光のとこにいてね

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916187

作品紹介・あらすじ

第30回島清恋愛文学賞受賞、第168回直木賞候補作、2023年本屋大賞第3位


刊行以来、続々重版。大反響、感動、感涙の声、続々!
令和で最も美しい、愛と運命の物語


素晴らしい。久しぶりに、ただ純粋に物語にのめりこむ愉悦を味わった。
さんざん引きずり回された心臓が、本を閉じてなお疼き続ける──そのまばゆい痛みの尊さよ。(村山由佳)

まぶたの裏で互いの残像と抱き合っていた二人のひたむきさが、私の胸に焼き付いて離れない(年森 瑛)



――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。


――二人が出会った、たった一つの運命
  切なくも美しい、四半世紀の物語――

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わって、まだ胸が高なっている感覚がある。この後はどうなるのだろう。ラストがそんな感じで終わったことで、想像の世界が広がっていく。中心人物である小瀧結珠と校倉果遠の2人の出会いと別れ、そしてそれぞれの成長を、時を経ながら紡いでいく、そんな展開だった。時代ごとに表されている3章で構成されている。各章のタイトルは『羽のところ』『雨のところ』『光のところ』。

    『羽のところ』では、結珠と果遠が小学2年生の時の出来事。舞台は、果遠が暮らす10棟ほどの団地とその団地にある公園。そして、物語は、結珠と果遠の目線で交互に描かれていく。同じ出来事をそれぞれの立場で感じることができ、2人のつながりの強さを感じることになる。結珠が母と団地に行くシーンから始まる。5号棟の504の部屋を訪れる2人。そこでの男と母のやりとりが不穏な空気を醸し出す。小学2年生という設定が苦しく感じるような状況だった。なぜ、そのような場所に結珠を連れていくのか、この時は疑問だった。結珠は、母の指示で階段を降りて外で待つ。そこも不安な状況。そこで、向かいの棟の5階のベランダに果遠を見る。そして、互いの存在に気づく結珠と果遠。ここでの出会いが2人の今後の展開に大きく影響し合っていく。果遠の部屋の隣の部屋にはチサという女性が住んでいて、黄緑色の羽のインコ、ピーちゃんを飼っていた。果遠は愛着をもって、きみどりと呼んでいた。次の週も団地に出掛ける結珠と母。待っている結珠に果遠が声をかける。少しずつ明らかになる互いの素性。語り合う2人に、自然に親しくなる関係性を感じる。それは、小学2年生だからということではない、共感性のようなもの。暮らしも状況も違い、交わらない関係の2人だからこそ生まれる関係とも感じられる。安心感とは、こういうものなのかな。毎週水曜日に団地に行く母と一緒に連れていかれる結珠。その度に結珠は果遠と話し、遊べた。わずかな時間の中で互いに惹き合う2人。公園で遊ぶ小学2年生の2人は、純粋に何もかもを楽しんでいる。この後の展開が気になるのは、結珠の母が団地に行く理由と、それぞれの生活の苦しさ。結珠はピアノを習っていた。そこでの会話で出てくるパッヘルベルのカノンという曲。この曲もこの後の展開に影響してくる。2人をつなぐものが増えていく。それも、関係が深くなっていくことにつながるのだろうな。大きな出来事が起こる、きみどりの死。そこから、小学2年生が大胆な行動を起こし、読みながら緊張していく。きみどりの死を悼んでとった2人の行動は、後の展開にも大きく影響していく。衝撃的な出来事だから、印象にも残る。これも一穂さんの描写の巧妙さなのだろうか。この章のラストは2人が離れてしまう予感を感じさせ、「光のとこにいてね」という果遠から結珠への言葉が最後の言葉になる。次の章での展開が気になりながら読み終わる。

    『雨のところ』は、結珠の目線から始まる。結珠はS女の高等部に進学。初等部から入学し、中等部、高等部と進んでいた。中等部、高等部と新たに15名ずつ外部から新入生が加わり、1学年120名が4クラスに分かれる。始業式の日に、結珠は外部からの新入生の中で、一際目立つショートカットの美人と目が合う。この同級生が成長した果遠。彼女と8年ぶりの再会。想像していたけれど、胸がざわつき、読みたい衝動が増していく。交互に目線が変わり、それぞれの思いが伝わってくる。物語の中での2人より、読者である私が詳しく知っているという感覚が面白い。再会を喜びながらも、互いの距離があるのは、そうだろうな。それでも、互いを惹き合うところに、2人の関係の言葉で言えない深さを感じる。果遠は、団地住まいが続いていたが、隣のチサとの関係は深まっていた。そこも、チサの人柄が伝わってきて、想像世界が広がる。小学2年生からの成長を感じる。ひょんなことから、2人の距離が近づき、会話が始まる、どきどきしながらも、読み進めたい感情は増す。2人の会話に8年前の出来事が出てくる。そこに、心の中にある存在の強さも想像する。近づく2人の距離と関係、時を経て再会し、また強くなることもあるかな、それは特別なのではないかな。そのような中、結珠の兄の後輩、藤野素生が自宅にくる。ここでの出会いが、この後の展開に影響していく。また、結珠と母、兄の関係も明らかになっていき、生きづらさを感じる。背景が明らかになっていき、辛さも増していく。またしても急な展開が訪れ、果遠の母が職場での問題により、突然家を出ると果遠に告げる。戸惑う果遠。また、結珠と突然の連絡もない別れ、小学2年生の時と同じ状況に辛さが増す。この章にラストは果遠から結珠への言葉、「光のとこにいてね」で別れる。小学2年生の時と同じ言葉に、衝撃と無念さが浮かぶ。

