女の子たち風船爆弾をつくる

  • 文藝春秋 (2024年5月15日発売)
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  • 本 ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163918358

作品紹介・あらすじ

日露戦争30周年に日本が沸いた春、その女の子たちは小学校に上がった。できたばかりの東京宝塚劇場の、華やかな少女歌劇団の公演に、彼女たちは夢中になった。彼女たちはウールのフリル付きの大きすぎるワンピースを着る、市電の走る大通りをスキップでわたる、家族でクリスマスのお祝いをする。しかし、少しずつ、でも確実に聞こえ始めたのは戦争の足音。冬のある日、軍服に軍刀と銃を持った兵隊が学校にやってきて、反乱軍が街を占拠したことを告げる。やがて、戦争が始まり、彼女たちの生活は少しずつ変わっていく。来るはずのオリンピックは来ず、憧れていた制服は国民服に取ってかわられ、夏休みには勤労奉仕をすることになった。それでも毎年、春は来て、彼女たちはひとつ大人になる。
ある時、彼女たちは東京宝塚劇場に集められる。いや、ここはもはや劇場ではない、中外火工品株式会社日比谷第一工場だ。彼女たちは今日からここで、「ふ号兵器」、すなわち風船爆弾の製造に従事する……。

膨大な記録や取材から掬い上げた無数の「彼女たちの声」を、ポエティックな長篇に織り上げた意欲作。

感想・レビュー・書評

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  •  風船爆弾って聞くと、最近は爆弾ではないけれど北朝鮮から韓国に飛ばされているゴミ入りの風船のことがニュースになってますよね!でも、この作品での「風船爆弾」は軍事兵器なんです。第二次世界大戦末期、日本で開発されたもので、和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた直径10mの風船の中に爆弾を仕込んで、偏西風を利用してアメリカ本土を爆撃することを目的としたものです。

     第2次世界大戦開戦前小学校に入学した少女たちは、開戦後、制服を着ることは許されず国民服を着て、長い髪は束ねないと空襲時に焼けてしまうと三つ編みにし、戦争末期は授業もなく戦時学徒動員として働く日々…。東京宝塚劇場は、中外火工品株式会社日比谷第一化紙工場となり、少女たちは風船爆弾を増産するために集められたのだった…。

     いちばん楽しくて、輝けたときを少女たちは国のために捧げ、空襲で親兄弟や友人を亡くし自身の命も危ぶまれる中、支給の覚せい剤を服用し(信じられない…)、睡眠時間さえ削られ何を作っているのかも知らずに、風船爆弾を作り続けた…。戦後、彼女たちは自分たちが風船爆弾を作っていたこと、それで死者が出たことを知り、驚愕する…。

     音楽朗読劇にもなってるらしいこの作品…独特な言い回しがまた切ないんです…。
     『14歳以上の学生はみんな、わたしたちの兵隊のために、
      わたしたちの国を守るために働くことになる』
     敗戦後は
     『わたしたちの国が、わたしたちの政治家の男たちがさしだした、
      わたしたちのうちの女が、少女が姦される』
     『わたしたちは、わたしたちがもう戦争をしないと、決めたことを知る。』
     『わたしたちは、わたしたちの日本国憲法で、
      わたしたちの人権の保障と男女の平等を決めた。』
     現在は
     『わたしたちが、ひとり、またひとりと死んでゆく。
      少女たちが、ひとり、またひとりと死んでゆく。』

     風船爆弾のことはこの作品を読む前から知っていましたが、ただ、あったことしか知らなくて…この作品から、当時の少女たちの思いや社会状況など知ることができてよかったです。この史実を後世に引き継ぐこと、大事なことだと思います。

