信仰

  • 文藝春秋 (2022年6月8日発売)
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本 ・本 (160ページ) / ISBN・EAN: 9784163915500

作品紹介・あらすじ

世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ

「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」

好きな言葉は「原価いくら?」で、
現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。
同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女は――。

信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。

〈その他収録作〉

★生存
65歳の時点で生きている可能性を数値化した、
「生存率」が何よりも重要視されるようになった未来の日本。
生存率「C」の私は、とうとう「野人」になることを決めた。

★書かなかった小説
「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という友達の一言に後押しされて、クローンを4体買うことにした。
自分を夏子Aとし、クローンたちを夏子B、C、D、Eと呼ぶことにする。
そして5人の夏子たちの生活が始まった。

★最後の展覧会
とある概念を持つ星を探して、1億年近く旅を続けてきたK。
彼が最後に辿り着いた星に残っていたのは、1体のロボットだけだった。
Kはロボットと「テンランカイ」を開くことにする。

ほか全8篇。

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な世界観。
    思いつかない発想なのに、共感できる部分もある、不思議な感覚。

    「個性」とは、「大人たちにとって気持ちがいい、想像がつく範囲の、ちょうどいい、素敵な特徴」(p111より)
    たしかにね、想像以上の異物は個性にならずに排除されてしまう。
    村田さんのその視点から描かれる「多様性」の言葉も妙に納得。

    普通に生きているうちに、周りの価値観に左右された「普通」な価値観を自分も身につけてしまっているなって、思った。
    村田さん、気付かせてくれてありがとうございます。

  • この本は『信仰』と言うタイトルだったので、新興宗教を村田沙耶香さんがどういう風に描くのか非常に興味があり、買いました。

    村田沙耶香さんには以前柚月裕子さんのレビューなどにも書いた地域の小説の講座でお目にかかり講義を聴く機会があり(ちょうど芥川賞を受賞される直前です)その頃、以前の作品は予習としてほとんど全部、拝読し、面白く読みましたが、その後『地球星人』が全くわからなかったので、村田さんからは遠ざかっていました。

    『信仰』他、エッセイを含む七編が入っていますが、(160ページしかないので半日で全部読めます)ちょうど、拝読している時に、安部元首相の狙撃のニュースが入り、容態の安否が気になり、ずっとテレビのニュースをつけっぱなしにして聴きながら、ながら読みをしていたせいか、トコロンロン星のヒュポーポロヒュンである物体のことなどは、やっぱり全然頭に入ってきませんでした。
    ごめんなさい。


    安倍元首相の御快復を心よりお祈りしています。


    村田沙耶香さんの昔の作品は面白かったし、村田さんもとてもキュートな素敵な女性でした。

  • 短編がどれもぶっ飛んだ設定で、期待を裏切らない
    流石!発想がエグい

    読んだ人は「ロンババロンティック」調べますよね?

    オキニは「生存」
    生存率アドバイザー曰く、生存率を上げるのは学歴らしい。うーむ納得
    学歴競争に漏れた主人公の本編はホラー
    「ぽう!」

  • またまた想像もしていなかった世界の物語、すごいぞ村田沙耶香さん、そんな一冊ではないでしょうか。
    少なくても、私の固定観念は面白く吹き飛びました。

    7つの短編と8ページのエッセイ。
    表題作『信仰』は、自分の思う“正義感”と”信じるということ”の危なさにゾワゾワが止まらない。
    主人公の正義は「原価いくら?」常にこの指摘をしてあげることで大切な人たちを詐欺と思われるものから守ってあげたいだけなのに…
    読後、信じることも信じることが出来ないということも、どちらも気味悪く思えてしまう。
    いそうだな〜と目に浮かぶような登場人物たちのリアリティさが怖いのだ。

    『気持ちよさという罪』エッセイ
    著者は幼少期から自分を異物であると認識し、迫害さるぬよう周囲の人たちをトレースすることで平凡な自分を発信し続けたという。
    大人から求められた「個性」という言葉を嫌い、しかし大人になって現れた「多様性」という言葉に感じた心地よさを、のちに自身の罪とし本当の多様化について語っている。

