熱源

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 481
  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910413

作品紹介・あらすじ

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

感想・レビュー・書評

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  •  読んだ。一気に読んだ。
    ここ数年間に読んだ本の中で、断トツに面白かった。
     樺太…サハリン…その島の名前を聞くと、恥ずかしながら私の頭の中では、〈北方四島の一つ〉という知識しかなかった。日本とロシアがずっと取り合っている島。私には「勿論日本の領土だろ」という程の愛国心もないが、「二百海里には影響するな」くらいには思っていた。学校でそう習ったから。でも、この〈学校で習ったこと〉が落とし穴だった。意図的な教育だったかどうかは分からないが、近代以降は駆け足で進められる歴史の授業で、教科書の重要語句からこぼれ落ちていた史実を知ろうともしなかったこと。こういうことが今まで歴史の悲しみを産んできたのだなと思う。
     主人公たちは樺太のアイヌで、アイヌがロシアの領土になった時に、付き合いの深かった“和人”について、北海道に渡った。待遇を良くしてくれるという話だったから。でも、間もなく彼らは今の札幌に近い対雁(ついしかり)という村に移住させられる。最初に心が熱くなったのは、子供の頃の主人公達と和人の子供たちがケンカをして問題になった際、主人公の親代わりで、アイヌの頭領のチコビローが学校に呼び出された時、初めは和人の親が、「子供たちが怪我をさせられまして、どうしてくれるのですか?」と嘘を言って大きな態度を取っていたのに、チコビローが動じず、凛として応対していたので、和人の親のほうが礼儀正しく詫びた場面だ。聞けば、その和人たちは元々は東北の大名家に仕えていたが、明治維新のときの戊辰戦争で賊軍とされ、敗れ、領地を削られたり、取られたり、蔑みを受けたりした結果、屯田兵に志願して北海道に渡ってきた。だから誇りがある。戊辰戦争の時に亡くなった朋輩たちのためにも自分たちの正しさを証し続けなければならないということだった。そしてこのやり取りを聞いていた、「西南戦争で西郷隆盛の軍で戦った」という担任の先生は、同じ時代を生きた別の人生に敬意を払っていたようだった。という場面だ。ここも、歴史の教科書からは想像を巡らせなければ分からない部分だった。つまり、日本は初めからニッポンだったのではなく、江戸時代まではそれぞれの大名に仕えていた、各藩の人々が明治維新で突然出来た“ニッポン”という枠組みに組み入れられ、戸惑い、自分たちのアイデンティティを歪めながら、必死で対応しようといていた人たちがいっぱいいた。アイヌ人でなくとも。ということ。
     対雁村では天然痘とコレラによって、主人公の妻をはじめ、多くのアイヌ人が亡くなってしまった。「故郷に帰りたい」と言っていた妻の形見の五弦琴を背負って主人公たち何人かは樺太に帰るが、そこはもう、妻が見たいと言っていた故郷では無くなっていた。ロシア人によって勝手に森の木が伐採されたり、勝手に原住民の住居が燃やされたりして、元の島では無くなっていたのだ。
     もう一人の主人公はポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキだ。彼の故郷は勝手にロシアに組み入れられ、ポーランド語の使用を禁じられるなどの屈辱を受けていた。そして、大学生のときに、ロシア皇帝暗殺を図る革命運動をする友達に部屋を貸していたため、同罪になり、樺太に流されたのである。絶望的な強制労働に従事していたが、ある日、島のギリヤーク(樺太の北部の原住民)と出会い、彼らの暮らしの工夫を教わって、自分はロシア語を教えているうちにすっかり打ち解け、やがて彼は民俗学者としてロシアからも重宝がられるようになった。そして、アイヌとも交流を持った。ブロニスワフと樺太のアイヌ、ギリヤークとの共通点は、故郷を第三者であるどこかの“国家”に奪われているということ。
    だけど、ブロニスワフとアイヌ、ギリヤークとの違いはブロニスワフはその相手と「闘わなければ(武力には反対だが)」と思っていたが、アイヌやギリヤークは元から「島はだれのものでもない」と思っているので、悔しさはぶつけるが闘わず、土地を取られたのなら、別の土地を見つけ、別の暮らしを考える。国家のための生き方など考える必要はなく、自分たちが生きていく分だけ、魚を取ったり猟をしたりして暮らしてきたのだ。なんという気高い生き方だろう。
     だけど、ロシア語が理解出来なかったためにロシア語の書類にサインさせられ、騙されるようにして住居を奪われたギリヤーク人の友達を見て、ブロニスワフは樺太の原住民のために学校を作ろうと決意する。和人とアイヌのハーフの太郎人も賛同した。しかし、念願の開校の直後、日露戦争が起こり、すぐに閉校してしまった。日本が勝利したあと力を貸してくれて再び開校したが、それはブロニスワフたちが夢見た学校ではなく、日本人が樺太の“土人”を教育してあげる学校だった。
    教育…両刃の刃だなあ。生きていくために、勿論教育は欠かせない。だけど、それを行う権力者の意図で、価値観を歪めさせることも出来る。太平洋戦争が終わって二日後に攻めてきたソ連軍に立ち向かったオロッコ人(樺太の原住民の一つ)の日本兵は言っていた。「やっと、日本兵になれた」と。なんという悲しい言葉だろう。学校で自分たちは劣った民族だと教えられ続けた結果、自分たちを卑下するようになってしまったのだ。
     戦争についても考えさせられた。後にポーランドの英雄になったブロニスワフの弟は故国のために武力で闘った。それしか方法がないと。その祖国愛は美しい。だけど、戦う人の中には、「戦いたい」からその為に大義名分を探す人もいるようだ。そうして勝った結果、“国家”という権力が出来上がり、人のものを自分のものにしたり、自分たちは別の人達より“優勢”だと思わなければ、存続出来ないらしい。ブロニスワフ達が立ち向かったロシア帝政を破った権力もその後に出来た新しいロシアも同じことをしているので、よく分かる。
     別々に大隈重信に会ったポーランド人主人公ブロニスワフとアイヌ人主人公ヤオマネクフは「この世界は弱肉強食だ」と大隈重信に言われ、ブロニスワフは「私はその摂理と戦います」と言い、ヤオマネクフは「俺たちはどんな世界でも適応して生きていく。俺たちはアイヌ(人という意味)ですから」と言った。気高い言葉だ。極寒の地で他人に生活を侵害され続けても凛として前を向いて生きていく。それこそ、“熱源”なのだな。

