あの子の殺人計画

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912080

作品紹介・あらすじ

「あたしって虐待されてるの?」風俗店オーナー殺人事件の美貌の容疑者が仕組んだ「アリバイトリック」。鍵を握るのは虐待されていることに気づきはじめた娘だった。椎名きさらは小学校五年生。母子家庭で窮乏している上に親から〈水攻めの刑〉で厳しく躾けられていた。ある時、保健室の遊馬先生や転校生の加藤らに指摘され、自分が虐待されているのではないかと気づき始める……。JR川崎駅近くの路上で、大手風俗店のオーナー・高遠菫が包丁で刺し殺された。県警本部捜査一課の真壁は所轄の捜査員・宝生と組んで聞き込みに当たり、かつて高遠の店で働いていた椎名綺羅に疑念を抱く。だが決定打となる動機や証拠は見当たらず、事件当夜、椎名綺羅は娘のきさらと一緒に自宅にいたというアリバイもあった。真壁は生活安全課に所属しながら数々の事件を解決に導いた女性捜査員・仲田蛍の力を借りて、椎名母娘の実像に迫る。前作『希望が死んだよるに』の「こどもの貧困」に続き、「こどもの虐待」をテーマに〈仲田・真壁コンビ〉が活躍する社会派と本格が融合した傑作ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • この作品には叙述トリックがあります。

    ファミレスに勤めている母親からネグレクトと暴力が一緒になった虐待を受けている椎名きさら、小学五年生。
    母親から「水責めの刑」をされて風呂場で裸に水をかけられたり、家事を全部やらされたりされています。

    母親の椎名綺羅28歳は風俗店のオーナー殺人事件の容疑者として警察から事情徴収を受けます。

    刑事の真壁はコンビを組んでいる宝生が椎名綺羅をかばう発言をすることから美しい綺羅に好意を寄せているのではと怪しみます。

    綺羅は娘のきさらのアリバイ証言によっていったんは容疑からはずされますが…。
    真壁らは綺羅がきさらに嘘の証言をさせていると疑います。

    一方きさらは同級生で養子である高橋翔太に言われ自分が母親から虐待を受けていると初めて気が付きます。
    そして翔太に相談して自分も養子にいき幸せになりたいと望み、母親の殺人計画を立て始めます。
    しかし、翔太はある日突然、転校してしまい、きさらの前から姿を消します。


    以下ネタバレ含みます。お気をつけください。


    きさらには翔太しか友だちがいませんでした。そして翔太もどこかへ行ってしまいます。
    でも、人は変わるものなんですね。
    翔太のあたたかい真心は全く報われませんでした。
    なんだか淋しく、切ない話だと思いました。
    この話のトリックはお見事でした。

  • 面白い★5 虐待を受ける少女の葛藤とひたむきな愛 社会派×本格×イヤミスの傑作 #あの子の殺人計画

    母親から虐待を受けている少女は、自らは母からの躾だと信じ、学校や周囲にばれないように隠していた。しかし虐待の懸念があると判断する先生や友人が表れてきて、自らの待遇に疑問を持ち始める。
    一方、風俗街で殺害された女性の死体が発見された。警察は少女の母に対するアリバイ供述は、虐待による偽りの供述ではないかと疑問を持ちはじめていた…

    前作に引き続き、子供たちの貧困や虐待をテーマにした社会派ミステリー。本作はさらに本格やイヤミスの要素もふんだんに盛り込まれ、さらに大技も仕込まれた傑作です。
    ミステリーとしても質が高く、なんといっても小説としてのバランス感覚も抜群で、読んでいて全くストレスがない。どなたにもおすすめできる一冊です。

    キャラクターもよく描かれていて、母、子、先生、友人、刑事たち、全員が自らの信条のもとに胸を張って生きているのがよく伝わりました。特に少女の信条描写がなんとも切なく、なんでこうなったんだ。としか言えません…

    メインとなるトリックは、実は見たことあるパターンでしたが、全然見抜けませんでした。この辺りはしっかり作りこまれていて、納得感も高かったです。

    前作もそうでしたが、こんな小説を読むと切に思うことがあります。
    これからの日本や世界を作っていく子供たちに、少なくとも希望を持てる世の中にしたい。ほんと、それだけです。

    天祢涼さんの本シリーズは、大人になったら読んでおくべき作品です。下手な世直し本を読むより、よっぽど胸を打ちますね。社会派ミステリーの傑作です、超おすすめですっ

    • 結月さん
      こんにちは!Twitterの方でもお世話になっております結月です(⁎ᵕᴗᵕ⁎)
      初めてこちらにコメントします。

      akiさん(とお呼びして良...
      こんにちは!Twitterの方でもお世話になっております結月です(⁎ᵕᴗᵕ⁎)
      初めてこちらにコメントします。

      akiさん(とお呼びして良いでしょうか)のレビューがとても好きで、よく参考にさせていただいております。そして読みたくなる本が増えます(笑)

      こちらの作家さんは読んだことのない方なのですが、とても興味深く思いました。
      なかなか積読の減らない状態ですが、ぜひ読みたい本としてわたしの本棚にもそっと並べておこうと思います。

