転勤で札幌に住んでいて、道内を旅行したのでアイヌの文化は少しは知っているつもりでしたが、観光旅行では、全く何もわかっていなかったんだと思いました。

    この作品を読んでも、とある一面がわかっただけだとは思います。
    ヤヨマネクフが「困窮する同族を救うのはただ教育である」と言うのはこの作品のテーマかと思いました。
    学校を建てようとして太郎治たちが希望に燃えているあたりが一番印象に残りました。
    島国日本の唯一の例外的な他民族の大切な歴史を知りました。
    太郎治の「ぼくは、どこの誰なんだ?ぼくはただ教師になりたかっただけだ。それがどうして身を引き裂かれるんだ。ここはぼくたちの故郷じゃなかったのか」という叫び声が、読了後も、頭の奥に残っている気がしました。

    図書館で八カ月待ちましたが、終戦記念の日に読了できたのも何かの縁かと思いました。

  • 熱源、この言葉に大きな意味が宿っている。大きな時代のうねりに翻弄される人々。樺太(サハリン)のアイヌを中心とした先住民、時を同じくしてロシア帝国に飲み込またリトアニア出身のポーランド人。アイデンディーというものはマジョリティだけが保証されているものなのか?マイノリティは野蛮で蔑まれる存在なのか?民族の存続を弱肉強食という考えで語ってもいいものなのか?今でも変わらぬ大きな命題に真正面から取り組んだ超大作。深く考えさせられながらも物語としてスケールの大きいドキュメンタリーのような充実感。直木賞受賞に納得です!

    • やまさん
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管...
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管理するようにしています。
      ① なんとなく・青空 / 工藤直子 / 詩 / 本 /読了日: 2019-12-11
      ② 螢草 / 葉室麟 / 本 / 読了日: 2019-12-16
      ③ あなたのためなら 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 /読了日: 2019-04-10
      ④ 甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 / 読了日: 2019-05-04
      ⑤ あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇 / 田郁 / 本 /読了日: 2019-09-14
      ⑥ てらこや青義堂 師匠、走る / 今村翔吾 / 本 / 読了日: 2019-08-27
      ⑦ ひかる風: 日本橋牡丹堂 菓子ばなし(四)  / 中島久枝 / 本 / 読了日: 2019-07-23
      ※もしよろしければ、皆様の昨年感想を書かれたものの中からベストの順位を教えて頂けたら嬉しいです。

      やま
      2020/02/07
  • 「昔、この島は誰のものでもなかった」
    北海道の北に位置する島・樺太(サハリン)。
    明治から昭和にかけて、この極寒の小さな島はロシアと日本の間で常に揺れ動いていた。
    二国間の私利私欲に呑み込まれ侵略され、文明から取り残される「滅びゆく民」と見下され続ける先住民のアイヌは懸命にもがく。

    雪と海氷に閉ざされた凍てつく島ではあるけれど、「人」という意味を持つアイヌの熱気は強い。
    「生きるための熱の源は、人だ。人によって生じ、遺され、継がれていく。それが熱だ」
    「俺たちはどんな世界でも、適応して生きていく。俺たちはアイヌですから」
    「強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補って。生まれたのだから、生きていいはずだ」

    支配されるべき民などこの島には一人もいない。
    滅びることは決してない。
    そんなアイヌの魂の叫びがいつまでも心を掴んで離さない。
    過去から未来へ向けての熱いメッセージを私もしっかり受け取った。

  • 2020年初読み。

    実在した人物を軸に描かれる樺太アイヌの物語。

    あの時代の情勢、故郷を奪われ生き方を変えられること…ほぼ知識がなかった樺太アイヌの歴史は至るところに“人”というものを感じた。

    文明、文化を創り出すのも人ならば簡単に踏みにじり争いを巻き起こすのも人。
    そして誰かの心に熱きものをもたらすのも人。
    その複雑な哀しみが心に蔓延る。

    後半、特に終盤は勢いを増して誰もの心情が襲いかかり何度も心揺さぶられた。
    熱さえあれば守れるものがある。尊厳のために人として戦う姿、彼らの証を心に刻んだ。
    良書。

  • 明治から大正・昭和にかけて、ロシアと日本の狭間で、種族としての誇りを持ち、自分たちの伝統や慣習・文化を守っていこう苦悩するアイヌの人々

    高度に発達した文明を持つ我々には未開人を適切に統治し、より高次な発達段階へ導く必要と使命がある。彼らは我らによって教化善導され、改良されるべきとする白人至上主義ともいえる優勝劣敗の考え方に翻弄される人々

    文明に潰されて滅びる、あるいは呑まれて忘れる。どちらかの時の訪れを待つしか自分たちにはできないのか。別の道は残されていないのか。我々は「滅びゆく民」なのか、南極探検隊員に名を連ね、アイヌの名を残そうともするヤヨマネクフ

    「南極に立った人間は、世界でもそうはおらん。君らアイヌが見直されるきっかけになるだろう」
    という大隈重信に対して
    ヤヨマネクフは、答える
    「見直される必要なんてなかったんですよ、俺たちは。ただそこで生きているってことに卑下する必要はないし、見直してもらおうってのも卑下と同じだと思いましてね。俺たちは、胸を張って生きていればいい。俺たちは、どんな世界でも、適応して生きていく」

    強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補い合って。生まれたのだから、生きていいはずだと

    腹の底から、湧き上がってくるような力を感じた。民族としてこれだけの誇りを持っているだろうか。また、世界の多くの少数民族に対して同じ人間として敬意を持っているだろうかと自分自身に問い直した