    • かなさん
      コルベットさん、今日もお疲れ様でした。
      そうですよね!!
      少女たちにも、あとは特攻にいった少年たちにも
      夢もあって未来もあったのに…
      ...
      コルベットさん、今日もお疲れ様でした。
      そうですよね!!
      少女たちにも、あとは特攻にいった少年たちにも
      夢もあって未来もあったのに…
      そう考えるとね、悲しくなりますよね…。
      二度とこんなことは繰り返してはいけないんです。
      ただ、このとき少女だった彼女たちは
      もう亡くなっている方も多いだろうし
      生きていたとしても90代だろうと…
      当時のことを証言するのは難しいかもと考えると
      こうやって書物に残しておくのは有効ですよね!!
      2024/06/13
    • 1Q84O1さん
      今も昔も変わらず戦争は愚かな行為ですね…
      得るものなんて何にもないのに…
      失うものばっかりです…
      戦争なんてバカバカしいもの無くなればいいの...
      今も昔も変わらず戦争は愚かな行為ですね…
      得るものなんて何にもないのに…
      失うものばっかりです…
      戦争なんてバカバカしいもの無くなればいいのに!
      2024/06/14
    • かなさん
      1Q84O1さん、おはようございます。
      きっと各地に過去の戦争の記録だって残っているのに…
      どうして繰り返しちゃうんでしょうね…。
      ホ...
      1Q84O1さん、おはようございます。
      きっと各地に過去の戦争の記録だって残っているのに…
      どうして繰り返しちゃうんでしょうね…。
      ホント、胸が痛みます…。
      2024/06/14
  • わたしたちの〇〇…というフレーズが幾度となく印象的に使われており、ドキッとした。
    戦争の話となると、近しい現実であるのにどこかパラレルワールドの話のように感じてしまうのだが、「わたしたちの〇〇」により、いつの間にか自分の事のように恐怖や洗脳、胸の高鳴り、不快や悲しみなど言葉には言い表せない感情がなだれ込んでくるようだった。

    戦争って終わらないんだな。
    おじいちゃんやおばあちゃんから直接戦争の話を聞いた事ないもの。
    心の奥底に抱えたままだったのかな。

  • 「わたしは」「わたしは」「わたしたちは」
    いつまでも青春の只中にあるあの日の少女たちは

    こんな小説初めて読んだ。
    個人が主人公でもない。主人公はいるかもしれないし、いないかもしれない。わたしは、わたしたちは、といった主語で綴られていく、確かにあった記憶の数々。
    少女たちの戦争は、たとえ形式的に戦争が終わったとしても、いつまでも続いていく。
    あの太平洋戦争を、戦時中の部分だけを切り取ってはい、戦争は終わり。という話ではない。
    そのことに、強い衝撃を受けた。
    なんとも言えない、壮大な少女たちの記録を読み、様々な感情が胸で入り混じる。
    ぜひ読んで、その読後感を、噛み締めてほしい。

  • 小林エリカさん×鈴木涼美さん『女の子たち風船爆弾をつくる』『YUKARI』特別対談 | COTOGOTOBOOKS(開催日2024/06/29)
    https://cotogotobooks.stores.jp/items/6621d95dd648d10030311e7c

    終了した催し
    <麹町学園女子が取材協力>小林エリカ氏脚本の朗読劇「女の子たち 風船爆弾をつくる」6月19日王子ホールにて上演|麹町学園女子中学校高等学校のプレスリリース
    https://www.atpress.ne.jp/news/357867

    erikakobayashi
    https://erikakobayashi.com/

    『女の子たち風船爆弾をつくる』小林エリカ | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163918358

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      女の本屋 > わたしのイチオシ > 小林エリカ・著『女の子たち風船爆弾をつくる』   ◆上野千鶴子 | ウィメンズアクションネットワーク W...
      女の本屋 > わたしのイチオシ > 小林エリカ・著『女の子たち風船爆弾をつくる』   ◆上野千鶴子 | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network
      https://wan.or.jp/article/show/11358
      2024/07/16
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      女の本屋 > WAN書評セッション◇小林エリカ『女の子たち風船爆弾をつくる』11月6日(水)19:00-21:00 【申込受付中】 | ウィ...
      女の本屋 > WAN書評セッション◇小林エリカ『女の子たち風船爆弾をつくる』11月6日(水)19:00-21:00 【申込受付中】 | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network
      https://wan.or.jp/article/show/11466
      2024/09/09
  • 戦争
    もう遥かに遠いところまで来てしまったつもりでいるけれど、この彼女たちの声が次々に
    耳元で聞こえる。全然遠くなんてない。
    華やかな時、辛い時、痛い思いをした時、女の子たちはいつも声をあげている。
    いまの私達にできることはこの彼女たちのあげた声を聞き続け伝え続け、そして考えること。
    多くの資料を元に書かれたこの本は決してフィクションなのではなく本当にあったこと。
    この機会で手に取らなければ、きっともう読まなかったかも、だって風船爆弾ですよ!
    人間って愚かな生き物だと改めて思います。

    その後、図書館で『女たちの風船爆弾』
    亜紀書房刊をみつけよんでみたらよりノンフィクションで恐ろしかった。こちらの本は、
    ISBNもなくブクログでは検索できないほんだった。女の子たちの笑顔の写真も多く、より痛々しい。
    今回の新しい文藝春秋社刊の本がなかったら、こちらの図書館の本は人知れず埋もれてしまったのかと思うと切ない。

