心はどこへ消えた?

著者 :
  • 文藝春秋
3.76
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本棚登録 : 2004
感想 : 137
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914305

作品紹介・あらすじ

この20年、心は消滅の危機にさらされている。物が豊かな時代は終わり、リスクだけが豊かな時代がやってきたからだ。人々は目の前のことでせいいっぱい。心はすぐにかき消されてしまう。社会にも、身近な人間関係にも、そして自分自身の中にさえも、心というプライベートで、ミクロなものを置いておく余裕がない。それでも心は見つけ出されなければならない。自分を大切にするために、そして、大切な誰かを本当の意味で大切にするために。ならば、心はどこにあるのか? その答えを求めて、臨床心理士は人々の語りに耳を傾けた――。現れたのは、命がけの社交、過酷な働き方、綺麗すぎる部屋、自撮り写真、段ボール国家、巧妙な仮病など、カラフルな小さい物語たちだった。

『居るのはつらいよ』で第19回大佛次郎論壇賞受賞、紀伊国屋じんぶん大賞をW受賞した気鋭の著者が「心とは何か」という直球の問いに迫る、渾身のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  •  東畑開人さんの作品、初読みです。この作品は、東畑さん自身の経験と実際のカウンセリングの実例を交えながら、“心”をテーマに綴ったエッセイです。

     ひとつひとつのエピソードに、共感しまた納得もできました。自身を含めた人の数だけ小さな物語があり、それは大きな物語、社会情勢などに隠れてしまいがちだけれど、小さな物語に目を向けることが“心”にも近づく結果になりえるという解釈ができました。

     ただ、私が読んでいて興味を惹かれたのは、東畑開人自身さんの魅力かな…。読んでいて親近感をめっちゃ感じる人で、文体もわかりやすいし、大学で教鞭をとっている偉い人って感じじゃ全くないんですよね!だからかな…読んでいて、何事にもそんなにかまえなくていいんだって…肩の力が抜けるというのか、“ほわっ”とできた、作品でした。

    • ひろさん
      かなさん、こんばんは♪
      興味を惹かれたのは東畑開人さん自身の魅力ってところにとっても共感しました(*^^*)すごい人なのにすごいと感じさせな...
      かなさん、こんばんは♪
      興味を惹かれたのは東畑開人さん自身の魅力ってところにとっても共感しました(*^^*)すごい人なのにすごいと感じさせないところがまたすごいと言いますか。
      かなさんのレビューに"ほわっ"としました~!!
      2024/03/10
    • かなさん
      ひろさん、こんにちは!
      東畑開人さんって
      こっちが、もっと偉そうにしてもいいのにって思っちゃうくらい
      飾り気のない、ステキな人なんです...
      ひろさん、こんにちは!
      東畑開人さんって
      こっちが、もっと偉そうにしてもいいのにって思っちゃうくらい
      飾り気のない、ステキな人なんですよね(*'▽')
      カウンセリングを受けてみたいとも感じてしまいました…。
      2024/03/11
  • 「ここには心が二つある。私の心と読者であるあなたの心だ。心が一つ存在するために、心が必ず二ついる。」p242

    ヒットした学術書『居るのはつらいよ』の著者、東畑開人さんが、自らを「バジー東畑」と称し、自身のカウンセリングにきたクライエントの様々な症例を元にして、心が見えにくくなった時代を考察する。
    ちなみに「バジー東畑」の由来は「馬耳東風」から。

    面白かった。
    出てくるクライエントさん、皆どこか私に似ている部分があって、自分と少し重ね合わせながら読んだ。
    こういう部分、自分にもある。ああいう言い方、私もするかもしれない。そんなことを思いながら彼ら彼女らと、東畑さんのカウンセリングの経過を読んでいたら、最後には心がフッと軽くなった。
    カウンセリングの最初の方と最後だけ疑似体験しているみたいだった。

    固いエッセイでは全然なく、読みやすさに驚いた。
    本編全体にちりばめられたユーモアにもページをめくる手をやめられない魅力がある。
    他の著書も読んでみたいと思った。

  • 私の心は消えたのではなく
    ひとつになったから消えたと感じただけ。
    きっといつかふたつになって動き始めるから
    安心して待っておこうと思う。
    未来は勝手にやってくるんだから。

