本心

  • 文藝春秋 (2021年5月26日発売)
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  • 本 ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913735

作品紹介・あらすじ

『マチネの終わりに』『ある男』と、ヒットを連発する平野啓一郎の最新作。
 舞台は、「自由死」が合法化された近未来の日本。最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子は、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。
 母の友人だった女性、かつて交際関係にあった老作家…。それらの人たちから語られる、まったく知らなかった母のもう一つの顔。
 さらには、母が自分に隠していた衝撃の事実を知る――。
 ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。
 読書の醍醐味を味わわせてくれる本格派小説です。

感想・レビュー・書評

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  • 平野啓一郎さん著「本心」
    ちょうど一週間前に映画も公開されている作品、「マチネの終わりに」がとても良かったので本作品も読んでみる事に。

    物語の舞台は近未来の2040年の設定。
    今よりもだいぶバーチャルリアリティが進歩している世界が描かれている。そしてその頃の日本では格差社会が加速しており、その断層が際立って描かれていた。

    読んでいる最中はこの作品のテーマである「本心」、死が自由に選択できる世界観、バーチャルリアリティが進行した世界だからこそ、より自分という自己アイデンティティーとその「本心」というテーマが冴えている様に感じられていた。

    同じ境遇や立場や状況にあっても自分の心情と相手や他者の心情が決して同じではない、正に千者万別。その捉え方や噛み砕き方もまた然り。本作品では幾つもそういった相違点が状況状況で描かれていた。
    そして読後いろいろと考えていて相対的に「自己」=「本心」だとは考えにくくなった。
    人間にとって「本心」とはきっと凄く虚ろな物なのだろう。時に「言葉」や「表情」で実直な本心な場合もあるだろうが、自分自身を厳しく律しないと本心が不安定になる。時と状況と精神状態で虚ろうものだろうと考える。その揺れている状態も含めてその時の本心なはずだ。
    自分自身でさえそうなのだから、相手の本心なんてもっと複雑さが伴い難解極まりない。
    結局のところ「本心」とは「幾多の感情」なのだろうと思えてくる。

    本作品を最終的に読み終えてハッピーエンド的な終わり方で幕を閉じている。未来に向けて前向きになっている様に読み取れたのだが、それがこの「本心」というテーマの作者なりの論決なのだろうか?
    過去は過去として未来は未来として自分と他者の存在の肯定という事なのだろうか?
    自分には深くは読み取れなかったし、物足りなさがだいぶ残ってしまった。
    死とは?格差とは?自由とは?というサブテーマに沿ってその自分と他者との本心の探りあいがずっと描かれている作品だったのだから、もう少ししっかりと捉えられればもっと良かった。特にその経緯や形や枠や成り立ちがはっきりと描かれているだけに特にそう思う。
    この結末ではその都度対面した出来事に擦り合わせる様に「本心」という言葉を用いていただけではないか?と錯覚するようにも感じる。
    普通の日常で感じる事をただ小難しく疑問視して、多様な心模様を客観的に炙り出しただけに感じてしまった。

    テーマがテーマだけに自分には中途半端感がだいぶ強く残った。
    自己啓発的な面が強く印象に残るテーマと作風であるが為、読者が自分で自分と他者の「本心とは?」という問いに触れるきっかけ本の様に最終的に感じてしまった。

  • 「分人」という概念を語る平野啓一郎が、「本心」をどのように描くのか。しかも、死者や他者から仮託されたアバターという「分身」や「化身」をテーマにした物語とあれば、それだけでも好奇心を擽られる。期待通り、あらゆるシーンでこのテーマについて考えさせられ、示唆に富む内容だった。

    しかし、構成されるストーリーも、登場人物の内省的世界も、そこに用いられる言葉も、極めて繊細で緻密である。それこそが平野啓一郎の才能であり、彼にしか描けない表現だと改めて思う。

    最近、新聞記者と会話する機会があり、何気なくAIの影響について聞いてみた。AIが作文するなら、文筆業はどうなるのかと。いやいや、作文方法なんて若手が学んで直ぐ身につくもので元来大した事ではない。記者の真髄は情報元との関係性や、物事を見抜く感性、構成力にあり、それは人間関係において成立するのだと。自らの稚拙さに汗顔しつつ、小説も同様だろうかと感じた。

    高い感受性で多面的、重層的に複雑な物事をインプットし、構成し直し、表現する。そこに作家の個性や能力の差が生じるのだろう。その領域に触れられる作品だった。

  • ズシッときた。自分で死に時を選ぶ自由死という概念について、もう十分生きたから、という理由を、いつか自分も自分の人生に付けてしまいそうな気がする。でもだからといって、実際に死ぬかと言われれば、それは怖いが。

    人を好きになるということ、親になるということ、生きていくということ、格差社会、親子の関係、AIのこと、難解な文章もあったが、自分の頭でもう一度考えたい。

  • 自由死が合法化された近未来、自由死を希望しながらも事故で亡くなった母の“本心“を知りたくて、母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)を作った主人公の朔也。
    孤独だった朔也。自由死を望む母に同意してあげられなかった。自分を置いて、どうして死を選ぼうとしたのか?母の“本心“が知りたい。でも、誰もが自分自身の“本心“さえも掴むのは難しいのではないかと思います。ましてや、他人の“本心“なんて‥‥。
    母の死後、心を通わすことのできる人に出会えた朔也。また一人になることになったとしてもそれは“独り“ではない。
    朔也の孤独を救ったのがVFではなくて良かった。

