青春をクビになって

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163917467

作品紹介・あらすじ

夢の諦め方は、誰も教えてくれない「雇止め」という冷たい現実を前に、研究を愛するポスドクが下した決断とは――。青春小説家が描く、青春の終(しま)い方。社会に横たわる痛切な苦みを描く、著者新境地。 瀬川朝彦、35歳。無給のポスト・ドクターである。学生時代に魅了された古事記の研究に青春を賭してきたが、教授職など夢のまた夢。契約期間の限られた講師として大学間を渡り歩く不安定な毎日だ。古事記への愛は変わらないが、今や講師の座すら危うく、研究を続けるべきかの煩悶が続いている。 そんな折、ゼミ時代の先輩が大学の貴重な資料を持ったまま行方不明になってしまうという事件が。45歳の高齢ポスドク”となっていた先輩は、講師の職も失い、なかばホームレス状態だったという。先輩は資料を「盗んだ」のか? 自らの意志で「失踪」したのか? そして、朝彦の下した将来への決断は?

感想・レビュー・書評

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  • 古事記の研究者である朝彦は、5年というリミットを待たずして雇い止めを言い渡される。
    ポスドクというと、その響きから知的でスマートなイメージを持っていたけど、現実は想像以上に厳しそう。皆さん、金銭面でここまで追い詰められているの?と驚いた。
    研究対象が古事記というところが、より状況を難しくしているのだろうか。
    大学時代からの友人栗山の会社でレンタルフレンドのバイトをしながら、この先の生き方を模索する朝彦。
    そこに先輩の小柳の失踪事件も加わり、後半はなかなか重苦しい展開に。
    本人がいくら努力しても報われないことってやっぱりあるけど、好きなことを諦めることも難しくて….
    。そんなモヤモヤを一緒に味わいながら読了。
    そして、今もモヤモヤ。
    人生に無駄な事なんてない!と信じたい。

  • 夢の諦め方は、誰も教えてくれない「雇止め」という冷たい現実を前に、研究を愛するポスドクが下した決断とは――
    と本の帯に書いてある。息子たちが理系だったために、今までポスドクというと理工系の学部しか念頭になかったので、主人公・瀬川朝彦が古事記を研究しているとあり、膝を打った。彼らは就職氷河期世代だった息子たちと重なる。
    朝彦は契約期間の限られた講師として大学間を渡り歩く不安定な毎日に、今や講師の座すら危うく、研究を続けるべきかの煩悶を抱えている。
    同期の栗山は2年前にアカデミックの世界から足を洗い、33歳の時に学部卒の子達と一緒に新入社員となるのが嫌でレンタルフレンド(友達代行の人材派遣サービス会社)を起業した。その会社名がフランス語で桃を意味する”ラペーシュ”というのは、さすがに古事記の研究者のことはある。
    そんな折、2人が尊敬していた、ゼミ時代の先輩が大学の貴重な資料を持ったまま行方不明になってしまう事件が起きる。45歳の高齢ポスドク”となっていた先輩はなかばホームレス状態だったというが、果たして先輩は資料を「盗んだ」のか、自らの意志で「失踪」したのか?
    長男もちょうど彼らと重なる時期に院生となっていて就活に苦労していたので、文系だったら尚更だっただろうと想像できた。第三者となり文系の私には盛り込まれているエピソードや登場人物の姓など、興味深く面白かった。
    古事記を通して読んだことがない私が言うのもおこがましいけれど、やる気のある若い研究者たちは海外を目指し知識や技術が流出していると聞く現在、繋ぎとめる方策はないのだろうか?
    ”青春をクビになる”というタイトルもシニカル!

  • 僕もポスドクの就職に苦しんだので、主人公と似たような思いをしました。
    ボランティアの炊き出しで、ボランティアの人が気を使い、「このままだと余ってしまいそうなので、良かったら食べてしまうの手伝ってくれませんか」と言われるエピソード。言われるがままに食べさせてもらい、「もしあのように誘っていただけなかったら、手をつけられませんでした」と感謝を述べる場面で、涙が止まらなくなりました。蕎麦屋に残された貴重な古事記の本を見つけるところでも。

    後で仕事がないことがわかっているのに、学問の道を早いうちにあきらめさせない、罪作りな仕組みは本当に許せないし、だからこそ早めに自分で決断するしかないのだろうとも思います。