    • Macomi55さん
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      書きたいことはもっとあったんですけど。
      ヤオマネクフがなんと南極探検隊の最初の犬橇係だったの?...
      地球っこさん
      コメントありがとうございます。
      書きたいことはもっとあったんですけど。
      ヤオマネクフがなんと南極探検隊の最初の犬橇係だったの?すごーい!とか。
      あと、調べてみるとブロニスワフが逮捕される原因になった、革命家の友達(部屋を貸していた友人)は、レーニンの兄だったとか、ブロニスワフの弟はポーランド最初の大統領だったか?なんか凄い人になったとか、なかなか歴史的に凄い人達があの時代にあの島で出会ってたんだ!という別の感動もありました。金田一京助さんに会ってたんだ!とか。
      いずれにしても、歴史に埋もれさせず、小説にしてくださった著者に感謝ですね。
      2022/10/02
    • 地球っこさん
      Macomiさん

      そうそう、凄い人たちがあの島で出会ってたことにびっくりしました。
      作者さんのあの人のことも知ってほしいという気持ちが溢れ...
      Macomiさん

      そうそう、凄い人たちがあの島で出会ってたことにびっくりしました。
      作者さんのあの人のことも知ってほしいという気持ちが溢れてたのかなとも思いました。
      ほんとに私って何にも知らない……

      私は『サガレン』という宮沢賢治のサハリンへの旅を考察したノンフィクションで、「樺太のポーランド人」という文を見つけ、そこから『熱源』に向かいました。
      樺太のポーランド人といえばピウスツキがそうですよね。なんだか本と本が繋がっていくようで興奮しました。