    『生存』
    『土脉潤起』
    『彼らの惑星へ帰っていくこと』
    『カルチャーショック』
    『書かなかった小説』
    『最後の展覧会』
    未来のSFのようでもあり、異世界のようでもあるが、ただそれだけとは感じられないこの心地よい世界観の正体はなんなのだろうと考えてみたら、どんな登場人物にも体温を感じることかな、と思った。
    クローンもロボットも人間も野人も登場するが、どんな存在であっても重要な登場人物として扱われ、突拍子もない設定の世界がちゃんとそこに存在している。
    私には、儚く切ない世界に感じた。
    不思議すぎる世界にどっぷり感情移入し、ただただ歯がゆい読後感です。

  • 信じることについて
    考えたことはあるか?
    生きることについて、文化について、多様性について、自分じゃない自分について、未来について…。
    言い出したらきりがないだろう。
    それは別に考えなくてもいい。
    考えようとも、疑問に思わなくてもいい。
    ただ、これだけは自分に問いかけたことがあるはずだ。物語でもよく聞くセリフ。

    狂っているのは自分なのか、
    世界なのか。

    私はこの本を読んで
    その問の答えを見つけた。
    よくもまぁ、
    こんな話が思いつくよなと感心しながらも村田沙耶香の描く世界には現実味がある。



    彼女には
    「クレイジーさやか」
    と言うあだ名がある。でも、
    クレイジーなのは彼女だけか?
    「クレイジーさやか」と言い出したのは決して彼女ではない。
    私たちは彼女をクレイジーなキャラクターにすることで、
    自分は狂っていないと思いたかっただけなのではないだろうか。



    どこかで聞いたような話だった。

  • どこかしらから漏れ伝わってくる村田沙耶香さんという作家は気になる存在。
    ご本人も作品(小説)も知らないが、イメージは「クレージー沙耶香」。
    近づくのが怖いと言うか、できれば接触を避けた方がいいのではと考えてしまう。

    いきなり小説を読むと脳に破滅的なダメージを受けてしまう予感がしたので、まず「となりの脳世界」というエッセイを読んでみた。
    そのレビューで「真面目におかしなことを考えている」などと書いてしまったのだが、ご本人にとってはごく自然なことみたいだ。
    私が勝手に「おかしなこと」と決めつけているだけ。
    この「信仰」を読んでみて、自身の凝り固まった常識が一皮も二皮もむけた。

    柞刈湯葉さんの「まず牛を球とします。」でも発想の柔軟さと豊かさに刺激を受けたが、村田沙耶香さんはまさに異質。

    「何を問題視しているのか」を突き止めるように冷静に読めばいいかとも思ったが、そうでもなさそう。
    本人は何も問題視してなくて、単に思っていることを素直に書いているだけのような気がしてきた。

    今まで理解不能な「異常性」を感じるものは排除して生きてきたが、村田沙耶香さんの小説にはそんな異質な世界が描かれている。
    「個性」や「多様性」という表現で括れるものではないので、「クレージー」という特別枠を用意して許容することにしたんだね。

    私の脳みそがしなやかな状態の時に、また村田沙耶香さんを受け入れてみようと思う。

  • 幾つかの短編とエッセイで構成された作品。
    いつもながら不思議な世界、デストピアな世界を描いてますがタイトル作の信仰が一番良かったですかね。主人公が現実主義なのですがこの徹底ぶりキャラはさすがでした。

    エッセイは村田さんの幼少期のお話ですが、失礼ながらこの不思議ちゃん→クレージーさが今の作品を生んでいるいるのを実感できました。

  • 読了した後にポカンと穴が空いたような感覚で何もイメージすることが出来なかった。
    常識が強いパンチをもらってしまい脳震とう起こしてしまった。
    まずは1ラウンドの「信仰」
    信仰は望んでいる事がらを保証し、目に見えないものを確信させるものである。って暗唱した覚えあるんですけど聖書の何処の言葉かは忘れてしまいました。
    常に原価を考える主人公、満天の星を見ても夜空が蕁麻疹となったようにみえて気持ち悪いと感じる感性では洗脳されなさそう。
    それにしても同級生の斉川さんは教祖としての天賦の才凄すぎる。人を騙すよりもまず自分を騙して信じきることがポイントですね。きっと憑依体質。
    続く2ラウンド、3ラウンドでSFものの展開になり、程よく頭のネジが緩みかけてたのが、2、3本一気に外れてしまう感じになりました。
    医療が発達して寿命もお金で買える時代となり、65歳までの生存率を判定できるとか大きなお世話なサービス。
    価値基準がお金で縛られてるところがまだまだ罪深く感じられるのですが、エッセイも挟んで残酷な構造が具現化していく。
    「書かなかった小説」ってシーン205まであるけどフリーズドライのクローン4体買うなんてっw 。買すぎじゃない。しかも一気にお湯かけて狭い部屋で5人で生活するなんて密度高すぎてやりきれない。私なら1体使って、後の3体はスペアで取っておくけど。
    「最後の展覧会」では人類が滅びた後の世界が描かれていた。
    もう、ファイティングポーズできなくって足元フラフラで立ち上がれないKO負けでした。

