熱源

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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910413

感想・レビュー・書評

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  • 明治維新後から太平洋戦争終結までの、樺太アイヌの話し。途中から史実を元にしていると気付く。

    差別とはこういう事で、一言で言い表せる様なものでは無く、わかったような気に成るのも良くない。

    現代でもジェンダー差別とかは同じ様な心の苦しさがあるのだろうとおもう。
    自分に出来る事は、理解しようとする事と代弁する事だろう。

    良本でした。

  • 圧倒されました。まさに作品そのものが「熱源」。アイヌをはじめ、作品で語られる文化や民族について何も知らなかったことに愕然とすると同時に、勉強してみよう、という気になりました。

    語り手は女性兵士。しかし登場するのは最初と最後だけで、主人公は各章でかわります。海外の人から見た日本の様子が客観的に描かれており、日本独特のモノの説明が印象に残ります。どの民族についても平等な視点か感じられました。

    一番切なかったのは、ポーランド人ピウスツキの顛末です。妻子を捨てる覚悟で赴いた先で、なぜ死ななければならなかったのか。結果的には弟に殺されたも同然で、それも覚悟したうえでの決心だったのでしょうが、彼が妻子と共に生きていれば、学問的にも違った結果が生れていたのでは?

    なお、最後に明かされた「偶然」は、今まで観たり読んだりした中では最高のシチュエーション!

    現在の世界情勢が重なって、更に重厚さをおぼえる内容となったと思います。

  • 面白かった!!明治維新後の樺太を舞台にした史実に基づいたアセンブルキャストフィクション。金田一京助博士が筆記した『あいぬ物語』のヤヨマネクフ(山辺安之助)とアイヌ研究でアイ村の村長バフンケの姪チュフサンマの夫であるブロニスワフ・ピオトル・ピウスツキ博士が中心。『あいぬ物語』でのヤヨマネクフの言葉はまさにこういう感じで語られたのかと、すんなり納得できるシーンが印象に残った。金田一先生の小ネタも面白い。
    ヤヨマネクフ
    >生きるための熱の源は、人だ。
    >人によって生じ、遺され、継がれていく。それが熱だ。
    プロニスワフ
    >「もう一つ故郷がありましてね、私には」
    >「いや、故郷というかーー」
    >「熱源、と言ったほうがいいですね。」
    やはりこの二人の対比が面白い。故郷というものについて、とても考えさせられた1冊

  • ロシアと日本に翻弄される少数民族のアイヌ人とギリヤーク人。知識としてアイヌ人の存在は知っているし、北海道の先住民で日本人として暮らしているのであろうというざっくりとしたイメージはありました。最も身近なアイヌ人のイメージはどさん子ラーメンのガラスに貼ってある凛々しい娘さんと老人の姿でありましょう。不思議な服は着ているものの、見ようによっては和の風情もあり、かっこいいなとのほほんと思っていました。

    本書は大国の勝手な思惑で蹂躙される、少数民族の姿を小説化した大作です。自然と共に生きていた人々が、不自然な発展を遂げた先進国と言われる国から、野蛮であると決めつけられ人間として扱われない状態がとても胸が痛みます。自分たちに理解できないから劣等であるという理論は、人間の愚かな性質であることは世界中の史実で明らかです。しかし単一民族という意識がどこかにある我々はその愚かな性質から無縁という意識がどこかにあると思います。僕もその一人だと思います。
    この本は我らもまた侵略者の末裔であり、一つ一つの民族の文化を根絶やしにする「民族浄化」に躊躇しない低劣な精神を根底に持っているということを、意識しなけらばならないと痛感しました。

    と、この本の「熱」にあてられて思わずカチカチの文章になってしまいましたが、出てくる人々の諦めない姿を見て(目に浮かぶようです)熱くならない人はいないでしょう。重厚で読むのにパワーがいる小説ですが、その分とても考えさせられる小説でありました。これは直木賞取るべくして取った納得の一冊です。

  • 史実をもとにしたフィクションと言いながらかなり史実に忠実に描かれており、樺太の日露間での移り変わりや、アイヌや他先住民がその中でどのように翻弄されたのか、そこにロシア帝国下のポーランド人民族学者が、深い関わりを持っていたり、実はそこにあのレーニンの弟も関与があったりと、かなり壮大なストーリー。川越さんの孫文に深く関与した日本人描いた見果てぬ王道とセットで明治以降の世界の中の日本の立ち位置に思いが広がる名著です。

  • 史実に基づいた物語だが、登場人物の熱いハートに感動した。
    生きることにひたむきな人々に力をもらいました。

    また教育の重要性をわかってもらうのにも良い本だと思いました。

  • 史実をもとにしたフィクションとのこと。
    聞き慣れないカタカナの名前、ロシアに対する自分の知識不足、入れ替わる視点、などでなかなか入り込めないまま、それでも「生きる」力から目をそらせなかったので、なんとか読み切った。
    生まれた場所を他者に侵され、そして支配され、自分たちの言葉やそれまでの生き方そのものを奪われていく人たち、読んでいてとても苦しい。
    全体的に、歴史や民族を学んでいる感じだったが、終章で急に何故か感情移入できた。
    ここまで読んできた全てが、自分の中に他人事ではなく感じさせる何かを植え付けてくれたのかもしれない。

