赫衣の闇

  • 文藝春秋 (2021年12月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784163914763

作品紹介・あらすじ

ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 物理波矢多(もとろいはやた)シリーズ第三作だが、時系列としては第一作「黒面の狐」と第二作「白魔の塔」の間の事件ということらしい。

    これまでの二作品の舞台は炭鉱と灯台という、いわば僻地だったのだが今回は東京の闇市。<宝生寺>という地区にある、通称『赤迷路』という飲食店街。
    そこには以前から『赫衣(あかごろも)』と呼ばれる不気味な赤い男が女性を追いかけるという噂があった。

    波矢多は大学の同期生・熊井新市(くまがいしんいち)からの依頼で、『赫衣』の謎を解き『赤迷路』の不吉な噂を一掃すべく『赤迷路』の世話役・私市(さきいち)吉之助が営む私市遊技場(パチンコ店)を訪れたのだが、謎の解明を始めた直後、その遊技場内で残酷な事件が起こる。

    今回は密室祭り。遊技場内で起きた殺人事件では室内の施錠に加え、建物の外では何人もの人々がいて衆人環視もあり、二重三重の密室状態になっていた。
    そして続く第二、第三の『赫衣』が女性を襲った事件(幸い軽いけがで済んだ)では、現場周辺の全ての路地には誰かがいて怪しい人物はいなかった。つまりこれも一種の密室状態。
    波矢多は期せずして『赫衣』事件だけでなく密室の謎も解くことになった。

    ということで密室好きの私としてはワクワクしてきたのだが、肝心の密室の謎については思っていたのとは違っていた。残念。
    しかしこの作品では密室トリックよりもなぜ妊婦が狙われたのか、ということだろうか。そして第一の殺人ではなぜここまで残酷なことをしたのか、その理由が肝だったのだろう。

    事件そのものやミステリー部分よりも、闇市の成り立ちや終戦直後の状況についての記述が興味深かった。
    闇市が駅周辺に多いのは単に交通利便性ということだと思っていたが、建物疎開が大いに関係していたのはなるほどと思った。

    そして今の時代では考えられないような人権無視が当たり前のようにあったことも改めて考えさせられる。
    差別や人権蹂躙という問題は、社会が平和で生活がおちついているから皆が考えられることであって、終戦直後のような皆が食べることに必死で自分が生きていくことが精いっぱいだった状況においては、そのようなことは二の次になってしまうのだと感じた。
    図らずも現在世界は大変なことになっている。こんな時だからこそ助け合い思い合うことが出来れば良いのだが。

    三津田さんファンとしては刀城言耶がチラッと登場してくれたのが嬉しい。『赫衣』という、まさに言耶好みの謎めいた噂なのだから彼が調べに来ない筈はない。
    この後、波矢多は『白魔の塔』事件の舞台へと向かう。

    ※シリーズ作品一覧
    ①「黒面の狐」
    ②「白魔の塔」
    ③ 本作
    (いずれもレビュー登録あり)

  • 物理波矢多シリーズ3。時系列的には、前作『百魔の塔』の前にあたる。
    終戦直後の闇市や戦災孤児・女性たちの生きざまが描かれている。ここだけでも十分読む価値があると思う。
    ミステリというよりは、戦後史を読んだ気分。

  • 時系列的には白魔の塔の前日譚にあたるのかな?
    犯人やトリックは予想したものでは全くなかった。
    そういうところよりも戦後すぐの日本の状況が事細かに描かれていてそちらの方が興味深かった。

  • 物理波矢多シリーズ第3弾。今回は戦後の闇市が舞台で、どちらかというとホラーよりミステリ寄りな話である。
    『黒面の狐』の事件後、物理波矢多は友人の依頼で闇市に出没する「赫衣」と呼ばれる怪人の正体を調べることに。しかしそこで凄惨な殺人事件に遭遇し‥
    闇市の歴史や当時の食糧事情、風俗などがよくわかって面白かったし、「赤迷路」と呼ばれる闇市の魅力や不気味さがよかった。密室や犯行後に消える犯人の謎は物理的にはそれほど驚くことはなかったが、この時代ならではの心情を思うと切ない。

  • 物理波矢多シリーズの3弾。旧友の新市の頼みから闇市に出る赫衣の謎を探る。
    戦後の混乱期の時代考証がすごいというか、ミステリというよりは時代小説のように感じた。殺人事件の謎も曖昧な感じだったので余計に。
    最後の方で出てくる青年とのからみ、次回作でもあるといいな。