    最後の章は『光のところ』。結珠が東京から本州最南端の海沿いの街に越してきたシーンから始まる。結珠には夫がいて、藤野であった。思わず声が出そうになり、『雨のところ』からの間の出来事を想像する。東京で小学校の先生をしていたのだが、理由があって夫婦で越してきていた。その理由も含めて後に明らかになっていく高校生からの結珠の人生。すぐに、小学2年生の快活な子、海坂瀬々と出会う。その後、スナックでママとして働く果遠と10年以上ぶりの再会。予想していたが、それでもどきどきして、それぞれの状況が気になりながら読み進めた。果遠は海坂という姓で29歳になっていた。夫である水人との間に瀬々という子がいた。結珠とのつながりが広がっていく。最後は、結珠と果遠が別れないで、身近にいる存在でいてほしいなという思いをもちながら読み進めていた。それは、2人ともが望んでいることだから、共感が増していた。結珠と藤野には子供がいなかった。瀬々は学校を休んで、フリースクールに通っていた。ひょんなことから結珠がフリースクールでボランティアをすることになる。結珠と果遠の関係に、瀬々とのつながりも絡み、どうなっていくのか楽しみと不安が入り混じっていく。そのような中、結珠と果遠の距離はまたも縮まる。互いの近況や離れていった高校からの人生を語り合う。互いの信頼が伝わってくる。いろいろな出来事があり、辛いことも語り合っているのに、穏やかな気持ちで読んでいるのはどうしてだろう。2人で過ごしている状況が落ち着くからなのかな。楽しいというより穏やかな安らかな感じを想像する。そのような中、結珠の弟、中学2年の直が家を出て訪ねてくる。直の生い立ちや親子関係、結珠と直、それぞれとの両親の関係も明らかになっていく。一方で、果遠と母の関係も。どの関係にも問題がある状況だった。そのような中でも、互いを分かり合える結珠と果遠が温かくつながっている感じがする。新たな展開が次々に起こる。2人が動揺する様子が伝わり、緊張が生まれながら読み進める。そこでも、2人は互いを頼りにし、尊重する。そんな関係が嬉しい。でも、なかなか、人とつながることは簡単ではないなとも思う。水人の母の死。結珠と母の対面、直と瀬々の居場所が不明、水人から果遠へのの突然の告白、怒涛の展開に混乱しながらも自然な流れにも感じる。その頃、果遠の状況を知らないまま、結珠は東京に戻る決意を固める。読みながら、繰り返される別れへの不安が膨らむ。結珠の決意を聞いた直の選択は以外なところであったが、直なりの判断理由には、理解できる。結珠が果遠の家を訪れ、水人からの告白を聞く結珠、心中を想像すると胸がざわつき、計り知れない思いがわいてくる。藤野に果遠に会いに行くことを告げ、それを応える藤野。2人の関係も温かい。誰もがよいとはならないのももどかしい。それでも人と人の関係には起こりうることなのだろうな。最後に出会えてよかったと思っていたら、またも果遠からの策略による展開が起こる。果遠は離れて行こうとしている。そこには、結珠への好意があるからなのだけれども。ラストはタイトルにつながるシーンで終わり、この先の展開を明るく想像しながら読了した。長い年月を経てもつながる関係があるのかもな。それは、抗えないものでもあり、縁でもあるのかな。互いを思う気持ちが強いとこうなるのだろうな。

    読みながら、登場人物の辛さや嬉しさ、互いを思う気持ちが想像され、胸にグッとくる場面が繰り返された。私にとって、初めてとなる一穂ミチさんの作品を読了した。次の一穂さんの作品が楽しみになった。

  • あなたには、『結珠ちゃんに出会って、わたしの人生が本当に始まった』、というような人との出会いを経験したことがあるでしょうか?

    この世には数多の人がいて、数多の人間関係があります。そして、その全てにそんな関係が始まる起点となる瞬間があったはずです。そんな始まりは学校での出会いかもしれません、会社での出会いかもしれません、そして、街中でのほんのちょっとした触れ合いの中に始まったものかもしれません。人と人との関係性の始まりというものは、思った以上に偶然という場合も多いものです。

    そして、そんな風にして始まった人と人との関係は単に長い時間を共に過ごせば良いというものでもありません。もし時間だけが全てであるのなら、大人なあなたの最も大切な人は、今日もあなたの前の席に座る会社の同僚ということになってもしまいます。『ふたりで体験した時間は夢みたいにきらきらしていた』。そんな言葉の先に紡がれる関係性というものは時間の長さだけではない、もっと別の何かによって培われていくものでもあるのだと思います。

    さて、ここに『果遠、校倉果遠』、『小瀧結珠、七歳、小学二年生です』、『果遠ちゃんは何年生?』、『結珠ちゃんとおんなじ』、『そうなんだ』と交わした言葉の先に繋がっていく二人の女の子が主人公となる物語があります。母親に連れられて出かけた先の、ある『団地』で偶然に出会った二人の女の子。『次の週の水曜日も、結珠ちゃんは5号棟にやってきた』と、続いていくその日常の中で関係を深めていく二人の女の子。しかし、そんな二人の別れは唐突に訪れます。

