播磨国妖綺譚

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914350

感想・レビュー・書評

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  • 薬草園に住む蘆屋道満の子孫の兄弟の法師陰陽師。兄は漢方薬学に詳しく、弟は怪異が目に見える。いろいろな怪異を二人は協力して解決していく。怪異自体はひどく恐ろしいものではなく、情も感じられるもの。優しい話かな。

  • 優しい陰陽師の世界の一冊。

    時は室町時代、舞台は播磨国。
    かの有名な蘆屋道満の血を遠く引く兄弟、律秀と呂秀。
    薬師と僧というそれぞれの得意分野を駆使して病と妖しに向き合う陰陽師ストーリー。

    これはどストライクで好きな世界。なんといっても読みやすく、スルスルと心に沁み込むのが良い。

    そしてその根底に静かに流れるのは優しさ。
    これがなんとも心地よく、じんわりと目と心に温かさが巡る感覚が最高だった。

    あきつ鬼の存在も魅力的。彼の胸の内に心を添わせる呂秀との関係がまたじんわり魅せてくれる。
    これは続編が読みたくなる。

  • 室町時代の播磨国。
    薬草園で働く律秀と呂秀は、蘆屋道満を父祖に持つ法師陰陽師の兄弟。
    兄の律秀は薬師としてこの地に暮らす人々の病を癒やし、さまざまな相談事に応じている。

    ある日、『吉凶を映す井戸』という奇妙な噂の出所を突き止めようとしていたところ、弟の呂秀は井戸の水面に己の顔ではなく、鬼の顔を見た。
    実は呂秀は幼い頃から物の怪を見、その声を聞く力を持っており、その力を見込んだ鬼が自らを式神として使わないかと語りかけてきたのだった。


    上田早夕里の描く陰陽師兄弟!
    表紙は、呂秀の式神となった「あきつ鬼」と兄弟を描いているが、語られる物語はのびやかな優しさにあふれていて、ホラー的なおどろおどろしさはない。
    蘆屋道満といえば安倍晴明の敵としてひどい悪者イメージがついてしまっているけれど、この作中では全く違う顔を見せている。
    陰陽師が登場するからといって、ホラーアクションスペクタクルではない。
    これはシリーズ化前提でしょう。楽しみ。

    上田早夕里さんは、もちろん重厚なSFや歴史ものも面白いが、こういう軽やかなものもいい。

    小野不由美さんの「営繕かるかや」シリーズが好きな方ならきっと楽しめるのでは。

  • オール讀物2019年2月号井戸と,一つ火、8月号二人静、2020年6月号都人、12月号白狗山彦、2021年2月号八島の亡霊、5月号光るもの、の6つの連作短編を2021年9月文藝春秋から刊行。室町時代、播磨国の蘆屋道満に連なる家系の律秀、呂秀兄弟の妖し話。鬼、怨霊、神、精霊の問題を兄弟の力で解決して行く。陰陽師ものとしては、優しい広がりのある世界観で新鮮さを感じる。兄弟と式神も魅力的で、登場する怨霊でさえも面白みがある。優しく厳しくもある楽しい世界が魅力的で続刊が気になります。

  • 初期のSFのイメージが強い作家さんだったので、こんな話も書くのかと新鮮だった。世間では大人気と思われる安倍晴明ではなく、敵役ポジションである蘆屋道満の血筋の兄弟を主役に据えた物語は全部で6話。内容は怪奇ものだというのに恐ろしくはなく、むしろ妙に穏やかで昔話風に感じるのは、鄙びた土地で生きる兄弟が醸し出すのどかな雰囲気ゆえか。生者だけでなく人ならざる者たちと向き合う彼らの姿勢が好ましく、ゆったりとした気持ちで読書時間を味わうことができた。

  • 【収録作品】 井戸と、一つ火/二人静/都人/白狗山彦/八島の亡霊/光るもの
     室町時代の播磨国。兄で薬師の律秀と弟で薬草園を管理する僧の呂秀は、蘆屋道満ゆかりの陰陽師でもあった。異形の者が見える呂秀と見えないが優秀な陰陽師の律秀は、協力して人々の病を治し、村で起こる怪異を解決していく。
     
