本売る日々

  • 文藝春秋 (2023年3月6日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784163916682

作品紹介・あらすじ

時は文政5(1822)年。本屋の“私”は月に1回、城下の店から在へ行商に出て、20余りの村の寺や手習所、名主の家を回る。上得意のひとり、小曾根村の名主・惣兵衛は近ごろ孫ほどの年齢の少女を後添えにもらったという。妻に何か見せてやってほしいと言われたので画譜――絵画の教本で、絵画を多数収録している――を披露するが、目を離したすきに2冊の画譜が無くなっていた。間違いなく、彼女が盗み取ったに違いない。当惑する私に、惣兵衛は法外な代金を払って買い取ろうとし、妻への想いを語るが……。

江戸期の富の源泉は農にあり――。江戸期のあらゆる変化は村に根ざしており、変化の担い手は名主を筆頭とした在の人びとである、と考える著者。その変化の担い手たちの生活、人生を、本を行商する本屋を語り部にすることで生き生きと伝える“青山流時代小説”。

みんなの感想まとめ

江戸時代の本屋を主人公にした物語が、当時の人々の本に対する情熱や文化を生き生きと描き出します。主人公が村を回りながら出会う様々な人々との交流を通じて、彼らが抱える本へのこだわりや必要性が浮き彫りになり...

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代に本を売る仕事があると知らなかったので新鮮だった。本を求める人のそれぞれのこだわりとそれに応えようとする主人公を軸に静かに話は進んでいくが推理の要素もあり楽しめた。
    この時代に他にもどのような商いがあったのか興味がわく。

  •  先般電子書籍に関する本を読んでいたので、江戸時代の本屋の話を読んでみた。時代は文政年間、本が好きで本屋になった男が主人公。三つの中編からなる。

     「本売る日々」は、71歳の名主と後妻に迎えた女郎上がりの17歳の娘との関係を描いている。

     「鬼に喰われた女」は、和歌に関係した男女の関係を八百比丘尼伝説に絡めて描いている。この話が一番気に入った。

     「初めての開版」は、医学・医術の普及と進歩に関して開明的な医師の話である。ラストが清々しい。

  • 青山さんの作品を読むのは久しぶり。
    昨年の大河ドラマで取り上げられた、本屋が主人公の連作集。
    だが主人公・松月堂平助が目指すのは『蔦屋重三郎でも須原屋茂兵衛でも』なく、『物之本』の『開板』。
    そのために本を売りに様々な村へ出向く松月堂が出会う、様々な人々と出来事を描く。

    この頃の本の売買や出版、本の在り方についての一端が知れた。
    主人公が扱う『物之本』は特に貴重品だし取り寄せにも時間が掛かる。それを揃えるコレクターもいるが、単なる趣味ではなく文化として知識として、経済的価値だけではない財産として捉えられているのが興味深い。

    3話が収録されているが、それぞれドラマだったりホラーテイストだったり、ミステリー仕立てだったりと印象が違っていて飽きさせなかった。

    ただ個人的には行間があり過ぎて、ややアッサリしていた印象。もう少し深掘りして欲しかったところもある。
    最後の話が一番良かった。

  • これは、よかったぁ。と、読み終わった直後に思わず口ずさんでいた。全体的に澄んでいて穏やかで、読み進めるうちに霞がかったような”何でだろう?”がだんたん解けて行く。当時の本屋や医者がリアルでその世界に引き込まれていく。

  • ひとりで本を売り歩き、いつかは開版──新しく板木を起こして本を出すこと──を夢見る「私」と、彼が出会うお客たちの、本にまつわる出来事が描かれています。今と違って、本はとても貴重で高価なもので、限られた人たちの孤独な趣味だったようで、村々の名主は本屋が行商にやってくるのを首を長くして待っている。それほど、読書の喜びを共有できる仲間は少なかったのですね。
    江戸時代の本屋といえば蔦屋重三郎が浮かびますが、「私」は蔦重を手本にしていません。蔦重が扱う読本や浮世絵は、今でいう週刊誌やタレント本(私見です)で、「私」が扱う物之本は物事の本質への叙述が収まった本であり、今でいう学術書(これも私見)。そもそも必要な人が異なっているのです。歴史大河ドラマ『べらぼう』も面白かったですが、この小説は山田洋次監督に映画にしてほしいです。

    表紙の絵もしみじみと胸に沁みます。米を育てるのも大変だけど、本を売り歩くのも大変だったのでしょう。

  • 本の雑誌8月号ベスト4位に選ばれていたので気になって購入。
    やはり印象に残ったのは最終話。

    なぞの医者がなぜ名医として生まれ変わったのか、それを紐解いていく本屋さん。
    本屋さんの葛藤にこちらも心を揺さぶられながら読み進めていくと、最後は心暖まるお話。良かったね!本屋さん。

