夏物語

著者 :
  • 文藝春秋
3.77
  • (139)
  • (204)
  • (141)
  • (37)
  • (16)
本棚登録 : 3414
レビュー : 244
  • Amazon.co.jp ・本 (545ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910543

作品紹介・あらすじ

2019年7月11日発売。大阪の下町に生まれ育ち、小説家を目指し上京した夏子。38歳になる彼女には、ひそやかな願いが芽生えつつあった。「自分の子どもに会いたい」――でも、相手もおらんのに、どうやって?

周囲のさまざまな人々が、夏子に心をうちあける。身体の変化へのとまどい、性別役割をめぐる違和感、世界への居場所のなさ、そして子どもをもつか、もたないか。悲喜こもごもの語りは、この世界へ生み、生まれることの意味を投げかける。

パートナーなしの出産を目指す夏子は、「精子提供」で生まれ、本当の父を探す逢沢潤と出会い、心を寄せていく。いっぽう彼の恋人である善百合子は、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言う。
「どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろう」
苦痛に満ちた切実な問いかけに、夏子の心は揺らぐ。この世界は、生まれてくるのに値するのだろうか――。

芥川賞受賞作「乳と卵」の登場人物たちがあらたに織りなす物語は、生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いの極上の筆致で描き切る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • いやーすごい小説に出会ってしまった!

    もう完全に冬なのに「夏物語」を読んでいるのはなんとなく残念な気もするが、そんな季節感なんか吹き飛ばしてしまうくらいの衝撃を受けた。

    好きな人とのセックスを心が受け入れない主人公・夏目夏子は、それでも自らの子どもに「会いたい」と切実に望み、人工授精をして出産しようと考える。生まれてくること、子どもを生むこと、そして死ぬこと、つまり「生とは何ぞや」ということを徹底的に描いた小説。
    芥川賞作品「乳と卵」の再構築も含めた、543ページの大作。はっきり言って長い。一気に読める小説ではない(特に男性にとってはそうではないか?)。
    つまづきながら、立ち止まりながら読んだ。

    遊佐の男性批判はなかなか痛烈で、読んでいてきつかった。
    善百合子の人生全否定を覆すような生きる意味はなかなか考え付かなかったが、逢沢さんと夏子の港町での会話に救われて、人生への肯定感を取り戻し読み終えることができた。

    川上未映子さんの文章って、芯の強さがあると思った。
    ファンになりました。

    ところで、この本、図書館で借りたのだが、阿部和重さんの「オーガ(ニ)ズム」と一緒に予約が用意できて連絡が来た。借りてから川上未映子さんのこと調べたら、なんと川上さんと阿部さんはご夫婦だとのこと。なんたる偶然!
    しかし、「オーガ(ニ)ズム」も859ページの大作。このボリュームの2冊をたった2週間で読めるわけがない。ということで「オーガ(ニ)ズム」は一旦ご返却しました。

  • 二部構成の女の生き方を描いた物語。

    第一部は『乳と卵』をもっと濃くしたもの。背景や夏子の30歳当時の心情がより詳しく描かれていた。

    第二部は『乳と卵』から8年後の話。
    38歳になった夏子は小説家になっていた。

    「いつかわたしは、子供を産むのだろうか。そんなときがくるのだろうか。好きな男もおらず、男を好きになりたいとも思わず、そしてセックスをしたいともできるとも思わないわたしが」
    夏子が望むのは「わたしの子ども」。
    あくまでそれは「好きな人の子ども」ではない。
    「子どもが欲しい、というのも違う。もちたい、とかほしいとか、そういうんでない、会ってみたい、会いたい、そして一緒に生きてみたい」

    パートナーのいない女は自分の子どもに会う権利はないのだろうか。
    パートナーはいないけれど、どうしても子どもが欲しい。ならば、と精子バンクを利用して独りで子どもを産むことを決意する夏子。
    何故そこまで子どもにこだわるのか。自分が生きた証が欲しいのか。生涯を共に生きて自分を看取ってくれる肉親が欲しいのか、それならば姪の緑子がいるではないか。
    初めは夏子の気持ちを推し量ることが出来ずにいた。
    夏子の独りよがりの身勝手な言い分に腹が立ち、読むことを途中で止めようかとも思ったけれど。

