ばにらさま

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914268

作品紹介・あらすじ

冴えない僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい

日常の風景が一転! 思わず二度読み!
痛くて、切なくて、引きずり込まれる……。
6つの物語が照らしだす光と闇

島清恋愛文学賞、本屋大賞ノミネート『自転しながら公転する』の山本文緒最新作! 
伝説の直木賞受賞さく『プラナリア』に匹敵るす吸引力! これぞ短編の醍醐味!


ばにらさま  僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい……。

わたしは大丈夫 夫と娘とともに爪に火をともすような倹約生活を送る私。

菓子苑 舞子は、浮き沈みの激しい胡桃に翻弄されるも、彼女を放って置けない。

バヨリン心中 余命短い祖母が語る、ヴァイオリンとポーランド人の青年をめぐる若き日の恋。

20×20  主婦から作家となった私。仕事場のマンションの隣人たちとの日々。

子供おばさん 中学の同級生の葬儀に出席した夕子。遺族から形見として託されたのは。

感想・レビュー・書評

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  • “あなたが好きな作家さんだったよね、山本文緒さん。亡くなったらしいよ”

    2021年10月13日の夜に妻が私に語った一言の衝撃は未だ忘れられません。毎日およそ3,300名もの人がこの国のどこかでお亡くなりになられているという厚生労働省の統計値が示す通り、人が人である限り死は逃れることのできないものです。とは言えそんな統計値を見ていてもどこか他人事のようにも感じられます。しかし、身近で知る人の訃報に接すると死は一気に身近なものとなります。

    2019年の暮れから読書&レビューの日々をスタートした私は今までに50名を超える作家さんの小説に接してきました。読書というものはその過程で自身の感情が大きく揺れ動くものだと思います。よく考えるとこれは凄いことです。ある作家さんが文字として記した文章をたまたま手にした一人の人間を楽しませたり、怒らせたり、そして切なくさせたりと、直接接してもいない人と人がそんな風に感情をコントロールすることができるというのは魔法と言っても良いくらいに凄いことだと思います。

    そんな魔法を私に見せてくださった作家さんのお一人、それが山本文緒さんでした。『人はふたつの人生を生きることはできない』という当たり前の現実に『ドッペルゲンガー』というまさかの存在を登場させる「ブルーもしくはブルー」、『あなたはあなたの仕事が好きですか』という問いかけの先に”仕事をする”ということの意味を読者に問いかける「絶対泣かない」、そして私たちが毎日を生きるということを、それぞれの生活を送るのにプラスして社会の中で何らかの役割を果たしているという現実を惑星の自転と公転に比喩する「自転しながら公転する」など私の心に今も強く残る作品の数々がそこには思い浮かびます。

    そんな山本さんが亡くなられたという事実は、もうあの作品世界に連れて行ってもらえないのか、という落胆を強く感じる瞬間でもありました。しかし一方で、山本さんが遺してくださった作品群が一緒に消滅することはありません。手元にあるそんな作品を開けばいつでもそこに山本さんの魔法を感じることができるのです。

    さて、そんな山本文緒さんが最後に刊行された作品がここにあります。「ばにらさま」という不思議なデフォルメがなされた女性が佇む様が表紙に描かれたこの作品。読者を楽しませることを十分に考えられた緻密な構成に魅せられるこの作品。そしてそれは、山本文緒さんが『闇と光が反転する快感を味わって下さい!』とプレゼントしてくださった魔法に、読者が囚われることになる物語です。