      とても読みごたえのあるレビュー、ありがとうございました♪
      2022/10/02
    • Macomi55さん
      地球っこさん
      そうそう、地球っこさんの『サガレン』のレビュー、とても興味深く読ませて頂きましたよ。それにしても、樺太に鉄道が敷かれていたので...
      地球っこさん
      そうそう、地球っこさんの『サガレン』のレビュー、とても興味深く読ませて頂きましたよ。それにしても、樺太に鉄道が敷かれていたのですね。『熱源』の中ではまだ出てきていませんでしたが。アイヌの立場から言えば、そこまで開発されてしまったと言うべきなのかもしれませんが。でも、確かに極寒の日本から見たら“果て”の地で、鉄道に乗って空気のきれいな空を見たら、『銀河鉄道の夜』みたいな幻想が浮かぶの分かりますよね。
      2022/10/02
  • 第162回直木賞受賞作。
    八か月間図書館で予約待ちでした。

    私は、同じ日本でありながらアイヌのことは全く知らなかったので勉強になりました。
    北海道には、中学生の時、親の転勤で札幌に住んでいて、道内を旅行したのでアイヌの文化は少しは知っているつもりでしたが、観光旅行では、全く何もわかっていなかったんだと思いました。

    この作品を読んでも、とある一面がわかっただけだとは思います。
    ヤヨマネクフが「困窮する同族を救うのはただ教育である」と言うのはこの作品のテーマかと思いました。
    学校を建てようとして太郎治たちが希望に燃えているあたりが一番印象に残りました。
    島国日本の唯一の例外的な他民族の大切な歴史を知りました。
    太郎治の「ぼくは、どこの誰なんだ?ぼくはただ教師になりたかっただけだ。それがどうして身を引き裂かれるんだ。ここはぼくたちの故郷じゃなかったのか」という叫び声が、読了後も、頭の奥に残っている気がしました。

    図書館で八カ月待ちましたが、終戦記念の日に読了できたのも何かの縁かと思いました。

  • 「そこには支配されるべき民などいませんでした。ただ人が、そこにいました。」

    うーん
    史実を元にしたフィクション
    滅びゆく民族とされたアイヌと祖国をなくしたポーランド人の二人の主人公のときに交わりつつ、人の世の摂理とされる弱肉強食にあがらい続ける人生の物語
    史実を極力壊さない程度にはエンタメ性もあって(特にヤヨマネクフとシシラトカの殴り合いの友情とかね)面白かったです

    二人の主人公が時代に翻弄されながら辿り着いた答えにもすごく考えさせられました

    でもやっぱりちょっとお話しが平坦すぎると感じてしまったんよなー
    なんていうか出てくる人たちやテーマが凄すぎて収めきれてないっていうか、受け止めきれてないっていうか
    そんな風に思っちゃいました

    • ひまわりめろんさん
      ヤヨマネクフとブロニスワフというロシアの東と西で生まれた歴史に名を残す人物の人生が樺太で交わっていた!ってのがこの物語の着想なのかなって思う...
      ヤヨマネクフとブロニスワフというロシアの東と西で生まれた歴史に名を残す人物の人生が樺太で交わっていた!ってのがこの物語の着想なのかなって思うんだけど
      そのため二人を均等に扱おうとしすぎてる気がしたんよね
      そのくせ売る側はアイヌの物語です!って必要以上に強調するから、アイヌが半分のこの物語を物足りなくさせてしまうんよ
      もし均等に描きたいんならこのボリュームじゃ足りないと思うんよなあ
      2022/11/02
    • おびのりさん
      思い切って、2作品でも良かったよね。勿体ない。相当な熱源が、作者に感じてしまう。
      なーんて、直木賞作品ぞなもし。
      思い切って、2作品でも良かったよね。勿体ない。相当な熱源が、作者に感じてしまう。
      なーんて、直木賞作品ぞなもし。
      2022/11/02
    • ひまわりめろんさん
      直木賞なんぼのもんじゃい、おりゃああ!(ガシャーン)
      直木賞なんぼのもんじゃい、おりゃああ!(ガシャーン)
      2022/11/02
  • 史実に基づいたアイヌの物語。
    フィクションの部分はあるにしても、歴史の繋がりの面白さ、深さを感じられる小説。

