アイスネルワイゼン

  • 文藝春秋 (2024年1月12日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784163918129

作品紹介・あらすじ

第170回芥川賞候補作。32歳のピアノ講師・田口琴音は、さいきん仕事も恋人との関係もうまく行っていない。そんな中、ひさびさに連絡をとった友人との再会から、事態は思わぬ方向へ転がっていくーー。静かな日常の中にひそむ「静かな崖っぷち」を描き、心ゆすぶる表題作。そして選考委員の絶賛を浴びた文學界新人賞受賞作「アキちゃん」を併録。
「すべての結果としてこの作品は、新人離れした堂々たる手腕を示すことになった」(川上未映子氏の選評より)

感想・レビュー・書評

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  • 第170回芥川賞候補作。

    タイトル「アイスネルワイゼン」は「ツィゴイネルワイゼン」のもじり。本筋に関連あるようなないような微妙なワード。

    とても居心地というか座り心地というか読み心地が悪い小説。そういう意味では芥川賞候補作っぽいと言える。
    面白く読めました。

    主人公が性格悪いんですよ。
    でも、読み始めはわからない。いかにも普通の人のふりしている。
    だんだん本性が現れて嫌われていく人いるじゃないですか。まさしくそんな人。

    主人公の視点で小説を読んでいて最初は感情移入しているから、途中から違和感が急上昇。あれあれあれ…って。

    読んでいて、「自分ってそんなに無垢で純粋で正しくないんだー、悪いやつなんだー」と思い知ってショックを受けた若い頃を思い出した笑

    併収されている「アキちゃん」も秀逸。
    実は〇〇ではないアキちゃん。

    感情というものがじぶんのものでありながらじぶんのものでないことをよくわかっていないと、けっこう、やっぱ大変だよね。

    ♫蝶々(グリーグ)

  • 仕事先で理不尽な要求されたり、馬鹿にされたりする不条理な話だと思ってたのに、端々に主人公の毒を吐き出すシーンが出てきて、ラストには暴れちちらかして元に戻るのが不可能な所まで突っ走る爽快な終わり。
    どんどん面白くなっていくあんまり感じたことのないワクワクを体験出来た、主人公が1番狂っている人だということははじめ分からないので徐々に本性を表してからがめっちゃ面白いです。

    もうひとつ短編が付いてますがこっちは普通かな。

  • 32歳の琴音の友だちとのやりとり、元彼⁇とのやりとりに気持ちがついていかない…。
    彼女、しんどくないなのかな⁇と思ってしまう。
    哀しくて息詰まりそう…と感じてしまう。

    「アキちゃん」も最初はよくある小学生同士の揉め事かなって思いながら読み始めたけれど、アキちゃんって実は男子だったの⁉︎と。
    アキちゃんがどういう大人になったのか、知りたいなぁ。



  • アイスネルワイゼン 文學界10月号 | ちょい読み - 本の話(2023.09.19)
    https://books.bunshun.jp/articles/-/8250

    [多士才々]感情描くこと醍醐味 作家の三木三奈さん | 沖縄タイムス+プラス(2020年9月17日 有料記事)
    https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/633503

    『アイスネルワイゼン』三木三奈 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163918129

  • コミュニケーションが上手く取れずに他人とすれ違い続けるピアノ教師のクリスマスの1日が描かれた作品

    登場人物がみな自己中心的で歪んでいるため
    読んでいるだけで具合が悪くなる
    会話文が多くかなりライトに読めるためすぐ読み終えたが終始胸がしんどかった
    人間の底意地の悪さみたいなのをうまく描いている

  • 文學界10月号掲載

    ⚫︎受け取ったメッセージ
    大人の対応も限界あり。
    いい人、悪い人って単純に決められない


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    第170回芥川賞候補作。32歳のピアノ講師・田口琴音は、さいきん仕事も恋人との関係もうまく行っていない。そんな中、ひさびさに連絡をとった友人との再会から、事態は思わぬ方向へ転がっていくーー。静かな日常の中にひそむ「静かな崖っぷち」を描き、心ゆすぶる表題作。そして選考委員の絶賛を浴びた文學界新人賞受賞作「アキちゃん」を併録。
    「すべての結果としてこの作品は、新人離れした堂々たる手腕を示すことになった」(川上未映子氏の選評より)

