カインは言わなかった

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 798
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910697

作品紹介・あらすじ

「世界のホンダ」と称されるカリスマ演出家の新作公演直前、若き主演ダンサーが失踪を遂げた。鍵を握るのはカリスマ演出家と因縁の弟。芸術の神に魅入られた美しき男達の許されざる罪とは。

感想・レビュー・書評

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  • 面白くても睡眠確保を優先出来ちゃう強い心を持ち始めたなと自負していたのですが、、、これはダメでした。煩悩トーナメント睡眠欲準決勝敗退です。果たして決勝に勝ち進んだ読書欲とぶつかるのはどこの煩悩なのかーーーー。
    To Be Continued....

    フィクションの物語読了後の感情って様々ですよね。苦境を乗り越えた主人公の姿に心が暖まったり、逆に救いの無いバッドエンドに不快感を覚えたり。しかし、極端な思考だが読書経験値の少ない私からすると「一つの作品にどちらかの感情」と決め付けている節があった様に感じる。だからか、不快感を強調した作品に惹かれるし「私ってば俗悪~」と自虐的になれたりするのだろうと。
    何が言いたいのかというと、今この読了ホヤホヤ賢者モードの私の感情がどちらにも属さなくて戸惑っているということだ。
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    「世界の誉田」と崇められるカリスマ芸術監督率いるHHバレエカンパニー。その新作「カイン」
    カインは旧約聖書において「人類初の殺人者」として描かれた男だ。この公演の為に常軌を逸した指導を乗り越えてきたはずの主役、藤谷誠が本番三日前に失踪する。ダンサーの兄と画家の弟、共に表現者である兄弟と、それを取り巻く孤独な魂達の狂気の舞い、いや「群舞」の物語である。

    失踪した誠の代役となった尾上は、与えられたチャンスに必死にしがみつく。誉田に叱咤され続けた誠を踏み台に、嫉妬に駆られ弟を刺し殺したカインをダンスで表現するため、彼が何を想い、何を感じ、どこまでの闇に侵食され、そしてそれを経たら人間はどうなるのかを必死で試行錯誤していく。

    「人が人を殺すというのはどういうことなのか。この躊躇と恐怖を振り切ってしまうほどの感情とはーーそれとも、それはもはや感情ですらないのだろうか。」
    「一度知ってしまったら、二度と知らなかった頃には戻れない」
    監督誉田含め人類初の殺人者カインを表現する物達が、それを究極にまで追い求めた末に訪れる結末は悲劇か、はたまた喜劇なのか。

    結末ははっきりいって釈然としない。
    纏まっているのだが、「表現者兄弟の狂気」に全面に期待を預けすぎてしまった。なにより誠の弟である藤谷豪の存在が薄い。扱いは脇役、イケメンのモブといった印象。更に誉田の心情に終始スポットが当たらなかったのも不完全燃焼の一因だろう。彼が何を感じダンサー達に向き合っていたのか知りたかった。全体的に見てみると、どうも人物相関の繋がりが薄く、主人公が誰なのかもわからなかった。

    むむぅ、物凄く夢中になっていた割には興奮は残留していない、たが落胆もしていない。冒頭にて語った「どちらにも属さない戸惑い」は結末に対しての発言だが、これも起因しているのやもしれない。

    表現者達の表現が特筆しているので読み応えはあるし面白いのだが、著者の秀逸さが映えるはずの「人物の心理表現」が珍しく希薄だった。二部構成に拍子抜けしカーテンコールを期待しながら闇雲に拍手し続けたが、静かに無慈悲に終演を迎えた舞台を見たかのようだ。
    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    バレエ評論家、檜山重行の評論は冒頭でも語られているが恐らく記憶から抜け落ちている可能性が高いので、是非最後に読み返していただきたい。私はこれによって散漫としていた読了感が引き締まった。
    本書で満足できなかったのは残念だが、鎮静していたはずの【芦沢央の長編に痺れたい願望メーター】がまた暴れ始めてしまった...のは嬉しい悲鳴だ。ずっと応援するし、期待しています。