    この作品は、偶然に出会った二人の女の子が、その後の人生において、出会いと別れを再び経験する物語。そんな出会いと別れの繰り返しの中に、お互いがお互いの存在を強く意識していくのを見る物語。そしてそれは、『七歳の時も十五歳の時も、今も、彼女は一瞬で私の目を奪う』と、やがて大人になった二人がお互いの存在の大切さに気づく物語です。

    『二年生になってGWを過ぎた水曜日の放課後、ママに『突然「一緒に来なさい」と』言われ『制服のまま車に乗せ』られたのは主人公の小瀧結珠(こたき ゆず)。そんな結珠は『「団地」っていうの。ママの知り合いのおうち』と説明された『「504」という札以外は何もないドアの前』にママと立ちます。インターホンを押し、しばらくすると『知らない男の人が顔を覗かせ』ました。『鍵くらい掛ければ。不用心だよ』と『スプーンやナイフにくっついたいちごジャムみたいな声』で言うママに『こんな部屋から何盗るんだよ』と返す男。『ぼさぼさの髪や無精ひげや充血した白目』の男に『怖くて足がすく』む結珠。『ご挨拶しなさい』と言われ、名を名乗ると『ちっせえ声だな、ちゃんと食わしてんのか』と言う男。そして、ママは『ここでやることがあるから、降りた階段のところで待ってなさい。三十分くらい』と言うのに『ボランティア?』と訊くと『そう』と答えるママと『けたたましく笑』う男。仕方なく一階で待つ結珠は、『向かいの棟の』五階のベランダに『手すりから大きく身を乗り出している』女の子を目にします。『何をしようとしているの?』と思う結珠は、『目があった瞬間』『両手を目いっぱいに伸ばし』ます。そんな時、『おでこにぽつんと何かが当た』りました。『指で拭うと』『指先が赤くなっている』のを見ている中に、女の子はベランダからいなくなってしまいます。やがて、『ごめんね』『びっくりして、鼻血出ちゃった』と現れた女の子は校倉果遠(あぜくら かのん)と名乗りました。
    視点が変わり、『わたしの唯一の友達は隣の家の「きみどり」』、『お隣には女の人がひとり住んでいて』、そんな女性が飼っているインコを勝手に『きみどり』と呼ぶ『わたし』。女の人が『よく遊びにくる男の人と怒鳴り合ったり』して、ベランダに鳥籠が出された時、仕切り越しに『きみどり』と会えることを喜ぶ『わたし』。そして、今日も『きみどり』を観察していると下に『ぽつんとひとりで立つ』女の子がこちらを見ているのに気づきます。『わたしに向かってまっすぐに両手を伸ばし』ているのを見た時、『きみどり』が『「アイタイヨォー」と鳴』きました。それに驚いた『わたし』の鼻から『鼻血』が出て下へと落ちていくのを感じます。『いけない』と思い、大急ぎで階段を駆け降りた『わたし』は、『ごめんね』『びっくりして、鼻血出ちゃった』と言い、校倉果遠と名乗りました。すると、『小瀧結珠、七歳、小学二年生です』と答えた女の子。結珠と果遠の運命の出会い、そして、別れ、再びの出会い。不思議な糸で結ばれた二人のそれからの四半世紀に渡る物語が描かれていきます。

    2022年11月7日に刊行された一穂ミチさんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、先月も寺地はるなさんの「川のほとりに立つ者は」を発売日に一気読みしてレビュー済みです。ただ、一穂さんのこの作品は単行本で460ページもあり、流石に平日に読むには二日かかりました。秋は新米が美味しい季節ですが、読書の秋には小説も新作がやはり良いですね!このキャンペーン、やみつきになりそうです(笑)。

    さて、そんなこの作品、「別冊文藝春秋」に2021年5月号から2022年9月号に一年以上に渡って連載されてきたものです。”運命に導かれ、運命に引き裂かれる ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語”と内容紹介にうたわれる通り、二人の女性が等位の主人公を務め三つの章にわたってそんな二人の四半世紀の人生の歩みが描かれていきます。読みどころは幾つかあると思いますが、私がまず魅かれたのは、頻出する比喩表現の数々です。特に印象に残ったのが文字だけの小説の上で『声』を巧みに表現していく部分です。主人公・結珠は母親の声音の変化を聞き分けて、そんな母親の心を読み解いていきます。二つのシーンを取り上げたいと思います。まずは、9歳の結珠が、母親に連れられて『団地』に暮らす男の部屋を訪れる場面で母親が男と話す時の『声』をこんな風に表現します。

    『パパやお兄ちゃんと話す時とも、スイミングのコーチや宅配便のおじさんと話す時とも違う、スプーンやナイフにくっついたいちごジャムみたいな声だった。べとっとへばりついて残ってしまう甘さ』。

    母親から、男の部屋で『ボランティア』をすると言われ、外で一人待たされる幼き結珠。当該シーンでは、具体的な記述は登場しませんし、結珠も中で行われていることは理解していませんが、大人な事情がぷんぷんする不穏さが十二分に伝わってきます。そんな甘い『声』の表現が別のシーンではこんな風にも表現されます。『その日のママは、第一声から違った』という、その『声』。