    ⚫︎感想(ネタバレ注意)




    最後まで一気に読める。ほぼ会話と思考で表現されていて、読みやすい作品。琴音は、嫌だと思うことがあったり、言われたりしても、我慢して大人の対応をするのだが、もう限界となったら、本音を言う。その落差が印象的。彼女は一度も人生で本当に「愛すること」「愛されること」がなかったのかな、という印象も受けた

    ありそうなマウント取り、厄介なシチュエーションやらが満載で、大人は大人の対応してるけど、実際はイラッとしてたり、きっと他人にさせたりしてるよなぁ〜なんて思いあたることがあり、程度の差こそあれ誰もが共感できるところがあると思う。

    言いたい放題してくる小林、周りくどい感じの優、母にもついにキレる、ピアノ教室に通う子の母にも決別。恋人にも取り付く島もない。最後にほんの少し救いの兆しか、気持ち回復の兆しがあってほしかったなぁとは思った。

  • アイスネルワイゼン
    琴音の、苛立ち、揺れ、仮面、悪意、不本意な選択…。上手くいかない日常に潰されそうな、どうしようもない状況。
    このどうしようもなさを諦めず超えるには大きな苦しみを伴う。完全に壊れてしまわないように自分を大切にし、時間をかけて超えて欲しい。そして、苦しんでいるからこそ、彼女の弱さや、脆さ、浅はかな行動が、優しさ、強さ、思慮深さにいつか繋がって欲しい。でもやはり、できれば全てをそのまま包み込んでくれる信頼できる人に出会えることを祈る。

    アキちゃん
    「人を憎むということは、ほとほと疲れ果てることなのだ。 それは火柱を遠くからながめることではなく、自らを燃やして火柱をつくることなのだ。燃料さえも自足しなければならず、そうしなければほんとうに憎しみ抜くことはできない。こんなに邪魔くさく、気の滅入るものはないだろう。憎しみはつねに憎む対象への情熱をためしている。そして習慣的に人を憎んだことのあるひとならわかってもらえると思うが、ほとほと疲れ果てる憎しみを習慣にしだすと、憎しみの根本である怒りや悲しみはもはや怒りや悲しみではなくなってしまう。それは虚無になりさがるのだ。」
    身体と心、家の状況、兄のこと、アキちゃんのたくさんを知り、蔑みや見下しも気持ちをコントロールすることである程度をかわしている。そして憎しみを持ちつつ気になって仕方がない。
    人と関わりを持つあり方は様々だけど、憎しみに支配されないようにはしたい。

  • 静かに嫌味が堆積していく感じ。悪意に気付いてて、でもおバカでピュアで気付かないふりをすることってたまにある。それの積み重ねに耐えられなくなった主人公の話。
    二篇とも本ならではのミスリードをされてしまう。ん?ってなった。

  • 文學界10月号より
    ほぼ、会話形式で進むので、非常に読みやすく、サクサク進む。感想としては登場人物達にほぼ共感できないようで、気づいたら共感してしまっている自分がいた。
    終始不穏な空気の中、物語は進み、足場の崩壊寸前な感覚に、ハラハラした。
    主人公の幼児性もさることながら、出てくる人達にまともな人は少ない。
    でも、文章でみる危うさは、至って普通の日常であることに気づく。
    凄く面白かったのは、間違いないが、佳作感は否めない。