    小学生の頃、石森延男氏の「コタンの口笛」を読んだことがある
    主人公の少年が、自分の体を傷つけて、「流れる血の色は、君たちと同じだ」と差別する友達に対して、訴えている場面は、いまだに忘れられない

    この本を読んで、そんな遠い記憶も蘇ってきた

    「私たちは滅びゆく民といわれることがあります。けれど、決して滅びません。未来がどうなるかは誰にもわかりませんが、あなたの生きている時代のどこかで、私たちの子孫は変わらず、あるいは変わりながらも、きっと生きています。
    もし、あなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような幸せなものでありますように」
    お互いに人間として尊厳を持って付き合っていける世の中でありたい、そんな人でありたいと思う


  • 樺太生まれのアイヌ、ヤヨマネクフ(のちに日本初の南極探検隊に参加した山辺安之助)。皇帝暗殺計画に連座して逮捕され樺太の刑務所に送られたポーランド人、民俗学者ブロニスワフ・ピウスツキ。アイヌとして生き方を奪われたヤマヨネクフ、故郷を奪われ帰るべき場所がないブロニスワフ。樺太で出会った二人が守り続けたいもの、熱源は…。
    思った以上にスケールが大きかったな。アイヌ、ロシア、ポーランド。弱肉強食の摂理について、多数派の人間が普通だと思っていることの反感、樺太の歴史、盛り沢山の内容。興味深く、面白く描いてるなあ。強いもの、文明によって侵略された人々の生きざま、読み応え大有り。何かを奪うのも人間、守ってゆくのも人間。熱さを感じた。

  • 読み終わった後も、自分が樺太の凍土の上に立って荒寥とした大地を見続けているような、そんな気持ちにさせられる一冊。

    明治から昭和にかけての樺太の歴史とそこに住む人々の運命はこんなにも時代の流れに翻弄され、様々な困難や苦しみ悲しみを伴っていたんだと、改めて知る事が出来た。滅びゆく民族と揶揄されながらも懸命に誇り高く生きようとするアイヌの男達と、自らの運命に向き合いながら家族を守ろうとする凛としたアイヌの女達の姿に心打たれる。

    主要登場人物がほぼ実在の人物だという事にも後から知って大いに驚かされた。

    直木賞も納得の一冊。

  • 余韻の残る作品でした。樺太に生きるアイヌの人々の歴史をひとりのアイヌとポーランド人の二つの視点を中心に描きます。世界は近代国家と未開社会に色分けされ、アジアのほとんどの国は植民地として列強に組み込まれていく時代でした。樺太は、明治14年から昭和20年にかけて、日本⇒ロシア⇒日本⇒ソ連と目まぐるしく帰属が変わり、アイヌは生活圏を追われ、レイシズムをベースに教化政策がとられます。それでも「私はアイヌだ」という矜持が胸を打ちます。また、ラストに登場するオロッコの若い兵士の「立派な日本帝国臣民です」という言葉に涙しました。アイデンティティを突き刺す言葉です。キャラが立っている登場人物が多いので、全2~3巻の長編でじっくり読みたくなりました。あれから75年、樺太のアイヌの人々は滅びず頑張って生きているのでしょうか。

  • 図書館予約本。4月17日から5月19日(返却期間2日オーバー)
    人物の名前(特にカタカナの名前)を覚えられないのがつらかった。くじけそうになる度にシシラトカが助けてくれた。

    国名は知っていたけど、詳しいポーランドの歴史は知らなかったので、世界背景・歴史を検索&メモしながら読了。ヤヨマネクフとブロニシを中心にして教科書に登場する人物が(物語は二葉亭四迷、金田一京助、白瀬矗まで!)次々とつながっていく後半は軽く鳥肌が立った。世界は広大な雪原のようにまだまだ分からないことだらけだと思った。

    「文明」という灯りが、その地に伝わる独自の風習を消していってしまう様子は『雪を待つ』の舞台となったチベットと共通している。


    「豊かな者は与え、知る者は教える。共に生きる。絶望の時は共に支え合う」
     163ページ(ブロニスワフ)


    シンプルなことなんだけど、とても難しいこと。今で例えるなら障害福祉支援サービスと関係があるようにも思えた。いま生きづらいと感じている人々が、悩みや問題を一人で抱え込まなくてもいいような世の中になってほしい。読みながら何度もそう感じた。


    何かを「所有」する、それを主張することで、争いごと・諍いから戦争に発展していく。だけどそれを繰り返して発展してきた世界の歴史を見ると何が正解なのか、「生きる」ということに正解も不正解も存在しないのかもしれない…と、この作品(ヤヨマネクフの生き方や、兄弟が袂を分かつシーン)を通して感じることが出来た。

    <読書ノート9と11に分けてメモすることになってしまった…>

  • 2020年に読み始めた本1冊目。いやー面白かった。
    こういうの大好き。

    舞台は幕末から第二次世界大戦までの激動の時代の樺太。樺太で生まれ、北海道で育ったヤヨマネクフとポーランドで生まれ、ロシアで育ち、樺太に流刑されたプロニスワフ。登場人物それぞれが濃い時代の濃い人生で、一人一人の物語が、映画になってしまうほど。「史実をもとにしたフィクションです」と巻末にはあったが、実際はもっと濃厚な人生だったのだろう。文明、民族、文化、信仰、言語など、読みながら考えさせられる1冊。

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著者プロフィール

『熱源』で第162回直木賞受賞。

「2019年 『異人と同人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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