  • 前々回の直木賞受賞作は「宝島」で日本列島の最南端・沖縄が舞台、今回は最北端の北海道・樺太だった。そこに住むアイヌの人々と、ロシアに飲み込まれそうなポーランド人が主人公となるのだが、九州人にとって、沖縄は身近に感じられても「樺太」は遥か遠い存在。「樺太」と聞くと北方領土問題しか浮かばず、小学校時代に読んだ「コタンの口笛」のアイヌ物語はすっかり忘れていた。
    樺太(サハリン)生まれのアイヌ、ヤヨマネクフと若くしてサハリンに流刑となったポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキは実在した人物で、金田一京助さんがヤヨマネクフの話をまとめ「あいぬ物語」を刊行し、それが「熱源」の元となったという。
    この2人に共通するのは、彼らは日本とロシアなどの同化政策に苦しみ戦争に運命を翻弄される民族に生まれたが、革命や武力で抗おうとせずに、自分の立ち位置で何とかしようと生きたということだろう。
    「生きるための熱の源は人だ。人によって生じ、遺され、繋がれていく。それが熱だ」
    ー優勝劣敗の摂理を否定し、強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補いあってー
    それを胸に深く受け止めたいと思った。
    壮大なストーリーはアレクサンドラ・クルニコワ伍長(女性)が再び終章に登場して閉じられる。年を重ねたイベカラと出会い、別れ際にアレクサンドラが「また会えるかわからない」と云うのだが、イベカラは「”次”とか”また”とか”まさか”ってのは、生きてる限りあるもんさ」。-もしあなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場に居る私たちのであいのような、幸せなものでありますようにー
    この2人の女性を遭遇させ物語を閉じたことは意義深い。
    召集令状が来て和人と認められたからには功績を挙げたいと散っていった若いアイヌの兵士へ告げたかった。あなたらが同化政策強要された和人(日本人)は決して優れた民ばかりではない。私は、たまたまこの国に生を受けそれを意識せずに暮らしてきただけ。犠牲を払った人々に日本国民だと誇れる国になっているのだろうか。申し訳なさを感じずにはいられないこの頃。

  • 樺太について何も知らなかったことを改めて知らされた。少数民族が平和に暮らしていくことはできなかったのか、その平和な生活を脅かす資格は、誰にもないはずなのに。

  • 時代は明治から昭和にかけて。
    地理はフランス、ポーランド、リトアニア、ロシア、樺太、日本、南極にかけて。
    民族はロシア人、アイヌ、和人、ポーランド人、ギリヤーク、オロッコ。
    舞台と民族とが多様で壮大な物語だった。

    史実に基づいたフィクションということを途中まで分かってなくて、登場人物が大体wikipediaに登場していることに驚いた。たまに史実と違うところ、あとアイヌの文化の描写が的確でないところがあるらしく、少し差し引いて読んだ方が良さそう。

    ただ、アイヌを主人公に据えて物語を展開したことに対しては大拍手。

    これを機会に少し調べて、アイヌに関して、心の寄せられていなかったことに反省。
    2019年、アイヌ新法制定
    https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00479/
    小学校教育における多民族学習について
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/socialstudies/2012/117/2012_2/_article/-char/ja/
    「(日本の教科書は)和人社会中心の歴史観であり,和人の子どもにとっては,マジョリティの中央政権史であることに気づくことが難しいような構成となっている。そこにアイヌ史が部分的に「付加」されているというのが現状である。」

    教科書の「単一民族」という文言を消し去るだけでは不十分で、どう物語を編纂するかが大事なんだなと思った。アイヌ以外の樺太の少数民族に関してはまったく知りもしなかった。本当にごめんなさいの気持ち。

    思ったこと、気に入った箇所など:
    ・アイヌと和人のハーフの太郎治がお父さんに「自分はアイヌなの、和人なの」と聞いたのに対して「自分で決めろ」と答えたの最高。
    ・チコビローがヤヨマネクフに贈った言葉「やることがあるってのは生きてる証拠だ。それに、お前にはこの村がある。」故郷がある人は強いってこういうことかー、と納得した瞬間。
    ・ロシアは隣国である、を今までで一番意識できた。日本国内だけでなく、ロシアと東欧世界の本も読んでみたくなった。
    ・文明という新しい生活様式が、自然と寄り添った民族の生活様式を破壊していく様子は、生物を絶滅に追いやるプロセスと酷似していて、苦々しい気持ちになった。あとから勝手に来た日本とロシアが勝手に土地を巡って戦ってるの、つらいな。
    ・平和ボケした今の日本からすると、弱肉強食な行動原理と世界観を新鮮に感じた。「もしあなたと私達の子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような、幸せなものでありますように。」そんな世界に、なっているだろうか。
    ・オロッコの少年のエピソードが辛かった。一方彼は本当にそういう心情だったのかは少し疑問。ニューカレドニアの方が世界大戦に招集されたときは、「祖国(一応フランス)のため」とはどうしても思えず「自分は世界のために戦うんだ」と自分に言い聞かせた、というドキュメンタリーを思い出した。

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著者プロフィール

『熱源』で第162回直木賞受賞。

「2019年 『異人と同人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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