    『いつもの声色が鉱物だとすれば、マシュマロ。ココアに入れればとろけるほどふわふわとやわく甘い』。

    ネタバレに直結するためどんなシーンかは伏せますが、母親にとってとても喜ばしいことが分かった、そんなシチュエーションで母親が出す『声』です。『いちごジャム』も甘そうですが、ココアにマシュマロが入っているって、想像するだけでお腹いっぱいになりそうです。しかし、こちらも読者の想像力を見事に掻き立ててくれる表現であることには違いはありません。文字の上で『声』を表現するのに、なんと味覚を刺激する!という一穂さんの表現手法。なんとも絶妙な描写だと思いました。

    そんなこの作品は、上記した通り、二人の女性が等位の主人公を務めますが、ここで、一穂さんから私たち読者に向けたこの作品のメッセージを引用させていただきたいと思います。

    “ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語です。問題提起も世情の反映もなく、とても個人的な、ちゃちな鍵の掛かった日記のようなものだと思って下さい。 そこに教訓や有益な示唆はありませんが、「何かがあったような気がする」とうっすら感じてもらえたら嬉しいです。”

    “ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語”と言い切られる一穂さん。しかし、一方で”「何かがあったような気がする」とうっすら感じてもらえたら”とまとめられている通り、私も読後に何か後を引く印象が残りました。物語は主人公となる結珠と果遠の二人に細かく視点を切り替えながら展開していきます。そんな視点の位置がわかりやすいようにそれぞれの視点に切り替わる冒頭にはそれぞれ”花”と”羽”のアイコンが記されています。ということで、この切り替えの数があまりに多いことから、こういうのを見ると数を数えなければいられなくなる さてさてとしては章ごとにその数を数えてみました!簡単な内容紹介と共にご紹介します。

    ・〈第一章 羽のところ〉: 7歳の二人、結珠が母親に連れられ赴いた『団地』で、果遠と運命の出会いを果たし、そして唐突な別れが描かれる物語
    → 結珠視点: 6、果遠視点: 6

    ・〈第二章 雨のところ〉: 15歳の二人、高校一年、S高でまさかの再会と別れを経験する二人の物語
    → 結珠視点: 8、果遠視点: 7

    ・〈第三章 光のところ〉: 29歳の二人、大人になった二人がそれぞれ全く予想しなかった未来の姿で再会、そして…
    → 結珠視点: 14、果遠視点: 14

    単行本460ページという分量があるとはいえ、55回も視点が交互に切り替わるというのはかなり多い印象です。その切り替わりは交互に切り替わりながら時間が進んでいくという手法をとりますが、注目すべきは最初の結珠と果遠の運命の出会いを描いた場面です。上記もしましたが、ここだけは全く同じシーンをそれぞれの立場から見る視点で順に描かれます。二人が等位の主人公であることを示す意図もあってのことと思いますが、同じ光景を二人がそれぞれの立場からどう見ているのかを具に見る場面でもありなかなかに印象深いものがあります。これから読まれる方にはこの冒頭からの展開にも是非ご期待ください。

    そんな物語は、お互いを強く意識し合う結珠と果遠の三つの章に渡った三度の出会いが描かれていきます。『団地の公園は私たちだけの秘密基地になった』という幼き日の運命の出会い、それは七歳という年齢なりの幼さの中にあるものです。しかし、幼いからこそ強いインパクトを持った事ごとというものは逆に強く心に刻まれてもいきます。『わたしに両手を広げてくれた結珠ちゃん。週に一度、短い間だけおしゃべりできる結珠ちゃん』という果遠の想い。『ママも知らない、果遠ちゃんという内緒の友達が今の私にはいる』という結珠の想い。そんな二人の運命の出会いを印象深く表現する一穂さんの絶妙な筆致もあって、読者は思った以上に、鮮烈に幼き二人の出会いが心に刻まれていきます。そこに訪れる初めての別れ。

    『そこの、光のとこにいてね』。

    そんな言葉の先にある別れ、書名の由来ともなるこの言葉は読書前に見ていた書名から受けた漠然とした印象が、白く眩しく、神々しい光を感じさせてくれるものに変化もしていきます。そして、そこには二人の間に繋がる絆の存在も見えてきます。物語は、そんな二人のそれからを章ごとに描く中に、その繋がりの意味を見せてくれます。そんな物語では、最終章で、三度目の出会いを果たした結珠の果遠を見る感情がこんな風に描かれます。

    『七歳の時も十五歳の時も、今も、彼女は一瞬で私の目を奪う』。

    『ずっと果遠ちゃんに会いたかった、でも叶わなくて、もう一生会えないだろうと諦めていた』という結珠の果遠への強い想いの先にある、言葉にできないその想い。こんな想いへと昇華していく二人の関係性、それが三つの時代に渡って描かれていくこの作品。それは、確かに一穂さんのおっしゃる通り、”ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語”と言えるものなのかもしれません。また、そんな再会を”出来過ぎ”という見方で切って捨てることもできるでしょう。しかし、そこには”「ただそれだけ」”だからこそ感じる、人と人との繋がり、言葉で説明できない繋がりに心を鷲掴みにされるような感覚に包まれる瞬間を感じる物語があったのだと思います。最後にそんな感覚を痛切に感じさせる一文を引用しておきたいと思います。ある場面で、結珠のことを思ってくれる友人に対して、逆に結珠の中に沸きあがる思いを赤裸々に表現するものです。

