サイレントシンガー

  • 文藝春秋 (2025年6月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784163919911

作品紹介・あらすじ

著者6年ぶり、世界が待ち望んだ長篇小説400枚。

内気な人々が集まって暮らすその土地は、“アカシアの野辺”と名付けられていた。野辺の人々は沈黙を愛し、十本の指を駆使した指言葉でつつましく会話した。リリカもまた、言葉を話す前に指言葉を覚えた。たった一つの舌よりも、二つの目と十本の指の方がずっと多くのことを語れるのだ。
やがてリリカは歌うことを覚える。彼女の歌は、どこまでも素直で、これみよがしでなく、いつ始まったかもわからないくらいにもかかわらず、なぜか、鼓膜に深く染み込む生気をたたえていた。この不思議な歌声が、リリカの人生を動かし始める。歌声の力が、さまざまな人と引き合わせ、野辺の外へ連れ出し、そして恋にも巡り合わせる。果たして、リリカの歌はどこへと向かっていくのか?
名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。叙情あふるる静かな傑作。

n-bunaさん(ヨルシカ)絶賛!
<おもちゃから流れる歌声、アシカショーのアシカの歌声、シンガーの為の仮歌、そして夕方に流れる家路。何者でもない、何処にもクレジットされることのない彼女の歌声は、決して聞く人を選ばない。それは誰もが何者かに成ろうとする今の社会において、本当は必要だった優しさなのかもしれない。>
 

みんなの感想まとめ

静寂と歌声が織りなす物語は、内気な人々が集う共同農園「アカシアの野辺」を舞台にしています。その土地では、言葉の代わりに指言葉でコミュニケーションが交わされ、リリカという少女が特別な歌声を持つことから物...

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんの世界からただいま戻りました‥‥
    どっぷりと世界観に浸りました。
    おばあさんと二人暮らしのリリカ。
    家の隣の広大な森を買い取り移り住んできたのは“内気な人の会”と称するグループ。宗教的施設でも、営利目的の会社でもなく、ただただ内気な人たちの集まり。やがて門には“アカシアの野辺”と書かれた看板が掲げられるようになる。
    とにかく、“内気な人の会”とか“アカシアの野辺”とか、本を数ページ読んだだけで、小川洋子さんの世界へスーッと引き込まれて行きます。
    “内気な人の会”の雑用係として働くことになったおばあさんと、その孫娘のリリカは唯一“アカシアの野辺”に入ることができる二人。
    『魂を慰めるのは沈黙である』をモットーに生活している“内気な人の会”のメンバー。
    彼らはどんな人生を経て、ここに辿り着いたのか、そこには全く触れられていませんが、こんな場所があったっていいよな、と思う読者は一定数いるのではないかな。
    人の記憶に残るものではないが、邪魔にならない歌声を持っているリリカ。
    “内気な人の会”とリリカの歌声が呼応して、静かな静かな物語になっています。
    声なき声を持っている者も、ここに存在している。大きな声をあげずとも、存在している。静かに存在している、そんな物語だと受け取りました。

    • くるたんさん
      こんにちは♪この作品、良かったですよね。
      こっとんさんのレビューに全文うなずけます♪
      小川さんのいつも小さき声に温かな眼差しを注いでくれる世...
      こんにちは♪この作品、良かったですよね。
      こっとんさんのレビューに全文うなずけます♪
      小川さんのいつも小さき声に温かな眼差しを注いでくれる世界観が淋しさ感じながらも好きです。
      2025/12/20
    • こっとんさん
      くるたんさん、こんにちは♪
      くるたんさんのおっしゃるように
      ”限られた場所で、ささやかに慎ましく生きる人々”
      ”小さな幸せ”

      これこそ、小...
      くるたんさん、こんにちは♪
      くるたんさんのおっしゃるように
      ”限られた場所で、ささやかに慎ましく生きる人々”
      ”小さな幸せ”

      これこそ、小川洋子さんの世界観ですよね。
      なんだか物悲しいのだけれど、確かな幸せを感じます。
      『ことり』も本当に大好きな作品。
      これこらも少しずつ小川洋子さんの作品を読んでいこうと思っています。
      2025/12/20
  •  「沈黙」は「静寂」に近くても、決して「無」ではなく、むしろその「静謐さ」をこれほど豊かに言葉で表現できるんですね。小川さんが丁寧に紡いだ日本語はどこまでも美しく、その文章の魅力に惹きつけられ、読み手の感性を刺激します。

