月ぞ流るる

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163917788

作品紹介・あらすじ

紫式部が生きた平安中期を描く、豪華絢爛宮中絵巻。

日本初の女性による女性のための歴史物語『栄花物語』の作者である朝児(赤染衛門)からみた宮廷はどんな姿をしていたのか?

宮中きっての和歌の名手と言われる朝児(あさこ)は夫を亡くしたばかり。五十も半ばを過ぎて夫の菩提を弔いながら余生を過ごそうとしていたが、ひょんなことから三条天皇の中宮妍子の女房として再び宮仕えをすることになる。

宮中では政権を掌握した藤原道長と、あくまで親政を目指す三条天皇との間には緊張が入っていた。道長の娘の妍子が、将来天皇となるべき男児を出産することが、二人の関係に調和をもたらす道だった。しかし、女児が生まれたことで、道長は三条天皇の排除を推し進めていくことになる。

朝児は、目の前で繰り広げられるきらびやかながらも残酷な政争に心を痛める。なぜ人は栄華を目指すのか。いま自身が目にしていることを歴史として書き記すことが自らの役目ではないのか。そこで描かれるのは歴史の勝者ばかりではない。悲しみと苦しみのなかで敗れ去った者の姿を描かねばならない。その思いの中で朝児は筆を取る。

感想・レビュー・書評

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  • 赤染衛門から見た宮中絵巻の一冊。

    三条天皇の中宮、姸子の女房として再び宮仕えをすることになった朝児(赤染衛門)の視点で、藤原道長vs三条天皇の政争、御簾の向こうの宮中絵巻を描いた物語。

    ほんのりミステリ要素を含みながらの惹きこまれ感は文句なしの味わい。

    帝の排斥しか頭にない道長の豪胆さのその裏で流される幾つもの涙は否応なしに胸を打つほど。

    それを目の当たりにした赤染衛門は何を感じ、自分はどうすべきか…逡巡しながら、物語の存在意義へと辿り着く描き方が良かった。

    板挟み、駒にされた女たちの哀しみあっての平安時代を実感。

  • 平安時代をバックにした作品を2作続けて読む。本作の主人公は『栄花物語』の作者として知られている赤染衛門(あかぞめえもん)。小説中では朝児(あさこ)と呼ばれていた。「のち更に咲く」に登場する紫式部はさりげなく客観的な姿勢、しかし本作ではしきりに朝児に書くことを勧める。
    比叡山の御坊・頼賢(訳ありで寺に預けられた)はしょせん絵空事と”物語”に不服を唱える。式部は「物語とはありもせぬ話を書いているふりをして、世のあらゆる出来事を防ぐ手立てなのじゃ」と云う。更に「物語の中には、人が一生で味わいきれぬほどの喜怒哀楽が存在する。どんなに哀しい経験も物語の世界に照らし合わせれば、それはすでにあったことであり、これからもあり続けるのものでしかない。ほんの数十年の生涯を生きることしかできぬ生身の人間にとって、その事実は生きる上で何より心強いことなのだ」と力説。そして赤染に「あまたの史書を読んでいるそなたであれば『源氏物語』を超える物語を書けぬはずがない」とせっつくのだ。
    文章博士となった菅原宣義は「史書とはただ過ぎ去った日々を記しただけの、退屈な書物ではありません。今生きる我々が何者であるかを告げ知らせ、生きるべき道を教えてくれる何物にも代えがたい道しるべ」と語っている。
    いつしか赤染は、史書にして史書にあらず、物語にして物語にあらざる書物であれば、私にも書き記すことが叶うと思い始めるのだ。
    『栄花物語』は未読だが、繰り広げられる政争に心を痛めながら、今、目にしていることを歴史として書き記すことが自らの役目と、筆を執った赤染の心意気が伺える。
    朝児の親子論も印象的だった。血のつながりを持たない息子の挙周が朝児との仲を盲目的に信じる一方で、頼賢は血のつながりがある実の親・頼定の挙動に微塵も関心を持たないのだ。血ゆえに生じる執着がなければ、人はどれだけ楽に生きられることかと、結んであった。私も同じように感じる時がある。

    車が牛車に見えるぐらいにどっぷり浸かってしまった。当時は牛車を入れる車庫らしきものも設えてあったらしい。牛車の下部に十二単の着物の端を少しだけ見せていたという和泉式部、華やかに彩る着物を翻しながら牛車が行き来する界隈を想像する初夏。

  • 藤原道長と三条天皇が勢力争いをしている様子を、その周りにいる三条天皇の妻で道長の娘である姸子(けんし)やその女房、とくに学者家系に生まれた朝児(あさこ)とそのもとへ学習のためやってきた頼賢(らいけん)などの目から真実がどこにあるのかをあぶりだすような内容。頼賢の育ての親、原子(げんし)が謎の死をとげた真実はなにか、というところが説かれていくのが話の中核となっていくのだが、とくにそれにこだわらず、栄華を求めて生きることへの冷静な観察眼の方が主テーマのような話だった。つ・ま・り、全体を通して展開が平板で、一見してわからない445ページ(紙が薄いのか?)を読み切るのはなかなかに骨が折れました。でも、しっとりと全編面白かったです。目先の面白さがなくても好きで読む方向け。
    内容がかなり難しいので高校生くらいから?でも、彰子や道長出てきて、日本史と直結しているので中学生でも読書好きなら大丈夫です。

