おれたちの歌をうたえ

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 102
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  • Amazon.co.jp ・本 (598ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913278

作品紹介・あらすじ

「あんた、ゴミサトシって知ってるか?」
 元刑事の河辺のもとに、ある日かかってきた電話。その瞬間、封印していた記憶があふれ出す。真っ白な雪と、死体――。あの日、本当は何があったのか? 
 友が遺した暗号に導かれ、40年前の事件を洗いはじめた河辺とチンピラの茂田はやがて、隠されてきた真実へとたどり着く。
『スワン』で日本推理作家協会賞、吉川英治文学新人賞を受賞。圧倒的実力を誇る著者が、迸る想いで書き上げた大人のための大河ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 第165回直木賞候補作。

    598ページ。圧巻でした。
    1972年長野県上田市。五人の小学六年生、河辺久則。五味佐登志。外山高翔。石塚欣太。竹内風花をキョージュと呼ばれる竹内三紀彦は栄光の五人組と呼び「君たちは小さな勇者だ!」と言いながら可愛がっていました。

    キョージュは教員で本を二千冊以上所有し永井荷風をこよなく愛して、子供たちに文学を教えていました。休みの日に子供たちを呼び勉強合宿を開いていました。

    風花(フーカ)には年の離れた千百合という姉がいましたが冬のある日千百合が失踪します。
    そして首を絞められた死体が発見されます。
    キョージュはその後疑わしいとされた引きこもりの在日少年、文男を撃ち殺し文男の祖母、母も撃ち、自死してしまいます。
    それは栄光の五人組が高校三年生の時に千百合事件として起こりフーカはどこかへ引き取られ、コーショーはバンドマン、キンタは東大合格して上京。
    河辺は警察官への道を進みます。

    そして令和元年。警察官として生きてきた河辺が五味佐登志の遺体と対面するところから栄光の五人組の次の物語が始まります。
    佐登志は殺されていました。河辺は病気で余命の少なかった佐登志がなぜ殺されなければならなかったのかを探りだそうとします。
    そこには、あの千百合事件が絡んでいました。
    犯人はあの頃の一体誰なのか。五人の中に佐登志の隠していたという金塊目当てに殺した人間が果たしているのか…。
    あんなに仲の良かった五人組の中で裏切ったのは誰か。

    今回、圧巻とは書きましたが、苦手のハードボイルド598ページは私には少々つらかったです。最後の方の人間関係でちょっと私にはわかりづらいところもありました。

    でもラストの60歳になったフーカと河辺の再会シーンには救われた気がしました。
    60歳になっても初恋は忘れられなかったのですね。
    フーカはやはり皆のマドンナでした。

  • 謎解きがあって、いろんな事件が起こって、それにたくさんの登場人物が絡んできて・・・と、すごく盛りだくさんだった。ハードボイルド?なのかな?

    序盤の河辺たちが高校生の頃の章はTHE・青春!って感じで読んでいて良いなぁと思った。
    中でもキンタが好き!
    いつも制服でいて、童顔でお坊っちゃん頭で成績優秀。頭の切れる河辺たちのブレーン的存在。すごく嫌な感じの大人になって再登場したけど・・・笑
    「いい?もう一度いうよ。過去は無意味だ。ようは《いま》が劣化したゴミであり、排泄物にほかならない。たしかに経験は、決断の指針になり得る。でもそれも、銘柄だ。現在の都合で価格が決まる銘柄だ」
    「たとえぜんぶに説明がついても、もう戻れない。疑った事実と、疑われた記憶が、ぼくらの歴史になってしまったから」
    こういう頭が良くてひねくれたキャラが大好き!笑


    人間関係はどうしても変わっていく。
    今はSNSが発達したから、直接会わなくなっても昔の友人が何をしているかは分かるようになったかもしれないけれど、それでもいつまでも”あの頃のまま“とはいかないだろう。かなりつらい事件を境に別れた河辺たちは尚更。
    はじめから連絡を取り合っていればよかった、と河辺は言う。でも、
    「おれたちが生きた時代や文脈、積み重ねた感情のほつれやわだかまり、プライド。さまざまなめぐり合わせをすべてなかったことにして、美しいパズルのピースにまで削ぎ落とすなら、あるいはそれが正解なのだ。だがそんなものを、おれたちは人生と呼ばないだろう」
    たしかに美しいだけの過去はまた違うかな。

    こんな形で終わっちゃうの嫌だな・・・と思いながら読み進めていたけど、最後は少しホッとする結末で良かった。


    「「過去は、果たされない約束ばかりだ」
    「いいえ、途中なのよ。罪も希望も、過去も未来も」
    それは彼女の歌だった。人に裏切られ、自分に失望し、傷ばかり増えてゆく。過ぎた時間は取り戻せない。けれど、まだ途中だと思えるかぎり、約束をつなげばいい。次の音符を付け足せばいい。」

