星落ちて、なお

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913650

作品紹介・あらすじ

鬼才・河鍋暁斎を父に持った娘・暁翠の数奇な人生とは――。
父の影に翻弄され、激動の時代を生き抜いた女絵師の一代記。

不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。
暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄はもとより、弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかり頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。
河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっっているのだった――。

感想・レビュー・書評

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  • 「自分はただ、腹立たしいほどの高みにいるあの星を、今もぽっかりと仰ぎ続けている」
    偉大な絵師である父と、その父の筆を引き継ぐ異母兄。
    河鍋暁翠こと”とよ”の前に立ちはだかる二つの星はあまりにも眩しすぎる。
    絵師としての才に恵まれた二人に追いつこうとするも遠く及ばず、とよは己の画力に嘆いてばかり。

    けれど嘆いてばかりもいられない。
    時代とともに周囲から求められる画風も移ろい、時代遅れと見下される父と異母兄の絵を守るため一人奮闘する。
    偉大な星の眩しさを知る者としての務めを果たせるのは、己しかいないのだから。

    明治から大正を生きた女絵師の半生を描いた物語。
    朝井まかてさんの『眩』とつい比較してしまう。
    奔放な絵師を父に持ち、幼い頃から絵筆を持たされた女絵師。目の上のタンコブ的父の影響力は、生前はもちろん死してからも変わらずに娘の行く手を阻むもの。
    肩の上に勝手に置かれた重石を取り除くことができず苦しみながらも、絵筆という特殊な武器を持った女たちは、やはりさっぱりとしてカッコいい。

  • いつもでしたら、文庫化を待って購入するのですが、今回は単行本で早く読んでよかったと心底思っています。

    元々、絵師が題材の時代小説は大好きです。河鍋暁斎は好きな絵師でもあります。

    その娘の生涯は苦しく、足掻いても、どんなに求めても、父どころか兄にも届かない。

    しかも時代は江戸から明治・大正と変わる中で己の絵と河鍋暁斎・画鬼の血を引くものとしての矜持が身を引き裂くような辛さが文面から感じられます。

    こうした人生を送ることは、私のような平凡な人間からみるとある意味では幸せなのかもしれませんが、巻き込まれた己も家族も辛いのも理解できる。

    それでもその人生は落ち行く星が最後まで輝くように今の私たちのもとで輝くのではないかと思うのです。

    直木賞をとった取らないではなくても、この作品は胸を打ちますし、これからも何度も読み返すのだと思います。

    怒涛の一気読みでした。読む手が止まりませんでした。

  • Ground Y 2020 Spring/Summer Collection "画⻤"と呼ばれた幕末明治の絵師「河鍋暁斎-かわなべ きょうさい-」との世界初のコラボレーションを発表neol.jp | neol.jp
    https://www.neol.jp/fashion/91937/

    『星落ちて、なお』澤田瞳子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913650

  • 『スモールワールズ』に続いて、直木賞候補二冊目読了。
    どちらもとても良かったので、両方に受賞してほしいなあ。

    明治大正と、激動の時代を生きた画家河鍋暁翠と
    その周囲の人たちを描いたもの。

    それぞれの感情がすごく上手に表現されていて、
    とても面白かった。
    しかし暁翠(とよ)の娘よしの気持ちが謎のまま終わってしまった気がします。

    〈風かと疑うほど微かな音が、とよの耳を叩いた。
    え、ととよが問い返す暇もあればこそ、
    よしがぐるりと寝返りを打つ。〉

    〈しかしあの夜以来、よしは陽気な普段に似合わず考え込む顔をする折が増えており、(中略)
    あの夜、よしは何を呟いたのだろう。
    改めて尋ねようにも、家族よりも間借り人の方が多い毎日では、娘と二人きりになることすら難しい〉

    結局私にはわからないまま終わってしまったのです。
    ただ、振り返るとその前に
    〈「松司兄ちゃんの」
    いつも明るい娘にしては珍しく、よしの声音には怯えが混じっている。あの激震の直後だけに、それをさして不審にも感じず、とよは脱いだばかりの下駄を再度突っかけた〉
    とあるのが思わせぶりで、ひっかかっていた私。

    よしは松司のことが好きなのではないか、と周りが思っていたのは確かです。
    このあたり読み解いた読者はいるでしょうか。
    直木賞受賞となれば、文壇の皆さんの解説があるかもしれない。

    余談ですが、先日読んだDaiGoさんの『超決断力』によると
    〈文学作品を読む機会が多い人は、客観的に見て本人にとってより良い決断を下せる可能性が高くなる…という研究データがあります〉

    ウェストミンスター大学の研究チームによる結論
    〈上質なフィクションを読むことで、効果的な意思決定が可能になる〉

    簡単には結論が出ず、問題を二分しない作品を推奨していて、日本で言えば、大きく分けて芥川賞にノミネートされているタイプの作品が当てはまるのではないか、とDaiGoさんは言いますが、直木賞候補でもあり得るのではないでしょうか。

    もやもやしますが、自分のためと思って、受け入れます。

  • 天才絵師・河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)(1831~1889)の娘・とよは、5歳の時に父に絵の手ほどきを受け、のちに暁翠(きょうすい)の名をもらって絵師となった。

    暁斎の死没から始まる物語。

    河鍋家は、画鬼の家だった。
    画才ありとして、暁斎の手元に残された、周三郎(暁雲)ととよは、
    偉大なる父に囚われ、しかし決して越えられず、檻の中でもがくだけ。
    同じくびきにつながれた周三郎ととよは、激しく反発しあいながらも、お互いを認めざるを得ない。
    父・暁斎と、周三郎、自分は、家族という「血」の繋がりではなく、絵を描く「墨」で繋がっていたのではないか、ととよは思う。