  • 物理波矢多シリーズ。戦後の闇市の交渉や、進駐軍向け売春婦の時代考証はしっかりしており、序盤から読み応えあり。ストーリー、登場人物も面白く、密室で嬰児が取り出されて死亡する妊婦、迷宮の路地に消えていく怪人「赫衣」。読みだすと止まらない。
    ただし、密室モノの結末としては、残念と言わざるを得ない。ミステリとしても正直しんどい。ホワイダニット(動機)がこの小説の肝だと思うが、結構伏線が露骨で気づいてしまう。ホワイダニット以外は、ミステリとして語れる部分が少ない。では、ホラーとしてはどうかというと、今回コレもそこまでではなく、ゾワっとした怖さが足りない。
    面白いシリーズなのに残念。あと、最後に戦後には珍しいジーパンを履いた民俗学好きのアイツがチョロっとカメオで出てきます。

  • 読了、30点

    端的に述べれば、ミステリかホラーが読みたいのであって、当時の風俗や生活様式を読みたい訳ではない
    それがこの評価の要因

    本作は戦争直後闇市が興った場所(ただし事件当時は治安回復と統制によりその特色が薄れつつある)を舞台に話が進むので、
    ある程度説明にページが割かれるのは仕方ないと理屈では理解できる
    しかし冒頭50ページその説明が続き、続く100ページ近くは都市伝説のような怪談が続く
    この怪談、とにかく読書欲が削られていた自分には楽しめず。
    その後半分を越えたあたりで家屋を舞台にした密室事件、さらに立て続けに衆人環視の路地を舞台にした密室事件と続くが結末も最後まで読んだ甲斐があったとまで持ち直せず

    本筋やオチ、キャラクターはそのままでも話の構成や分量を少し変えるだけでもっと魅力的な作品になったのではと思わざるを得ませんでした。

  • 戦後の闇市で起こる怪事件に物理波矢多が挑むホラーミステリ。闇市の成立や食糧事情、習俗、風俗について読むだけでも面白い。人を惑わす『赤迷路』に現れる正体不明の怪人『赫衣』、魅力的な舞台と謎に引き込まれ一気読みで楽しめました。
    今回はこの舞台設定の魅力が肝で読ませますね。謎解きはややあっさりな印象です。ホラー面の考察や、土地が秘めた謎や因縁については、もっと深掘りしてくれたらなという思いもあります。舞台が魅力的なだけに、もっと読みたかった知りたかったという欲が出ますね。結局、赫衣とは、という。

    前二作に比べても陽というか、戦後の混沌とした状況で辛いこともありながらも生きる人々の活力のようなものを感じました。事件や真相は暗く悲惨ではありますが、闇市で生活する登場人物たちの姿は生き生きと描かれていて、足掻いている、前に向かっているという感覚がある。

    あの人との邂逅については、正直テンションあがりましたね。今後に繋がることを期待してしまいますね。赫衣のホラー面の謎には、あの人が挑戦してくれたりしないのかな。

  •  炭鉱夫から灯台守へ転身するその間、旧友に誘われ物理が訪れたのは赤迷路と呼ばれる闇市。戦後の復興の中で人々が飢えを凌ぐための手段として発達してきた裏マーケット、混沌としたその街で“赫衣”と呼ばれる怪人が人々を襲うのだという。細道で行われる一連の事件、犯人はいかにして衆人の目をかいくぐり逃げ果せたのか。

     物理波矢多シリーズの3作目。時系列は前作と前前作の間にあたる。今作は闇市という場を舞台に当時の商売とGHQと朝鮮人との微妙な関係に触れ殺人事件を描く。当時の価値観や世相をもっての動機、歴史ミステリとしてまた一段と味が出てきた。

  • このシリーズ、相変わらず戦後日本の時代考証には舌を巻くものがある。 それをホラーの中に取り込み興を削ぐ事なく伝える手腕には感服しきりで、
    寧ろ、それを訴える為の作品なのでは?と思うほど。

    総じて、『国』と言うものの身勝手さを痛感したし、それはどうも現代も変わっていないようだ。

    さて、
    本編の方は事件そのものは非常に凄惨なものの、
    オカルトやや弱めで、個人的には少し物足りなかった…けれど、主人公と『彼』が合間見えるというシリーズのファンであれば思わずほくそ笑むシチュエーションがあり、これはこれで楽しめる作品だった。

    しかし、この国に限らず世界中がカオスの只中にある現代、仮に有事が起きた時、作品の時代の人達の様に我々は激しく逞しく生きることが果たして出来るのだろうか?
    そう言ったことを問われているようにも感じた。

  • 引っ張ったわりには犯人は心身喪失状態で自殺したから真相は不明?動機は人種差別?とスッキリしない結末。
    次作は海が舞台ならタイトルには絶対青か蒼が入るね!間違いない!
    え、誰でもわかるって?