     沈黙を大切にする"アカシアの野辺"を舞台とし、そこで暮らす人たちとそこで育ったリリカ。彼女は控えめで優しい唯一無二の歌声を身に付け、その声で命なきものへ魂を吹き込み、動物たちを慰め、死にゆく人に寄り添うのでした。

     小川さんの卓越した筆は、沈黙と歌声を際立たせ、饒舌の対極に位置付けている気がします。沈黙は、ある種の緊張感と内面感情の深さを生み出し、リリカの歌声がもたらす安寧と見事にバランスが取れています。叙情あふれる静けさが心に沁みます。

     物語は長い年月を静かに進み、語られるエピソードも多彩ですが、どの場面も透明なようで鮮やかな色使いの情景が広がり、切なさと温かさが響き合って濃密な詩的空間があります。この中に浸っていることこそが、本書を読む悦びと言えるでしょう。

     「もの言わぬもののためだけに歌う」リリカの姿勢は、義務ではなく自分らしさだったのではないかと思います。リリカがいる世界を最後まで全うしたのですね。『家路』の歌と「魂を慰めるのは沈黙である」の言葉の余韻が後を引く物語でした。

  • 沈黙を愛する人々が集う共同農園。そこに言葉は無く、指文字での会話が行われている。
    門番小屋に幼少期から祖母と住むリリカ。ある日、リリカの歌を聞いた祖母は羊の毛刈りの時に、側でリリカが歌うように取り計らう。羊も聞き惚れる奇跡の歌手が誕生か、と思わされる展開とは真逆。町内で流れる夕方の「家路」が最初の仕事。何十年にも渡って流されるが、誰も気に留めない。沈黙の人々に寄り添うような歌声が持ち味。
    祖母が亡くなったり、共同農園の人々も亡くなったり減少して行く中で、どんどん不吉な方向に向かって行く。一時、恋人ができることもあったが、やはり駄目なようだ。全体的にも静謐な中で物語を終えてしまった。重い内容に、本を読むスピードが鈍ってしまった。

  • 言葉を必要としない「アカシアの野辺」の人々と接しながら暮らしてきたリリカと祖母。
    指言葉で会話する生活は、とても静かで穏やかに時は流れてゆく。
    迷子が寂しくないように人形を作り続ける祖母とリリカが歌う「家路」。
    情景が目に浮かぶほど。
    すべてが、静謐と表現したらいいのだろうか…。



  • 小川洋子さんの6年ぶりの長編小説は、静謐で透明感を感じる作品でした。

    “アカシアの野辺„で暮らすリリカの物語。そこは【魂を沈めるのは沈黙である】という言葉と共に、内気な人々が暮らす場所でした。

    目と指で自分の思いを伝えて生きている人達の暮らしは、静寂の中で謙虚さに満ちていました。ここで暮らすリリカの歌によって慰められたり、導かれた出来事、彼女の淡い初恋などが書かれていました。最後までリリカの歌が静寂の中に溶け込むように存在し続けていることが、とても印象的でした。

    一番心のこもった“さようなら„が、目を閉じなければできない理由に、とても切なさを感じました。

    静けさのなかにある芯のようなものを感じた小説でした。落ち着いてじっくり読むのが、おすすめです。

    • フリージアさん
      魅力的な本は、たくさんありますよね。

      ちょっと失礼なコメントだったと
      反省してます(..)
      魅力的な本は、たくさんありますよね。

      ちょっと失礼なコメントだったと
      反省してます(..)
      2025/11/24
    • きたごやたろうさん
      フリージアさんへ

      全然失礼じゃないですよ!
      事実だし、オイラ自身が作り上げた現実ですし。
      大丈夫ですよ♪
      フリージアさんへ

      全然失礼じゃないですよ!
      事実だし、オイラ自身が作り上げた現実ですし。
      大丈夫ですよ♪
      2025/11/24
    • フリージアさん
      きたごやたろうさん
      優しいですね
      ありがとうございます(^^)
      きたごやたろうさん
      優しいですね
      ありがとうございます(^^)
      2025/11/24
  • 実際にリリカの歌声を聴いてみたいと思う気持ちと、あくまで想像の世界で再生すればいいという気持ちがせめぎ合っています。でもやはり聴いてみたいですね。

  • 沈黙を愛する人々の住む「アカシアの野辺」。この物語を読んでいると、いつの間にかそこに自分がいるような錯覚に陥った。ざわざわと音のする場所で読んでいるのに、ふっと周りが無音になる様な不思議な感覚。
    リリカの歌う「家路」はどんな声で歌われているのか想像するのも楽しい。

  • ワクワクしながらネット注文した
    久しぶりの小川洋子さん

    驚愕!
    沈黙を文にしている!