    国家と民族のあまり幸せとはいえない関係。
    そらは、いまも世界の至る所で存在している。
    そんな矛盾の中、なんとか文明は存続して、僕らは生きていられる。

    「強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていく」
    という、アイヌのヤヨマネフクの言葉や、
    「弱肉強食の生存競争。その摂理と戦う」
    という、ロシア皇帝暗殺を謀った罪でサハリン(樺太)に流刑となったポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキの言葉に強く共感した。

    この本読むときは下記の特設サイトが非常に参考になります。

    https://books.bunshun.jp/sp/netsugen

  • 「昔、この島は誰のものでもなかった」
    北海道の北に位置する島・樺太(サハリン)。
    明治から昭和にかけて、この極寒の小さな島はロシアと日本の間で常に揺れ動いていた。
    二国間の私利私欲に呑み込まれ侵略され、文明から取り残される「滅びゆく民」と見下され続ける先住民のアイヌは懸命にもがく。

    雪と海氷に閉ざされた凍てつく島ではあるけれど、「人」という意味を持つアイヌの熱気は強い。
    「生きるための熱の源は、人だ。人によって生じ、遺され、継がれていく。それが熱だ」
    「俺たちはどんな世界でも、適応して生きていく。俺たちはアイヌですから」
    「強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補って。生まれたのだから、生きていいはずだ」

    支配されるべき民などこの島には一人もいない。
    滅びることは決してない。
    そんなアイヌの魂の叫びがいつまでも心を掴んで離さない。
    過去から未来へ向けての熱いメッセージを私もしっかり受け取った。

  • 樺太を舞台に、北海道から戻ってきたアイヌのヤヨマネクフ達、ロシアから流刑されたポーランド人のピウスツキ、それぞれのアイデンティティを問いながら、戦争や支配に流されながらも、生きていく。

    樺太が、こんなにいろんな種族が先住していたことを、知らなかった。アイヌ民族の他にもギリヤーク人などさまざまな人たちが生きる土地だったことを知った。そして歴史の中で、支配や関わりが変わる中生きていく。ポーランド人のピウスツキが、アイヌ民族の中に入っていく様子が不思議な感じだったが、多民族の暮らす島では
    このような感じだったのかと思う。
    途中で語られる種族として滅びていくのかということが、突きつけられていくのが、切ない半面、その人達が生きていく限り、残っていくということもあると思わされる。

    複数の人の人生が交差されて描かれているが、それぞれの話に感じるところがあり、のめり込みながら読めた。

  • 明治から大正・昭和にかけて、ロシアと日本の狭間で、種族としての誇りを持ち、自分たちの伝統や慣習・文化を守っていこう苦悩するアイヌの人々

    高度に発達した文明を持つ我々には未開人を適切に統治し、より高次な発達段階へ導く必要と使命がある。彼らは我らによって教化善導され、改良されるべきとする白人至上主義ともいえる優勝劣敗の考え方に翻弄される人々

    文明に潰されて滅びる、あるいは呑まれて忘れる。どちらかの時の訪れを待つしか自分たちにはできないのか。別の道は残されていないのか。我々は「滅びゆく民」なのか、南極探検隊員に名を連ね、アイヌの名を残そうともするヤヨマネクフ

    「南極に立った人間は、世界でもそうはおらん。君らアイヌが見直されるきっかけになるだろう」
    という大隈重信に対して
    ヤヨマネクフは、答える
    「見直される必要なんてなかったんですよ、俺たちは。ただそこで生きているってことに卑下する必要はないし、見直してもらおうってのも卑下と同じだと思いましてね。俺たちは、胸を張って生きていればいい。俺たちは、どんな世界でも、適応して生きていく」