  • 臨床心理士の著者による「こころ」を扱ったエッセイ。
    オーディブルだったのでラジオ感覚で聴いて楽しめた。
    実際にカウンセリングしたケースを取り上げながら、心とは何かという問いに迫っていく。
    語り口が軽快で、真剣な話なのに思わずクスッとしてしまうほど。飾らない人柄がとても素敵だった。
    心は「大きな物語」ではなく「小さな物語」のなかにあると著者は言う。「みんな」のなかではなく「わたし」のなかにあるということ。
    コロナウイルスという大きな物語に巻き込まれた私たちは、この困難に立ち向かう為に、みんなが同じ方向を向き足並みを揃える必要があった。
    …そうかぁ。だから個々の心が見えにくくなっちゃったんだ。腑に落ちた。こんな時代だからこそ、自分の心を大切にすることを意識しなきゃね。
    心は他者と触れあうことで生まれるもの。早く会いたい人に会える世の中になりますように。

  • 【メモ】
    ・2020年の私たちは大きすぎる物語に振り回されることになった。世界中が同じウィルスに襲われ、同じ不安におびえ、同じ脅威に立ち向かった。みんながみんな、同じ物語に取り巻かれた。数字が変化して、グラフの角度が変わるたびに、社会は一変し、みんなが同じ行動をとることになった。私たちは一斉に自粛して、一律にお金を配られた。そして、大挙してワクチンを打ちに押し寄せた。
    大きすぎる物語は、私たちを「みんな」へと束ね上げる。そのとき、個人は群れの一員として扱われ、心を一つにするよう求められる。社会を防衛するためにはしょうがなかった。生命を守るためには必要なことだった。それはわかる。大きすぎる物語には有無を言わせないだけの説得力がある。
    だけど、そのとき、小さな物語たちが吹き飛ばされてしまったのもまた事実だ。グラフに表れる数値を一つ一つ分解していくならば、そこには小さな物語たちがあって、それこそが私たちの人生の単位だったはずなのに。
    大きすぎる物語が、小さな物語をかき消してしまった。心は、大きすぎる物語に吹き飛ばされた。

    ・心は変化を好まない。だから、現実が変化してしまったとき、私たちは心を閉ざす。そのためにお決まりの方法に固執する。心は現実の急激な変化に耐えられないからだ。
    しかし、それは悪いことではない。吹雪のときには洞窟に避難した方がいい。生き延びるために現実に対して心を閉ざすことが必要なときもある。
    変化とは劇薬のようなものなのだ。一気飲みすると体を壊すけど、完全に拒絶しても体は悪くなる一方だ。だから、チビチビ舐めるのが良い。現実が変化するのは一瞬だけど、心の変化はゆっくり起こるのが自然だ。

    ・「見てくれている」。これが貴重なのだ。それは幼い頃には比較的簡単に手に入ったけど、大人になった今ではめったに手に入らないものだ。人を褒めるのが難しいのは、言葉のテクニックの問題ではなく、 「よく見る」のが難しいからだ。だから、もし、他者のいいところを偶然見かけてしまったら、率直に伝えると良い。それは幸福な瞬間なのだ。

    ・雑談とは三密の不透明なドサクサのなかで生まれ、育つものだ。そして、そういうものは今、監視され、管理され、清潔にされなくてはならない。感染予防とはすなわち雑談予防なのだ。だけど、本来大学とは雑談がはびこる不潔な空間であったではないか。
    大学に雑談が戻ってくる。どんなにガイドラインの目が厳しくても、人と人とが同じ空間にいれば、雑談は花を咲かせてしまう。ガイドラインの隙間に、雑談が生い茂る。それは多分、大学だけじゃない。人は人を怖がったり、嫌いになることもあるけれど、結局人を求めることをやめられない。生身の人間がそこにいる。それだけでわけもなく嬉しくなってしまうのが私たちだと思うのだ。

    ・心はどこにあるのか。脳にも、心臓にも心はない。顕微鏡を覗いても、X線を使っても、そこに心は映らない。心を見ることができるのは心だけだ。心はもう一つの心の中でのみ存在することができる。
    ふしぎなことを言っているように聞こえるかもしれない。だけど、思い出してほしい。私たちの心を最初に発見したのは、他者だったではないか。私たちが自分の心に気づく前に、周りの大人が「お腹減ったんだね」とか「気持ちいいのね」と気づいてくれた。
    私たちの心は誰かの心の中で発生する。そういう体験が積み重なって初めて、ようやく自分を振り返れるようになる。自分の心で自分の心の苦しみや喜びに気づけるようになる。
    だから、私の心に彼の心を置き、それから彼に戻す。すると、次は自分で自分の心を振り返れるようになるかもしれない。心に心を置いておけるようになるかもしれない。この繰り返しが対話の本質だと思う。

    ・様々な限界と折り合うために、古い願いを埋葬し、新しい希望に手を伸ばさざるをえなくなる。その結果、思いもかけない、いびつな生き方になるかもしれない。それでも、そこにその人のオリジナルな人生がある。長いカウンセリングの終わりに、心には深い創造性があることをいつも感じる。

