藩邸差配役日日控

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 117
感想 : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916897

作品紹介・あらすじ

『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』の著者による、清冽なる時代小説

消えた若君と、蠢く陰謀
その時、男は――。

江戸藩邸の“なんでも屋”――藩邸差配役・里村五郎兵衛
誰にもできぬお役を果たすのが、勤めにございます


里村五郎兵衛は、神宮寺藩江戸藩邸差配役を務めている。陰で“なんでも屋”と揶揄される差配役には、藩邸内の揉め事が大小問わず日々持ち込まれ、里村は対応に追われる毎日。そんななか、桜見物に行った若君が行方知れずになった、という報せが。すぐさま探索に向かおうとする里村だったが、江戸家老に「むりに見つけずともよいぞ」と謎めいた言葉を投げかけられ……。

最注目の時代小説家が描く、静謐にして痛快な物語

感想・レビュー・書評

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  • 七万石を所領する神宮寺藩江戸藩邸にて、差配役の頭として取りまとめをしている里村五郎兵衛。藩邸の雑務全般をする藩邸の運営には無くてはならない潤滑剤のような役目。しかし陰では〈なんでも屋〉とも揶揄される。
    現代社会で言うところの総務婦庶務課帳といったところか。
    五郎兵衛の元には、藩邸内のあらゆる揉め事が持ち込まれる。上役の家老等からの命令に従い、配下の武士が何故こんなことまでやらなくてはならないのかと憤ることもしばしば。
    そんなときに五郎兵衛は「勤めというのは、おしなべて誰かが喜ぶようにできておると」と冷静に諭す。
    揉め事にも真摯に取り組む姿勢、上にも下にも気を配るデキる中間管理職の鏡。
    5作の連作短編だが、それぞれがゆるく繋がり、最後には読者を唸らせる内容。
    季節を感じさせる情景描写、舌舐めずりしそうな江戸の食、そして上手い構成。上質の時代小説だ。

  • いやはや、今作も読後感が清々しいったらありゃしない。「高瀬庄左衛門御留書」や「黛家の兄弟」よりもいくぶんライトな、というか通底する不穏ぶりがいくぶん比重薄めなという意味だが、五篇の各章ごとに物語が完結しつつ、全体通じた不穏さの種が少しずつ撒かれていって、というそのバランスが絶妙で、なんとも読みやすい。
    主人公の“左配役”、里村五郎兵衛のまじめだが、現実的で柔軟な対処もできる上役が、日々様々起こる問題に振り回されるのもクスリとさせられる(なんとなく中井貴一が一時期よくやってた役みたいなイメージといったらいいだろうか)。
    情景描写の素晴らしさも相変わらずで、季節や空気がすっと伝わって来る格調の高い文章は、読むだけで癒される。まさに読書ヒーリングだ。
    なにやら続編も期待できそうな内容なので、じっくり待つことにします。

  • 現代に置き換えると、面白さがそれほどでもなくなりそうな江戸ものの不思議。

  •  藩の政治対立を主題とした時代物でよくある設定ではあったが、差配役という藩内の「何でも屋」を主役に置いたことと短編をまとめた形で最終章までは日常の謎解き物の柔らかい雰囲気が醸し出されていて心地よかった。
     短編でいくと「滝夜叉」が特にお気に入り。長身と美貌という今だと誰もが憧れる女性像も江戸時代は異形のものとして嫉妬と争いの種になり安穏と過ごせない時代に五郎兵衛は武士としてできる範囲の解決策を授けてあげる。作者の各作品の主役はいつも血が通っていて深く彼らの感情に没入できるのが良い。このシーンも非常に誇らしい気分になれた。
     肝の最終章は淡々と終結し、物足りなさは感じられた。ただ、最後の次女の澪の出生の秘密と藩主世子・亀千代の恋心に対する五郎兵衛の誠実な対応には驚きと安堵、幸せな気持ちになる終わりだった。
     安西主税という若者が何か鍵を握っているかと思ったが、ただ剣術に長けた「今時の」若者だったのは少し拍子抜けだった。

  • 柔らかな春の日差しに包まれて、縁側でネコ抱きながらまったりと本に向き合っている心地。小鳥の囀りに、ふと顔を上げると芳しい春の気配をはらんだ風が吹き抜ける…相変わらず色、音、香、五感すべてに語りかけてくる文章。一幅の絵巻物眺めているような心地良さ。

  • じんわりと効いてくるお話し。面白かった。

  • 久しぶりの砂原浩太朗。
    5編の短編からなる連作小説
    砂原浩太朗は正統な藤沢周平の後継者と思っているが
    今回の作品にはすこし違和感を感じた。
    一つは無理に使用しているように感じたいくつかの熟語。砂原浩太朗はしっとりとした滑らかな文章を書くがそれらの良さをあまり使われないような熟語が異物のように邪魔をしている。
    また、理不尽な選択を余儀なくされ結局それに従うのが武家物のありようだと思うが
    その選択肢があまりに現代的で武家社会では考える余地がないはずの要求だった。
    もうすこし違った展開がなかったかと残念に思う。
    とはいえ、ほかの小説ではほとんどしないぐらい1行1行を丁寧によみ、時には戻りながら読書できるのはいま砂原浩太朗だけだ。次の作品を楽しみに待ちたい。
    神宮寺藩と聡明すぎる若君の今後も期待したい。

  • 【注目の時代小説作家によるニューヒーロー、登場】江戸の総務部総務課――藩邸差配役には日々、大小さまざまな厄介事が持ち込まれる。ある日、「若殿が消えた」との報が……。

  • 神宮寺藩江戸藩邸。江戸家老と留守居役の派閥争いに巻き込まれた差配役・里村五郎兵衛の物語。
    主人公はもちろん脇役たちの造形が見事です。英邁な若君、活発な末娘、おろおろする部下の野田、奥の取りまとめ役の峰尾、端役に至るまでくっきり立ち上がっています。もっとも、どこか茫洋とした味わいの若手・安西はもう少し活躍させたかった気もしますが。合間合間に季節の移ろいを示す花や鳥があしらわれ、時代小説らしい雰囲気を出しています。
    謎めいた仕掛けが2重に掛かっていて、それが最後の短編で一気に解き明かされます。なるほどそう来ましたか。
    だた、最初に仕掛けたミスリードはやり過ぎかな。最後の短編の主人公の行動も、少々疑問が残ります。
    とは言え、一気に読み切らせる力を持った良い作品ですした。
    砂原作品としては軽快なエンタメ路線の時代小説です。シリーズ化も良さそうですね。

  • 評価:4にしたのは砂原作品だからこそ。前2作の「高瀬庄左衛門御留書」「黛家の兄弟」が素晴らしすぎて、その比較の意味でほんの少しだけ落ちるかなと。いつもながらの筆致に酔いしれつつも、今回のプロットは結構手前でわかってしまったのも少し落とした理由。とはいえ、ミステリーが主のお話ではないのでそこは些末事。3作品とも傑作で多くの読者に読んでほしいのは変わらず。。

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著者プロフィール

1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。2021年『高瀬庄左衛門御留書』で第34回山本周五郎賞・第165回直木賞候補。また同作にて第9回野村胡堂文学賞・第15回舟橋聖一文学賞・第11回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞、「本の雑誌」2021年上半期ベスト10第1位に選出。他の著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』、共著に『決戦!桶狭間』『決戦!設楽原』『Story for you』(いずれも講談社)、また歴史コラム集『逆転の戦国史』(小学館)がある。

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