  • これは、一体どういうジャンルの小説なんだろうと、何の予備知識もなく読みました。(フォロワーさんのレビューはごめんなさい忘れていました)最後にミステリーであったとわかりました。結末は驚きましたが面白かったです。

    HHカンパニー公演の「カイン」が上演予定になっています。HHカンパニーはクラシックバレエとコンテンポラリーダンスを融合させた作品を発表しています。
    カインは人類最初の殺人者で弟のアベルを殺したという物語です。

    カイン役を演じる藤谷誠が行方不明になり、HHカンパニーの演出家の誉田規一は藤谷誠とルームシェアをしている尾上和馬にカイン役を命じます。
    誠の恋人の嶋貫あゆ子は公演三日前の朝誠からひと言だけ連絡を受けますが、それきり連絡が途絶え誠に何が起こったのか調べようとします。

    また誠には豪という名の四つ年下の画家の弟がいて、公演では豪の描いた絵を公演の背景に使う予定になっていました。
    なぜ、誠は行方不明になったのか…。

    演出家の誉田のやり方は一部の退団者の間で被害者の会を作るほど強引でした。誉田は一部の会のメンバーに殺されてもおかしくない程、恨みを買っていました。
    しかし誉田の芸術にかける熱意はすさまじく、殺人さえも芸術としてしまうのは怖いと思いました。
    そして、なぜ誠が失踪したのか明らかになりますが…。
    そこには、凄い理由が隠されていました。

    一時はあまりにもひどいと思った誉田のやり方ですが、最後は皆に認められて、誉田の芸術は本物でした。

    • mei2catさん
      図書館で借りました!楽しみです。ご紹介ありがとうございました
      図書館で借りました!楽しみです。ご紹介ありがとうございました
      2021/07/27
    • まことさん
      mei2catさん。
      コメントありがとうございます!
      レビューを楽しみにしています。
      mei2catさん。
      コメントありがとうございます!
      レビューを楽しみにしています。
      2021/07/27
  • 新しいものを読んでみようと、はじめての作家を選んだ。
    本屋大賞ノミネートと書いてあったので、外れはないかと思いながら、表紙とタイトルのカインを見てある程度予測する。

    「カインとアベルは、旧約聖書『創世記』第4章に登場する兄弟のこと。アダムとイヴの息子たちで兄がカイン、弟がアベルである。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの神話において人類最初の殺人の加害者・被害者とされている。(Wikipedia より)」

    つまり、本作は、アベル役の藤谷豪がカイン役・藤谷誠に殺されるとすると物語として面白みがない、おそらく豪は、最後に亡くなりそうだが、きっと何か仕掛けがあるのだろうと考えながら読んでいたので、最後の結末を読んで、ああやっぱりと作者の気持ちが理解できた気になった。

    そのため、「世界の誉田」と崇められるカリスマ芸術監督・誉田規一のパワハラのような言動にも意味があるのではと思いながら読んでいたため、元HHカンパニーダンサーの江澤智輝が「誉田規一は、作品と現実とリンクすることで話題になることに味をしめたのではないか」と言っている言葉が最後まで引っかかった。その推測もあり、最後に藤谷誠が亡くなった豪のことで誉田に電話した時、一番に駆けつけてきたのを知って、やっぱりと思うと、同時に、なぜ、彼が代役として尾上和馬を選んだのかも、説明の前にわかってしまった。全ては今まで積み上げてきた成果、舞台成功のため、それが芸術家の魂のように感じる。

    そして、芸術という世界の中での作品の表現に魂を捧げている人たちの思考、精神に異様と言える空気が本作から感じるが故に、現実でもそうなのであろうかと考えると、彼らの作品を見て(鑑賞して)、「よかった」とか、「感動した」という言葉でしか伝えることができない自分が、彼らに対して申し訳なく思う一方で、彼らの住む世界に虚しさも感じた。

    また、あれほど誉田に萎縮していた尾上が誉田の真意を理解する。このプロローグがあることで、悪を悪として終わらすこともなく、納得した結末にしており、作品としての読後の後味がよい。

