神様の暇つぶし

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 784
感想 : 69
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910598

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの読書に、楽しみにしていた1冊を。

    父をなくしたばかりの大学生の藤子に、父の古い友人で有名写真家の全さん。
    けしてきれいではないふたりの性(生)が、なんだかものすごく美しい。
    写真がすべての全さんにとって、藤子は、FUJIKOでしかなかったんだろうな。

    黒い物体がふたりの間にでてきてからは、あの写真家さんのモノクローム写真のイメージで場面を切り撮りながら読みすすめてました。よかった。

  • 父を亡くし、容姿に自身がなく人間関係の人との付き合い方も不器用なフジコ。父より年上で見た目も素行も良くないけど、暑い夏のひととき、自分を受け入れて生まれ変わらせてくれそうな男にのめり込む。写真家として、自分を撮った全さん。大学の友達ですら亡くなってい。おいていく周りの人間たち。自分がモデルとなった写真集。遺作として公開されることで、また彼女はふりまわされ、失くしてみて初めてその大きさに気付いていく痛みと怒り。表紙の2個のりんご。小川未明の『牛女』のようなどこまでも愚かなとも思える程、情の深い彼女の本質に、周りは許されていくんだろうな。ラストは頑固な主人公が自分の物語として受け入れていくんだだろうな。と思わせた。それもまた「神様の暇つぶし」になるんだろう。しかし、本当に暑い夏をつねに感じる作品だった。

  • 大学生の藤子と父より年上なカメラマン全さんとたったひとつの季節を過ごした物語。
    それはとても生々しくて濃密な時間…
    忘れられないだろうなぁ、、辛いなぁ。
    藤子にとって全さんが神様だったように
    残り少ない命だったからこそ命の塊のような藤子に惹かれた全さん。生への嫉妬、執着。
    作品としてでも2人の時間が形として残るのはいいな、と思った。
    うーん、、切ない物語でした。

  • 藤子の友人、里見は恋愛についてこんなふうに言う。

    ”「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫していようが、年の差があろうが、略奪しようが、自分たちの恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い」”(P186より引用)

    その夏、藤子は亡くなった父親より年上のカメラマン、全さんに恋をした。
    ご飯をたくさん食べ、何本もビールを飲み、全さんを求めた。

    里見はゲイであることが大学で噂になってしまったが、それでも彼は自分らしく振る舞い続けた。
    父親の悪友のような存在だった全さんは、藤子の心の穴を埋め、何度も藤子を連れ出してご飯を食べさせた。

    姿を消した全さんはその後、海外で亡くなっていた。彼が藤子を撮った写真集は代表作になった。

    ---------------------------------------

    好きになった相手を神様のように思ってしまうことがある。世界のすべてがその人で、その人のことをすべて知りたいし、自分も受け入れてもらいたい。そんな感情。
    恋愛感情というか、依存のような心理状態だ。
    もし、相手も自分のことを神様だと思ってくれる瞬間があって(それは共依存と呼ばれるものでよくない状況かもしれないけど)、お互いに神様として求め合ったとしたら、それはきっと特別な記憶になるんだろうな。
    その瞬間を写真に残した全さんと、彼の死後出版された写真集を見ることのできなかった藤子。

    おじさんと女子大生の恋愛なんて、他のひとから見れば汚そうだけれど、里見が言うように”自分たちの恋愛だけが正しい”。
    つまり、全さんと藤子も他のひとと同じように正しかったんだと思う。

  • 猛暑の夏。
    ものを食べる。
    人を好きになる。
    すごい熱量を感じた本。

    「あの人を知らなかった日々にはもう戻れない」

    そして優しかった里美くんの言葉が心に残る。
    「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。…あとは汚くて、気持ちが悪い。」

  • 父親が亡くなり、空っぽの日々を送っている藤子。ある時父親の友人(父親より年上)に心惹かれてしまいます。ワイルドで小汚くて、細やかでガサツな有名カメラマン。彼の出現によって父親の隙間が埋まっていきますが、それ以上の感情が藤子の体からあふれてしまいます。
    当然男は死んだ友人の娘としてしか見ていません。高まっていく思いを押さえつけられなくなっていく藤子の姿が見ものです。
    大柄で女らしさにかける藤子がムードもへったくれもない店で、毎日毎日大盛りの食事をがっついている姿がとてもいい。それを見守る男もすごくいい。
    こういうワイルドで一見こわもてで笑顔が少年のようなおっさん、僕自身の近辺でも思い当たる節があるのですが、年関係なく滅法もてるんですよ。こんなにもてるの?って思うかもしれませんが、実際に居ますこういう人。自分自身でいること自体で人が引き寄せられるという事は、男からも人気が出るし、女性も引き寄せられます。何しろ厄介な男であります。
    生々しい表現頻出ですが、生命力に溢れていていやらしさではなく命という意味でのエロスを感じます。若くて命そのものの藤子と峠を越えて下ってくだけの男。求めあう事に年なんて関係ないよなあ、と納得させるパワーがある小説です。
    この男、映画なら誰がこの役嵌るかなあなあ、と想像させる魅力が有ります。僕なら誰を配役するか・・・。
    あと5年経っていれば内野聖陽、今なら佐藤浩市、渡部篤郎もありだな。演技的には渡部さんが嵌る気がする。

  • わあああああああ(叫
    これはねーこれはねー好みが極端に割れるやつだよ。で、好きいいいい!って人は(俺のことだ)もう極限までハマっちゃうのよ。

    で、しばらく抜け出せなくなるの。

    全さんみたいなヤヴァイ男って稀にいるんだよね。遭遇したらそれはもう運が尽きた(あるいは幸運)と思って諦めるしかない。
    終わらせることすらしない男って、ほんとうに罪だよね。だからこそ抗えなく惹かれるのだが。

    願わくば生涯こんなものに出会いたくない。
    でも出会ってしまったら骨も残らない覚悟で自分を差し出すしかないんだろうな。

    誰にも薦められない。でも、わたしは藤子のことも全のこともみんな大好きよ。忘れない。

  • もの凄い本に出会ってしまった。

    父の突然の死で生きる場所を見失った20歳の藤子と、帰る場所がないという父より10歳上の写真家の全。
    たったひと夏、でも生涯忘れることの出来ない二人で過ごした夏。
    無味無臭だった日々は出会ったことで、むせ返るほどに匂い立つ。生を貪る様な二人の一夏を切り取った写真集を見てみたい。

    藤子の若さ故の危うさ、幼さを残したまま大人になった全の色気など、温度や匂いに包まれエモーショナルになる作品。藤子の友人の里美の言葉に救われる。

  • 生命力と死へ向かう力が交差する物語。
    その時その瞬間にしか達せない心の温度は、お互いが神様であると気づいた時にのみ存在する。里見のかけてくれる言葉ひとつひとつが心に残る。

  • 時間は記憶を濾過していく。
    思い出とは薄れるものではなく、濾されてしまうもの。

    「事実を言葉にするのはしんどい」

    「言葉にしてしまったら、それを受け入れないといけなくなるんだから。早いも遅いもない。柏木が口にしたいタイミングでいいんだよ」

    体に温度があるのと同様、きっと心にも温度はある。心の温度は体温とは違う。この世には想像もつかない温度の人がいる。相手を焼きつくすほど高温のこともあれば、誰にも触れられないほど凍てついていることもある。そして、それは関わってみないとわからない。

    「どんな人の関係も同じです。どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。だから、僕はあなたの話を聞きたかった」

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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