  • 流れる一冊。

    三篇からなる江戸時代の本の行商人の物語。
    時代を商いを矜持を…と、全てがバランスよく心に流れゆく至福のひとときを過ごせた。

    本を通じての交流、白昼夢のような出来事、ちょっとした不可解な謎を絡めながら人々の在り様、心が浮き彫りにされていく筆運びは時に小石が滞るような苦しみ、せつなさがありながらも、矜持なるものによってその小石が自然と退けられすっと清らかな水が流れる感覚を味わえた。

    中でも医者の矜持が導く松月堂の夢への清々しい流れが心地よい。

    財だけではない、心満たされてこその真の豊かさも伝わる読後感。

  • オール讀物2021年9,10月号本売る日々、2022年9,10月号鬼に喰われた女、3,4月号初めての開板、の3つの連作短編を2023年3月文藝春秋から刊行。江戸時代の農村を廻る本屋さんの連作短編。農村に暮らす人々の本にまつわる話だが、深く潔い独自の世界観が秀逸。人情や不可思議というテーマの機微のある自在な展開に驚きを覚えた。江戸時代の農村でなければ、表現できない話かも知れない。青山さん凄い。大久保明子さんの装丁も良い。

  • 本屋としての矜持から冷静ならまともではないと判断がつくであろう誘いに乗ってしまい借金を作ってしまった平助。そのお金を工面するためお得意さまに本を売りつつ返済に勤しむお話。
    だが借金返済はほぼ内容に関係しない。どころか私はそんなこと忘れていた笑。そしてそれで問題なかった。


    連作三編で人情的なものを芯にして、怪奇なもの(怖いというものではない不思議なもの)、そこにミステリが含まれたりする。
    初読みの作家さん+時代物だったが静かな話は基本好きなので嬉しい出会いでした。

    また本絡みの作品なのでやはり名著や古典などたくさんの作品名が飛び出したりそこに知ってるものが出たらニヤリとしたり知らないものは調べてみて感心したりそういった風にも楽しめました。

    そして昔は本が溢れているわけではなく、欲しい一冊の探し歩いたり、そもそも出回らない本や極度に冊数が少ない本もあったり。そのため一冊一冊との出会いに運命を感じたりし手にした時の喜びはどれほどだったろう。

    現代の、身近に本屋があったりネットで気軽に届く環境にも感謝したくなった。(最後に話逸れた汗)

  • 本当に凄い本だった。私が書店員だったら本屋大賞にこの本を投票したい。
    時代ものは苦手意識があったけれど、本を売る話が3遍で非常に読みやすかったし書物がいかに重要であったかも書かれていて共感できるところも多かった。
    何より「初めての開板」のラストは圧巻。
    本好きにはたまらない時代小説だと思う。

  • 恥ずかしながら初読みの作家さんです、
    今ほど本が潤沢でない時代の売り手、作り手、読み手それぞれの熱量に圧倒されました。
    序盤の伏線がラスト五行で回収。お見事。

    私も医療関係の末席辺りでウロウロする者です。淇一先生の医の心得に背筋が伸びました。精進いたします。

  • 初読み作家さん。
    本好きにはたまらない感じかも。
    主人公の本に対する知識や情熱がすごい。
    不思議な感じの作品もあり、全体的にバランスが良く読みやすかった。
    他の作品も読んでみたい。

  • 江戸時代の本屋さんが主人公。意表を突く設定に引き込まれる。その博学ぶりにも。庶民の暮らしぶりが鮮やかに目に浮かぶ。「立ち位置を踏み外さない事が肝要」「医は一人では前へ進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めてその先ヘ踏み出す者が出る。一人で成果を抱え込むのではなく、みんなで自慢し合わなければダメ」

  • こんな時代の捉え方があったと、まず驚かされた。
    書物を作るものたちについては読むことがあったが、それを売る人についての話は、私ははじめて出会ったので、とても新鮮だった。

    確かに、地方の、たとえば松下村塾などに、学問を学べる書物が豊富にあったのはなぜかと思い当たる。
    書物に通じ、それを届ける人があってこそだったのだ。
    ここに出てくるのは、名主や商人、町医者などだが、彼らもまた、書を好む人たちだった。顧客の要望を聞き、貴重な本を集め、提供する松月堂の店主の、書物に対する知識の豊富さと、確かな目。
    物語もドラマチックで、推理小説のように計算されていて、続きが気になり、引き込まれた。しかも江戸時代の小説らしい人情がある。
    このシリーズをもっと読みたいと思った。