    『名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。叙情あふるる静かな傑作。』

    誰もが声高に声を上げる現代
    誹謗中傷

    こんな時代に「沈黙を書いた」そうだ

    情景描写がさすがだ
    声を出さずに暮らす人々
    朽ちていく人形
    リリカは歌う
    でもその歌は自分を出さない
    名も残さない

    「静」の物語を愛おしく閉じた

    ≪ 沈黙が 魂のなぐさめ 時空超え ≫ 

  • 内気な人々が暮らす“アカシアの野辺”が舞台。読み終えて“アカシアの野辺”から現実の世界に戻ってきたなと強く思えるくらい抜群の描写で物語の世界に入っていけました。
    言葉が少なくても、沈黙であっても伝えられることや慰められることもたくさんあるし、絆を深めることもできるのかなと思いました。
    終わり方もリリカの歌は平等に人々に優しく響いているものと感じさせる儚いものでした。


  • 掬いが好き、の一冊。

    出会いも喪失も全てを小さな世界に閉じ込めた世界観は、どこか「ことり」を思わせる。

    アカシアの野辺で暮らす人々が愛するのは沈黙、十本の指を駆使した指言葉での静かな会話。

    そしてそこに住まうリリカが奏でる誰をもを包み込む歌声。

    限られた場所で、ささやかに慎ましく生きる人々も確かにいること。
    小さな幸せが確かにあること。

    それらをいつだって優しく掬い取る小川さんの描き方が好き。

    静けさの中からしか、不完全なものからしか伝わらない、得られない想いや優しさ。

    そこに嘘偽りはないこと…全てが静かに心に刻まれる。

  • 読み始めはファンタジー(妖精が出て来そうな)感じでした。
    読み進めて何というか違和感、私には
    合いませんでした。
    思い出したのは、アメリカに暮らす
    アーミッシュの存在でした。
    馬車に乗り農耕をし文明の力は持たず
    集団が黒と白(黒いワンピースに白い
    ブラウス、黒いスラックスに白いワイシャツ)おなじ色の洋服を着て日々暮らしている。他の方の感想に作者が金⚪︎教の信者だと書いてありなるほどと思いました。
    携帯もなく、環境汚染の心配も無く
    アメリカでは観光地として存在している
    アーミッシュ達の場所。
    究極のミニマリスト達のようです。
    途中まで読んでリタイヤしました。

  • とても静かで澄みきった小説だった。

    物語の舞台は「内気な人」たちが集まる「アカシアの野辺」だ。
    外の世界と切り離された空間で、その人々は沈黙して暮らす。意思疎通は10本の指を駆使した独自の「指言葉」に、簡単なゼスチャーや顔の表情を交えて行われる。

    リリカのおばあさんはアカシアの野辺で働いている。
    アカシアの野辺では野菜や毛糸やお菓子を作って販売しているが、日々の生活基盤を維持するためには、どうしても外の世界と接触しなければならない。
    おばあさんが「門番小屋」と呼ばれる物品販売所にいることで、会員たちは外の人間と直接言葉を交わす苦行から解放される。
    おばあさんが働いている間、幼いリリカは「休養室」に預けられ、そこで長い時間を過ごした。話し言葉よりも先に指言葉を覚えた。

    ここの住人は沈黙して暮らすが、声を発すること全てが禁止されるわけではない。
    たとえば赤ん坊の泣き声やいくつかの歌声は、誰にもとがめられない。
    <赤ん坊とは泣く生きものであり、風で木の枝がこすれ合うのと同じだ、泣き声は特別な沈黙なのだ>
    また、ここでは子守唄や羊の毛刈り歌なども歌われる。

    アカシアの野辺にあるのは消極的な静けさではない。むしろ、明確な目的とそれを続ける強さを兼ね備えた積極的な静けさだ。
    ただ声で話すのをやめただけでなく、指言葉による会話も必要最小限に抑えられている。

    内気な人たちには、おちゃめな一面もある。
    工場で作った詰め合わせお菓子の中に、ひとつだけ不完全なものを混ぜている。
    星形のクッキーの中に、ひとつだけヒトデ形が混ざっている。ロールケーキの渦巻きが、1本だけ逆向きになっている。
    紛れ込んだはぐれものをぞんざいにせず、文句を言わず、ありがたく食べる人に、何かいいことが起こりますようにと。

    「完全なものは、自然にしか作れないんだからね。人間の手で完全を目指そうなんて、図々しいにもほどがある」
    「余分、失敗、屑、半端、反故、不細工……。そういう、不完全なものと親しくしておかなくちゃ」