  • 面白かった。戦後の風俗が詳細に書かれていて、知識的にも興味深い本だった。赤迷宮の雑多でこの世とあの世の間のような神秘性があるのがワクワクした。

    今回はホラーとミステリーの割合がちょうど良くて私的にすごくよかった。三津田さんの本は結構ホラーと結構ミステリーのどちらかに寄ることが多いので、個人的に面白いかどうかはバランスによる。

    新市、アケヨ、伊崎巡査など。好みのなキャラクターが多かったな。こいつらがストーリーを明るくしてくれてる気がする。

    それにしても物理さんのお仕事シリーズ、とても好きです。

  • 物理波矢多シリーズ3作目。
    時系列でいうと1作目と3作目の間。
    ミステリーというより戦後の闇市を中心とした説明、描写が多く、ミステリー性、怪奇性とも今一つ。
    最後の推理もあっさり。
    最後に刀城言耶が出てきて赫衣の由来を示唆する場面もちょっと強引な感じ。
    次作に期待。

  • このシリーズは初でした。
    面白かった。

  • 物理波矢多シリーズ第三弾。時系列的には二作目の白の前の話。白がかなりホラー色が強かったのに比べると、一作目の黒に近いかな…。でも、最終的にはいつもの如くある程度の解決はつくけど、解決がつかないホラー的な部分もありって感じでした。時代背景のせいもあるのでしょうが、とりあえず全体的に薄暗い。あと、特筆すべきは違うシリーズのあの作家兼素人探偵がちらっと登場することですかね。

  • 物理波矢多シリーズの第三弾。ただ時系列的には黒面と白魔の間のお話。白魔の冒頭で東京の闇市でのお話が示唆されてましたねそういえば。
    面白かった・・んですが、相変わらず解答編が極端に短い。謎解きっぽいことをはじめた段階で、え?もう残りページほとんでないよ?と余計な心配。電子書籍だとこういう心配はなくなるんでしょうかね?で、駆け足で解答終わっちゃうので、なんというか、こう余韻みたいなものが・・・
    微妙に伏線めいたものが残ったようななんともいえない感じ。清一くんのなんとも思わせぶりなラストとか。今後のシリーズへの布石だったり・・・はしないか。
    そしてジーンズを履いた民俗学好きの青年まで登場しましたからね。なんかちょっと無理やりっぽかった気もしましたけど。

  • 「黒面の狐」「白魔の塔」の間になる物語。敗戦直後の闇市を舞台にしたミステリ。
    足を踏み入れた者が迷ってしまう「赤迷路」に出現する怪人「赫衣」。かつて起こったという米兵ジャックによる猟奇殺人。不穏な噂をなぞるかのように起こった凄惨な殺人と、その後も赤迷路の中を跳梁する怪人の影。この時代独特の重苦しさを背負っているせいもあって、実に陰鬱で禍々しい雰囲気がたっぷりです。このような時代があったのだということが、現代の人にはなかなか信じられないかもしれません。
    密室殺人の謎、路地で消えた怪人の謎等いろいろと謎解きのポイントはありそうに思えますが。しかし一番の謎は動機だったのか……これもまた、現代ではなかなか考えにくいことだけれど、当時でなら理解されるものだったのかもしれません。あまりにやりきれなくって、恐ろしくもありました。
    ああしかしそれにしても、赤迷路の中を迷ってしまうシーンの描写がやはり怖いったら。あの足音がね……イメージするだけで鳥肌ものです。

  • 時代背景とかの話はおもろい。
    ミステリ部分はいまいち

  • 敗戦直後の混乱期の日本社会の描写が興味深い。近年「戦争孤児」の方々の記憶が語られるようになり、NHKの“駅の子”や“戦後ゼロ年”“東京ブラックホール”等戦後史を扱った番組を通じて再度戦後史に関心をもっていたので興味深く楽しめた。
    終盤「ジーンズパンツが似合う青年」が....

  • ホラー色は薄め。だけど面白かった。こういう作風も新鮮で良い。

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著者プロフィール

三津田信三
奈良県出身。編集者をへて、二〇〇一年『ホラー作家の棲む家』でデビュー。ホラーとミステリを融合させた独特の作風で人気を得る。『水魑の如き沈むもの』で第十回本格ミステリ大賞を受賞。主な作品に『厭魅の如き憑くもの』にはじまる「刀城言耶」シリーズ、『十三の呪』にはじまる「死相学探偵」シリーズ、映画化された『のぞきめ』、戦後まもない北九州の炭鉱を舞台にした『黒面の狐』、これまでにない幽霊屋敷怪談を描く『どこの家にも怖いものはいる』『わざと忌み家を建てて棲む』がある。

「2023年 『そこに無い家に呼ばれる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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