カインは言わなかった

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910697

感想・レビュー・書評

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  • カリスマ演出家が率いるダンスカンパニー。その新作公演3日前に主演が姿を消した。
    バレエなど舞台を方々は大変な稽古をすると聞いていたけど、この本のしごきは壮絶なものでした。
    精神のバランスを崩してもおかしくないなと。
    『それでも選ばれたい』 https://t.co/dboTMrlNY5


  • カインは、旧約聖書で人類はじめての
    殺人を犯したひと。

    神に愛された弟アベルと、その愛を得られなかった
    兄のカイン、一瞬の明暗が二人を分け、
    カインは弟を殺してしまう。
    その時、カインの心には何が渦巻いてたのか。

    カインという、バレエ公演を舞台にして、
    嫉妬、羨望、絶望、怒り、嘆き、後悔、羞恥、
    容易に言葉にできない想いの重なりが、
    精神を歪め人を追い詰める。

    その舞台が芸術なら、表に見えない苦悩は
    語られないほど饒舌に激しく表出される
    のかもしれない。


    〜〜〜
    以下、物語のストーリー含む感想です。

    開演直前、不審なメッセージを残して
    突然連絡が取れなくなった主役カイン役の
    バレエダンサー藤谷誠。

    誠の行方を探すため、あゆ子はルームメイトの
    尾上に連絡するが、連絡が繋がったのは一度きりで
    その後は尾上とも連絡が取れなくなる。

    あゆ子は誠について知らない事ばかりで
    呆然とするが、次に思いついたのは
    名前しか知らない誠の弟で画家の豪だった。
    豪に連絡をするが豪とも連絡がつかず、
    八方塞がりのまゆ子は、二人の育った場所を
    探そうと考える。

    芸術の才能あふれる二人の兄弟、その異彩を
    取り巻く人たち。
    誠と豪が関係する人たちが抱える心情が人毎に
    区切って語られていく。

    誰のどの行動が、誠と豪の行方に関係するか、
    解答にたどり着きたくてページを急ぎました。


  • 前から読んでみたかったので、購入。

    今回は、バレエ界の話。バレエ公演に向けて、様々な人たちが翻弄されていきます。
    読んでいて、頭に浮かんだのは、映画「ブラックスワン」でした。主人公のバレリーナが、主役に抜擢されるが、そのプレッシャーや役にのめり込むうちに精神が崩壊されていく話です。
    この本も登場人物の精神が崩壊されていく描写があります。
    緊張の糸がピンと張り詰めるかのように読み手側もそれが伝わり、グイグイと物語の世界にひきこまれました。
    作中、段々と「誰かが誰かを殺したい」という憎悪の塊を持つようになる人が何人か登場します。それまでに至る過程が色んな人物の視点を通じて、わかってきます。
    そして、最後の部分で、本当の真相がわかった瞬間、ガラリと雰囲気が変わりました。ものの視点が変わることで、それまでのイメージが変わることに面白さを感じました。
    精神的に追い詰められると、人間はどんな行動するのか。様々な人が、追い詰めた先の末路が描かれていて、人間としての怖さが如実に表れていました。
    バレエ界ではありませんが、精神的に追い詰めるという意味では、演劇界では蜷川幸雄さん、映画界では中島哲也監督が有名かと思います。明確に指導するのではないので、答えがわからないまま、出口の見えない闇へと進みます。
    経験したことがある人にしかわからない心情が文章に表れていて、未知の領域の世界に踏み込んでいる雰囲気を醸し出していました。
    冒頭と最後には、ある評論家の公演に対するレビューが書かれています。最後のレビューでは一筋の光が感じ取れましたし、読み終わった後にもう一度冒頭を読むと、最初に読んだ雰囲気とは違った味わい方がありました。
    一つのバレエ公演が、こうも様々な人間に影響を与えるとは。改めて奥深さを味わいました。
    言葉のキャッチボールは、重要であると真摯に感じました。

    演出家の視点も個人的には、入れてほしかったです。演出家の内面の部分も見ることで、この場面はどう思っていたのか気になります。

  • 芸術、表現というものと、一般人の感覚の乖離がテーマな気がしました。演出家、ダンサー、画家。三人の非凡な男たちと、彼らを理解しようともがきながら、決して理解出来ない断絶に慄然とする一般人たち。
    我々凡人が理解出来るのはこの本の中に出てくる一般人のみ。表現者3人を「分かる」なんて人がいたら、今すぐ何かの芸術に邁進した方がいいでしょう。それぐらい分からないし、理解不能でいいと書いたんじゃないかな。
    だからこの本を読んでも結論は何も出ない。最後の終わりが印象的だけどそれだって分からない。結局人の頭の中にあるものが全て言語化出来ないのと同じで、表現とは何もかも不完全で完成は無いんだと思います。

  • 章ごとに、登場人物それぞれの目線でストーリーが進むから、読みやすいし、謎が深まっていってワクワクする。
    犯人も、伏線回収も、なるほど~そういう事ね~とスッキリ。
    ラストのエピローグ(記事)でやられた!
    ちゃんと見つけてよかった。
    あれがなかったら読後感が全然別物でした。
    よかった!