    小林エリカさんの舞台芸術のような本に出会えてよかった。でも、もう一冊の方の本にも出会えてよかった。

  • 膨大な資料や証言を元に「名もない」女の子たちの戦争体験をつづった圧巻の書。
    これまでも戦争の話は聞いたり読んだりしてきたと思っていたけど、まだ全然足りてなかった。女性の、弱い立場の人たちの体験、被害者であると同時に加害者でもあるということ。
    他人事ではないし、「かつて」の話でもない。戦争は、今を生きるわたしたちに地続きであることを、強く感じさせる作品だった。

  • 特徴的な文体で情景描写を想像しやすい本だった。
    様々な境遇の少女たちがいて幼少期は子どもらしくのびのびとした生活ができていたけれど戦争の局面が厳しくなるにつれて自由が奪われ制限を強いられる生活をすることになった。
    クリスマスがなくなること、憧れの制服が着れずもんぺを着ることになること、空襲に怯えて過ごすこと、学校に行けず働かされること、どれもが少女たちにとってつらい出来事だったと思う。
    比べものにならないかもしれないけれど共感できる場面が多いのはコロナ禍で制限された生活を送った経験があるからかもしれない。

  • 関東大震災以降、長く続いた先の戦争の時代、さらに戦後から現代に至るまで、権力側ではない市井の人々が、権力側の人々により翻弄された(というか、破壊された)生活を、今も変わらず差別されている人たち(少女)からの視点で描かれてる

    事実をもとに描かれてる(と思う)、ただ表現の仕方に、読んでて初めは戸惑ったけど、わたしたちのと何度も何度も繰り返す意図が少し理解できてくると、今まで見たことがなかった表現に深く同意するようになる

    とても良かったです

  • 去年の夏から秋にかけて『文學界』で集中連載されていた(連載時のタイトルは「風船爆弾フォリーズ」)のをずっと読んでいたが、いろいろな点ですごい作品だったので単行本でもう一回読み返そうとずっと待っていた(の割に5月からいままでバタバタしてて購入が遅れてしまったが…)。

    戦前のまだすこしのどかだった時代から時間を追って、戦争の足音が近づき、戦争が始まって終わって、戦後の日々が続いていく中を生きていく女の子たちの日常が綿密な取材をもとに描き出される。

  •  アジア太平洋戦争下で日本軍が秘密裏に打ち上げた「風船爆弾」の製造に雙葉・跡見・麹町の各女学校生徒が動員されていたこと、風船爆弾の製造工場の一つが東京宝塚劇場だったことをモチーフに、少女の一人としての「わたし」と少女たちという意味でもあり、帝国日本の臣民という意味でもある「わたしたち」という人称をリフレインのようにくり返しながら、時代を生きた女性ジェンダーの生を呼び返そうとする試み。戦争の時代を扱っているのに、軍人や政治家たちは決して固有名では呼ばれず、戦争の死を死んだ被害者――「風船爆弾」で命を落とした米国人の女性と子どもを含む――の名前のみが書き込まれる。
     
     特定の固有名に依存しない語りを採用したことで、本作の作者は、宝塚歌劇の少女たちが欧米へ、満洲へ、中国大陸へと幾度も派遣されていたこと、つまり彼女たちはつねに憧れの対象だったと同時に、利用される客体でもあったことを詳細に書きつけていく。こうした問題意識があったからこそ、作者は日本敗戦後で小説を終わらせず、かつて「従軍学徒壮行会」が行われた会場が建て替えられて、無観客のオリンピック開会式の舞台となったこと、そこに再び国家のために歌わされる少女たちが召喚されたところまでを射程に収めることができたのだろう。
     巻末の注釈と参考文献リストを見るだけでも、圧倒的なリサーチによって作られたテクストであることは明らか。ここからどんな思考を引き出すことができるのか、改めてじっくり考えてみたいと思う。

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著者プロフィール

1978年東京都生まれ。
作家・アーティスト。著書に2024年毎日出版文化賞受賞『女の子たち風船爆弾をつくる』、『彼女たちの戦争  嵐の中のささやきよ!』『マダム・キュリーと朝食を』など、絵本に『わたしは しなない おんなのこ』、訳書にアンネ・フランク・ハウス編『アンネのこと、すべて』がある。

「2025年 『わたしは なれる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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