  • 時は江戸時代。
    城下に店を構える私は毎月二回、在へ行商に回る。
    そこで出会う人々との関わりと、本への想い、人の情。
    謎解きあり、怪異あり、当時の生活と文化ありの3つの連作。
    ・本を売る日々・・・71歳の名主、弥兵衛が17歳の娘を嫁に?
       里になる山葡萄は自由に摘める森の山葡萄とは違う。
       あなたが変われたように、彼女を変えるのは、あなただ。
    ・鬼に喰われた女・・・東隣の国の八百比丘尼伝説を尋ねようと、
       向かう途中で出会った怪異。伝説を知る名主が語る
       真実は、50年の恨みか?それとも。
    ・初めての開板・・・隣国の姪が治療を受ける町医者は良医らしい。
       が、過去の人物像との違いは?名医と名高い村医者と
       交流することで、町医者の変化の境界を知る。

    借財があり、自分は一介の業者で、これは商いだと嘯く私。
    だが、物之本に対する想い、本に関する知識、
    客のために何年も掛けて京・大坂で探し出す情の深さは、
    本屋としての矜持をも感じさせられます。
    そんな彼が出会う人々との「知」の交流と、本屋ならではの
    視線で探る、謎や人の想い、怪異の物語。
    独特の間の取り方や淡々とした語りは、当時の生活や文化に
    添うようでした。在野や村にも「知」を求め、本を贖う人々が
    いること、彼らに本を運び、本談義の相手となる本屋。
    そのお互いの息遣いが感じられる作品になっています。
    特に「初めての開板」は、佐野淇一先生の言葉に思わず涙。
    これは私と、西島晴順への口訣なのかもしれない。

  • 城下に店を構え、四日ほどかけて二十ほどの村を行商して回る本屋、松月堂の主人平助が主人公。
    行商でまわるのは村の名主や寺や手習い所。そこで出会うさまざまな不思議で不可解な出来事たち。平助が「本屋」としてその不思議を解いていく。本屋ならではの視点、本屋ならではの解釈。
    本を扱うものとしての平助の姿勢に思わず背筋が伸びる。それが主ではないけれど、同じ世界にいるものとして本を売る者としての矜持に打たれる。平易に流される我が身を深く反省。
    得意先の主人に起こっている出来事、我が身に降りかかるわけでも巻き込まれているわけでもないのに、本屋として、本を扱うものとして、どうしても関わらざるを得ないその、不思議不可解な出来事。
    真摯に向き合うその姿勢。
    「本」というものが持つチカラ。「本」を作り出すことの意義。「本」を手渡すことの意味。
    本に関わる者全ての必読書。

  • 宮部みゆき以外にあまり時代小説は読まないが、本の行商が主人公なので手に取った。本を通じて思うことを色んな身分の登場人物が語るのが良かった。「初めての開板」が一番好み。

  • じんわりと心に染みる1冊。
    江戸時代の本屋は博識なのね、と感心してしまう。名主さんに本を売って歩く商売が成り立つという日本の文化水準の高さにも。
    この本は3編の中篇からなる。主人公は本屋の松月平助、城下に店を構えるが、行商も行う。物之本、物事の本質への叙述が収まった書物を扱い、裕福な名主などを訪ねていく。
    本売る日々、鬼に喰われた女(ひと)、初めての開板の3篇は異なる話ながら繋がっている。
    最後の「初めての開板」がよかった。
    迷いながらも必死に学び、人様の役に立ちたいと悩みながら仕事に励む医師の姿は現代人に通じる。知恵を独り占めしないで、より良いものにしていく事で人の役に立つようになるのだ、という村医者の言葉は大切だと思う。
    そして、そのために本を出して良いと言われて松月堂さんはとても嬉しかっただろうな。

  • 【収録作品】本売る日々/鬼に喰われた女/初めての開板

    江戸時代の本屋を主人公とした連作。
    今とは違う「本」の重みが感じられる。
    真にその価値を知る人たちの開かれた目が好もしい。「知」とは万人に開かれているものであるべきだが、いくら本を読んでも皆がそれに気づき、そのために尽力するわけではない。
    だからこそ、村名主の惣兵衛や藤助(トウスケ)、医師の佐野淇一(キイツ)、そして主人公の松月堂・平助のあり方に心惹かれる。

  • 江戸時代、強い愛情を持って本屋を営む主人公が、
    お得意先の本好きの人々と関わるなかで出逢う、人生の悲喜こもごも。

    紙や印刷技術が現代よりずっと高価な時代、
    本がまるで家宝のように丁重に丁寧に扱われていることに感じ入った。
    本屋は扱う本をよく吟味し、相手の理解にあわせて内容を諳じられるほど!
    本屋も職人であり、矜持がある。

    本を作る側にとっても、
    本を読む側にとっても、
    得た知識をちゃんと自らの血肉にすることは貴い。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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