    『突然生活が白くなった』と、『白いワイシャツを着て白いオフィスで日々働』く『ホワイトカラーになった』主人公の中嶋広志は『しかも白い恋人までいる』という今の自身のことを考えます。そんな広志は『僕の白い恋人は、比喩ではなく本当に白い』、『うなじから二の腕の内側までバニラアイスクリームのように白い』と彼女である竹山瑞希のことを思います。『食事代は僕が出しお茶代は彼女が出す』という分担が定着した二人のデート。そんな二人の今日のデート先は『週末でもないのに店は混んでいた』という広志が『ネットで見つけてきたタイ料理屋』でした。そんなデートの中で『二十四日はなにか予定あるの?』『ちゃんこ鍋屋ですごいおいしいとこ知ってるんだ』と誘う広志に『嬉しい。ありがとう』とお礼を言う瑞希。『美人で髪がきれいで手足が細くて』という『女の子と自分がつきあっているなんて未だに実感がわかない』と思う広志は一方で『いったい瑞希は僕みたいな男のどこが気に入ったのだろう』とも思います。そして、『そろそろ帰りましょうか。明日も仕事だしね』という瑞希の一言で店を後にした二人。
    (字体がゴシック体に切り替わる)
    『十一月二十六日 友達とタイ料理を食べてきました… 酔っぱらって騒いでる人がいっぱいでうるさかった… でもステキな彼氏と一緒ならわたしも少しは酔っぱらってもいいかな…』
    (字体が元に戻る)
    『巨大金属グループが出資している冶金研究機関』で『対外的なアレンジ』を担当する広志は昼休みに『仕事はあまり教えてくれないし、妙に気疲れする』女性上司の誘いを上手く振り切り部屋を出ました。そんな時、『これからお昼?』と瑞希が『ランチバッグを手に提げて』声をかけてきました。『どこに食べに行くの?』と訊かれ『コンビニだよ。毎日コンビニ弁当』と答える広志に『中嶋君のも作ってあげようか』と言う瑞希に『とんでもない』と返す広志。そんな広志は『明日の土曜日、ごめんね』と謝ると『お母様の誕生日なんでしょ。親孝行してきて』と返す瑞希。『社会人になってはじめての母の誕生日なので何か喜んでもらえることがしたかった』という広志は彼女と分かれてコンビニへと向かいました。
    (字体がゴシック体に切り替わる)
    『十一月二十九日 久しぶりに部屋を片づけた。お休みの日はだいたい遊びに出ちゃうからね… 男の人ってだいたいみんなマザコンだよね』
    『僕の白い恋人は、比喩ではなく本当に白い』という広志視点の物語に、日記調の文章が七回にわたって挿入されていくその先に、まさかの結末を見る表題作でもある短編〈ばにらさま〉。なんとも切ない後味が尾を引く好編でした。

    2021年10月13日に58歳でお亡くなりになられた山本文緒さん。そんな山本さんが最後に刊行されたのがこの作品、「ばにらさま」という短編集です。2008年に「別冊文藝春秋」で発表された表題作の〈ばにらさま〉から、2015年に「小説トリッパー」で発表された〈20 × 20〉まで、七年の間に同じように発表されてきた六つの短編から構成されています。そんな短編間には一切の関連性はありませんが、それぞれの短編の構成に一捻りが入っているのが特徴です。では、それぞれの短編をそんな特徴とともに見てみたいと思います。

    ・〈ばにらさま〉: 『僕の白い恋人は、比喩ではなく本当に白い』という彼女・瑞希と付き合う広志。そんな広志は『僕みたいな男のどこが気に入ったのだろう』と幸せを感じていましたが、『偶然彼女の日記を見つけてしまった』ことから物語は大きく動き出します。
    → 特徴: 日記調の文体が差し込まれます。

    ・〈わたしは大丈夫〉: 『余計なお金を使わない』と倹約する主人公の秋穂は、家に帰ると娘の夏帆と『公園へ行ってきます』という義母のメモに気づきます。『残業なのでお袋よろしく』と夫からのメールも受けた秋穂。そんな物語に『私の恋人は妻のことを…』という文章が続きます。
    → 特徴: 二軸の物語が展開します。

    ・〈菓子苑〉: 『舞子はネイル行かないの?』、『行ったことない』と会話する胡桃と舞子。『明日早番だし』と帰る支度をする胡桃は『舞子さあ』と切り出し『また一緒に住まない?』『お金も折半にするし、迷惑かけないから』と語りますが舞子は『返事に窮』します。
    → 特徴: まさかの二人の関係に驚愕します。

    ・〈バヨリン心中〉: 『ここに入院してもう一年』という祖母を見舞った主人公の『私』に、祖母は、『ぼくはアダム』というポーランドの音楽大学から『音楽のワークショップ』のために来日した男性と知り合った時のこと、実に『五十六年も前の話』を始めました。
    → 特徴: まさかの未来世界が舞台になります。

    ・〈20 × 20〉: 『私は主婦であるがものを書く仕事をしていた』という主人公の『私』は、『リゾートマンションに籠城』して原稿を書く日々を送ります。そんな中、マンションに定住しているゲランという『六十代中頃』の女性に自身が作家であることを知られます。
    → 特徴: 主人公 = 山本文緒さん?