    『私は、ひどい人間だ。わかろうとしないで、と叫びたかった。私のことを知ろうとしないで。踏み込まないで。あなたが入る余地はない。本当の私を知っているのは、世界であの子だけでいい』。

    このような感覚、残念ながら私には経験がありません。また、もしかすると男性には感じられない感覚であり、女性の方が共感度の高いものなのかもしれません。600冊の小説ばかりを読んできましたが、こんな結論を感じることはあまり記憶になく、これから皆さんがお書きになるこの作品のレビュー、特に女性の皆さんがお書きになるレビューに引き続き注目させていただきたいと思います。

    『私だって知りたい。どうして果遠ちゃんはいちいち私の胸を苦しくさせるのか』。

    幼き日に運命の出会いを果たした結珠と果遠がその後の人生に再開と別れを見るこの作品。そんな作品では美しい比喩表現の数々で彩られた物語の中に、全く異なった境遇の元に生きる二人の女性の四半世紀の物語が描かれていました。まさしく”毒親”という言葉で表現される大人たちが主人公たちを苦しめる様を見るこの作品。それぞれに訪れるさまざまな苦境の中に、今の世の生きづらさも感じさせもするこの作品。

    とても繊細に描かれる心の機微の描写の中に、何もかもが正反対でいて、だからこそ惹かれ合う二人の想いが静かに浮かび上がるのを感じた、そんな印象深い作品でした。

    • さてさてさん
      hiromida2さん、ありがとうございます!
      そう言っていただけてとても光栄です。一穂ミチさんというと、BL作品で有名な方、「スモールワ...
      hiromida2さん、ありがとうございます!
      そう言っていただけてとても光栄です。一穂ミチさんというと、BL作品で有名な方、「スモールワールズ」が本屋大賞第三位になった方というくらいの知識しかなく、でも女性作家さんコンプリートの野望を抱く(笑)さてさてとしては気になる作家さんの一人でした。今回、この「光のとこにいてね」が新作で出ると知って、それが起点になりました。ただ、平日に460ページの単行本を読んで、土曜日に間に合わせるのは結構焦りました。初読みの作家さんって怖いですよね。どんな作風か分からないので、レビューの想定もできなくて。また、ブクログ上もそうですが、他のサイトもレビューがほとんどなくて、他の皆さんが読まれてどう思われたかという方向性もまだ存在しない、そんな中での新作のレビューは本当にドキドキします。また、先行レビューは他の方が”読みたい”に登録されるか、パスするかの材料の一つにもなると思うので後者を決める人が続出したら、一穂さんにも申し訳ないですし。なので、hiromida2さんからコメントをいただいてホッとしました。少しは役割が果たせたかなと。
      また、(懲りずに)新作探しをしたいなと思います。
      どうもありがとうございます!
      2022/11/16
    • hiromida2さん
      やっぱり、さてさてさんってスゴイです₍˄·͈༝·͈˄₎◞︎ෆ⃛̑̑ෆ⃛
      流石です!初読みでこんなレビューかけるんですから。
      尊敬の眼差し( ...
      やっぱり、さてさてさんってスゴイです₍˄·͈༝·͈˄₎◞︎ෆ⃛̑̑ෆ⃛
      流石です!初読みでこんなレビューかけるんですから。
      尊敬の眼差し( •ॢ◡︎-ॢ)-♡︎
      新作探しですって!(๑˃▿︎˂๑)
      私は女性作家さんの本なら、さてさてさんの本棚に
      探しに行きます!それが私の新作読みになるんです♪
      (୨୧•͈ᴗ•͈)◞︎こちらこそ、ありがとうございます♡︎
      2022/11/17
    • さてさてさん
      hiromida2さん、
      いえいえ、私は読書を始めたのが遅いのでようやく昨日600冊です。hiromida2さん、レビュー数でもその倍以上...
      hiromida2さん、
      いえいえ、私は読書を始めたのが遅いのでようやく昨日600冊です。hiromida2さん、レビュー数でもその倍以上でいらっしゃるのですごいです!年間に160冊ほどが限度なのでhiromida2さんに追いつこうと思ったら、あと四年はかかる計算。でもその頃にはhiromida2さんはもっと先に行かれているでしょうから、やはりこのボリュームはすごいなあと。多彩でいらっしゃるし。私ももっと幅を広げなければと思うんですが、ホラーだけは夜にトイレに行けなくなっては困るので読めないし…とかどうしても手に取れない作品もありますし。なかなか難しいですね。
      hiromida2さんからいただいた↑の可愛い顔文字を見て新年のレビューを準備しなければと思い出しました。起点をありがとうございます!
      今年も残された日数も少なくなりましたが悔いなき読書&レビューの日々を送れればと思います。
      よろしくお願いいたします。
      2022/11/17
  • 心の深いところで繋がる2人が、幼児、少女、女性と成長するに連れ、出会いと別れを繰り返す話。

    感想が難しい。
    自分に語彙力がないか、もしくは静かに衝撃を受けているか。
    でも一気に読んでしまい、このままずっと読み続けたいと思う本でした。

    2人の人生は激しく動いている感じなのに、読んでいる感覚はゆったりした穏やかな時間が流れている気分。

    でも果遠ちゃんはこんなに辛い決断をしないといけないのか、これだけははっきりと思った。

  • 水曜日に腰をやっちまった(>_<)

    年に数回はこうなる私。。。
    水、木と整骨院に通い、何とか歩けるようにしてもらうも、今日は雨ということもあり、一日安静を決め込んだ!
    いいんだ。たまには休む!今日は家事も適当にする!掃除もしない!というか出来ない!

