琥珀の夏

著者 :
  • 文藝春秋
4.24
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本棚登録 : 1520
レビュー : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913803

作品紹介・あらすじ

大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。

かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。

圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月の新たなる代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 以下、ややネタバレあり、注意。



    一気に読みました。

    ストーリーラインが、めちゃくちゃ上手いです。

    読みながら、一番先に〈ミライの学校〉という団体の、どういう面を描くかで、読者の見方がある意味、決まってしまうよなぁと思っていた。
    そこで、ミカという女の子が、チトセという女の子と出会い、彼女を通して両親と離れて過ごさないといけないことへの寂しさ、切なさを描いたことが、最後までずっと残ってくることが良かった。

    〈ミライの学校〉への感じ方は揺れていく。

    子供達だけで主体的な生活を営み、何か困ったことが起きれば「問答」を交わして解決する。
    自然の中で、そうした先鋭的な教育をおこなう素晴らしい場所としての〈ミライの学校〉。

    一方、泉と呼ばれる、神聖な場所から汲んだ水によって事件が起き、施設の跡地からは白骨化した少女の遺体が出てきた、カルト集団しての〈ミライの学校〉。

    この団体が世間的にどう見られていくのかという社会的な動きを踏まえつつ、でもその揺れに動かなかったのが、最初に出会ったミカへの共感だった。
    あくまで中心は、ミカが感じた幼き日の思いであり、〈ミライの学校〉で過ごした子供たちの心なのだということ。

    このことに、ああ、辻村深月さんが書いたんだな、という感じがした。

    子供の頃に経験した、いろんな人と出来事。
    随分と時間が経った今も忘れずにいるのは、きっとその時の鮮烈な感覚が、大人の自分が感じるそれよりも強烈だからなんだろう。

    そうした感覚は、やがて慣れになって、感動を覚えなくなってしまうと聞いたことがある。

    良いことをした感覚と、悪いことをした感覚だけが出来事よりも濃く残っていることもある。
    今なら、そんな自分に離れた場所からかける言葉もあるだろう。でも、きっと自分を作ってきたのは、そうした感覚でもあるんだろう。

    すごい作品と思う。

  • カルトと呼ばれた〈ミライの学校〉跡地から白骨死体が発見される。幼い頃にそこの合宿に参加していた弁護士の法子。被害者は誰?
    偏った教育の気持ち悪さ、親子のあり方、子どもの純粋さと危うさを感じた。
    あなたは悪くない、と繰り返す大人が怖かった。

  • つけっぱなしにしていたテレビから、あるニュースがとびこんできた。「団体施設跡地で女児の白骨遺体」。見たことのある場所や名前に戸惑う弁護士・法子。かつて、そこは夏休みの一週間だけ、3年間行ったことのある場所だった。もしかして、その遺体って私の知っている人?かつての記憶が、段々と蘇ってくる。


    約550ページという結構なボリュームでしたが、過去の記憶をたどりながら、現在とどう絡み合っていくのか、色んな驚きがあって、楽しめました。

    前半は、団体施設「ミライの学校」で共に過ごした子供時代が書かれています。小学生の視点なのですが、心理描写が丁寧でリアル感がありました。文章が子供っぽさのある表現を使っているので、普通の文章とは違い、「あっ、子供の目線だな」と感じさせてくれます。

    他にも、大人の視点、大人の中にいる(精神的な)子供の視点といった異なる視点によって、言葉の表現を使い分けているように感じました。

    子供時代のシーンですが、意外と長い分、ちょっと退屈した印象がありました。しかし、丁寧に書かれている分、その後の現在パートに活かされているので、スルーしない方がいいかと思います。

    というのも、現在パートでは、過去のパートに登場した人が大人あるいは年老いた姿で登場します。
    「過去のあの人が、現代ではこの人なんだ」という驚きが多数ありました。まるで、久しぶりに同級生を目撃したかのような感覚がありました。

    発見された白骨遺体の身元ですが、中盤あたりで判明します。後半以降は、その人はいかにして、亡くなったのかが焦点になります。

    殺されたのか?事故なのか?様々な証言から、真相が見えていきます。

    本作品は、「記憶」がテーマとして紹介されていますが、個人的には、「教育」かなと思いました。
    理想的な教育って何だろうと考えさせられました。

    子供のためにと思って、あらゆることを子供に教えますが、それが結果的に良いことなのか、わかりません。自分が正しいと思っていても、それは側から見たら、自分勝手なのかもしれません。そういった出口の見えない状況下で、子供に教えることのありがたみを噛み締めないといけないなと思いました。