    ・〈子供おばさん〉: 『四十七歳で突然死んだ』中学時代の友人・美和の葬式から帰宅した主人公の『私』。そんな『私』に美和の兄から『妹があなたに託したいものがあることがわかりまして』と電話がかかってきます。『エンディングノート』に記されていたまさかの『負担付遺贈』。
    → 特徴: 『負担付遺贈』という民法1002条の内容に驚愕します。

    六つの短編は上記した通りそれぞれ”特徴”を持っていて、この短編にはどんな”仕掛け”が待っているのか、という感じで読んでいて期待感をとても感じさせてくれます。特に〈わたしは大丈夫〉、〈菓子苑〉の二編は読み始めて一体これはどんな物語なのだろうかと、ポカン?とする展開の先にまさかの全体像が浮かび上がるという絶妙な作りがなされています。これから読まれる方はその驚きの瞬間を是非楽しみにしていただければと思います。また、上記でも触れましたが〈バヨリン心中〉の世界観もとても興味深いものがあります。それは、『もう祖母の時代とは何もかも違うと思いたいのに、誰かとつがいになって実子を生むことだけは二〇六五年の今でも変わらず求められる』というまさかの未来世界が実にさりげなく描かれていることです。未来世界、つまりSFが展開するこの作品。山本文緒さんの小説にSF?というと、違和感を感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は山本さんは他の作品でも似たような試みをされています。それは、1999年に発表された「落下流水」という作品において『その町と都心を結ぶリニアモーターカーの路線が建設中』というまさかの2027年という30年後の未来を描かれています。そして、この作品で描かれる2065年という未来世界の描写もとても大胆です。『世界的なパンデミックのあと、経済はなかなか持ち直さなかった。少子化は益々進み、自衛隊が組織を維持できなくなり、外国から傭兵を募ったことが治安悪化のきっかけだった』というまさかの2065年の日本を描写したこの表現。自衛隊が外国から傭兵を雇う!という大胆な予想の先にある未来世界の描写。いかにもSFな表現ではなく、現在の日常の延長にある未来世界をさりげなく描写する山本さんの描くSF!にも是非ご期待ください。

    さて、それぞれの短編にさまざまな試みがなされていて読者を決して飽きさせないこの短編集ですが、全編とも隠された女性の内面を鋭く描写していく様が実に山本さんらしい作品に仕上がっていると思います。例えば、表題作でもある〈ばにらさま〉は広志という男性主人公の視点で展開する物語です。タイトルにもイメージされる『白』、それは『僕の白い恋人は、比喩ではなく本当に白い』、『うなじから二の腕の内側までバニラアイスクリームのように白い』という彼女の外観イメージから広志が抱くものです。そんな『白い恋人』ができたことにすっかり舞い上がってしまっている主人公は『こんなあか抜けている女の子と自分がつきあっているなんて未だに実感がわかない』と感じてもいます。この短編では視点は広志に固定、瑞希に移動することはありません。それを上記の”特徴”にも書いた通り、まさかの日記調の文章の差し込みによって瑞希という女性の内面を描き出していきます。『ステレオタイプと呼ばれる女の子達にも、内面にはその人しか持つことのない叫びや希望があるはず』と語る山本文緒さん。そんな山本さんは『そんなことをテーマにこの小説集を作りました』とこの短編集のテーマを語られます。そう、この作品は表向きには見えない女性の内面世界をさまざまな手法を駆使して物語の中に浮かび上がらせていくという共通点を持っています。それによってそれぞれの登場人物が、どのように感じ、どのように行動に移していくのか、それは決して大胆果敢なものというわけではありません。あくまで、日常の中にちょっとした変化を生んでいく、それだけのこととも言えます。しかし、この些細な変化、些細な前進という人の心の機微を感じさせる物語、それこそが山本さんの描く物語の一番の魅力であり、この短編集では六つのステージでそんな物語を楽しませていただきました。

    『どの作品にも「え?!」と驚いて頂けるような仕掛けを用意しましたので、きっと楽しんで頂けると自負しております』とおっしゃる山本文緒さん。結果的に山本さんの最後の作品となってしまったこの短編集ですが、そこには山本さんに読者が期待する喜びが、驚きが、そして切なさの全てが詰め込まれていました。