    たまにはそんな日があってもいいはずだ!
    罪悪感はあるが、出来ないのだ!

    ってことで、午前中と、夜は読書の時間にする(*^▽^*)


    フォロワーの皆さんの評価が高かったので、こちらも新品を書店で購入。
    真新しいブックカバーをつけられた単行本を読むのはかなりテンションも上がる。


    時間軸は小学二年生。 

    結珠は母親に無理矢理手を引かれ、古びた団地に連れてこられた。
    団地の一階で暫く待っていなさいと。。。

    そんな時に果遠と出会う。
    同じ年の彼女は、結珠とは何もかもが違う。
    結珠は医者の娘で、大きな家に住み、身だしなみや躾に煩い母親が居たが、果遠はオーガニックに不自然に拘る母親と2人で団地暮らし。
    毎週同じ時間、結珠と果遠は時間を共有することができた。
    しかし自分たちにはどうにもならない理由で2人は会うことが叶わなくなる。

    時間軸は高校生に移り変わる。
    結珠は思いがけず、学校で果遠と再開する。

    お互いに過去に出会ったことがあることには触れず、また少しずつ近づいていく。。。



    あーーーー、感想難しいなーーー。


    一気読みできるほど引き込まれる本だったし、自分はとても面白いと思った。

    感情移入できる本とは少し違った^^;


    ただ、こんな風に心の奥底で信頼できる?いや、もう依存??そんな友達、これは恋??
    それともまた違うような、そんな複雑だけど思いやりに溢れた彼女たちの関係も悪くないなぁ〜と、映画を見終わったような満足感で本を閉じた。

    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      今日なんて、野球あるのに地獄なんかしてる場合じゃないですよね(笑)
      うちの会社もテレワークの人が若干...
      naonaonao16gさん

      今日なんて、野球あるのに地獄なんかしてる場合じゃないですよね(笑)
      うちの会社もテレワークの人が若干多い気が(笑)
      みんな仕事してないな(笑)

      文庫化されていない本、面白い本が多いですよね。私もまた数冊新品で購入してしまいました。
      最近ちょっと、本とビールにお金使いすぎかも(^_^;)

      お友達と遊ぶのいいですね!!
      私は22歳で結婚してしまい、24の時には既に子持ちだった為、友達がかなり少ないです^^;
      ↑この所為ではなくて、単に付き合いが悪かったからだとは思いますが(^^;;

      今48歳ですが、さぁ遊ぶぞ!!って思っても、友達はまだまだ子育て中だったりして、誰も遊んでくれません(^_^;)

      海外の作品、良いものはたくさんありますが、なかなか文化の違いか、感情移入し辛い時ありますよね(^^;;
      2023/03/22
    • naonaonao16gさん
      bmakiさん

      最近は、bmakiさんくらい早めに結婚出産を経験することが推奨されているみたいですね。
      推奨というのも変ですが、その時期に...
      bmakiさん

      最近は、bmakiさんくらい早めに結婚出産を経験することが推奨されているみたいですね。
      推奨というのも変ですが、その時期に結構出産することで、子どもが大学に入ったりする頃には親もまだ元気だから仕事に復帰して不足分の教育費を稼げる、という理論らしいです。
      まあ、bmakiさんはずっと働かれていたので関係ないですよね…笑

      あー、家が近所なら本当に週3くらいで飲みに通いそうです笑
      でもbmakiさんは旦那さまとも仲良さそうなので、わたしはそれが羨ましいなと思ってますよ~
      2023/03/23
    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      なるほど、推奨されていますか。
      私も割と早くに子育てを終えて、楽だった気がしますよ。
      体力のあるうち...
      naonaonao16gさん

      なるほど、推奨されていますか。
      私も割と早くに子育てを終えて、楽だった気がしますよ。
      体力のあるうちに子供と一緒になって遊んだり(^-^)

      若いうちは、若いだけあって生活費大変でしたけど^^;
      高卒の私の給料なんて、2人の保育園代より安くて、働く意味があるのか?毎日のように考えてましたよ(^^;;

      きっとnaonaonao16gさんとご近所だったら、今日一杯どう??って頻繁に誘ってましたね(笑)

      旦那とは仲良いですねって色々な人から言われます。
      確かに喧嘩しませんし、2人で何処でも旅行行きますし、仲が良い方なんだとは思います(^^)
      でも、結婚してからずーっと、共働きなのにほぼ私がほとんど全ての家事をやるスタイルで、私の方は不満もあります(笑)

