踊りつかれて

  • 文藝春秋 (2025年5月27日発売)
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本 ・本 (480ページ) / ISBN・EAN: 9784163919805

作品紹介・あらすじ

 首相暗殺テロが相次いだあの頃、インターネット上にももう一つの爆弾が落とされていた。ブログに突如書き込まれた【宣戦布告】。そこでは、SNSで誹謗中傷をくり返す人々の名前や年齢、住所、職場、学校……あらゆる個人情報が晒された。
 ひっそりと、音を立てずに爆発したその爆弾は時を経るごとに威力を増し、やがて83人の人生を次々と壊していった。
 言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷にあったお笑い芸人・天童ショージは自ら死を選んだ。ほんの少し時を遡れば、伝説の歌姫・奥田美月は週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。
 彼らを追いつめたもの、それは――。

* * *

■宣戦布告■

よく聞け、匿名性で武装した卑怯者ども。

SNSなんてなくなればいいのにな。えっ、ダメ? 余計なこと言うなって? そうだよなぁ。やっとおまえら権力者になれたもんな。炎上させて誰かが何かを諦めたときに、社会を変えてやったと実感できるもんな。そうやって表面的な正義感で研いだナイフで、悪意の塊でつくった毒で世直ししてるもんな。

やっぱり俺は週刊誌とおまえたちを赦せない。
だからやってやるよ。俺には俺の、ケジメのつけ方ってもんがあるんだよ。

これから重罪認定した八十三人の氏名、年齢、住所、会社、学校、判明した個人情報の全てを公開していく。
八十三なんて数字は氷山の一角に過ぎない。だが、図に乗ってると、次はおまえの番になるから肝に銘じておけ。

明日にはおまえたちの人生はめちゃくちゃになっている。
奥田美月や天童ショージのように。
せめて今日を楽しめ。あばよ。 

感想・レビュー・書評

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  • 設定と帯の文言のインパクトに惹かれ、本作を手に取りました。塩田さんの作品は「存在のすべてを」以来でしたが、本作の登場人物持つ深みの虜になってしまったと思います。とても濃密な物語でした。

    本作はある有名人に対して、SNSで誹謗中傷を行った人たちの個人情報を晒すというインパクトある導入から始まります。この後の展開としては、なぜこのような行為に至ったのかについて真相が解明されていくのですが、私はもう冒頭から心を掴まれていたと思います。

    そして本作を読み進めることで、実行犯の人生をなぞらえることができるのですが、その人生にとても深みがあったからこそ、やるせない気持ちも分かってしまって、情報社会における無責任な誹謗中傷の悪質さが許せなくなってきました。個人的には直木賞候補にノミネートされたことにはとても納得できる傑作でした。

  • 非常に読み応えがあった。塩田武士さんの本を読むのは3冊目。以前読んだ2冊と同様に、とても緻密に話が作られていた。
    本作の主要テーマはSNSなどの誹謗中傷という、匿名性を利用し徹底的に人を叩く卑劣極まりない行為。それが原因で現実社会でも追い詰められてしまった人々がいたり、実際に不快なコメントをネット上で目にすることがあるなど、誰にとっても身近な問題。本作はフィクションでありながら、そうした顔が見えない人たちによる理不尽な誹謗中傷を被害者、加害者をはじめ多面的な観点からリアルに描き、問題提起している。
    無責任な誹謗中傷が関係者にもたらす破壊力は半端なく、それが塩田さんの筆力によって重厚に描かれいている。今後この問題に意識的になるきっかけとなる本だった。

  • 間違いなく今年最大の衝撃作。
    ネット社会で踊っているつもりが、いつの間にか踊らされ、ついには踊りつかれた私たち。
    「安全圏のスナイパー」、「芯のない正しさ」
    突きつけられる言葉に胸が締めつけられる。