    最後に、今回、ストーリー展開の推測が容易で、読みやすかったのは、たまたまなのか、作者の意図するところが私の思考と合致していいたのか、何冊か読んでみようと思う。

  • 今年4冊目の芦沢央さん。「火のないところに煙は」が本屋大賞ノミネート作品だったこともあり、最近よく読んでいる作家さん。
    新作の舞台はコンテンポラリーダンスの世界、ということで、「芸術の秋」だし、バレエ・ファンの僕としては、かなり盛り上がって買った。

    「世界のホンダ」誉田規一率いるHHカンパニーの「カイン」公演直前に、主演に大抜擢されていたダンサー藤谷誠が姿を消す。〈カインに出られなくなった〉とメッセージを残して。バレエに人生の全てを捧げてきた誠の身に何が起きたのか?
    そして、誠の弟で「カイン」の舞台芸術を担当する画家の豪。誠と豪の間には静かな葛藤の過去がある。
    誉田・誠・豪のパ・ド・トロワのごとく、因縁が渦巻くストーリー。カインはいったい何を言わなかったのか?

    …という話。

    華やかな世界の裏側がドロドロと描かれていてイイ。
    タイトルが秀逸だし、終わり方もとても良いです。
    評価は限りなく4点に近い3点。

  • 芦沢央さん8冊目。これまでの芦沢さんの中で「不穏」な感覚で読んだ。自分の中でイヤミスの女王として君臨するが、今回は後半に殺人が起きるが犯人は誰でもおかしくない。しかし、この話しは殺人犯探しがメインではない。カリスマ芸術監督(誉田)がダンサーを究極まで最高の表現を求めて表現者を追い込む。そして表現者のプライドと苦悩、カリスマ芸術監督への嫉妬。この心情の揺れ動きが読者の感情移入を誘い、最後には希望をもたらしたのだろう。松浦穂乃果の死、表現者として全うできた彼女なりのプライドであり、父母は救われるに違いない。

  • カリスマ監督率いるダンスカンパニー。公演前に主役が失踪する。公演はどうなるのか。監督、主役の恋人、主役を目指そうとする劇団員、過去劇団員家族が繰り広げる光と陰。
    芸術の世界、側から見たらおかしさを感じるほど、すっぽり入ってしまう人がいるんだろうな。監督もそうだし、監督がカリスマとまで言われれば、盲目的にその波に飲まれてしまう人もいる。その世界、しっかり描かれていること。シビアな面が描かれていますが、主役の兄弟についてもう少し深く描かれていれば、より深くあじわえたかな、誰が殺したか、その背景が弱い気がする。芸術家の物語?

  • 芦沢央さんの文章を一文でも読むと止まらなくなるみたい。各人物の内面の葛藤や焦燥が、これでもかこれでもかというくらい身に迫る。芦沢さんは、舞台芸術家としても成功するのではないかと思っちゃう。

    芸術は崇高。でも芸術で表象するものは崇高なものとは限らず、またそうでないことが多い。それにして私は安堵感を覚える。

  • 帯に書いてあった『狂おしいほどに選ばれたい』と言うキャッチコピーはまさにそれと思った。
    血のにじむ様な努力をしてトップダンサーに上り詰め、そこからたった1人の主役に選ばれるまでの運と実力。
    ライバルであり仲間を蹴落として主役の座に付いたはずのダンサーが公演直前に姿を消す。
    一体何が?
    と、思いつつ読み始めるけれども、この本の本当に驚くべき所はその姿を消した主役を追い求めるミステリーにはない別の所が本質だと思った。
    アートと言う正解のない中もがき苦しんで、その先に見た景色の答えがこの本のラストに書かれていた。
    最後の展開には思わず声が漏れる程に驚いた。

  • 読むのにすごく力を必要とした作品。芸術の世界ってこんなにも精神力を必要とするのかと感じるし、人生を賭けてても結果に見合わない人なんてたくさんいるんだろうなと。
    最終的に救われた人とそうでない人がキッパリ分かれたような結末。

  • 図書館本

    兄弟姉妹の根底にある澱(おり)を描いたもの。
    そこに巻き込まれた人たちの思いも相まって、ミステリー的に物事が進んでいく。
    バレエ、絵画、芸術家としての才能、努力、そしてその先を見い出せるものなのか。

    各々に救いのあることが何より。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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