- 本 ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163912363
作品紹介・あらすじ
社会派作品で評価の高い、
劇作家・石原燃の小説デビュー作にして、
第163回 芥川賞候補の注目作!
「お母さん、聞こえる? 私は、生きていくよ。」
画家の母・恭子を亡くした千夏は、
母の友人・芽衣子とふたり、ブラジルへ旅に出る。
芽衣子もまた、アルコール依存の夫・雅尚を亡くした直後のことだった。
ブラジルの大地に舞い上がる赤い砂に、母と娘のたましいの邂逅を描く。
渾身のデビュー小説!
感想・レビュー・書評
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太宰の孫で、津島佑子の娘、まあ、なんというか、「小説」を書くということに勇気がいったでしょうねえ。今どき、「太宰の文章と比べてこの人は・・・」なんていうことを言われる人も言う人もあるとは思えないのですが、この出自だけで言われそうですよね。
お若い方かと思って読みましたが、幸田文のデビューを思わせるお年のようで、次にどんな作品をお書きになるのか、ちょっと楽しみですね。
ブログであれこれ書いてます。そちらもどうぞ。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202112110000/ -
人生の終活を考えた時。そんな人にオススメしたい。
構成がとても独特でした。
舞台背景や時系列がバラバラな所があるので回想とし紐付けました。この物語の主人公は二人である。母を亡くした千夏とアルコール依存症の夫を亡くした千夏の母の友達芽衣子とブラジルに行く。
『死』に対して生きて行く事を考えさせられる舞台として、遠い国ブラジル旅行を伏線として捉えた。
母を看取る時の親娘の心の会話がこの物語の真骨頂だ。
遥に遠いブラジルの赤い砂を蹴るの千夏の思いは『死』に対し自分に生きる力を誓う様に思える。それを私なりに回収した。 -
悲しい、寂しい、などの直截的な言葉を使わずに喪失感を浮き彫りにしているような。その喪失感は希望と裏腹のもの。そして喪失は何かが存在したことの証明。
私は母を失い、母の友だちの芽衣子さんは夫を失った。私と芽衣子さんは、芽衣子さんのふるさとブラジルに一緒に旅する。芽衣子さんにとっては帰郷の旅。
母が亡くなってから親交を深めた芽衣子さんとの関係は、母の喪失で得られた希望。
赤い砂で象徴されたブラジルという異国は母が訪れたかったところでもあり、巡礼地のような、また再生の地となるような予感をさせて終わる。
私も芽衣子さんも、それぞれ故人との思い出を語り合い、それがなによりの弔いとなっている。
いわば鎮魂の物語だった。
石原燃さん、津島佑子の娘、太宰治の孫ということでずっと読んでみたかった。
体験に裏付けられたような物語という感じがした。 -
時々、必要なタイミングジャストに出会う本があるのだけど、まさにそうだった。
近親者が他界し、親との関係も色々と思う今読めて良かった。
今作は、悲しみも苦しみも忘れられるなんて適当なごまかしはしない。きっとずっと消えない。
でもタイトルに集約される強さで、共に歩こう、としっかりと背を支えてくれる良い作品だった。
文章も好き。
著者のこれからの小説も楽しみだし、舞台も見てみたい! -
初読みの作家さん。
…家族ってやっかい。 -
シンプルで洗練された文章。ひとつひとつのシーンが重なり合って読んでいる私たちの記憶まで想起させようと働きかけてくるような力がある
オートグラフィーを卒論で扱いたいという気持ちが強くなってきた -
読みながら「光の領分」のさまざまなシーンを思い出した。 光あふれるビルの一室、 屋根になげられたおもちゃ、 飲んだくれてベッドから出てこない母親、 そして、娘を連れ出したままなかなか帰ってこない別れた夫への平手打ち。 このシーンが、「赤い砂……」にも出て来た時はどきどきした。 繋がっているってすごいな。 自由奔放な母親は、死ぬまでそうやったんかな。 「子どもには親を嫌う権利があるんだから」 かもしれん。 どうぞ嫌ってくれてもええよ。 たこ八郎の「迷惑かけてありがとう」って言葉も思い出した。