    ただ、苦しみの中、それでも必死に生きようとする人の強さや、心ある人たちのやさしさや愛を感じることもできた。
    いま、広く読まれるべき本。

  • なんだかどえらいものを読んでしまったぞ。

    「情報化社会」という言葉が若干古くさく感じるほど、社会がそうなってから久しい。
    そして、SNSの登場・浸透により、個人が発信し、それを受け取り、拡散されることになった社会。

    本書は、二人の芸能人、一人のプロデューサー、一人の弁護士が軸となって展開していく。
    端緒は、とある「爆弾」。物理的な(身体的な)被害はないけれども、「ネット」という広大な社会においては、人の存在をおびやかすほどの、強力な。

    帯にも採用されている、『人が死ななきゃわかんないの?』という一文にも表現されるように、つまりはSNSでの誹謗中傷に晒されつづけた一人の芸人と、それよりもっと前、まだ情報が紙に載って人々に広がっていた時代に、いわゆる「週刊誌砲」で沈められた一人の歌手。そして、反撃を試みたプロデューサーと、プロデューサーを弁護することになった弁護士の闘いの物語といえるだろうか。

    一億総発信時代において、
    「正しさ」とは何か。
    「正義」とは、誰のためのものか。
    SNSのアカウントをひとつでも持っている人間には、決して他人事ではない。

    センセーショナルな冒頭の場面から、後半の展開でなぜこんなにも丁寧に、執拗に登場人物の半生を描くのだろう、少し冗長ではないか?と読みながら思い、ハッとした。その、私が「冗長」と感じたものは、「人間の生きてきた跡」なのだ。日々、刺激的な見出しとともに「トレンド入り」し、「祭り」「炎上」のやり玉に上げられているのは、両親や周りの人々に望まれて生まれてきて、大切に育てられ、考え、食べ、眠り、悩み、人と出逢ったり別れたりしながらこれまで生きてきた「人間」そのものなのだ。
    本書はフィクションではあるけれど、その構成でもって、私はそれに気づかされた。

    そこにいるのは「おもちゃ」でも「刺激」でもなくて、実在する人間であること。
    狭い液晶に表示される動画や画像やテキストという「コンテンツ」ではないということ。
    わかってはいたつもりだけれど、改めて胸に刻み込みたいと思った。

  •  誹謗中傷の話題に触れる度に思い起こされるのは、木村花さんの痛ましい事件だ。天童ショージの話から誹謗中傷される痛みや絶望感が、当時さながらに伝わってきた。そして、誹謗中傷をする側の心理にも目が向けられており、浅はかさや身勝手さが。浮き彫りにされていた。
     こうしたことは、週刊誌やワイドショーの時代からあったことが奥田美月の話から思い出す。残念ながら、人の心理として正義を振りかざして人を追いこむ快感のようなものが、根底にあるのかもしれない。
     などと、自分にとっては、誹謗中傷する側とされる側のことを考えるきっかけとなったが、この作品はそうではないのだと思う。前半と奥田美月と瀬尾政雄の一件が、関連付けられなかった。

  • 言葉が異次元の暴力になるこの時代。
    「枯葉」なる人物が、ネットによる誹謗中傷、過剰な週刊誌報道により、大好きだった芸能人の人生が狂わされたとして、仮面の加害者たちを断罪することから話しが始まります。
    「枯葉」なる人物の弁護を引き受けることになる女性弁護士・久代奏の目線で、「枯葉」がなぜそのようなテロ行為に及んだのか調査をしていくうちに、「枯葉」やお笑い芸人・天童ショージと歌手・奥田美月の半生が見えてきます。
    この2人の半生が明らかとなっていくうちに、『特別な人』のように見えていた芸能人も、なんら一般の人間と変わらない生身の人間であることを感じさせられます。物語の後半は徐々に重みを増し、切なくなりますが、心ない人たちの中で揉まれながらも、支えてくれる人・ソウルメイトのような関係の人との繋がりが唯一の希望でした。
    ずっしりと重みのある作品ですが、久代奏が働いている山城法律事務所の面々がとてもユニークであたたかく、物語の息抜きになりました。