  • 主人公の暴言が気になった。



    自分より、弱者の友達には、相槌をうちながら

    優しい言葉をかけながら、

    相手の幸せにジェラシーを感じると

    チクリと意地悪なことを言ったり。



    自分と対立する友達には

    敵対モードで、暴言。



    自分より上の立場の女性には

    へいへいと、したがって、

    なんでもかんでも

    謝ったりするけれど

    心の中で、「ババア」と言って暴言。



    読んで、嫌な感じが残ったんだけれど

    たぶん、自分達、一人一人にも

    おおかれ、少なかれ

    対応する人によって

    言葉や態度

    少し変わってしまうような

    本質的な、人間の問題があるのかも。



    会話が多く

    それが物語をすすめているので

    すらすらと、読むことはできました。



    哀しみのノクターン

    というように

    やはり、主人公には

    自分でどうしようもない

    哀しみが心の中にあるのかも。



    その哀しみが、

    自分にとって理不尽だと感じたときに

    心が爆発して、暴言、嫌味、皮肉

    そんなことを

    つい、うっかり言ってしまうのだろう。

  • 以下ネタバレ含みますので、注意。



    「アイスネルワイゼン」

    きれいな響きのタイトルとは裏腹に、足が泥沼に沈んでいくような、ゆっくりした重さがのしかかる。

    中盤、琴音が友人の優の家を訪れる場面で。
    絵に描いたような美しく幸せな家庭を築いている優たちに羨望するというより。
    途中から、そんな理想の家族が〝美しく在りたいがゆえに〟綻びを見せていくように感じた。

    夫に対する声の掛け方が荒くなったり。
    琴音に対して、妻であり母になることの、先輩風を吹かせてみたり。

    そんな夫婦、家族に、琴音は知らず、凍りつかせるような言葉を放つ。
    この場面であれば、きっと敬遠されるのは琴音の方だろう。

    でも、私はそんな琴音のうまくいかなさが、琴音自身が自覚する歪みが、イヤではなかったりする。
    自分の持っている荷物を、ぞんざいに放り投げたくなったり、それでいて、やっぱり手放せず、重さに泣き出したくなったり。

    ラストシーンの琴音の姿は、自分に似ている。

  • 第170回芥川賞候補作『アイスネルワイゼン』
    いろんな話が交差して気持ちが溢れていく描写が上手だった。

    文學界新人賞受賞『アキちゃん』
    残酷。自らのカルマを清算したという言葉が印象に残った。
    良いことをしたら良いことが、悪いことをしたら悪いことが返ってくる。

  • 表題作の「アイスネルワイゼン」は、差別的表現かもしれないが、女性の振る舞いの怖さを表現しているように感じた。本音と建前を越える本能的な行動のように思え、そこに人間の業を感じる。私には刺激が強すぎてクラクラした。著者が文學界新人賞を受賞した「アキちゃん」も収録。こちらは、途中からの違和感が最後にすっきりするわけではなく、こちらも救いがない作品だった。悪い意味ではない。記憶に残る作品だった。

  • 芥川賞候補作の「アイスネルワイゼン」では、諸事情あり会社を退職したピアノ講師・琴音が主人公。生徒、友人、仕事先、それぞれの相手と厭な含みを感じさせる会話のやりとりが巧みだと思った。適当に生きているように見える人も、実は重たいものを一人で抱えながら地獄を歩いているのだろう。ラストは急に安倍公房みたいでちょっと笑ってしまった。
    文學界新人賞受賞のデビュー作「アキちゃん」は、小学5年生時のクラスメイト・アキちゃんに対する主人公の恨みつらみが綴られていく。性格の悪いアキちゃんのサンドバッグ的役割を担わされた、転校するまでの暗黒の1年間。叙述トリック要素があってやや驚かされた。
    二作とも盛り上がりやカタルシスには欠ける坦々としたストーリーなのであまり言及できるところが無いのだけど、この静かな狂気を感じさせるテイストはとても好みなので今後も新刊がでたら読んでみたい。

  • 不思議な世界観に引き込まれるけど、どうしても琴音に感情移入できなかった。どこか他人事みたいで、温度差を感じた。音や空気の描写はきれいだし、言葉のリズムも心地いいけど、自分とはちょっと合わないタイプの物語。