    物語として、「友達」派遣業のアルバイトを通じて、たくさんの出会いをもたらし、学問を追求する道を他者の目で見つめさせる展開にした額賀さんのプロとしての技はさすがです。ふつうにポスドクのつらい日々をそのまま描いたら、こんな読後感にはならなかったでしょう。自分で納得して、これから生きていく道をちゃんと選べるようにさせてもらったのは本当に良かったです。
    また先輩の人生というかたちで、厳しい現実をつきつけたのもとても効いていたと思います。

    お金にならない分野で大学院に進もうと思っている人に、ぜひ読んでもらいたい本です。

  • Amazonの紹介より
    瀬川朝彦、35歳。無給のポスト・ドクターである。学生時代に魅了された古事記の研究に青春を賭してきたが、教授職など夢のまた夢。契約期間の限られた講師として大学間を渡り歩く不安定な毎日だ。古事記への愛は変わらないが、今や講師の座すら危うく、研究を続けるべきかの煩悶が続いている。
    そんな折、ゼミ時代の先輩が大学の貴重な資料を持ったまま行方不明になってしまうという事件が。45歳の高齢ポスドク”となっていた先輩は、講師の職も失い、なかばホームレス状態だったという。先輩は資料を「盗んだ」のか? 自らの意志で「失踪」したのか? そして、朝彦の下した将来への決断は?



    額賀さんの作品というと、高校生や大学生の部活を舞台にした青春小説が印象的ですが、今回はポストドクターと言われる大学院博士課程修了から助教になるまでの期間で、教授などの大学教員になるための、短期的なトレーニング期間と紹介されているところもあります。

    非正規ではあるものの、憧れの職に就いたものの、厳しい現実に苛まれる主人公の心情に痛感させられました。
    読んでいて頭に浮かんだのは、額賀さんの別作品「転職の魔王様」。転職アドバイザーが奮闘する物語で、様々な転職希望の人と話しています。アドバイザー側を中心としているので、転職希望者側の主張は一部分でしか紹介されていませんでしたが、この作品は「一人」をじっくりと描いています。

    安い賃金や非正規、途中で打ち切られるかもしれない状況の中で、30代という年齢でこの先このままでいいのか。
    好きな分野なのに、それを捨てていいのか。
    前を走っている同じ状況の先輩の姿を見て、これでいいのか。
    など「今」と将来に対する色んな葛藤が丁寧に描かれていて、痛感させられました。

    業界は違えど、先輩達の軌跡を見て感じる将来に対する不安はとても共感しました。
    自分も夢を目指そうと奮闘していた時、まだ「昇進」していない⚪︎年後の先輩の姿を見て、
    「自分はあんな姿にはならない」
    「もしかしたら、自分もああなるのでは⁉︎」
    といった不安に駆られた記憶があります。

    また、その職が低賃金なため、別のバイトをすることになるのですが、そのバイトの賃金がその職よりも高いことで、また心の葛藤が生まれるということがこの作品にも登場します。
    好きなことを選ぶのか。お金を選ぶのか。当時の自分の心の状態を読んでいるようでしみじみと感じました。

    そういった心理描写を楽しむだけでなく、先輩が失踪するというミステリーな要素もあります。
    なぜ失踪したのか?なぜ盗んだのか?
    章の合間合間に、第三者目線で「先輩」の姿を描いているのですが、なんだか切なくなってきました。
    結局、真実はモヤモヤなのですが、現実を突きつけられたようで辛いなと思いました。

    夢を途中で諦めることも大事であり、夢が絶たれたとしても、今までの才能や経験を活かしてできる仕事もあります。
    それを見極めるのも自分。視野を広げて、より良い人生を送りたいなと思いました。

  • 感想
    自分のしたいこと。追いかけるのが青春の醍醐味。だけど現実の生活がもっとはやく追いかけてくる。新しい道を自分で切り開く。壮年期の入口。

  • 好きな作家さんなのに、私が色々としんどい時期のせいか
    読み進めるのが難しく何度も苦しくなった。
    でもいくらか未来のある終わり方で良かったと思う。

  • 【青春小説家が描く、青春の終(しま)い方】「雇止め」という冷たい現実を前に、研究を愛するポスドクが下した決断とは――。社会に横たわる痛切な苦みを描く、著者新境地。

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著者プロフィール

1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2015年、「ウインドノーツ」(刊行時に『屋上のウインドノーツ』と改題)で第22回松本清張賞、同年、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞する。著書に、『ラベンダーとソプラノ』『モノクロの夏に帰る』『弊社は買収されました!』『世界の美しさを思い知れ』『風は山から吹いている』『沖晴くんの涙を殺して』、「タスキメシ」シリーズなど。

「2023年 『転職の魔王様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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