黄門さまと犬公方 (文春新書 10)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166600106

作品紹介・あらすじ

かたや修史事業に力を尽し理想の名君と讃えられてきた水戸光圀。こなた生類憐れみの令により稀代の暗君と罵倒される徳川綱吉。ほぼ同じ時代を生き、ともに三男坊でありながら主座に就くことになった両者なのに、後世の評価に天と地ほどの落差が生じるとは-。ふたりの運命を分けたものは何だったのか。史料の森に踏み入り手さぐりで見つけた真の姿が、三百年の時空を超えて今、立ち上がる。

感想・レビュー・書評

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  •  名君との誉れも高い黄門様と、蔑みをこめて犬公方と呼ばれた5代将軍綱吉。果たしてこの評価は妥当なのか。  
     もちろん不当だと思うからこんな本を出版しているわけで、ざっくりまとめるとおおよそこんな感じ。


     黄門様最大の謎は長子相続が当たり前の時代に、なぜ長男でもない光圀が水戸徳川家を継ぐことになったのか、だ。
     幼き頃より聡明で、名君になる素質を随所に見せていたからだとか言われている。ひるがえせば長男は凡庸だったと言っているに等しい。
     へえ〜、とか納得しててはいけない。どんなにお馬鹿でも長子相続はそんなに簡単に崩していい原則ではない。
     
     著者はこう言っている。


     3代将軍家光はなかなかお世継ぎが生まれないまま30歳を迎えた。もしかしたら、このままお世継ぎが誕生しないということも考えられる。仮にそうなった場合は尾張、紀州、水戸の御三家の中から将軍が選ばれる。御三家のなかでも格付けがあって、尾張、紀州、ときて最期に水戸。ではその当時、それぞれの徳川家にいた将軍候補を見渡してみると、なんと水戸家の長男が一番年長になってしまった。


     これはやばい、とお父上の水戸藩主は考えた。


     格付けでは一番下の水戸家が一番の年長者だと、長子相続性の原則からすると、水戸家から将軍が出てしまう。しかし藩の格付けからしたら尾張家から出すのが正統だ。まかり間違えば徳川宗家のお家騒動に発展しまう。
     あ〜、どうしよう、どうしよう。テンパった末に考え付いた奇策が光圀を藩主にしてしまえ、ということだった。


     一藩の長子相続の原則を崩してでも、幕府のお家騒動を避けた、ということらしい。


     結局は家光38歳のときにお世継ぎが生まれたため、お家騒動は杞憂に終わったが、黄門様は藩主になったらすぐに、世間を納得させるために、あることないこと、たぶんないことだらけの名君伝説をつくりあげなくてはいけなかったということらしい。




     では次に綱吉。


     代名詞とも言うべき生類憐みの令、「綱吉にお世継ぎが生まれないのは前世において生き物を大事にしなかったからじゃ、むむう」との坊さん隆光のお告げをを聞き入れ、発令されたとされている。しかし、綱吉の意図は、江戸市中で問題になっていた捨て子の増加、その子供を野犬が食ったり、その野犬を食う傾奇者がいたり、と生命軽視の風潮を儒教的道徳観から改めるための治安対策にあった。


     切り捨て御免の武士の特権の抑制、捨て子救済、野犬の囲い込みが目的だったのに、奇抜だったため庶民が面白おかしく、いろいろ言った。蚊を殺しただけでも罰せられたなんてのは創作である。生類憐みの令で罰せられた庶民なんて、記録としてはほとんどいないらしい。


     また江戸にハイパーインフレを起こした原因と言われる貨幣鋳造。金の含有率を減らして、幕府の財政立て直しを図ったが、結果的には失政だったと言われている。
     しかし、じつはこれがきっかけでインフレが起きたわけではない。でも庶民の生活は苦しくなった。それはなぜかというと相次ぐ天災、元禄大地震と富士山の大噴火のせいである。


     もとより仁政に努めた綱吉は幕府をあげて被災者救済に全力を傾けて復興にあたったが、いかんせん、富士山大噴火なんて何百年に一度の大災害から庶民を救済するには金が足らなかった。それゆえのいくら施し米をしたところで、物価高騰は抑えられなかった。


     結論を言えば、綱吉はけっして愚かな将軍などではなかった。仁政を敷いたのである。
     嗚呼、でも運がなかった!


     相次ぐ大災害に、天に見放された将軍と、誰もが考えただろう。
     残念。


     名君と呼ばれた8代将軍吉宗は綱吉の仁政を模範としたというから、もうちょっと再評価してあげてもいいんじゃないかな。
     

  • 2014年10月14日、津BF

  • 平成25年10月28日読了。

  • 内容は面白かったが文体が気持ち悪い。自分には合わなかったがこの文体に耐えられる人にはオススメ

  • 目から鱗。戦国の風潮を改めた綱吉は、必ずしも暗君とは言えないのだなと思った。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、同大学大学院人文科学研究科博士課程中退。文学博士。現在、東京工業大学大学院経営工学系教授。専攻は日本史。主な著書に『中世のなかに生まれた近世』(講談社学術文庫、サントリー学芸賞受賞)、『黄金太閤』(中公新書)、『群雄創世紀』(朝日新聞社)、『黄門さまと犬公方』(文春新書)、『江戸の小判ゲーム』(講談社現代新書)、『大江戸商い白書』(講談社選書メチエ)などがある。

「2017年 『歴史小説の懐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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