    『闇と光が反転する快感を味わって下さい! 山本文緒』

    そんな写真付きのメッセージを残してくださった山本文緒さん。こんな素晴らしい作品世界にもっともっと浸りたかった、人の心の機微を描く作品世界にどっぷりと浸りたかった、そして山本さんの描く人間という生き物の強さと弱さをもっともっと見てみたかった。

    読者のことを思い、読者に寄り添った素晴らしい作品を遺してくださった山本文緒さん。あなたの遺してくださった作品の数々はこれからも私の心を揺さぶり続けてくれると思います。そして、そんな物語に浸れることをいつまでも楽しみにさせていただきます。

    山本文緒さん、どうか安らかにお眠りください。心よりご冥福をお祈りいたします。

    素晴らしい作品の数々、どうもありがとうございました!

    • hiromida2さん
      さてさてさん、お久しぶりです。
      まさに、レビューで仰っておられた通り…
      私も山本文緒さんの訃報を聞いた時は、
      もうびっくりしました!
      まさか...
      さてさてさん、お久しぶりです。
      まさに、レビューで仰っておられた通り…
      私も山本文緒さんの訃報を聞いた時は、
      もうびっくりしました!
      まさか、まさかでしょ!とショックが大きかったです_| ̄|○
      「プラナリア」から
      変わらず、バリバリの素晴らしい小説家で
      私も大好きな作家さんだったのに( ; ; )
      強く心に残る数々の作品。
      でも、きっと小説…本という作品の中で
      ずっとずっと、私たちの心の中に生き続けて
      くれると思います。
      2022/06/09
    • さてさてさん
      hiromida2さん、こんにちは!
      はい、山本文緒さんの訃報、本当に驚きました。私は読書歴が浅いこともあって「自転しながら公転する」で山...
      hiromida2さん、こんにちは!
      はい、山本文緒さんの訃報、本当に驚きました。私は読書歴が浅いこともあって「自転しながら公転する」で山本さんのことを知り、ようやく12作品を読み終えました。個人的に一番好きなのが「ブルーもしくはブルー」なのですが、一方で「絶対泣かない」やこの作品など短編が上手い!という印象もあります。順調に読み進めたいですが、読み終えてしまう淋しさもあります。
      本当に残念に思います。
      「ばにらさま」、しみじみと、味のある作品だったなと思います。
      2022/06/09
  • 『自転しながら公転する』のインパクトが凄かったのを覚えている。今回の「ばにらさま」は読んでいて、ん?つまらないぞ!と思いきや、最後で「えっ!」とやられる読書だった。短編で出てくる登場人物にはそれぞれ、暗い影があり、痛みをもっている。この痛みこそが生きている証なのかも。女性の嫌な部分が顕著に現れ、繊細な心の揺れ動きがリアリティ感を増強したんだろう。まだ2冊しか読んでいないけど、読むたびに山本文緒さんが描く作品を読んでみたくなる。痛みながら生き続けていく人生を、登場人物を通して後押ししてくれているのかもね。⑤

  • 印象を言えば、思いがけない仕掛けだった。
    え、と頭の中が一転させられた。前を確認したくなった。いちばん感じたのは、「私は大丈夫」。
    まさに、心に潜む闇と光が丁寧に描かれていた。

    自分の明るい未来を掴みたい。
    そう必死にもがくあまり、人には見せたくない、自分のみっともなさや弱い部分と向き合うことにもなる。
    相手の心の内面がわからずうまく嚙み合わなかったり。
    相手の言動で日常が一変してしまったり。
    切なくヒリヒリ、心が痛いが引き込まれてしまう。
    登場人物の不器用さに共感したり、自分を重ね合わせるところがあったりで、読み込んでしまいました。

    旧友の人生に思いを馳せながら、主人公の中年女性の暮らしの現実、思いの丈が伝わった「子供おばさん」、とてもよかったです。
    人と関わるのも案外しんどいこともあり、ひとりはむなしいけれど、ひとりの時間こそたいせつにしようと…
    もう前に執筆されたものとのこと、この章を最後にもってこられた意図にやるせなさと、強い意思を感じ取ることができました。最後の数行は山本文緒さんのメッセージと受け止めることもでき、じんわりそして、そういう生き方、と気持ちが少し楽になりました。

