2050年のメディア

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911175

作品紹介・あらすじ

「読売、日経、ヤフー、波乱のメディア三国志! 紙かデジタルか? 技術革新かスクープか?分水嶺は2005年に訪れていた。1995年には存在すらしていなかったヤフー・ジャパン。そのヤフーは、読売からのニュース提供をうけて、月間224 億PVという巨大プラッットフォームに成長。危機感を抱いた読売新聞の社長室次長山口寿一(後のグループ本社社長)は、ヤフーに対抗して新聞社が独自のプラットフォームを持つことを思いつく。日経、朝日に声をかけ、ヤフー包囲網がしかれたかに見えたが・・・。同じ時期、日本経済新聞社長の杉田亮毅は、無料サイトにみきりをつけ、電子有料版の準備をひそかに進めていた 」

感想・レビュー・書評

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  • 2000年以降のメディア史は、インターネットの歴史でもあると思った一冊だった。メディアは抽象的に見ると、媒体に情報が掲載されて消費される。その媒体のあり方が激変させたのがインターネット。

    PCの時代にはヤフーという巨大なメディア企業が生まれ、スマホの時代にはLINE、Facebook、Twitterと国内では同規模のプレイヤーが生まれた。

    一方、旧来の新聞社のようなメディアは100年に渡り、宅配制度によるビジネスで大きくなったため、変化の激しい時代に追いつけない状況にある。

    このメディアで起こったことが、小売がEC、金融がFintechの括りで起きて他の産業でも芽が植え付けられつつある。これからインターネットが世界をどのように構造改革させていくか楽しみ。

  • 没落する新聞と興隆するネットメディアの相克を描いたノンフィクション。
    一読して、まずそのスタイルに感心しました。
    書名を見て、「メディアの歴史と未来展望の本」だと思ったのですね。
    その手の本は過去に何冊も読んでいます。
    そして、その手の本は、論文スタイルである場合が多い。
    手堅くまとめてあるため知識としては吸収しやすいですが、無味乾燥になる嫌いがあります。
    その点、本書は読み物として実に面白い。
    登場人物の喜びや苦悩が縦横な筆致で描かれているため躍動感と迫真性があり、ページを繰る手が止まらなくなります。
    元雑誌記者である著者の面目躍如と言えましょう。
    ぼくは吹けば飛ぶようなローカル新聞の記者ですが、本書を読み、目を覆わんばかりの新聞の惨状をあらためて認識しました。
    新聞は2017年までの10年間に、5200万部から4200万部に減りました。
    実に1千万部が消えてしまったのです。
    新聞業界の苦境を示すエピソードが、本書の冒頭で紹介されています。
    業界のガリバーである読売新聞の社主、渡邉恒雄が2018年に社内で開かれた賀詞交歓会でこう言い放ちました。
    「読売はこのままではもたんぞ」
    これまでナベツネは、賀詞交歓会で強気の発言を繰り返していました。
    曰く―。
    「この精神力と体力があれば、これからの一定のパイの中の争いで、絶対に勝ち抜けると確信」(2007年)
    「読売の経営があらゆる指標からみて最も健全」(2012年)
    「とにかく読売新聞は盤石です。何も心配ありません。何をやっても必ず勝ちます。いかなる戦でも勝ちます。その自信があります」(同年)
    「思いきった政策を実現させ、景気を向上させ、広告収入が回復すれば、読売は絶対安全、安泰です」(2013年)
    読売は2001年に1028万部と世界に冠たる部数を誇りましたが、2011年に1千万部の大台を割り込むと、加速度をつけて部数を減少させ、873万部まで後退しました。
    対して急速に勢力を伸長してきたのはネットメディアです。
    本書では、ヤフー・ジャパンがいかにして現在の地位を築いたのかを関係者の証言で描き出しています。
    2016年に読売、朝日、日経を全て足した売上よりも大きな売上を上げるようになったヤフー・ジャパンが産声を上げたのは、1996年1月のことでした。
    我が世の春を謳歌していた当時の新聞人は誰一人、この都会の片隅でひっそりと誕生したネットメディアに後年、その地位を脅かされ、追い落とされるとは思いもしなかったことでしょう。
    しかし、その存在に気付いた時には、既にヤフー・ジャパンは手に負えないほど巨大になっていました。
    新聞はその地位に胡坐をかき、油断をした結果、デジタルへの移行が遅れました。
    本書では、「イノベーターのジレンマ」という見逃せない言葉が出てきます。
    イノベーションによって市場を制覇した大企業が、そのイノベーションゆえに新しい市場に出て行けないことを言います。
    読売が陥ったのは、まさにこのイノベーターのジレンマという陥穽でした。
    専売店の全国ネットワークというイノベーションは、紙の新聞市場が拡大している時は良かったですが、その紙がインターネットに置き換わるようになると、この「イノベーション」が逆に新市場に出て行く足かせとなったのです。
    現在、主要紙で紙の部数減をデジタルで補い、売り上げを維持しているのは辛うじて日経1紙のみです。
    本書では、日経がどのようにしてデジタルという新市場に進出し、成功を収めていったのかも詳細に描出しており、読ませます。
    こんな話が紹介されています。
    紙の時代は、翌日の朝刊に向け午後11時台に日経の編集局内は最も活気づきました。
    それが、締め切りの事実上なくなった電子版に軸足を移した結果、午後10時ともなると、編集局内はほとんど人がいなくなるそうです。
    新聞社に限らず、テクノロジーの進化は人の働き方も変えるということでしょう。
    さて、インターネット市場で勝利を収めたかに見えるヤフー・ジャパンも決して安泰ではありません。
    ヤフー・ジャパンは、確かにパソコンのプラットフォーマーとしては押しも押されもせぬ存在となりましたが、スマホに代表される移動体通信の時代になると苦境に立たされるようになりました。
    特に、それまで「ヤフー1強」と言えたニュースサイトの分野で、グノシーやスマートニュースなどの新興勢力の後塵を拝するようになったのです。
    デジタル市場では片時も安閑としてはいられません、常に潮流に合わせて変化するよう私たちを駆り立てます。
    この先もジリ貧となることが確実な新聞ですが、「社会の木鐸」たる新聞の存在はやはり必要だと思っています。
    そこで、かねて私が考えている処方箋を①発行手段②取材内容③記者個人―の3点でまとめました。
    ①の「発行手段」というのは、紙かデジタルかという選択の問題です。
    答えは言わずもがなでしょう。
    新聞は紙からデジタルへの移行を急ぐべきです。
    本書でも言及されていますが、世代が若くなれば紙の新聞を読まなくなる傾向がはっきりと出ています。
    この点、紙での「成功体験」を捨てられるかがカギを握っていると思われます。
    ②の「取材内容」は、では記者は何を取材するべきかという本質的な問題です。
    いずれは明らかになる話を、他社より早く報じることの意義は相対的に低くなると思われます。
    こうした速報性に重きを置いたコモディティ報道は1~2社程度の通信社に任せ、それ以外の多くの記者は、もっと建設的で生産性の高い取材をすべきだと考えます。
    端的に言えば調査報道です。
    データや証言を丹念に集めて問題を掘り起こし、社会に問うていく。
    これこそ記者が本来すべき仕事であり、情報が洪水のように溢れるインターネット時代にあって益々重要になってくるでしょう。
    調査報道まで行かなくとも、その記者が取材して書かなければ決して世に出なかった報道にこそ力を入れていくべきではないでしょうか。
    ③の「記者個人」は、では記者は、この変化の激しい現代をどのように生き抜いていくかという問題です。
    本書にヒントがあります。
    英経済紙フィナンシャルタイムズ(FT)では、日経より早く紙から電子版への移行に取り組んでいました。
    「FTは、これまでのように、日々の出来事を追うのでは、駄目だということを学んでいた。記者ひとりひとりの個人の体験、分析と意見が色濃くでた、そこでなければ読めないような記事でなくては、ウエブでは有料の記事を人々は買ってくれないということを身をもって学んでいたのだ。」
    FTを買収した日経もこの考え方を吸収し、記者個人の顔が見える記事が増えつつあるようですが、FTほどうまくいってないようです。
    ここから見えてくるのは、記者も「個が立って」いないといけない時代になってきたということです。
    代替可能性のある記者では駄目なのでしょう。
    かく言う自分は、近年は他の媒体でも積極的に活動し、「他流試合」を好んでするようにしています(経済的な事情もありますが)。
    そうして培った知識や経験を本業にフィードバックすることが出来れば最高です。
    厳しいですが、面白い時代になってきたと思います。