    良かった。
    最後まで読んで本当に良かった。
    様々な立場の女達と語り合い、随分と悩んで迷って出した結論について、反対する人もいるかもしれないけれど、私は夏子が納得して出した今回の決断に心から安堵した。
    第一部で幸せについて疑問を抱いていたけれど、夏子なりの幸せの答えが第二部で形作られて良かった。

    女が未婚でパートナーも持たず、独りきりで子どもを産み育てる。
    今後はこれも「出産」の選択肢の一つになり得るのだろう。
    そう遠くない未来に、いやもう既に。
    今は、親のエゴだ、とか自分の半分が空白だ、等と言って戸惑い己の出自を悲観する「子ども」達も、いずれはそれが普通のことになるのかな。
    こうなると家族の形態も多様化していくのだろう。

    「相手なんか誰でもいい。女が決めて、女が産むんだよ」
    「誰の子どもでも構いはしない。わたしが産めばわたしの子なのだ」
    強い意思を示す女達に対する男達の意見も聴いてみたい。

  • テーマが重かっただけに、読み終えてもすっきりしなくて。
    それは、夏子が見えてこなかったことだと気づいた。
    第一部では、キャラの濃い姉巻子。夏子の苦手な観覧車に乗ろう、と手を引っ張った姪の緑子。第二部、小説の道に導く仙川、というように、何人か夏子に影響を与える人物。関わる人たちに背中を押され、揺れ動きながら自分の道を見出してゆく。ラストでやっと、夏子の明るい顔が見えてきた気がする。
    夏子の選択は、理解というには何も答えが出ないが、そういう生き方もあるというのが夏子の物語なんだなと思った。
    性の多様化、女性の社会進出による結婚、出産への意識の変化、不妊治療問題、男尊女卑の親世代の背景とか、ものすごく著者の訴えのように感じた。
    個人的には、比喩のような一節の長い文章(の部分)が、思いつめた人が目の前にいるようで、圧倒されそうで。言葉が鋭い登場人物も気になった。
    産むことについて難しく考えたことはない。生命の誕生はそれだけで素晴らしいと思っている。
    つまずきながら読み切った。エネルギーを要する読書になりました。

  • 「乳と卵」からの二作目

    ふーん。初めから最後まで引き込まれて
    ストンと川上未映子の世界に落ち、どっぷり夏子はどうする〜またまたハマった。
    おもしろい、
    夏物語の世界と言っても夏ではない、まあ夏か!

    一部〜2008年の夏
    二部〜2016年の夏から2019年の夏
    夏目夏子の話

    一部は乳と卵の時の
    巻子、緑子、夏子
    姉と姪、私
    胸「乳」卵子の話、より鮮明により詳しくー

    葡萄狩りの話には泣けて泣けてたまらなかった。
    本文より
    「葡萄狩り」
    覚えている限り幼稚園で楽しみにしたことなんかいっこもないのに、なんでわたし、その葡萄がりだけすっごい楽しみにしててな、もう何日も前から楽しみににしてて、そわそわしてて、自分でシオリみたいな勝手に作ったりして、あれなんやったんやろなって思うくらい、ほんまに指折り数えるって感じで、楽しみにしてた葡萄狩りがあってん、
    でもな行かれへんかってん。、
    その遠足に行くには別にお金が必要で、それがなかったんやな、今おもたら数百円とかそんなんやと思うけどな。んで朝起きたらおかんが「今日は休みで」っていうねんな。、
    なんでって聞きたかったけどお金ないのに決まってるから
    うんわかった家おるわなというてもうたらもうあとから後から涙が出てきて自分でもびっくりするくらいに悲しくて、涙が止まらへん

    これに巻子がしてくれたことが……

    二部は
    もうわたくしには手に負えません。レビューなんて誰が書けるのだろう〜

    夏目夏子、40才前
    こどもにあいたい、
    独身の夏子、パートナーがいない、恋愛する気も、セックスする気もない、したくもない女性が子供を欲しいそのための手段は。
    未婚の女性たちが直面している問題
    結婚をせず、パートナーを持たず
    妊娠出産は可能か、そのためにネット上に現れた
    精子提供サイト。
    精子バンク、AID
    知らないことばかり、無知です。
    凄まじいくらい色々考えた。
    これほど妊娠、出産、子供を持つこと、産むこと
    ここまで突き詰めて考えたことない。
    普通に結婚、出産、育児、子育てを終えた身としては、何か申し訳ないこの感情も傲慢かも知れないが。
    子供を持つ、持たない選択自由、
    生、生まれること死も考えさせられた。
    凄い作品だ。川上未映子恐るべし。、
    p)543
    時間さえあればあっという間に読んでしまう。