      ま、旦那にも不満はありますよね(笑)
      何処の家庭もそれは一緒か(笑)
      2023/03/23
  • 物語のはじまりはいつも不安を感じる。どんな世界が待っているのかワクワクするよりも、どんな人たちがストレスかけてくるのだろうかと身構えてしまうことが多いのです。
    ドロップインして最初にみた世界は小学2年生の女の子たち。5階のベランダから身を乗り出すカノンを受け止めようとユズが手を伸ばすシーンとか天使の降臨をイメージさせる最初の出会いでした。
    団地に住む質素な身なりのカノンは天衣無縫でオーガニックコットンのワンピースきてるよう。時計の見方や三つ編みの仕方を教えるお嬢様育ちの結珠。
    二人の母親はタイプが全然違うのですがどちらも娘に対して我がままに主張を押し付ける感じが不快。
    絶対に秘密にするようにと結珠に言い毎水曜日に団地に住むおじさんを訪ねる母親。挨拶すると下で待ってるようにと30分の隙間時間に同じ年の果遠と仲良くなったけどすれ違う。なんのボランティアしてたのか気になるけど・・

    次にドロップインしたら名門女子高に通う結珠がいました。外部生の特待生に果遠がいて再会から二人の距離が少しづつ近づいたのは束の間で、逃げるようにして果遠は母親と団地を去ってゆく。図書室に飾られていたモノクロの海の写真と音楽室から流れるパッヘルベルのカノン。雨と晴れの境界が見えた校庭が印象的でした。

    3章では、それから10年後小学校の教師になった結珠が学級崩壊からのストレスで休職し本州最南端の土地に移り住みそこでスナックのママをしている果遠に偶然であい3度目の再会を果たすとゆう展開。場末のスナックといえば常連しか集わない感じで終わった感あるのに何故か潰れない昭和臭が漂うところ。

    二人ともいつ再会しても、周りに知られるのが不味いと思ってよそよそしく接するところは秘密結社の同志をみているようで面白い。相手のことを思っての反応のようでどちらも根が陰キャで、閉鎖的。そんな様子にうすうす気づいてるユズの夫はどこまでもよい人すぎる。
    結珠も高校の時、家庭教師してくれて最初に近づいた異性と夫婦になってるわで運命主義者の様子。
    結珠は小中高一環の女子校通ってて友達たくさんできそうなのに心を開けることできる友達は果遠だけだとか、自意識が目覚めた頃に最初に出会った相手を近い存在に思うとか、刷り込み現象のようで雛鳥かって思ってしまいました。
    果遠も結婚していて小2の娘もいるけど、夫との関係は秘密を共有することで結ばれている後ろめたさとか、とりあえずこの2人とも共感できないし、光のあるところには影もできるし、堕天使は悪魔にだってカミングアウトできる。なんだかめんどくさい関係なのが闇堕ちしていくようで手に負えませんでした。

    • かなさん
      つくねさん、おはようございます!
      この作品、のきなみ高評価なんですよねぇ…
      だけど、私もつくねさんと同じく
      登場人物に共感できなかった...
      つくねさん、おはようございます!
      この作品、のきなみ高評価なんですよねぇ…
      だけど、私もつくねさんと同じく
      登場人物に共感できなかったので☆は3にしてるんです。
      つくねさんとは、共感できて
      ちょっと嬉しく思いました(*^^*)
      2024/09/28
    • つくねさん
      かなさん、おはようございます!

      いままで築き上げてたものをいっきに崩していくような
      信じられない展開でしたね。
      カノンが睡眠薬使い...
      かなさん、おはようございます!

      いままで築き上げてたものをいっきに崩していくような
      信じられない展開でしたね。
      カノンが睡眠薬使いだしたあたりからネジ緩んできたようで、
      もともとそんな気質だったのかもしれないけど、ユズも大胆になってきてたから、この先の二人はまともじゃいられない気がするんですよね。
      光のとこにいてぇええって叫びたくなってましたww
      2024/09/28
  • この作品はお互いに惹かれ合う二人の女性の物語です。

    小瀧結珠(こたきゆず)と校倉果遠(あぜくらかのん)はお互いに小学校二年生、7歳の時に出会い友だちになります。
    けれど果遠は「光りのとこにいてね」と言っていってしまいます。

    そして結珠は高校一年、15歳の時果遠に再会します。
    果遠は結珠の通うS女子高校に編入してきた特待生でした。
    そしてまた果遠は母親に連れられて夜逃げをし、ある日突然転校していってしまいます。

    そして、10年以上。
    結珠は小学校の教師を休職し、藤野素生と結婚しています。
    引っ越し先の家の近くのスナックで偶然、結珠は果遠に再度出逢います。
    果遠も消防士の海坂水人と結婚して娘の瀬々がいます。

    ー光りのとこにいてね、という言葉で私を縫い止め行ってしまったあの子。

    ー私は、ひどい人間だ。わかろうとしないで、と叫びたかった。私のことを知ろうとしないで。踏み込まないで。あなたが入る余地はない。本当の私を知っているのは、世界であの子だけでいい。

    ー何もいらないんだ。と私は思った。お菓子もココアも居心地のいいお店も。一緒にさえいられれば、他には何も。でもそのたったひとつが、いつだって私たちには難しかった。

    ーいつかまた、約束もなく会えるのを楽しみにしてる。次は三十年後とかかな?