    遺作となってしまい、悲しく残念です。
    心よりご冥福をお祈りいたします。

  • どの作品もすごく現実味があり、登場人物が生身の人に感じられるのに、1作1作仕掛けが施されている。こういうのが読みたかったんだよ!と思った短編集。
    特に好きだったのは『わたしは大丈夫』。まんまと騙された。
    『ばにらさま』も、しっかり読み応えを感じる仕掛けがあって、切なく少しあたたかい余韻がよかった。

  • 著者・山本文緒氏が逝去される1ヵ月前に刊行された、六つの短編を収めた作品集。中でも『バヨリン心中』は、切ない感じがして一番良かった。『20×20』と『子供おばさん』は、著者の身辺を彷彿させる内容で、フィクションではあるが「こんな生活をしていたのかなぁ…」と思った。

  • 「ばにらさま」や「わたしは大丈夫」「菓子苑」「バヨリン心中」は、あっと驚く展開。そちらですかという立場の人物の心の動きを描いていて、興味深く読んだ。
    20×20 子供おばさんは、著者のお話か、エッセイ感覚。お葬式のことについてユーモラスに希望を吐露されていたが今読むと、こみあげてくるものが…
    山本文緒さんの書かれる文章の素晴らしさがわかり、「もっとよみたい」と思った時に山本さんは、もういらっしゃらないのは、残念だ

  • 山本文緒先生の遺作。
    心よりご冥福をお祈りいたします。

    6名のタイプの異なる女性の物語。
    恋愛って、結婚って、ほんと面倒なもの。
    長く生きれば生きるほど厄介になってくる。
    男に頼らなくたって一人でやっていけるはずなのに、何故なんだろう。どこで間違えたんだろう。
    彼女たちの不器用な生き方に切なくなった。

    ざわざわする話が続く中で最後の『子供おばさん』が一番印象に残った。
    私も同級生の葬儀に参列したことがあるけれど、あれは本当に辛い。
    葬儀の後、共に参列した同級生たちとお茶しながらしみじみ語り合ったことを思い出した。
    最後に同級生から託されたもの。それは形あるモノだけでなく晩年の生き方。
    私もこんな風に穏やかな晩年をおくりたい。

  • どれも日常のなかでありそうな作品。
    バニラのような甘さのなかに潜む毒。
    誰もパーフェクトじゃない。楽な人生なんてない。だけど誰かのそんな人生を本を通して覗いてみることは、なんて面白いんだろう。


    表題作の「ばにらさま」は、ばにらさまのその後がとても気になった。
    きっと1人で、どこか冷めた様子で、淡々と生きていくのだろうけれど、それを観察していたかった。

    「わたしは大丈夫」「菓子苑」「バヨリン心中」「20×20」は、その仕組みに気づいたときに「おおっ」となった。
    2度読みとは、そういうことか。

    最後の「子供おばさん」は、なんだか停滞したまま何もなし得てないいまの私と重なって、5つの中で一番共感した。
    あと、葬儀や死、エンディングノートについて書いていて、山本文緒さんが亡くなられたいま、山本さんも生前こんなことを考えていたのだろうか…と思いをめぐらせた。


    山本さんの訃報、本当にびっくりで、残念でした。心よりお悔やみ申し上げます。
    最後の本となってしまった「ばにらさま」は訃報を知った翌日に、上司が貸してくれました。

    もっといろいろな作品を、これからも書いていただきたかったです。安らかに。

  • 「自転しながら公転する」を読了したのも、山本文緒先生が昨年永眠されたことを知ったのも最近のことでした。 「自転しながら公転する」が印象に残ったせいか、遺作の本作も近いうちに読みたいと思っていました。
    本作には6編の短編が収録されており、どれも、えっ?そうなるの??とラストに意表を突かれるものばかり…山本文緒先生ってすごい!そう心から思いました。私はこの「ばにらさま」の装丁も、一度見たら忘れられない、作中の「ばにらさま」がそのままここにいるみたいで好きです!
    もっと山本文緒先生の作品を読んでみよう…そう心に決めました(でも読みたい作品ばかり増えて…困っちゃいます(汗))。

  • 山本文緒さんの、悲しいかな最後の作品。
    大きな盛り上がりがある訳ではないけれど、心の機微の描写、パンチ力が半端ない。「子供おばさん」が1番好みでした。ただ、装丁が圧倒的に好みじゃないのが残念すぎます!
    もっともっと作品を読みたかったな。

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著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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