  • 初読みの作家さんでしたが、ハードボイルでありながら哀愁を帯びる雰囲気に共感が持てた。こんな時代をくぐってきたとつい思わざるを得ない。昭和五十年代の始め、長野県の上田市真田町でいつも一緒にいた五人の高校生たち「栄光の五人組」。彼らは、その中の紅一点フーカ(荷風をもじってある)と共に、フーカの父親のキョージュこと竹内三起彦に永井荷風、中原中也、太宰治などらを読み込ませられた。
    しかし「栄光の五人組」に事件がふりかかり、昭和から平成を経て令和と失われた40年を送ることになる。
    「栄光の五人組」の一人だった元刑事で今はデリヘルの運転手をしている河辺のもとに、「栄光の五人組」だった佐登志が死んだと連絡が入る。知らせてきたのは佐登志の世話をしていたというチンピラの茂田。サトシ(佐登志)は暗号のような詩を遺していた。
    彼らの友情が裏切られずに守られていたことにロマンを感じた。還暦近い彼らが取り戻せない人生を嘆くのではなく、すべてを背負って未来に目を向けていくラストに励まされる。
    セイさんというキャラクターをより書き込んでもらいたかった。河辺が信頼していたセイは最後までカッコイイ男であって欲しかったなぁ。

  • 圧倒的な絶望の暗闇の中で、自分を後ろから照らすのは過去の自分。
    そしてその光はあの日つながれた友からの思い。友の思いは歌になり今の自分を照らしてくれる。
    「おれたちの歌をうたえ」という叫びが暗闇で光となる。

    どこで間違えたのか。何を間違えたのか。誰が悪いのか。そして繰り返される「なぜ」。
    いくつもの問いを、変えることのできない道を、悔いながら、恨みながら、それでも生きる。
    幼い正義では、見えなかった真実。友に隠し、自分に嘘をつき、それでも守りたかったもの、信じたかったもの。

    40年という月日。栄光の五人組という勲章は、光だったのか、闇の始まりだったのか。
    友が遺した暗号。そこに込められた本当の意味に胸が締め付けられる。

    私にはあるだろうか。瀕死の状態になってまでもたどり着き、明らかにしたいと思う友との謎が。
    見えないように、気づかないように隠したまま生きていくんじゃないか。忘れてしまえば楽に生きていける。
    そんな自分を嗤うのは、やはり過去の自分。

    読みながら自分の指先の温度が上がるのを感じた。
    生きたい。今の自分を照らす過去の自分を確かめながら、生きていきたい。生きていけるのか。
    いや、生きるのだ。どこまでも生きろ!とアドレナリンが叫ぶ。

  • 瀧井朝世が読む『おれたちの歌をうたえ』40年前の事件の真相 | 本がすき。 - 本がすき。
    https://honsuki.jp/review/44659.html

    作家・呉勝浩が語る、コロナ禍で“理不尽への抵抗”を描いた意味 「悲劇に抵抗し、未来へと繋げていく」|Real Sound|リアルサウンド ブック
    https://realsound.jp/book/2021/02/post-701816.html

    『おれたちの歌をうたえ』呉勝浩 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913278

  • 過去の過ちや順風満帆ではないむしろ自分の描いた理想とは違う現実を生きて、未来の展望も絶望的で…それでも全て引っくるめて自分なりに清算して打ち出した答えに着地する姿に感動しました。

    ページ数の多い小説ですが、没入感があり、すらすらと読んでしまいました。

    呉勝浩の作品を読破してみたいです♪
    「爆弾」読みたいな〜♪

  • 私にも小中学生時代をとにかく一緒に過ごし続けた仲間達がいました。

    高校位からなぜか疎遠になり、たまに会うと『どのバンドの歌が良い』とか『どのブランドの服が良い』とか、まるで外国人と会話をしているような気分になりました。

    この作品の主人公も、仲良しで濃密な思い出を作った友人達がショッキングな変貌を遂げている事に、傷ついたり、奮い立ったりします。

    かつての仲間達に裏切られたり、かと思えば本当は変わっていなかったり。

    エンディングがスッキリしていないとの評価もありますが、私にとっては共感できる部分が多く、ダーティーで救いの少ないお話でしたがそれなりに面白い作品でした。

  • いや〜〜読み応えひゃくてん!
    栄光の5人組が別々で生きていても、変わらずそれぞれがそうであってくれて本当に良かった...とホッとしたしラストの再会に救われた気がする。「おれたちの歌をうたえ」、読後に思う、タイトルいいね

  • 長編だったけど本編と関係の薄い装飾が多かった印象。事件と謎解き部分に特化して半分のボリュームだったらもっと集中して読めたかも。疲れて肝心の暗号謎解きに参加できなかった。

  • なんだか盛りだくさんすぎて自分にはあんまりだった。

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著者プロフィール

1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。現在、大阪府大阪市在住。2015年、『道徳の時間』で、第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。18年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞受賞、同年『ライオン・ブルー』で第31回山本周五郎賞候補、19年『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』で第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、20年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞受賞、同作は第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)も受賞し、第162回直木賞候補ともなった。21年『おれたちの歌をうたえ』で第165回直木賞候補。他に『ロスト』『蜃気楼の犬』『マトリョーシカ・ブラッド』などがある。

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