    子供にも色んなタイプの人がいます。同一のことを教えても、子供は十人十色の解釈をします。
    何が正解なのか、

    他にも、子育ての苦悩が多く描かれています。子供から見た大人、大人から見た子供、それぞれが体験する大変さが、女性にとっては共感するところが多くあるのではと思いました。
    異性としては、なかなか体験したことがないので、共感しにくい部分はありましたが、大変なんだなと身につまされました。

    白骨遺体発見をきっかけに始まった事件の真相は、悲劇的なもので、その心理描写がまぁ辛い部分もあって、胸が痛かったです。「大人」と「子供」の心を上手く使って、文章で表現されているので、グッとその世界観に引き込まれました。

    悲しい部分が続いた分、最後は救いのある結末にじんわりと温かくさせてくれました。ボリュームある量や救いのある結末など色んな要素も相まって、読み終わった瞬間、思わず「ハー」と全身にあった全て空気を吐き出したかのような感覚で、良い意味でどっと疲れました。

  • 新興宗教のように思われている団体を、
    内側からみたときの嫌悪と陶酔。
    人は自分の育った環境を、それがどんなものであっても子供にはその世界しかないから拒絶しきれなくて、一方で、自分には知り得ない他人の環境に憧れたりする。
    とても説得力のある、よく書き込まれた作品でした。

  • 子供の心理描写と信仰団体の危うさを上手く書き表された本でさすが辻村深月さんの作品だった。

  • 子供頃の環境での親との距離ってすごく大事なのかなって感じた...

    教育について何が1番正しいのか考え深い内容だった…

  • 面白かった。
    ミステリー的な要素はもちろん、自分が小学生だった頃の女の子特有の人間関係を思い出しました。

    子供にとって、良い教育とは何だろうか。
    ミライの学校の理念は確かに素晴らしいかもしれないが、そこは社会から閉ざされた場所であることには変わりなくて、外の社会にも適応しなくてはいけない。

    そこには純粋なものだけじゃなくて、汚いものも醜いものもたくさんある。だけどその中で私たちは生きていくしかない。その現実を子どもにどのように受け止めさせていくのか、難しいけれど私たち大人がちゃんと向き合って考えなければいけないことだと思う。理想を語って子どもたちから隠すのではなく。

  • さすが、辻村作品。
    子供の視点、大人になってからの視点、中にいた者の視点、外から短期滞在する者の視点、一度は心酔してから脱退した者の視点…

    色々な視点からの独白で、ミライの学校がどんな場所だったか、何が起きたかが明らかになっていく。
    飽きることなく一気に読んでしまった。

    映画 星の子を見た時も思ったけど、
    外からは閉塞的な団体に見えても、中にいる子供たちは普通の感覚で普通を生きているんだろうなぁと感じた。

    非日常で過ごす1週間の、夜の心細さとか残り時間の長さとか、リアル。誰と寝よう?って心配とか。

    大人になったユイちゃんの切実さが印象的。

    けん先生、水野先生、子供視点から見たら絶対的存在だった彼らのあやうさ。

    ミカ、幸せになってほしい。

  • 本筋の面白さはもとより、小学生の人間関係がとにかくリアル。地味でパッとせず、皆より下にいる気がいつもしている子供だった私は、こういう気持ちを抱いたことがあったなぁと終始胸が痛くなった。
    勉強はできるけど、ダサくて、どうしてもクラスの可愛い子たちの仲間に入れない。そんなノリコの姿に共感してしまう人は多いと思う。合宿の夜、誰の隣で寝るかを一日中気にしていた頃。仲良くしても、忘れてしまう友情。そんな感覚が鮮やかに蘇って、大人になっても新鮮に傷つく。

    他にも人間同士の、世間のスッキリいかない所が物語の中でボロボロ出てくる。信じていた大人はそんなに良い人でもなかったし、淡い憧れは誰かに笑われる。

    だからこそ、ノリコとミカが抱きあい、真実が明らかになったラストに救われた。

  • 読み終えました。途中ちょっとだれてしまった(私が)。辻村さんの作品は名前を書き留めて読むようにしてます。

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著者プロフィール

辻村深月(つじむら みづき)
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、2017年『かがみの孤城』で「ダ・ヴィンチ ブックオブザイヤー」1位、王様のブランチBOOK大賞、啓文堂書店文芸書大賞などをそれぞれ受賞。本屋大賞ノミネート作も数多く、2018年に『かがみの孤城』で第6回ブクログ大賞、第15回本屋大賞などを受賞し、2019年6月からコミック化される。他の代表作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。2020年、河瀬直美監督により『朝が来る』が映画化される。

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