  • 百人一首で見かける名前。あるいは「栄花物語」の作者として教科書で見かける名前。
    その程度の知識しかなかった赤染衛門、その人の物語。
    2024年の大河で描かれる紫式部が白髪交じり姿というのも新鮮だけど、絢爛豪華な平安時代の宮中の物語なのに主人公が50代後半というのも意外といえば意外だったり。
    その赤染衛門が女性向きの歴史書「栄花物語」をなぜ書こうとしたのか、そしてそこに何が描かれているのか。此の世をわが世と思うと言ってのける傲慢極まりない藤原道長が権力の頂点に達してもなお手に入れようとしたもの、心身ともに追い詰められ限界を超えながらも道長に抵抗を続ける居貞が帝位を譲ろうとしなかった、本当の理由。そしてそこに生まれたとある事件の真実。このある意味ミステリ的要素が読ませるんだな。真実が知りたくて朝児と共に最後まで駆け抜ける。
    複雑怪奇な平安時代の人間模様。物語だからこそ描ける栄華の陰の悲しみ。華やかさの裏にある嫉妬や策略陰謀に翻弄されながらも、人と人との間にあるまっすぐな感情に触れて涙。

  • 許される限り、この世のありとあらゆる物をこの目で見ておきたい。
    そしてそれを書き記して世の人々に知らせたい、という「物書きの業」
    人々はどのような読み方をしてくれるのか、密かに込めた真意を汲み取ってくれるだろうか?
    紫式部が、清少納言が、そして赤染衛門が抱いたそんな思いを、作者も胸に抱いているに違いない。

    『栄花物語』を著した、赤染衛門の物語。
    憎しみに身を焦がし、復讐だけを生きる糧とする乱暴な若き僧だった頼賢(らいけん)の成長と、
    夫・大江匡衡(おおえのまさひら)亡き後、叡山の高僧・慶円に請われるまま、訳ありの頼賢を学問の弟子とした朝児(あさこ)こと赤染衛門が、権謀術数渦巻く宮城の歴史を見たままに書き留めようと決意するまで。

    世は、藤原道長vs三条天皇。どちらに着けば己の身が安泰か、朝堂は二つに割れている。
    平安絵巻はきらびやかな地獄絵図である。

    有明/上弦/十日夜(とおかんや)/小望月(こもちづき)/十六夜(いざよい)/暁月(あかつき)

  • 光る君へを観ているので
    設定の違いなど面白い。

  • 人はとかく、目を惹くものばかりを信じがちである…人目にはつかねど内心で案じている者は幾人もいる…p.336
    順調でなかったり不幸だったりどん底では辛く悲しく孤独に陥ったりしたこともあり、そんなこともあったときには静か〜
    に寄り添ってくれる優しさもあったなと…この本を読み終え改めて思い心温もる。
    頼賢の生い立ちには辛いこと悲しいことが多々あったけど、受けた優しさは心に染み込んでいいて、朝児との出会いが転機となり難ありながらも良い方へ成長していくののが微笑ましく嬉しく読み進めました。
    この物語の三条天皇の妃達の心内は平安時代の姫で卑しくないのがよかった。

  • 初めて澤田瞳子さんのこの本を読みました。
    そこに居られた人々の懊悩や優しさ、その時代の設いが文章が流れるように美しいですね。
    物語をどう伝えようかが 作者と朝児が交差している様子が垣間見られ 一体化していくようで素晴らしかった。
    三条天皇のことや栄花物語、他の読みつがれいる物語を是非読んでみようと思います。

  • 主人公は大河ドラマ「光る君へ」にも登場する栄花物語の著者赤染衛門こと朝児(あさこ)。権勢を誇る藤原道長と対立する三条天皇をめぐる、平安京内裏が舞台の物語。権力争いに利用される姫君が健気でもあり、哀れでもある。もう一人の主人公が、比叡山の僧、頼賢(らいけん)。三条天皇の妃の一人が、他の貴族と不倫の末生まれ、早くに親から見捨てられたが、やはり三条天皇の妃のひとり、原子(げんし)に養育され、原子が毒殺(という噂)された後は比叡山に預けられたという生い立ちを持つ頼賢。いくつかの遍歴の後、三条天皇に仕える身となる。天皇が中心、貴族たちが覇者を争うその様を、ありのまま書き記そうと決意する朝児が目にする様々な内裏の出来事。なかなかに興味深い。
    何かというと、火付、放火で人心を操ろうするさまが、おぞましく、慄然とさせられた。

  • 2024.9.26
    大河ドラマにも登場した赤染右衛門が主人公。栄花物語が書かれた理由の物語であり、女御の死の謎を追うミステリー仕立ての物語でもあります。藤原道長の凄味のある人物像がリアルです。政争の具とされる女君の哀しみや父と子の確執、帝の懊悩などが描かれ、心が揺さぶられました。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

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