    現実から逃避したいと思うと山に行きたくなるところは共感できましたww 
    けど、野人になって山で暮らすまでの覚悟はできないなあ。
    だって山中にはコンビニないし・・

  • 序盤の短篇、「信仰」、「生存」を読んだ印象としては、これまでの作品を踏まえてきたのが分かるような、いつもの村田さんだと感じ、前者は自分の人生を、丸々誰かに捧げてしまうことへの疑問を、ユーモラスに提示しており、後者は「地球星人」を思い出させる、マジョリティの考えた、マジョリティだけの進化した社会が果たして、本当に良くなるものなのかを、皮肉っているように思えました。

    しかし、本書には小説だけでなく、エッセイも収録されており、特に朝日新聞に寄稿した、『気持ちよさという罪』は私にとって、とても衝撃的な内容でした。

    しかも、何の偶然か、それとも因果なのか、ちょっと前に、岸政彦さんの『断片的なものの社会学』を読んだばかりで、ここで村田さんが背負った罪は、まさに岸さんが書かれていたこと、そのものだったのです。

    『笑われて、キャラクター化されて、ラベリングされること。奇妙な人を奇妙なまま愛し、多様性を認めること。この二つは、ものすごく相反することのはずなのに、馬鹿な私には区別がつかないときがあった』

    岸さんの書によると、『少数者とは、ラベルを貼られた存在』であり、そして、多様性を認めることは、今を生きる人びとに欠けていることであり、これからの社会において、どうしても必要な状況なのであると、書かれてありますが、これに対して、村田さんが区別がつかないときがあると感じた事に、決して馬鹿とは思えず、なぜなら、本来はそうした明るく笑って互いの価値観を認められる社会こそ、理想的な社会であると、私も感じたからです。

    『私は、そのことをずっと恥じている。この罪を、自分は一生背負っていくことになるのだと思う。私は子供の頃、「個性」という言葉の薄気味悪さに傷ついていた。それなのに、「多様性」という言葉の気持ちよさに負けて、自分と同じ苦しみを抱える人を傷つけた』

    けれども、そんな理想的な社会を築くのは難しいようで、ここでは、本来同じマイノリティの人だと思っていた人たちから非難される、そんな胸がはち切れそうな喪失感をもたらしてしまうような、どうしようもない悲しさに対して、村田さんは罪を背負うと言う。

    なんでって、思う。
    村田さんが、当時の大人たちにとって、都合が良くて扱いやすいような、「個性のようで個性では無い幻想」を見せられたことと、多様性を知らない人たち(想像力に乏しい人たち)が勝手に一人歩きさせただけの村田さんのラベリングは、決して同じだとは思えないし、村田さん自身、とても傷ついたと思うのに・・・
    本当に分からない。村田さんもそう思いたいのではないだろうかと、つい思ってしまうが、自分の中での確信的な思いがあるのかもしれないし、その中には、村田さんを心配する声も含まれていたので、やはり簡単に、なんでと思わない方がいいのかもしれない(村田さんに、あの台詞吐いた男、一度引っぱたいてやりたい)。

    『それがどれだけうれしいことだったか、原稿用紙が何枚あっても説明することができない。今まで殺していた自分の一部分を、「狂っていて、本当に愛おしい、大好き」と言ってくれる人が、自分の人生に突如、何人も現れたことが、どれほどの救いだったか。夜寝る前に、幸福感で泣くことすらあった』