  • 序文からしてうんうんうん、と思わず頷きながら読む。大きな物語に吹き飛ばされた、小さな小さな物語をまた見つけ直すために、ページをめくる。

    カウンセリングルームで日々クライアントとの対話を重ねている東畑さんが、自身が扱った1つ1つのケースを基に、近年消えてしまった心について、脱線しながらもさまざまな考察を巡らせる。
    東畑さんは、カウンセリングルームを訪れたクライアントが語った言葉たちを「小さな物語」と表記しており、それぞれは独立した、実に個人的な物語だ。
    この本に書かれている小さな物語を全て読み終えた時、わたしは何故だかセラピーを受けたような、心を優しく手当してもらえたような気持ちになった。

    東畑さんの文章は一貫して、心の可能性、ひいては人間の可能性を、どこまでも信じている様が伝わってくる。傷ついた本人すら見つけられずにいる心を丁寧に見つけ出し、そして人生をほんのちょっと変える手助けをする。

    さて、心はいったいどこに消えていたのか。ぜひ本を手に取り、結末を確かめて欲しい。

  • Audibleにて。

    臨床心理士の東畑さんの本。題名から何となく哲学的なお話かと思ってたけど、全然違っていて、くすっと笑えるところ満載の本だった。

    また、患者さんとのやり取りの様子も書かれていて、お母さんを亡くした男の子との遊びながら治していくプレイセラピーのお話は、泣きそうになった。

    仮病は気持ちの病だから、そういう人がいたら、エビデンスを求めるのではなく、そのお芝居にのってあげて仮治療をしてあげる。なるほどー。

    心の病は、手術してとかお薬ですぐ良くなるってものではないけれど、こういう専門家の方に話を聞いてもらったら楽になれるのかも知れない。

  • いい。
    1つ1つ、軽快に読み進めているのに、急にじーんとなったり。いろんな感情になる。

  • “ここには心が2つある。私の心と読者であるあなたの心だ。心がひとつ存在するために、心は必ず2ついる”

    臨床心理士・公認心理師の東畑開人さんの、週刊誌での連載をまとめた本。

    NHKラジオでは、ポップな語り口の講義で“ケア”や“セラピー“についてわかりやすく教えてくれた。

    “みんなの心をひとつにしようとするならば、一つ一つの心がかき消されてしまう”

    コロナ初期真っ只中の連載らしく、あの頃の空気を感じる。私たちは何と戦っていて、どこに向かってるのか、目の前の見通しがあるようで、無かった。その中で、心を見失ってしまいそうになる人の心のありかをそれとなく教えてくれる。

    心はレントゲンにも顕微鏡にも映らない。

    ひとりで自分の心と向き合おうにも、どこら辺にどうやってあるのかわからず、ただ、同じことをぐるぐると考えてるだけだったりする。

    心はふれあうことで、形が見えてくるものなのかもしれない。反応すること、好きや嫌いを感じることをたくさんすることで、徐々に自分の心の輪郭が掴めるのかもしれない。

    そんなことを、1年間のいろんなエピソードと共に考えさせてくれる。

    “心が頻繁にかき消される。それをもう一度見つけ出す。だがそれもつかの間再び心は失われる。それでも、何度も何度も心を再発見し続ける。そのために私たちは話し合いを続ける”

    心を見つけることは、なんて大変なことなんだろうか。それでも、私たちは話し合いを続け、また心を再発見するんだろうな。





  • 卓球、たばこ、オレンジの傘

    カウンセラーの著者のもとには、いろんな心をかかえた人たちが訪れる

    忙しくすごす日常で脳も身体もフル稼働していると、心はどこかに隠れてしまうけれど、大きな変化や小さな躓きで、その隠れた心が顔をみせる

    心の変化にはとても長い時間がかかるのだな、と本書で創作として現れる人たちのおはなしから感じつつ、心はふたつあってはじめてそこにあると気づけるのだという言葉に希望を感じる

    要約とか取説とか。そうした消化しやすい情報もだいじだけれど、ひとにまつわるお話はもっと長ったらしくて要領を得なくて掴み所もオチも本質もわかりにくくて仕方のないもの

    だからこそ人には人が必要だって思いつつ、この本をとじ、また東畑さんの本に手を伸ばします

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著者プロフィール

1983年東京生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)・臨床心理士。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。白金高輪カウンセリングルーム主宰。著書に『野の医者は笑う―心の治療とは何か?』(誠信書房)『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)『心はどこへ消えた?』(文藝春秋 2021)『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)など。『居るのはつらいよ』で第19回(2019年)大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020受賞。

「2022年 『聞く技術 聞いてもらう技術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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