    リリカは成長し、やがて歌うようになる。
    羊たちの毛刈りのときにリリカが「毛刈り歌」を歌うと、それまで暴れていた羊たちがおとなしくなった。
    おばあさんの勧めでボイスレッスンに通うになると、歌の仕事が来るようになる。

    その後、リリカは「上手すぎない」歌唱力や「静かな声帯」「商品を邪魔しない声」を生かしながら、さまざまな歌の仕事を受けつつ、アカシアの野辺ともつながりを維持していく。そして、新たな人間関係も構築していく。

    物語を読みながらいろいろと考えた。
    沈黙について。
    完全なる不完全について。
    朗読や歌について。
    「歌とは分かち合うもの」「無言でいるもののためでなければ歌うことはできない」の意味について。

    沈黙の価値を認めると、ときおり発する話し言葉や書き言葉から重みを感じることができる。

    「たまには文字を人の声で聴くのもいいでしょう? 時々、文字の中に閉じ込められている音を、外に出してあげないと、本が窒息してしまうから」

    (物語を途中まで朗読したあとで)「この続きは自分で想像してみてね。そうすれば自分一人のお話ができる」

    <書き損じの伝票の裏や紙ナプキンに書かれたそれらを、用事が済んだあとも、リリカはなぜか捨てられず、自宅の机の引き出しに大事に仕舞っていた。どんなにさり気ない文章でも、無言でいる人々の書く文字には、地面の深いところからようやく掘り出されてきた化石のような、神秘的な厚みがあった>

    この小説はいろいろな読み方ができると思う。
    最初は「沈黙」をテーマにしてなんとなく読み進めていたが、途中から「つなぎ目」としての役割や「つなぎ目」にかかる負担を意識するようになった。

    物語の序盤、おばあさんと役場の青年が、夕方に流れる曲『家路』について話をする。
    「たそがれ時、というのはどんな人にとっても危ういひとときです」
    「昼と夜、太陽と月の境目。どれほど世界が強固に作られていようと、つなぎ目には負担がかかるものです。弱さがそこに集約されてしまうんです」
    「安全な暗がりの入口でなければいけません」
    このやりとりが強く印象に残っているからだろう。

    おばあさんは、アカシアの野辺と外の世界の間に立つ「つなぎ目」としての役目を全うした。
    人形公園の人形たちも、迷子の少年を勇気づけ、つなぎ止めるために必要だったのだと思う。

    そして、リリカも門番小屋で働いたり、歌を歌ったりすることで、さまざまなものをつないだ。
    沈黙と話し言葉。昼と夜。動物と人間。人形と子ども。死者と遺族。歌と聴き手。歌と歌い手。そして、失われた言語の最後の歌い手と現世。

    そんなつなぎ目のリリカに対し、後半に出てくる「料金係さん」は度々、配慮のない言葉を投げかけてくる。
    これについては詳しく書かないが、これはおばあさんがいうところの「つなぎ目にかかる負担」ではないかと自分は解釈した。
    そんな料金係さんに対して、リリカに何ができたのだろうか。

    最後の場面は、いかにもリリカらしい、素敵な「記憶のされ方」だと思った。

    • フリージアさん
      さとるさん、はじめまして。
      フォロー、いいねをありがとうございます。
      レビューを読んで、この本を再び読んだような感じになりました。小川洋子さ...
      さとるさん、はじめまして。
      フォロー、いいねをありがとうございます。
      レビューを読んで、この本を再び読んだような感じになりました。小川洋子さんの静謐さの描写をまた感じることができて、よかったです。これからもレビュー、楽しみにしてます(^^)
      2025/07/19
    • さとるさん
      はじめまして。
      フォロー、いいねをありがとうございます。
      私たちもちょっとした表情や仕草によって、さまざまな沈黙の形を作れるのかもしれません...
      はじめまして。
      フォロー、いいねをありがとうございます。
      私たちもちょっとした表情や仕草によって、さまざまな沈黙の形を作れるのかもしれませんね。
      こちらこそフリージアさんのレビューを楽しみにしています。
      2025/07/19
  • 「内気な人たちの会」を称する男の人ばかりの共同生活の場、「アカシアの野辺」で育った女の子リリカの話。リリカは歌を歌う。名もない、後世にも残らない、誰もリリカぎ歌ったとは気づかない空気に溶けていく歌を歌う。おばあさんと、介護人と、羊の毛刈り係と、歌の先生と、羊と人形たちと、料金係さんとリリカの、静謐を旨とする生活の物語。