    これまで、私が抱いていた、村田沙耶香の作品の、そのぶっ飛んだ世界観において、村田さんは物語の世界の創造主で、彼女自身の思いを絡めつつも、あくまで、第三者的冷静な視点で眺めているだけであって、「こういう作品を書いてるけど、私は私なのよ」といった、佇まいなのかと思っていたが、このエッセイを読んだ後には、全てが村田さんによる主観的で、自身に捧げるようなマイノリティ達への願いや愛の物語に感じられ、だからこそ、どこかユーモラスな雰囲気もあったのだと。だって、そうでもしないと泣きたくなるでしょ? これらは、村田さん自身の、救いになっていたのかもしれないのだから。

    そんな重く、どう償っていけばいいか分からない、罪を背負っていく決意をした村田さんにとって、本書の幾つかの作品は、海外でも公開されており、もしかしたら、これが彼女にとって、新たな『多様性』を実感するきっかけになるのかもしれませんが、それは誰にも分かりません。

    ただそんな時に、本書の短篇、「最後の展覧会」を思い浮かべ、そこでは、小説を含む芸術についての、村田さんの思いを知ることができます。

    それは、
    『身体の中で花が咲く』ようでもあり、

    『肉体を動かさずに遠くまで旅ができる』ようでもあり、

    『心を支配されてしまう』ようでもあり、

    『今までとは違う自分になってしまう』ようでもある。

    物語の内容は、これまでの村田さんの作品にはあまり無かった、『たとえ失った後でも、それはずっと何者かの中に違った形で、いつまでも残り続ける』ことを実感させられて、それはまさに、奇妙であることを認めてくれたことに救われた思い、そんな思いを今も作品に込め続けている、村田沙耶香さんにとっての願いでもあったのだと、強く感じました。


    《余談》
    他の短篇の内容と、「書かなかった小説」の存在で(これを小説にしなかったの分かる気がする。自分の事は案外よく分からないものであるのが普通で、こういう知り方は、逃げ道がないだけに余計辛い)、評価こそ☆4ですが、これからの村田沙耶香さんの作品が、より楽しみになったことは確かですし、今回のエッセイを読んで村田さんのこと、ますます好きになりました。

    • つくねさん
      たださん、こんにちはw

      この作品読みましたが、私には難しすぎてさっぱりでした。
      作者の優しい部分がさっぱり伝わってこなかったのですo...
      たださん、こんにちはw

      この作品読みましたが、私には難しすぎてさっぱりでした。
      作者の優しい部分がさっぱり伝わってこなかったのですorz
      たださんのレビューでビビビッて感銘しましたww
      現実は、いいね10個は押したい気持ちなんですが
      1個しか押せないのが不満です。
      これからもよろしくお願いします。


      2023/06/08
    • たださん
      しじみさん、こんにちは。
      嬉しいコメントをありがとうございます(^^)

      おそらく、私の場合は、アンソロジーと二作目のエッセイ以外の全ての村...
      しじみさん、こんにちは。
      嬉しいコメントをありがとうございます(^^)

      おそらく、私の場合は、アンソロジーと二作目のエッセイ以外の全ての村田さんの作品を既読していることもあると思いますし、私自身、マイノリティだと感じてしまうような過去を体験したこともあって、内容の突飛さをそのまま違和感なく受け止められることに加えて、「このような生き方をしている人達も多様性の一つとして、認めてくれますか」といった問いかけをしているようにも思われて、そうした点に、本書のエッセイ『気持ちよさという罪』にあった、村田さんの償いと自身の願いがあるのではと感じました。

      それから、もし興味がありましたら、是非、村田さん最初のエッセイ集『となりの脳世界』を読んでみて下さい。
      そこでは、エキセントリックな作品世界とはまた違った、村田さんのユーモラスでマイペースな優しいお人柄が、きっと実感できると思いますので。

      こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。
      2023/06/08
  • コンビニ人間ぶりに拝読したが、固定概念を壊す話ばかりで、作風は変わっていないなぁと。小説のタイトルにもなっている「信仰」が面白かったが、「生存」の設定もなかなか。。
    考え方について割と近しい感覚もあり、勝手ながらシンパシーを感じたのだが、どうやら本作は、ぶっ飛び具合が控えめらしい・・。ほかの作品がどの程度のものか、気になるところ。 ★3.0

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村田沙耶香の作品

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