    父を失い、兄を失い、最後のバトンはとよに回って来た。
    自分は、黒い墨ではなく赤い血で家族と繋がりたい、バトンを捨てるのも勇気である。

    とよの周りの人々、芸術の道を挟んで対峙する、夫婦のありようもいく通りも描かれる。

    世の中には二種類の人間がいる。
    芸術をするものとしない者。
    後者からは、世間を外れて生きる前者を理解できないことが多い。

    ・とよと、芸術に無関心の夫

    ・とよの弟弟子・真野八十五郎と、絵を激しく憎む妻・おこう

    ・とよの兄、父・暁斎の画法を頑固に守り続ける周三郎を、洋食屋で働きながら最後まで支えた、お絹

    ・鹿島清兵衛と、元人気芸妓のぽん太は独特の世界を作っている。
    清兵衛は、河鍋のパトロンとも言えるお大尽だったが、放蕩が過ぎて大店の婿養子の座を追われる。
    落籍されて妻になったぽん太は、贅沢が忘れられずにすぐに別れて他の男のところへ行くだろうと誰もが思った。
    しかし、どんなに落魄しようと、笛で身を立てるようになった清兵衛に最後までよりそう。
    いつまでも人々の口の端に名前が上る有名人の二人ゆえ、世間への意地があったのか。
    それとも、登場する中で唯一の、芸の道を知った者同士の夫婦だったからか。
    『本当に苦しいだけの絵の道だったか?その中によろこびはなかったか』と、とよに問うてくれたのも清兵衛であった。

  • 『若冲』で奇想の絵師・伊藤若冲の生涯を鮮やかに描き出した澤田さん。本作では幕末から明治期に活躍した画家・河鍋暁斎……ではなく、その娘であり弟子でもあるとよ(河鍋暁翠)を主人公として、親子の絆や芸術家としての生き方などに苦悩する姿を描く。若冲とは違いこの親子(次男の暁雲も含め)は知らなかったのでより興味深く読んだ。流行遅れになり忘れられていく悲哀は西洋美術だけではなかった。

  • “画鬼”とも称された稀代の絵師、河鍋暁斎の娘・とよ(暁翠)の半生を描いた作品です。

    父・暁斎の死後、“河鍋を引き継ぐ者”としての悩みや、偏屈な兄と確執はあるものの、彼の才能は認めざるを得ない心情など、葛藤しながらも力強く生きるとよの姿が端正な文体で綴られています。
    印象的だったのは、大富豪の婿として河鍋家の支援者でしたが、その後没落した鹿島清兵衛と、彼の愛人から後妻になった元人気芸妓・ぽん太(鹿嶋 ゑつ)夫妻です。
    とよに対して異常にあたりがキツイぽん太のキャラは正直苦手なんですけど(同じような理由で、おこうもちょっと苦手)、没落しても二人で寄り添いながら、そしてその姿すら見せつけるように生きていく様はある意味凄みを感じましたし、御大尽から没落して、能の笛方になった清兵衛が言った「・・この世を喜ぶ術をたった一つでも知っていれば、どんな苦しみも哀しみも帳消しにできる。生きるってのはきっと、そんなものなんじゃないでしょうか」との台詞は、胸に染みてくるものがあります。
    時代は明治から大正にかけてが舞台。まさに西洋文化が怒涛のように日本に入ってきた時期ですね。芸術の価値観が変化していく様子や、関東大震災の描写も興味深く読みました。

  • 2021/7/25 読了

  • 思えばもう4年前。
    『火定』で初めて澤田さんの作品を読み、数年後のコロナ禍を予期していたかのような天然痘パンデミックを迫力のある描写で現代に蘇らせた力量に感動し、この回の直木賞は決まりだと思いました。
    しかしよく分からない理由で落選し、その2年後。
    『落花』で再び澤田さんの作品を読み、相変わらずの古代に対する造詣の深さと確かな筆致に安心感を覚え、この回はレベルが高くてちょっと厳しいかもと思いつつ、リベンジを期待しました。
    しかしリベンジは果たせず、さらに半年後。
    『稚児桜』で能をモチーフにした様々な物語を現代の読者に分かりやすく提示し、短編の面白さを再認識させてくれたサービス精神に好感を持ち、当時星5つをつけさせていただきました。
    しかしなぜか酷評の嵐で、またしても箸にも棒にもかからずという・・・。

    いい加減獲らせてあげてくださいよ。

    そして今回。
    天才絵師であった父親が亡くなり、残された娘が時代の流れに翻弄されながら絵師として明治・大正を駆け抜けるという女一代記の作品です。
    悩み苦しみながらも前に進んでいこうとする主人公の女性の造詣が素晴らしいです。
    抜群の安定感。
    自身の過去作や他の候補作と比べてこれが優れてるとか劣っているとか、そんなことどうでもいいじゃないですか。
    相対評価じゃなくて絶対評価で見て欲しい。

    大事なのでもう一回書きます。
    いい加減獲らせてあげてくださいよ。

  • 西洋絵画の影響で日本画の評価基準が移ろうなか、父・河鍋暁斎から学んだ自分の絵画を貫いた娘・とよの半世を描く物語。
    とよを取り巻く人々の栄枯盛衰を含め、膨大な資料に基づき書かれていると思われる力作。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院文学研究科博士課程前期修了。時代小説のアンソロジー編纂などを行い、2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。2012年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞受賞。2015年『若冲』で第153回直木賞候補。2016年同作で第9回親鸞賞受賞。2019年『落花』(中央公論新社)で第32回山本周五郎賞候補および第161回直木賞候補に。2021年『星落ちて、なお』で第165回直木賞受賞。

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