    親の「子供に会いたい」という欲望、煩悩

    相手のわからない「男親の」ー子どもの父親を知りたいという気持ちをものすごく考えた。

    あえて子供の立場、傲慢と偏見で申せば
    「勝手じゃない、親のエゴではないか。」
    物心ついていや、もっと大きくなって自分の出自がわからないことを
    母親はその苦しみを考えたことはあるのか?

    自分の父親が誰だかわからないー
    AIDで生まれた
    逢沢が訪ねる
    「背が高くて、一重まぶたで、長距離走が得意で
    心当たりはありませんか?」
    胸が締め付けられる。泣ける魂からの叫びだよね。

    2019年英訳され「乳と卵」
    コロナでなければアメリカでいろんなイベントがされるはずだったらしい。
    とにかく目を背けてはいかない問題ではある。
    筆力、テーマ、読ませる力
    凄い人だわ、川上未映子。




  • 多分 自分には馴染み難い作家 との独りよがりな先入観があって今回が初読みの川上未映子作品。のっけからぐいぐい引き込まれて一気に読んだ☺️
    作家志望の大阪から上京した女性 夏目夏子は自分の子どもを持つと言う一途な考えに至り、様々に試行錯誤と思考過程を辿るが、読者側も同調したり疑問を抱いたり反発したりしつつストーリーと共に一喜一憂させられる。語り口が大阪弁なのもかなり深刻なテーマでありながら、興味深く面白く読み進むことの大事な要素になっていますね♪いやいや これは食わず嫌いの作家さん でした!芥川賞を獲られた「乳と卵」も是非とも読まねば(笑)

  • 第1部は、作家をめざし上京した夏子のもとに10年振りに大阪から訪ねてきた姉巻子と姪の緑子との二泊三日の出来事
    その中に姉妹の生い立ちや巻子と緑子の関係などが描かれている

    そして第2部は、それからさらに8年が経過し作家としてなんとか生計を立てられるようになった夏子

    この物語の主体は第2部の夏子が「自分の子どもに会いたい」と願うようになった心の変化やその方法を模索する中で、さまざまな人と出会い、成長していくところだろうが、私は不妊治療やAIDやらの部分も考えさせられはしたが、

    むしろ巻子と夏子、母、コミばあとの貧しくもあったかく、それでいて脆く切ない幼少時代の描写やその頃住んでいた古い小さなアパートの描写に心を動かされた

    1部のひさしぶりにあった巻子と夏子のコテコテの大阪弁の意味もない会話、豊胸手術について得意げに語る巻子それを冷ややかに見る12歳の緑子、はじめはちょっと引いたが、読んでいくうちに、三人のお互いを気遣い思いやる心の絆に感動してしまった

    1ヶ月筆談でしか話していないという巻子と緑子の親子
    自分が生まれてきたから母にこんな苦労をさせているのではないかと苦しむ緑子
    スナックで働く自分を娘は馬鹿にしているのだろうと思う巻子。お互いが胸の内を吐露し、消費期限の過ぎた卵をぶつけ合う場面は圧巻だった
    緑子の独白の部分も思春期に誰もが感じる戸惑いや不安が描かれていて共感できた

    ブク友さんの中には、大阪弁が読みにくかった人もいたらしいが、関西人の私は、むしろ心地よく面白かった

    村上春樹を想起させる巧みな比喩表現、文章の美しさに
    想像力を働かせながら、反復しながら読んだ

    おそらく海遊館と思われる観覧車の中で逢沢さんが語って聞かせたボイジャー1・2号の話の部分は、特に気に入った
    地球のゴールデンレコードを積んで、打ち上げから40年経過した今も飛び続け地球と交信しているという
    地球が滅んでしまった後、どこかの星の宇宙人がそれを解読し、地球という星が存在したことを知るかも
    辛くなったら、ボイジャーを思い出せと言った父の言葉
    ステキだった

