灯台を読む

  • 文藝春秋 (2024年10月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784163919034

作品紹介・あらすじ

灯台をゆけば日本の〈歴史〉と〈文化〉が浮かび上がる!

海と共に日本人の心に残る原風景の一つ灯台。現在、日本に約3,300基ある灯台は、船の安全を守るための航路標識としての役割を果たすのみならず、明治以降の日本の近代化を見守り続けてきた象徴的な存在でもありました。

建築技術、歴史、そして人との関わりはまさに文化遺産と言えるもの。灯台が今なお美しく残る場所には、その土地ならではの歴史と文化が息づいています。そんな知的発見に満ちた灯台を現代日本文学を代表する作家たちが訪ね、歴史的・文化的・地域的な価値を文学的な視点で綴った紀行集です。

「オール讀物」「クレアWEB」での好評連載中の企画をふんだんに撮りおろし写真を使って書籍化。

感想・レビュー・書評

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  • 作家さん達が全国18か所の灯台を巡り、紹介する紀行文。島国である日本人は古くから海と共生してきたが、現在のような西洋式灯台が建設されたのは明治維新以降になってからだという。風の吹きすさぶ岬の突端でポツンと立ちながら必死に灯を届ける様子は、孤高であり浪漫を掻きたてられる。
    近代日本の文化遺産として、灯台が見直されつつあり、各地域では新たな観光資源となっている。各地に旅行に行く際に、灯台へふらりと寄ってみるのも楽しそうだ。私の地元の灯台も紹介されていたので、まずはそこから訪問したい。
    また、どの作家さんも『喜びも悲しみも幾年月』という映画について言及されていた。近代日本を支えた誇りある灯台守という職業とその過酷な暮らしについて興味が湧いた。

  • GPSの進歩により、灯台がその役割を終えていっているという事実を初めて知った。
    「海と灯台プロジェクト」協力のもと、灯台が存在することの意義を、その土地のあらましや歴史、灯台を守ってきた人々にスポットライトを当てることで言語化した、6名の作家さんによる紀行文。

    作品を読みながら旅行気分に浸れるので愉しい。作家のみなさんが灯台の中の螺旋階段を登り、灯台室に入られる場面のわくわく感が伝わってきた。フルネルライトを初めて検索したが、見事なライトであった。

    灯台の父と呼ばれるイギリス人のブラントンさんという方が、菜種油で火を灯す木造の灯明台が主な海の道標だった日本に、西洋式の灯台をもたらした。また、戦時中は灯台が攻撃の対象になったこと、灯台がある場所には神社があることなども知ることができた。

    絶滅危惧種ともいえる灯台に、何を感じ、何を見るかは、そのひとの感応力によるのかもしれない。
    灯台が海をわたる人々の命を守るために重要な役割を果たしてきたことは、時を経ても語り継がれなければならないと思った。

  • 日本財団「海と灯台プロジェクト」から生まれた紀行。近年の流行作家門井慶喜、澤田瞳子、阿部智里、川越宗一、永井紗耶子、安部龍太郎。それぞれある地域の灯台を3カ所訪れ時空を超えて想いに馳せる。
    映画「喜びも悲しみも幾歳月」の世界は遠い過去。無人化さらにGPSの普及により灯台は役目を終えつつある。
    とはいえ灯台の立つ場所は古代からの交通の要衝。異国との貿易の出発点、文化が交わる場所でもあった。

    地域の海の記憶を辿り、新たな海洋体験を 灯台とともに

  • 言葉の由来と背景:

    「灯台」という言葉は、もともと日本語にはなく、明治時代に西洋の「lighthouse」と共に導入された。
    江戸時代には「灯明台」があったが、近代的な「灯台」は文明開化や国家的な意識を背景に「台」という言葉が選ばれた。
    近代灯台の特徴と技術:

    明治以降、ブラントンら外国人技師の指導で西洋式の灯台が建設された(例:鉄筋コンクリート造の清水灯台)。
    木造の灯明台と異なり、堅牢な構造、強力な光を遠くまで届けるフレネルレンズ、識別を可能にする回転機構(水銀槽式など)を備えていた。
    灯台守の役割と変遷:

    かつては灯台守が常駐し、機械メンテナンスや気象観測を行い、航海の安全を支えていた。
    自動制御化が進んだ現在では、人の住む灯台はほとんど存在しない。
    航海安全以外の意義:

    単なる航路標識ではなく、地域の歴史(戦争遺跡など)や文化(弘法大師伝説など)、個人の功績(私財での建設)とも深く結びついている。
    観光スポットとして親しまれたり、地域の誇りの象徴となったりしている例も多い。
    地域活性化への貢献:

    文化財や観光資源として注目され、周辺整備やイベント開催(灯台フェス、灯台サウナなど)が進んでいる。
    自治体や民間団体が地域のシンボルとして活用しており、海上保安庁も協力団体制度で支援している。
    灯台建設の視点:

    古代のかがり火から始まり、航路の目印として発展。明治期には西洋との交流や貿易の必要性から近代化が進んだ。
    日本の複雑な海岸線、暗礁、潮流、霧といった地理的・気象的条件を考慮して設置場所や構造が決定されてきた。
    信仰との関連:

    灯台が立つ岬などは、古くから海の神様(龍王岬)や山岳信仰(掛塚・秋葉)、歴史的人物(室戸岬・空海)など、神話や信仰の対象となってきた場所が多い。

  • 日本各地にある灯台の価値を再発見する「海と灯台プロジェクト」と連携した紀行エッセイ集だ。
    6人の作家が、編集者とそれぞれゆかりの土地にある灯台をめぐったエピソードを語る、という内容になっている。

    GPSの発展で役目を終えようとしている灯台の歴史や魅力がそれぞれに語られていて興味深い。

    多くの作家が「喜びも悲しみも幾歳月」という映画に言及しているのが印象的だった。
    灯台守という、灯台のすぐ横に住まい、その灯りを守り続けた家族というものが、明治から平成まであり続けたんだな、と思うと、凄いな、としみじみする。

    航海の安全、国防、灯台はさまざまな役割を果たしてきた。
    知っているようで知らない「灯台」について、ふと考えさせらる一冊だった。

  • 作家の灯台旅行記

  • 灯台興味深い、旅先にあったら行ってみよう。

  • 日本に約3000基ある灯台の役割や多様な価値について知ってもらおうという趣旨で進められている「海と灯台プロジェクト」。主体は一般社団法人・海洋文化創造フォーラムで共催が日本財団と海上保安庁である。そのプロジェクトの一環として企画されたのが、灯台が果たしてきた地域固有の役割や機能、存在価値を物語化して知らしめようという取り組み。本書はそれに基づき19基の灯台を6人の著名な作家が分担して現地取材し、紀行文集として取りまとめたもの。
    灯台の建築技術や歴史、地域との関わりについて様々な観点から語られ、読み進めるうちに少しずつ灯台への関心が高まってくる。
    しかし、門外漢の私には歴史作家や描写力のある作家の語りには少々、退屈で疲労感を覚えたというのが正直なところ。むしろ、ファンタジー作家で自信もミスチョイスでないかと思ったという阿部智里氏の大衆性をベースにした書きぶりに親近感を覚え、ほっとした。
    それはともかく、灯台に関して基礎的で大事なことだと思った点を幾つか挙げておく。
    ①江戸幕府に対し、西洋各国は航路を照らす灯台の必要性を主張、条約を協定させ、8つの灯台を建設させた。その第1号として、明治2年に初点灯したのが観音埼灯台
    ②灯台は、西洋人の航路に配慮して、太平洋、東シナ海、瀬戸内海、日本海の順で建てられた
    ③徳川末期にイギリスから来日し約7年半で26基の灯台を建てたリチャード・ヘンリー・ブラントンは日本の「灯台の父」と呼ばれた
    ④灯台の灯りはフレネルレンズという大きなレンズからプリズム状の光を投げかけ約30~50キロメートル先まで届く
    ⑤海路を守る灯台は軍事的な価値もあったため、太平洋戦争では、攻撃目標にされた 
    ⑥GPSなど航海技術が発達した今日、灯台は航路標識としての役割を終えつつあり、文化財や観光資源としての面がクローズアップされている
    これら以外にも、トピックネタとして面白いと思った点を挙げておく。
    ①島根県の出雲日御碕灯台は、駐車場完備、お土産屋、食堂もあり、灯台内部は一般公開され、観光スポットになっている 
    ②高知県室戸岬灯台のレンズの直径は2.6メートルで光達距離約49キロの第一等フレネルレンズ
    ③三重県安乗埼灯台は全国でも珍しい四角形の灯台。映画「喜びも悲しみも幾歳月」の舞台にもなった
    ④点灯してから1分以内に生じるエメラルドグリーンに光る瞬間を見たいという灯台ファンが多い
    ⑤富山県の生地鼻灯台は灯塔を白黒2色に塗られているので、パンダ灯台の愛称で呼ばれている

  • 【灯台をゆけば日本の〈歴史〉と〈文化〉が浮かび上がる!】知的発見に満ちた灯台を現代日本文学を代表する作家たちが訪ね、歴史的・文化的・地域的な価値を文学的な視点で綴る。

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著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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