    強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補い合って。生まれたのだから、生きていいはずだと

    腹の底から、湧き上がってくるような力を感じた。民族としてこれだけの誇りを持っているだろうか。また、世界の多くの少数民族に対して同じ人間として敬意を持っているだろうかと自分自身に問い直した

    小学生の頃、石森延男氏の「コタンの口笛」を読んだことがある
    主人公の少年が、自分の体を傷つけて、「流れる血の色は、君たちと同じだ」と差別する友達に対して、訴えている場面は、いまだに忘れられない

    この本を読んで、そんな遠い記憶も蘇ってきた

    「私たちは滅びゆく民といわれることがあります。けれど、決して滅びません。未来がどうなるかは誰にもわかりませんが、あなたの生きている時代のどこかで、私たちの子孫は変わらず、あるいは変わりながらも、きっと生きています。
    もし、あなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような幸せなものでありますように」
    お互いに人間として尊厳を持って付き合っていける世の中でありたい、そんな人でありたいと思う


  • 2020年初読み。

    実在した人物を軸に描かれる樺太アイヌの物語。

    あの時代の情勢、故郷を奪われ生き方を変えられること…ほぼ知識がなかった樺太アイヌの歴史は至るところに“人”というものを感じた。

    文明、文化を創り出すのも人ならば簡単に踏みにじり争いを巻き起こすのも人。
    そして誰かの心に熱きものをもたらすのも人。
    その複雑な哀しみが心に蔓延る。

    後半、特に終盤は勢いを増して誰もの心情が襲いかかり何度も心揺さぶられた。
    熱さえあれば守れるものがある。尊厳のために人として戦う姿、彼らの証を心に刻んだ。
    良書。

  • 第一次、第二次世界大戦あたりの、史実に基く小説です。

    日本やロシアなど他国に侵略され、翻弄される、当時のアイヌ民族に焦点を当てています。

    歴史ものが苦手です。史実は残酷で、ホラーよりも怖いと感じます(ホラーはフィクションだから怖くない)
    なのに読んでしまった。読みはじめたら、なかなか途中でやめることが出来ずに、ほぼ一気読みしました。

    脳内で勝手に登場人物たちが「ゴールデンカムイ(漫画)」のキャラクターに変換されて困りましたが、同じ悩みを抱えて読んだ方はいるのでしょうか。

    民族それぞれの、さまざまな人の想いが溢れており、感情を揺さぶられ、この小説そのものが熱を発しているような、熱源な本でした。

  • 直木賞受賞作。
    会社の読書会で、後輩がこの本を紹介してくれた。

    明治維新から第二次大戦にかけて、運命に翻弄される樺太島。一方、大国に挟まれていた19~20世紀のポーランドも似たような境遇である。
    まず、樺太島にこれだけの異なる少数民族がいたことを知らなかった。「アイヌ」と一言で言っても、北海道のアイヌと樺太のアイヌは異なる。他民族の共存状態だった島が、支配者によって武力により差別を受け同化させられる運命にある。本作の登場人物たちは、戦争と差別によって不条理にさらされつつも、自らのアイデンティティを絶対に滅亡させないという情熱に突き動かされ、過酷な環境で生きている。この壮絶な生き様を見せつけられ、ところどころで涙が出た。

    その情熱は、ポーランド独立運動、アイヌ民族の教育、南極探検隊への志願など、それぞれ異なる形で現れるが、「弱肉強食の摂理の中で戦うのではなく、摂理そのものと戦う。」という意味では同じである。

    史実に基づいた話であり、日清日露の戦い、ロシア革命、南極探検など、知的好奇心が刺激され、ところどころでネットサーフィンしながら読んでしまった。アイヌの文化(女性の入れ墨、熊送りの儀式、五弦琴)も興味深い。
    大河ドラマにもなりうる長編。
    人気の漫画「ゴールデンカムイ」も近いうちに読んでみたい。

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著者プロフィール

作家

「2020年 『足利の血脈 書き下ろし歴史アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川越宗一の作品

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