      今後も楽しみにしております(⁎ᵕᴗᵕ⁎)
      2022/06/15
    • autumn522akiさん
      結月さん
      こんちはです、コメントありがとうございます~
      はい、秋と申します、どうぞよろしくお願いします。

      レビューをお褒めいただき...
      結月さん
      こんちはです、コメントありがとうございます~
      はい、秋と申します、どうぞよろしくお願いします。

      レビューをお褒めいただき、超うれしいですっ
      せっかく楽しんだ本なので、その時の思いを綴っておきたいんですよね。

      自分も天祢涼さんは2冊しか読めてませんが、デビューから徐々に力をつけてきている作家さんだと思います。
      本作も結構ありがちなテーマや作風なんですが、小説としてのバランスや完成度が高いので★5とさせてもらいました。

      ぜひぜひ読んでみてくださいまし!
      2022/06/16
  • ズシンとくる、一冊。

    あの子の頭の中が殺人計画でいっぱいになるまでかなりきつかった。

    子に対してここまで心を失えるものなのだろうか…心が折れそうになる。

    それでも視点が変わる構成のおかげもあってか、ページをめくる手は進む。

    終盤、なんとなく予感していたことは当たっていたけれどそれでも驚かされるポイントが多々有り。

    全てが紐解かれ再度確認したくなるほどミステリとして楽しませてもらった後、重く考えさせられる。


    このいわゆる緩急の付け方が巧い。
    母の心の叫びがズシンと突き刺さる。
    そして仲田刑事の 誰でも…がズシンと心に残る。

  •  児童虐待をテーマにしたサスペンスミステリー。神奈川県警本部の真壁警部補と多摩署の仲田巡査部長が捜査に当たり、社会の闇を解き明かしていくというシリーズ第2弾。5章からなり、各章の間に断章が挿まれる。

     なお、各章は真壁と小学生のきさらの視点で交互に描かれ、最終章のみ宝生巡査部長視点の描写が1箇所入る。断章はきさらの母親視点で事件について語られる。
             ◇
     JR川崎駅近くの路上で刺殺事件が発生した。被害者の女性は風俗店のオーナー遠山菫49歳で、凶器の包丁から指紋は検出されていない。

     県警本部の真壁が川崎署の宝生と組んで関係者への聞き込みに当たった結果、容疑者として浮上したのが、遠山が経営する風俗店にかつて勤めていた椎名綺羅という28歳の女性。
     しかし綺羅は聴取に対して犯行時刻は家にいたと言う。娘のきさらに確認したところ母親と同様の答えだったが、暗唱したようなきさらの話しぶりに疑念を抱いた真壁は……。

         * * * * *

     虐待は連鎖してしまうものなのか。

     綺羅は、自身が母親から受けた仕打ちよりは娘に手心を加えていることを自分への言い訳にしていましたが、虐待は虐待です。わかっているはずなのに止めることができなかったのでしょう。

     愛情の表し方や伝え方がわからないのか、もしかして愛情を感じること自体できないのか。愛されずに育つことの恐ろしさ。

     綺羅の最後のことばが印象的でした。
     「なんであの子ばっかり」
     「あたしの人生なんとかならなかったの?」
     娘が救われようとしていることに嫉妬し、自身の不運を嘆く。これが親の言動とはとても思えませんでした。
     自分は愛されなかったという記憶が生む心の闇の深さを思うと愕然とするばかりです。

     対照的に描かれていたのが宝生ときさらの担任の小芝です。どちらも綺羅の小学生時代の同級生で、家庭環境は悪かった。

     宝生は児童養護施設育ちだが、里親夫婦の豊かな愛情に育まれ、誠実で思いやりのある警官になりました。
     小芝は貧乏のどん底家庭で育ったようですが特に親の愛情不足でもなかったらしく、生徒に気を配れる教師になりました。
     綺羅との違いは保護者や周囲の大人からの愛情を受けて育ったかどうか。

     エピローグ部分に、生活苦や孤独に追い詰められれば誰でも虐待に走ってしまうものだと書かれていましたが、それではあまりにも人生が哀しすぎる。真壁の「俺も? そんなはずあるか」という思いを支持したい。そんなことを思いました。

         * * * * *

     心の師であるかなさんオススメの天祢涼ミステリー2作目。実は真壁 − 仲田シリーズだと知らずに読み始めたので、序盤で真壁警部補が登場し、仲田巡査部長の名前が出てきたときは、とてもうれしかった。(そもそもシリーズになっていることも知らなかったので歓びはひとしおでした。)

     物語出だしがいじめと児童虐待を匂わす描写で、つらい展開になりそうだなあと気後れしつつページを繰っていたのだけれど、真壁 − 仲田シリーズであるのがわかってからはイッキ読みです。