  •  紙の新聞では未来がない。そんな子どもでも分かる未来が見えない人たちがいる。フィルム業界という先例がある。マスメディアは、イノベーションのジレンマを打ち破り、富士フイルムのような「両腕の経営」をしなければならいない。

     しかし、できない。読売新聞の後進ぶりが目立つ。答えが見えているのに、できない人たち。これこそが「日本型組織の病」であろう。危機の時代には、組織につかった人間よりも、傍流で斜に構えて組織を見つめてきたクールな人間がふさわしいのだろう(日経の社長人事の例)。2020年代は、マスメディア激震の時代となる。
     
     マスメディアが滅ぶは当然としても、日本社会や日本政治がカオスになるのは困る。われわれ国民に大きなマイナスにならないように、各社は滅んでor変身してほしいところだ。

  • 2022/03/22

  • インターネット時代が来て、圧倒的な紙の部数だった読売新聞は変革に遅れる。インターネット時代の勝者となったはずのヤフー・ジャパンもスマホ時代への対応が遅れる。「イノベーションのジレンマ」はメディアにも当てはまる。
    本書では読売新聞の取り組みを中心にメディアの変化を辿る。膨大な取材による情報や横道のエピソードも面白いが、それに絡め取られずに大筋を読んでいく方が理解しやすいと思った。

  • 読売新聞、日経新聞、Yahooを中心に、2,000年代初頭からのメディア動向の歴史が分かります。
    特に当事者からのインタビューを中心とした企業内情も生々しく、書かれています。
    読売の山口社長については、あまり印象が強くはなかったのですが、認識を改めました。

  • リアルで過去がよくわかりました。読んでてワクワクする実態本でした^o^

  • 新聞の電子版に至る話。ヤフーで只で読める、紙が売れない、販売店の苦悩、拡販、地方紙、巨人軍と清武の乱、アントン・ピラー命令、PCからスマホ、NTの衝撃、日経電子版の成功、FTの経験、読売はどうなる? ヤフーもメディア離れ、データ企業へ、2050年を想像/創造するにはこれまでの30年の歴史を知る必要がある。

  • 2021.02.17 品川読書会で紹介を受ける。
    http://naokis.doorblog.jp/archives/shinagawa_reading_comm_42.html

  • 内容は未来の予測ではなく、これまでの20年の緻密なインタビューによるルポ。特にYOL事件、Nordot誕生の複雑な経緯のあたりは、メディアの人間としてリアルタイムに見てきた側だったが、ここまて深い背景を初めて知った。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。アルツハイマー病の研究の歴史について、2000年代から興味を持つ。日・米・欧の主要人物に取材し、研究者、医者、製薬会社そして患者とその家族のドラマを積み上げる形で、本書をものした。1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA)、『2050年のメディア』(文藝春秋)がある。慶應SFCと上智新聞学科で「2050年のメディア」の講座を持つ。

「2021年 『アルツハイマー征服』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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