  • 一人の芸人と、一人の歌手が、スキャンダルをきっかけに「炎上」した。

    芸人は命を絶ち、歌手は行方をくらませた。

    そして、二人に容赦ない「言葉」を投げかけた匿名の83名は、ある日、その存在を白日の下に晒されることになる。

    序盤は、SNSによる誹謗中傷がテーマなのだと思って読んでいた。
    けれど、この事件の「真相」は、もっと深い所にあるぞと、手を掴まれて降りていくようで怖かった。
    終盤、目を逸らしたくなった。
    一人の人間が抱えてよい「闇」ではなかった。

    読み終えて、ようやく地上に戻ってきた時、この作品で何を伝えたかったのだろうと、ふと思った。
    83名の匿名性を奪った瀬尾の執念は、どこに由来しているのか。
    彼という人を描くために、弁護士である奏と共に、様々な人物の語りを統合していった。
    集団に向けられた光から、個人に向けたスポットへ……収斂された物語を読んだ。

    これを読み終えて、83名に何を思うか。
    「彼、彼女だけが悪いわけではないのに」?
    行き過ぎた社会的制裁を担った個人に、また行き過ぎた社会的制裁が下される。

    瀬尾が出した答えは、解決ではなかった。

    けれど、「解決ではない答え」が描かれた小説を読んだ読者は、どんな「答え」が出せるだろう。
    きっと、私たちは問われている。

  • SNSによる誹謗中傷、フェイクニュース。
    今ではもう見飽きるくらい毎日目にするものになってしまった。
    この作品を読んでいる間にも、芸能人の不倫騒動によるバッシングが盛り上がって、過去の動画が非常識だと拡散されていました。

    天童と美月がSNSや報道によって壊されていく過程は、現実に何度もみてきたことで、自分が攻撃的な発信をすることはなくても、流れてきた投稿にショックを受けて2人を見る目が変わってしまうであろうことは、容易に想像がつきました。

    今の世の中、SNS上で加害者になることも、被害者になることも、もうどちらもひとごととは思えない。
    一般人の私でさえ、常にその舞台に引き上げられる不安を感じていることを、改めて実感しています。

    どうすればSNSを適切に使えるのか。
    SNSに踊らされる私たちに投げかけられた問い。
    このあり方を変えられるのか、希望を持つのは難しいけれど、立ち止まって考えなければ。

  • インターネット上もはや現代では行なっても不思議ではないテロが行われた。SNS上で誹謗中傷83人もの人が個人情報がさらされた自殺者までも出る目に見えない恐怖の始まりである。天童ショージ、奥田美月は犠牲者である。後半の物語の進行は大河ドラマのような迫力がありました。こんなに怖い小説はいまだかつてない最高傑作だと思いました。あなたも読んで恐怖を感じて下さい。そして「踊り疲れて」の深い意味を知って下さい。

  • SNSを題材にした話は最近よく目にして読んだりしてましたが、この本はただSNSに警鐘をならすだけでは終わらずに、SNSによって人生を狂わされた人と主人公の関わりの中でその絆の深さや不思議な縁で色んな人に助けられていき人生そんなに捨てたもんじゃないと思わせるような気がします

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著者プロフィール

1979年、兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2011年、『盤上のアルファ』でデビュー。2016年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞し、“「週刊文春」ミステリーベスト10 2016”国内部門第1位、2017年本屋大賞3位に輝く。2018年には俳優・大泉洋をあてがきした小説『騙し絵の牙』が話題となり、本屋大賞6位と2年連続本屋大賞ランクイン。2019年、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞受賞。2020年、21年には『罪の声』『騙し絵の牙』がそれぞれ映画化された。

「2022年 『朱色の化身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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