  • 沈黙を愛する人々と、その人々が暮らす"アカシアの野辺"で育った少女のお話。
    言葉は人間にとって重要なコミュニケーションツールですが、現代では言い過ぎてしまう人がとても多い。
    "野辺の人"たちは、必要最低限の会話を指言葉で交わしますが、伝え過ぎないことがむしろ良いこともあると感じました。家族や気心の知れた友人と一緒にいるとき、ふと沈黙が訪れても、自然とその時間を過ごすことができる。言葉を交わさなくても相手が何を思っているのかわかるときがある。
    小川さんの静かに心に沁み渡るような美しい表現が、リリカの歌声とリンクしていて、とても癒されました。

  • この本の登場人物たちはみな、どこか生きづらさを感じながらも、その感覚を無視しないで、少しでも楽に生きられる方法を模索していた。

    周りから見たら、可哀想とか普通ではないと思うような生活でも、不幸と感じているかどうかは本人しかわからない。

    主人公がおしゃべりな人を恋人に選んだけれど、結局は沈黙に還っていったのは呪いなのか、どうなのかなどと考えたりした。

  • 楽しみにしていた6年ぶりの長編でした。

    内気な人が住むアカシアの野辺で育ったリリカに備わった、不思議な力、目立たない歌唱力を使って人のために歌い続ける。
    それはただの歌手ではなく、人形やアシカ、死人など言葉を発さない人のために、自分を出さずその人になりきってその人のために歌うという、小川洋子さんらしい、どこまでも静かで内気な物語です。

    話すことの代わりに、手話のような手法で会話をするリリカたちは言葉は少なくとも、意思の疎通ができ、言葉が少ないからこそそこに“奥ゆかしさ”を感じられます。
    『本当に必要な言葉、なんてほんとわずかですから。』
    ありがとうやごめんなさい、そんな必要最低限の手話のみで会話するその世界観に、読んでいて落ち着いてきました。

    『目を閉じなければさようならができないのは、去ってゆく人の後ろ姿を追いかけたくなるのを、我慢するためなのだ』
    この感性、最高に好きでたまらなかったです。
    小川洋子さんの作品に哀しさを感じるにも関わらず、美しさも感じてしまうのは、こういう感性なのではないかと思います。
    読んでいる最中こそが最高の時間でした。


    やはり小川さんの作品は描写が儚げで美しいです。
    特に好きだと感じた部分は
    『歌声は休養室に流れるあらゆる涙に染み込んでいった。』
    『ー魂を包んだ暗闇ができるだけ空の高みに届くようー』
    『唇の奥の暗闇を、透き通った瞳の光が照らしていた』
    読書中のこの寂しげで静かな雰囲気は、この小川洋子さんの美しい描写によって出されていると思ってしまいます。

    結末も、これぞ小川洋子!と思ってしまう、静かで寂しい雰囲気に包まれます。
    儚げで静かな小川洋子さんの作品が好きな方には、期待を裏切らない新刊かと思われます。
    今回も美しい描写でした。

  • 人に勧められないと絶対に読まなかった。いつの話か、舞台はどこか、ふわっとしか想像できないのが良い。
    著者が好きな人は絶賛するが、合わない人にはとことん合わないと思う。でもそんな偶然の出会いがないと、読書の広がりは無くなってしまう。

  • 図書館本

    弔いを邪魔することなく歌声を届けるリリカ。死者の行く手を遮らない歌声。
    その最期。歌えなくなることが恐怖などではなく、
    ようやく野辺の沈黙に受け入れられ、魂を慰めてもらえるときが近づいたのだと思える(本文抜粋)
    との表現は素敵✨

    小川洋子さんの描く、
    何か少し違う世界に紛れ込んだような
    不確かな気持ちに誘う物語が、
    やっぱり好き。

  • 内気な人々が集まって暮らす「アカシアの野辺」で雑用係のおばあさんの孫であるリリカは、その沈黙の里で歌を紡いでゆく・・・
    内気な人たちが、自発的にコミュニティを形成するのかなという違和感はあったものの、優しい語り口で、童話のようなファンタジーのような小川さんの世界観はとても心地いいです。
    リリカには、この物語をうまく成立させなくてもいいから、料金係さんと幸せになってほしかったなぁという思いが残ります。
    ドボルザーク「家路」、小学生のころ下校時に放送されていました。

  • 『魂を慰めるのは沈黙である』
    言葉なしに〝指言葉〟で話しあう人々が集う土地で
    リリカは歌う、目立たず影側(シャドウ)から。
    沈黙と歌声とが織りなす清らかで哀しい物語。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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