     エピローグ部分にまで念入りに仕込みを入れた作りはさすが天祢ミステリーだと感心しきりでした。叙述トリックにも気持ちよく引っかかりました。おおいに満足です。

     重ねてかなさんに感謝です。ありがとうございました。残る1作、大事に読みますね。

    • かなさん
      Funyaさん、こんにちは♪
      まぁ…心の師なんてっ!
      再び照れまくりますっ(#^^#)
      楽しんでいただけて嬉しいです。
      わ…でもシリ...
      Funyaさん、こんにちは♪
      まぁ…心の師なんてっ!
      再び照れまくりますっ(#^^#)
      楽しんでいただけて嬉しいです。
      わ…でもシリーズだとは伝えてなかったですね(汗)

      残り「陽だまりに至る病」ですね…。
      コロナ禍でも初期のころの作品ですけど、
      こちらも読み応えあります。
      Funyaさんのレビューを読めること、
      楽しみにしてますね(*^-^*)
      2023/07/02
  •  いやぁ、騙された!こうなることを予想できないわけじゃなかったのに、すっかりとやられてしまった。

     母子家庭の椎名きさらは母親が言う躾を虐待と知らずに育っていた。同級生の翔太と会うまでは。

     きさらは自分では気づかなかったが、同級生の女子たちにもイジメに遭っていた。それを気づかせてくれたのも翔太。

     翔太に虐待されていると気づかされたきさらは母親を殺害することを計画する。

     同時に進行する殺人事件。この事件を追う真壁と相棒の宝生。その殺人事件の容疑者として浮かび上がったのがきさらの母親である椎名綺羅。しかし、綺羅にはアリバイがあった。


     正直後半パニックに陥ってしまった。うーん。これはもう一度読み直さなければ!

  • ❇︎
    『希望が死んだ夜に』
    仲田・真壁刑事シリーズの第二弾

    『あの子の殺人計画』

    子供の貧困⇨子供の虐待

    すぐ側にあるかもしれない。
    そして、すぐ側にあるのに
    気づいていないかもしれない。
    また、それとない空気に気づいていても
    目を逸らして暮らしているかもしれない。

    無力さや絶望感、諦めに打ちひしがれながらも
    必死に生きる子供たちと、負の連鎖を目の当たり
    にし、それでも立ち向かう三人の刑事の物語。

    読み終えて、問題の深さと重さに
    やるせ無い気持ちでいっぱいになりました。


    〜〜〜〜〜〜〜〜
    作中より

    先の見えない生活の中で、身も心も
    疲れ果てて許されないけれどありえること。

    追い詰められたら誰でも似たようなことを
    してしまうかもしれない。

    とても現実味がある一文で胸に刺さる。

  • ネグレクト、児童虐待、性風俗、いじめ、マインドコントロール、貧困といった、重苦しいテーマが盛り沢山の一冊。
    しっかり騙され一気に読み、また最初から読む。
    名前で混同してしまうので、じっくり読まなければ理解出来ない。

    どんなに虐待されても、どれだけ酷い事をされても、そんな親でも求めてしまう健気さ。
    愛してくれていると思いたい。
    自分が悪い子だから。親は正しく、言う事は絶対である。
    そう思い込まされ、精神的に支配されても、生きていく為には耐えるしかない。
    自分の育った環境が全ての世界であり、常識となる。
    世の中を知らなければ、周りと比べなければ、異常だという事がわからない閉ざされた空間。
    心の弱さは大小あれど、土台なり基盤がしっかり形成されていないと負の連鎖は続いてしまう。
    救いを求める事はとても勇気がいる。
    それ故に、周囲の者が手を差し伸べてやらなければ、いつまでも無くならない社会問題だと感じた。
    「あたしの人生なんとかならなかったの?」という心の叫びに、胸が痛む。
    私達はもっと知らなければならない。
    現状を。理を。生きる術を。
    心配りと広い視野を。
    「希望が死んだ夜に」も早く読みたい。

  • 『あの子の殺人計画』を展開くださっている大変ありがたい書店さん達
    @天祢涼
    ミステリー作家・天祢涼の公式ブログ
    https://www.amaneryo.com/2020/06/anoko-bookstore/

  • 貧困、虐待をテーマに現代に蔓延る社会問題を、
    ミステリーを織り交ぜて引き込みながら提示する。 

    謎を追ってミステリーを楽しみながらも、
    社会問題について深く考えさせられる。

    正しいことを教えるべき親が、間違ったことを埋め込み、疑うことすら学ばせない虐待描写が辛い。

    謎が解けた瞬間、真実が謎に感染するみたいに一瞬で広がっていき、はじめから読み始めたくなりました。

  • かなり重いテーマ。
    でも読みやすくて一気に読んでしまった。
    いろいろ出来すぎな感じはあるけど、良くできている。面白い。

    翔太~( ;∀;)
    ちょっと違ったらきさらの運命は違っただろうに…。

    いろいろ書くとネタバレになっちゃうので、書けないな~

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著者プロフィール

1978年生まれ。メフィスト賞を受賞し、2010年『キョウカンカク』で講談社ノベルスからデビュー。近年は『希望が死んだ夜に』(文春文庫)、『あの子の殺人計画』(文藝春秋)と本格ミステリ的なトリックを駆使し社会的なテーマに取り組む作品を繰り出し、活躍の幅を広げている。

「2021年 『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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