  • 怖かった…

  • 第170回芥川賞候補作

    純文学好きのYouTuberさん達が絶賛していたので、手に取ってみた。

    私にはまだ深く物語を読み取ることはできない。
    だが、思ったことをつらつらと残す。

    ピアノ講師の琴音。
    高校時代からの友達の小林との会話は、仲が良いからか辛辣すぎる言葉がかわされる。ピアノを教える子供の母親からは琴音への間違った信頼の印象を受ける。よし子という歌手の伴奏のバイトを受けるが、よし子からは横柄な態度や言葉を浴びる。その後、お呼ばれした、目が見えなくなってきている中学生の時の同級生の優の家にいく。彼女は優しいが、その優しさが琴音を追い詰める。優しいと言っても、人からは踏み入れられたく無いところがあるのに自分は人の領域に踏み込む。高校の時の同級生に久しぶりに連絡を取ってみるが、そのかっちゃんは亡くなっていた。妹さんからの返信でその事実を知る。その夜、遠距離恋愛中?の原田に会いに行くが、、。

    全てがうまく行かない、人との関わりが辛い。

    些細なことの積み重ねで、不満や怒りが生まれ、嫌悪感が生まれ、孤立してゆき、寂しさを感じる。

    亡くなった同級生かっちゃんが病気がちの妹さんに以前送った音楽がアイスネルワイゼン。ツィゴイネルワイゼンをもじったもの。変イ長調の夜想曲。音楽に疎いので変イ長調がどんなのか不明だったので調べてみた。
    明るい感じの曲ではなさそう、、。

  • 仕事では不得手なことを任され悔しい思いをして、好意でプレゼントすればかぶるし、妊娠かもって不安を煽られるし、恋人とはうまくいかないし、発表会にゆあなちゃんを出させようとするお母さんにマンガ教室をすすめるのは、こじれた小林に再度連絡とりたくないからだし、亡くなった加藤美咲との思い出にビッグマックを買おうとすれば販売してないし、あれもこれもうまくいかずなかば自暴自棄になって人生が追いつめられていく感じで読んでてツラかった。

    ラスト。
    キャリーケースの中身を空っぽにして髪形も変えて心機一転やり直そうと決意したとき、
    そこで不意にアイスネルワイゼンのメロディが鼻歌になって出てきた。
    もう亡くなったかっちゃんに弾いてもらうことができないことを痛切に実感し、助けてほしいのに素直に助けを求められない自分自身のままならなさ、不安定な将来とか。
    そういった感情に押し潰されるように、人生を生きる重みに耐えられなくなって涙あふれて立てなくなる。
    そんな主人公の琴音は、職場の知り合いとか友達の友達にいてもおかしくないようなリアルな女性だった。

    優が話す遺伝性の視力の病気からだと思うけれど、映画のダンサー・イン・ザ・ダークの雰囲気を思い出しました。

  • アイスネルワイゼンは、芥川賞候補作(第170回)。
    こんな嫌な気持ちになる小説は、なかなかないと思うくらい
    イライラする小説だった。(それも狙いだろうけど)

    セリフと状況説明(表情とか行動とか)だけで
    主人公の心情描写がないのが特徴的。
    よって説明されず、たぶんこうなのかな?という予想の部分が多い。


    アキちゃんも芥川賞候補作(第163回)で、
    今まで書籍化されておらず気になっていたので
    併録されて、読めたので良かった。
    こちらも子供の頃の嫌なことを思い出す小説。
    そして驚きもある。

  • 「アイスネルワイゼン」
    「アキちゃん」
    二話収録。

    苦手な芥川賞系の作品だが、非常に読みやすかった。

    芥川賞候補作となった表題作はかなり強烈。
    主人公は32歳のピアノ講師・琴音。
    仕事も恋愛も上手く行かず、友人から頼まれたクリスマスイブのバイトでは散々な目に合う。

    冒頭から不穏な気配が漂っていたが、途中からは悪意に次ぐ悪意で胸やけがしそうだった。

    友人間で繰り広げられる非難の応酬。
    辛辣な言葉のラリーに恐怖さえ覚える。

    自暴自棄になり、琴音の軋んでいく心が不協和音を奏でているようでザラリとした印象を残す。
    最後の場面は切ない。

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