     呂秀の式神ゲット(押し売り?)から始まる連作で、肩が凝らない読み物。式神絡みの因縁が詳しくは語られていないので、続編もある、かな。

  • 表紙の鬼に惹かれて。キャラで読ませようとする昔ばなしかな。期待より鬼が静かだったので続刊に期待、かなー。人間はいたってふつう。

    「八島の亡霊」を読み、いちどは平家物語を履修せねばと思った。

  • 舞台は室町時代。播磨国に暮らす律秀・呂秀の兄弟。庶民の病を診て、物の怪を退ける法師陰陽師の二人だが、実際に物の怪を見ることができるのは呂秀のみである。
    その呂秀の元に、かつて蘆屋道満に仕えたという式神が現れて…というのが物語の始まり。

    蘆屋道満に仕えていた式神を「あきつ鬼」と命じて、己の式神とした呂秀。二人の兄弟に、式神を加えた三人?で日常の怪異を解決してゆく物語なのかな、と思いきや。
    あきつ鬼あんまり活躍しない。
    押しかけ女房のような出会い方だったので、もっと人と物の怪の感覚・常識の違いですったもんだがあるのだろう、と思っていました。潮ととらのような。そこには拍子抜けしたのですが、あきつ鬼の妖の力に頼らず、己の持つ力で物事に立ち向かう兄弟二人の生き様は逞しく羨ましい。

    この先もシリーズを重ねてゆくであろう三人?の物語。有傅やかえでという、彼らを取り巻く人々との関係も気になるところです。特に有傅には可愛らしさを覚えます。
    あきつ鬼がなんのために、道満の死後も式神として存在し続けたのか、彼が式神という縛りから解放される時が来るのか。そこが一つの結末になるのでしょう。
    嘉吉の乱が、大きく絡んでくるような予想。


    「人は幼いなりにも、人の死を理解いたします。その機会を、大人が、ゆきすぎた配慮で歪めてはならぬと思うのです」
    第四話での呂秀の言葉。
    すごく大事なことだと思う。配慮をしないことで歪んでしまうことは多くあるだろうけども、だからといってあれもこれもとやりすぎると、違った歪みを生み出してしまうことになる。
    配慮する大人側が、真剣に向き合っていないからだと思う。子供だからといって、うやむやにごまかしたり、押さえつけるようなことをしてしまうからだ。
    「ゆきすぎた配慮」か。その時々で基準は変わるもので、線引きはとても難しい。だからこそ、真剣に向き合ってゆくべき。
    大人が向き合う努力をしないから子供にも向き合わせない、という空気感がある今はおかしな話ですよ。

    自分ができているとは言えないけど、向き合う努力はやめたくないものです。
    これは、死ぬまで続くことなんだろなぁ。

  • 厳しい自己反省を伴うモノを
    読んでいる時には閉口して
    何か ほっ とさせられるモノを
    同時進行で読みたくなる

    土地勘のある「播磨」
    興味の一つである「陰陽師」
    その二つが伴うだけでも
    楽しいのに
    それが小説となると
    おっ これは 見っけもの
    と 思わず手に取りました。

    全体に流れる
    穏やかな流れと
    主人公の法師陰陽師の兄弟の優しさと
    まぁ ゆったり まったり
    させてもらえました

    今回は
    六つの「お話」でありましたが
    きっと この続編
    いや そのうち 長編にも
    展開していきそうな気配

    楽しみ 楽しみ

  • 上田早夕里さんの、SFものや上海ものを逃さず読んできたので、これは!と思い手に取った。題名の記すとおり時代物、そして妖怪奇譚。推定の範囲内での内容だったけれどそれはそれで上田さんのいつものグイグイと読み込ませる技通り。
    妖怪モノとは言いつつもピュアで芯が通っていて、おどろおどろしさはない。表紙の鬼がインパクト大だけれど全体を通してシンとココロに染み入ってくる小説でした。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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