  • 小説家の夏子(38歳)。大阪に姉の巻子、巻子の娘・緑子がいる。夏子は自分の子供に会いたいと思う。しかし、恋人もいなければ、性行為自体も喜びを見いだせない。精子提供を考える中、精子提供を受け生物学上の父を探す逢沢と出会う。逢沢に惹かれるも子供のことも含め自分はどうしたらいいか分からなく模索する。周りの意見に耳を傾けながら夏子が下した結論は。
    精子提供について、産むこと、生まれてくることについて、あらゆる方向からの意見が語られる。価値観、経験、凝縮です。悲しくもあり現実を見たようであり、非常に読み応えがあった(善百合子のところは特に。辛辣だけれども)。最初は語り口調やら細かすぎる描写に読み通せるか心配でしたが(しかも分厚い長編)、後半は圧倒的に読み込めました。今まで以上に子供を産むこと、産まないことの背景を考えずにはいられません。どれを選択するかは個々人により違うでしょう。ある女性のしかし一つの選び方の物語でした。

  • 川上未映子とナタリーポートマンが語りあった「女性の身体」の話(川上 未映子,ナタリー・ポートマン) | FRaU
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80927

    社会学者・上野千鶴子が、人工授精(AID)を決意する女性を描いた川上未映子の小説について語る | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/577798

    川上未映子さん「夏物語」インタビュー 産むこと、産まないこと、生きること|好書好日
    https://book.asahi.com/article/12611552

    『夏物語』川上未映子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910543

  • 第一部(2008年夏)は暗くて面白くなくて、たびたび本を下から見ながら「まだこんなに読まなくちゃいけないの?」と思いました。

    でも第二部(2016年夏~2019年夏)に入ったら、急激に面白くなってきて続きが気になって猛スピードで読みました。

    登場人物の発言のいろいろ、考えさせられました。

    夏子みたいなこと、自分も考えたことがあります。
    彼女のような選択はしませんでしたが。

    ただ、流れにまかせて生きてみるとか、単純に考えるとか、意外とそんな生き方が幸せなんじゃないかと思ったりもしました。

  • 夏物語というタイトルから、夏の季節の話なのかなと思ったら、季節は確かに夏メインだけれど、主人公・夏子の話という意味だったようです。

    第1部と第2部にわかれていますが、第1部はとにかく読みにくいです。
    正直、ここで読むのを止めようかと思うくらい停滞してしまいました。
    けれど第2部からは結構深い話で、主人公・夏子の年齢が私により近くなったこともあり、その苦悩もイメージがつきやすくなったためか、じっくり読むことができました。

    女性として生まれる以上、子どもを生むか生まないかという問題は、少なからず感じる壁ではないでしょうか。
    産める身体をもって生まれたが故の、苦悩。
    産むことが自然だと思いこむ人たちからの、心ない言葉で、追いつめられる人たちがいます。
    自然に生きてきたら、子どもを産む人生だった。
    それと同じように、自然に生きていたら、子どもを産まない人生だった。
    どっちがいいとか悪いとかではなく、ただそれだけなんです。
    どちらも自然な人生なんです。

    正しいとか、間違っているとか、決めなくていいのに、人間は何かを決めないと不安だから、結論を求めたがる。
    でも本当は、白黒つけなくていいことなんて、世の中にはたくさんあるんだと思います。

    この小説では、色々な人たちの人生のかけらを見ました。
    それぞれの人生には、それぞれの苦悩があり、でもその中で懸命に考えながら生きている人たちがそこにいました。

    夏子の30代を通して見えてくるものがたくさんあります。
    第1部を読み進められるかが、1つの関門だと思いますが、第2部がよかったので☆4つです。

全244件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

川上未映子(かわかみ みえこ)
1976年大阪府生まれ。大阪市立工芸高等学校卒業。2002年から数年は歌手活動を行っていた。自身のブログをまとめたエッセイ『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で単行本デビュー。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞、2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、2013年詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、2016年『マリーの愛の証明』でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞を受賞。2017年、『早稲田文学増刊 女性号』で責任編集を務める。2019年7月11日に『夏物語』を刊行し、注目を集めている。

川上未映子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

夏物語を本棚に登録しているひと

ツイートする
×