    ー光りのとこにいてね。




    以下、個人的な打ち明け話なので、ご興味がない方はスルーしてください。




    私も1度だけ同性を好きになったことがあります。
    誤解のないように言えば私は同性愛者では全くありません。
    間違えたのです。
    小学校六年生の時、転校先の小学校で隣りのクラスの女子生徒を男子だと思い好きになってしまいました。
    中学も同じでしたが、また隣のクラスにしかなれませんでした。
    でも、彼女は何度もクラスが変わっても、休み時間になると私のクラスにやってきたのです。
    彼女は、中学校にスカートではなくスラックスを履いて登校してきていました。
    その時は昔だったので、そんな言葉はなかったのですが、今になって思えば彼女は性同一障害だったのではないかと思います。
    小学校の時はサッカースポーツ少年団に入っていたし、中学ではバスケ部で、運動神経がもの凄くよかったです。
    私のことも、名前を教えたことはないのに○○ちゃんと下の名前で気軽に呼ばれたときは驚きました。
    彼女は周りに友だちを作るのが非常に上手く、男子からも女子からも好かれる人たらしだったと思います。

    でも、私にはちょっとした自惚れがあります。
    私は、自分の大人しかった性格のせいで彼女と親しく口をきいたことがそれほどありませんが、今考えてみると、彼女の本命は私だったような気がするのです。
    彼女は何度クラスが変わっても私のいるクラスにやってきました。そして私が絵を描いていれば「○○ちゃん、何描いてるのみせて~」とかちょっとちょっかいをかけていってしまうのです。
    私の中3の時の転校で彼女とは何の連絡もとれなくなり、私と彼女には再会なんてロマンティックなものはありませんでした。
    ただ、大学卒業後、新卒で私は大手企業に就職したので、同期に中1の時の同級生がいて、彼女と私の話が流出したことがありました。何で今ごろそんなと思いました。
    でも、結珠と果遠のように偶然再会しても(あるわけないけど)今だったら、私は今の生活を手放すことはしません。
    でも、この作品を読んでいる間中、彼女のことをとても懐かしく思い出していました。

    私も彼女には光のところにいてほしいと思います。

    結珠と果遠は女性は男性より弱き故に強く惹かれ合いお互いを選んだような気がします。

  • 結珠(ゆず)と果遠(かのん)の幼少期から成人期の物語。友情よりも濃密で、恋とはまた違った愛情で、強い思いで互いに魅かれあっていきます。
    ふたりとも育つ環境は違うけど、親との愛着形成がうまく行くことがなかったことが共通しています。人生の節目でで別れと出会いを繰り返していきます。そんな二人の相手を思う強い意思、儚い出会いと別れに感動してしまいます。また、少しずつ解けていく謎がページをめくる手を止めさせません。
    えてして隣の芝は青く見えます。でも、数々の登場人物が実は現実に何も抱えてない人なんかいないことを教えてくれます。
    二人は互いに支え合いながら「光のところ」を見つけていきます。
    数々の人間が織り成すドラマ。
    人というもののリアリティー。
    心にビンビン響きました。
    そして、読了。二人がこれから「光のところ」で過ごせることを願っています。
    私も部活の仲間や大学の仲間に久しぶりに会いたいなぁと思いました。

  • みなさん明けましておめでとうございます!

    2023年1冊目の読了本は「スモールワールズ」の一穂ミチさんの最新刊。

    同い年の結珠と果遠がおもいあう長い年月を描く物語。

    金色のオビに「感動の最高傑作」とあるけど、評価するのが難しいなぁ、と思った。

    度重なる偶然があまりに出来過ぎていて、正直しらけてしまう、とか、
    関係が深まっていく過程が、フワッとしていて説得力ないなぁ、とか、
    二人の間にあるものが性愛でない方が自然な気がするなぁ…とか、(←これは、決して同性愛を否定しているわけではないです。ただ、結珠と果遠の間に性愛が生まれたことがしっくりこなかった、だけです)

    いろいろ突っ込みたくはなったけど、最後まで心を捻じくりまわされました。

    大切な人をおもうことの切なさをヒシヒシと感じさせる。

    タイトルの「光のとこにいてね」という言葉がとても美しく使われていて印象的でした。

  • 複雑な家庭環境で育った、小瀧結珠と校倉果遠は小学校二年の時に、始めて出会った。
    束の間の交流だったが、心に沁みる記憶を残し、別れた。
    高校生になり、再会したが「光のとこにいてね」と言い残し、果遠は、結珠の前から姿を消した。
    そして、それぞれが成人し、結婚して、
    藤野結珠、海坂果遠と名前が変わった時に、再び出会う。

    果遠が好きだと言う、
    「ギュスターヴ ル グレイ」のフォトモンタージュ作品『海景』をネットで探してみた。
    彼女の心を覗いてみたかったが、暗い世界感しか感じられなかった。

  • 2023年本屋大賞ノミネート作品
    うぁ〜〜〜ってなりました。絶妙な付かず離れず感が最後の最後に何とも言えない感情となって押し寄せて来る凄い作品です。
    決してリアルでは無く、感情移入するでも無いのに、引き込まれてしまいました。
    ちょっとここ最近では感じることの無かった感覚で、もどかしさや焦ったさもあるけれど、この作品を読んだ記憶は暫くは消えないと思う。凄い。

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著者プロフィール

2007年作家デビュー。以後主にBL作品を執筆。「イエスかノーか半分か」シリーズは20年にアニメ映画化もされている。21年、一般文芸初の単行本『スモールワールズ』が直木賞候補、山田風太郎賞候補に。同書収録の短編「ピクニック」は日本推理作家協会賞短編部門候補になる。著書に『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』『光のとこにいてね』など。

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