  • どこへ向かっているのか予想がつかず、ずっとドキドキしながら追い立てられるようにラストまで走った感じ。
    芸術の極みを求める人たちを中心に、様々な立場の人たちの感情が蠢いていてどこを読んでも苦しかった。でも最後まで読んで、良かった、と思えるラストでした。

  • バレエダンサーの話というだけで読んでみた。
    いろんな登場人物の話があり、着地点はどこだと探りながら読みきった感じ。

    誉田のような人は本当にいるのだろうか。
    怖いし酷い。だけどダンサー達は彼に認めてもらいたいから必死になる。
    一番の犠牲者は尾上か。
    だけど最後に彼は報われて安堵で終わった。
    だから、彼が主人公だったのだろうか。

  • 今年のマイベスト3間違いなさそう。
    『許されようとは思いません』を読んで気にしつつも他作品を読もうかどうか迷っていた芦沢央さんでしたが(かつ、読むならデビュー作からと思っていたのですが)、いくつかのレビューを目にして俄然読みたくなった本作。

    圧倒的に張り詰めた空気を保ちつつ進むストーリー、読みやすくも舞台や絵が思い浮かぶ描写、読んで良かった。

    再読必至だし、やっぱり他作品も読んでみよう。

  • バレエダンサーで、誉田率いるHHカンパニーで目指していた主演を務めることになった藤谷誠。四つ下の画家の弟の豪。二人は過去の一件からどこか距離をもって生きてきた。
    誠は主演舞台の二日前に恋人のあゆ子に「カインに出られなくなった」とメッセージを送ってから行方をくらませていた。何とか誠と連絡を取ろうとカンパニーの元団員や、誠とは疎遠な母親を訪ねていく。
    一人の女性を描き続けている画家の豪は誰の話も聞いていないような、身勝手で魅力的な、端正な顔立ちの男だ。彼の恋人の有美は彼のミそューズに対し、言いようのない気持ちを抱えていた。会わないほうが幸せになれるだろうと思いながら、その日も呼び出された時間に彼のアトリエに足を運んだが、その日から彼と連絡が取れなくなってしまった。彼の部屋で見つけたカインの舞台のチケットは二枚。これは私とではなく、あの女と行くのかもしれない。その思いが、チケットを持って帰る気にさせたのだ。
    そしてもう一つの誉田に主役として選ばれながら途中で役を下され、それでも練習をしすぎて脱水症状で亡くなった娘を持つ夫婦。母親は娘の葬儀で謝罪のひとつもしなかった誉田のことを半ばストーカーのように見張っていた。そんな彼女はあるネットの書き込みで「誉田が“俺が間違っていた”と口にした」という書き込みを見つけ、もう一度誉田に会いに行こうと考え始める。
    三つの流れがゆっくりと、濃密にカイン初演へと流れ込む。

    端正な文章と、一点へ集中された熱量が読む速度を緩めさせない。
    仕事に行く途中の信号待ちや、仕事の休憩中、子供たちの寝かしつけの間、ずっとこの本は傍らにあって、隙あらばページを開いた。
    芸術に命を懸けるということはこういうことなのだろうな。
    基本的に圧迫された空気でお話が進むなか、後半の、誠が幼いころ探していた絵本を弟と作って何度も二人で読み返していたその本体は、実際の絵本ではなく、誠が見た夢のお話だったことを豪の父親と話しながら思い出す。自分の見た夢の映像を、なのにそのままに描いてくれた弟。その時の深い、豪との邂逅を願う気持ちに、ただただ誠の隣で同じように目を閉じているような気持になった。
    尾上の夫婦との出会いで、何かを創り上げる人間から見たひとつの真実が夫婦の胸の内の一番重たかったものを掬い上げる。その時の窓の外から差し込む光に、私も眩しさを感じた。
    そして最後の一文に、人間のたどり着ける場所は私が思っている以上に高く、深い場所なのかも知れないと思った。
    読み終わってからも、この本に描かれたカインとアベルだけではなく、たくさん存在してきた“アベルとカイン”のことを考えた。

  • バレエと絵画を軸に、兄弟を取り巻く人間関係から生まれる謎。はっきりした人物描写がされているのとそうではないのとギャップはあったけど、概ね楽しく読めました。伏線の回収の仕方は、スッキリしたのと、無理あるなと思ったのとごちゃ混ぜ。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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