    約450ページの作品、分厚く重い。そして、重厚感のある文章、テーマ。ずっしりと心に響く一冊でした。

  • 自由死を望んでいた母親が、交通事故で亡くなってしまう。
    朔也とたった1人の家族だった。
    朔也は喪失感から、母親のバーチャルフィギュア(VF)の作成を依頼する。
    母親はなぜ自由死を望んでいたのか?母親の本心が知りたかった。
    母親の本心を知るために、母親が昔懇意にしていた友人と会う。

    流石の平野先生。
    平野先生の文章の中では、かなり易しい方であることは間違いないが、思考回路が複雑でとても深い。

    人間って少なからず朔也のように、頭の中は目まぐるしくグルグルと色々な思い、想像を描いているのだろうなぁ。。。
    そういう所では共感するところも多かった。

    単に母親の本心を探るだけの本ではもちろんなく、日頃から政治経済に関心が深い平野先生なので、貧困問題、多様性、様々な問題が浮き彫りにされる。

    間違いなく私はあっち側の人ではなく、こっち側の人だなぁと(笑)

    いやしかし、日本語って本当に凄い。こんな言葉もあったのか!?という単語。
    この本だけでいくつあったんだろ。

    沢山本を読んでる方だと思っていたが、まだまだ知らない言葉がたくさんある。

    平野先生の本を読んだ後は、ほんの少しだけ賢くなれたような錯覚をする(笑)それがまた平野先生の魅力でもある。

  • 2040年、貧富の差が大きく、「自由死」が認められる世の中。「十分生きたから」と自由死を望んでいた母が事故死で亡くなった。朔也はAI/VR技術で<母>を生成し、その<母>の精度を上げるために母の同僚・三好に会う…。

    図書館で借りた本。右側のページの紙の底辺が全体的に柔らかくなっていました。過去に借りた人たちが次のページをめくる準備をしつつ、じーっと考えながら読んだのでしょうね。私もその一人です。
    意味のわからない漢字が時々出てきたので、調べながら8時間で読了したけれど、もっとゆっくり時間をかけて読む本かな、と思います。

    母親の過去とか、母親の思いとか、子としては聞きたいことと聞きたくないことがあって、母子関係って近い距離なのに案外知ってはいけないことがあるんだな、と気付かされました。
    私なら<母>を作らないし、子供にも私を作ってもらいたくない。
    <母>が同じ話を2回繰り返すシーン(最初の違和感)では、母が亡くなっており、死んだ母そのもののバーチャルの姿であっても、やはり母でないんだな、と読んでいて寂しさを感じました。
    暗く静かに話が進みます。母の死を取り上げながらも、生きていく力強さを感じる作品でした。私がもし朔也の母親なら、それでいいんだよ、と言ってあげたいです。

  • 亡き母親をバーチャルフィギュアで作るという世界観が気になって読んだ結果、タイトル通り「本心」について考えさせられました。個人的には、母の死後、主人公と同居する事になる三好という女性の「本心」が行間から少し垣間見えるところが良かったです。

  • 平野啓一郎本一年半ぶり。

    時代設定は2040年頃。
    テクノロジーは今の調子のまま進んでいて、貧富の格差も順調に(?)拡大し、世界における日本の相対的地位の沈没も進んだ世の中。非生産層としての高齢者や医療サービス受領者に対する社会の視線が厳しくなった感じは、今の風潮から予想できる姿とぴたりと重なって憂鬱な気分になる。
    そうした社会では、自分の意思で死ぬ日とその時そばにいて欲しいひとをコントロール出来る「自由死」が認められている。妙にリアリティを感じる。

    主人公の職業は、「リアルアバター」。依頼主に代わって、ゴーグルを付けて動き回り、依頼主はそれを体験する。需要ありそうだし、実際、2040年にはそういう職業は普通にありそうな気がして来た。

    主人公がルームメイトの三好さんに決して好意を告げない、という設定は、「マチネの終わりに」を読んだ時と同様に、とてもイライラするが、それが彼の人間としての「成熟」なのか、月並みながら「傷付くのが怖い」のか、よく分からない。

    売れっ子アバターデザイナーのイフィー(もし、あのとき跳べたなら、if I …)と三好さんのその後、が気になる。うまくいくのだろうか。。

    終盤に登場する、「最愛の人の他者性」という言葉がこの本のテーマかな。

  • 2021年初版。近未来の日本が舞台。「安楽死」ではなくて、「自由死」と言う選択肢が生まれています。そんな時代、あり得るように思います。私自身、現在65歳。もう十分だなあと思ったりします。しかし、大事な人が、それを求めた時に認めることができるのかなあと思います。そこは主人公と同じかなあ。それから、この作品にはタイトルにある本心ってなんだろうかと考えます。著者の作品は、読後にいろんなことを考えます。

  • 久しぶりに平野文学に触れた。
    独特な文体は綺麗で美しいけれど、執拗な拘りで読むスピードが何度も鈍らされた。
    時々引き返さないと取り残される。
    私の読解力の問題もあるかと思うが、本作については好き嫌いが分かれそうだ。

    近未来の日本を舞台として、
    亡くなった母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)を最新技術で三百万もかけて製作してもらう男の物語。

    結局、人工知能で作り上げ、自ら学習までさせて生前の母に近づけた〈母〉に何を求めていたんだろう・・・
    生活を圧迫してまで架空の母を再生することに、どれだけの意味があったんだろう・・・

    母親の死を受け入れたくないが故の未熟さが事ある毎に露呈していて、殆ど感情移入出来なかった。
    自分のことしか見えていない息子に憤りも感じた。

    技術革新が進んでも、人間の生死や心の有り様にまでデジタルに侵食されることは無いと思う。
    そして、そうはならない未来だと願いたい。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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