性的唯幻論序説 (文春新書 49)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166600496

作品紹介・あらすじ

「人間は本能の壊れた動物である」と著者はいう。したがって性交も本能ではできない。人類は基本的に不能なのである。しかし不能のままでは人類は絶滅する。不能を克服するため、人類は本能ではなく幻想に頼らざるをえなかった。人類において性にまつわる一切は幻想であり、文化の産物なのである-との視点から、性差別の起源、売買春、恋愛と性欲、資本主義と性、などの諸問題に根本的メスをいれる。目からウロコが落ちること、うけあい。

感想・レビュー・書評

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  • 人間とは既に本能が壊れている。その本能に基づく性欲には、もはや種の保存という目的が失われ、文化・経済・政治などのエネルギーになってしまっている。こうした視線から、近代以降の性にまつわる様々な事情を、読み解いてみた本。個々の主張には、いろいろ反証材料がありそうだたけれど、いちいち深く考えるより、こんな考え方があるのか、と流しながら読めば、なかなか面白い。

  • ――――――――――――――――――――――――――――――
    女の性欲が複雑怪奇であるこの違いの原因を男女の性本能の違いに求めようとするから、ますます混乱するのである。

    男女とも性本能は壊れているのである。27
    ――――――――――――――――――――――――――――――
    男の楽しみを感じ、自分の性器に興奮している男の興奮を感じ、それに感応して自分も興奮するのである。

    女が一般に自分を積極的に愛し求めてくる男としか寝たがらないのはここに理由の一つがあろう。39

    中心的役割を演じるのは、男にとってのみならず、女にとっても女体であり、その性的魅力である。40
    ――――――――――――――――――――――――――――――

  • 反フェミニズムの私としては、なかなか具体的、且つ明確な分析は評価すべきものだと思う。
    此の本は、性欲について、性的価値観の相互の誤解等を幅広く指摘している。彼はどちらかと云うと、女性保護の立場に立って居る様に想うが、何れにせよ、文化意識からも見据えた性差の違和を、巧く訴えて居る様に想った。

    共感できる部分は非常に多い。彼は幾分か、女性に対する未知を素直に打ち明け過ぎて居る・根拠なしの攻撃は避ける、と謂う点から、ぎこちなさを感じたりもするが、
    考え方としてはとても面白く、的を居て居ると思う。

    「本能の壊れた動物」という形容、「女性は男性に嬲られている自身の姿に魅了される」(本文との差異はあるものの、私としての捉え方から云えば、こういった表現に成る。)等の言葉は、事実に過ぎない。
    故に女性が性差に悲観する理由など無く、寧ろ男性より性について究極を求めている存在であると謂える。
    フェティシズム(倒錯傾向)は、案外、幻想を意識し易い「女性」の方が強いのかもしれない、と想ったり。

  • 人間は本能の壊れた動物。言い得て妙!
    ノンセクシャルの自分としては、なるほどと腑に落ちる所多数。この年代の男性で、ここまで性欲を突き放して観察できるのは凄い。
    性差別の問題を、「まあ女が少し譲歩して我慢してあげればうまく回るんだから…」って言う人が、男性にも女性にも結構いるんだけど、「構成成員の約半分を差別の犠牲にすることによって存続させる」ことが、いかに馬鹿げている事かと言及してくれたのに喝采を贈りたい。「性差別の解決は女たちだけの為に必要なのではない」と、まさに男時代を生きた著者が言い切ることの意義は大きい。

  • (2000.07.19読了)(1999.09.25購入)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「人間は本能の壊れた動物である」と著者はいう。したがって性交も本能ではできない。人類は基本的に不能なのである。しかし不能のままでは人類は絶滅する。不能を克服するため、人類は本能ではなく幻想に頼らざるをえなかった。人類において性にまつわる一切は幻想であり、文化の産物なのである―との視点から、性差別の起源、売買春、恋愛と性欲、資本主義と性、などの諸問題に根本的メスをいれる。目からウロコが落ちること、うけあい。

  • 「人間は本能の壊れた動物である」らしい。

  • 人間は性本能が壊れていて、幻想で性交できるようになっている、
    人間にとっては性交は趣味である、

    という説は、当初はそんなバカなと思うのだが、読み進めていくに従い、そのとおりかもと思ってしまった。
    この前提を受け入れた上でないと、全部を読むのは苦痛に感じる人もいるかもしれない。

    人間以外の動物の性交と較べれば、明らかに人間の性交が特殊だし、セックスや性的なことに関する価値観が宗教や思想、文化によって形成されてきたり、時には為政者の都合よく使われてきたこともあるだろう。

    最近言われる「草食男子」も、今となっては性に関する不要な呪縛から、男性が解放された喜ぶべき結果だとも。
    男性だけでなく、私の周りでも、したいと思わないといって拒む女性もかなりいる。
    もちろん、肉食男子も肉食女子もいる。

    妊娠目的以外に、セックスができるのが人間に与えられた能力だとしたら、
    セックスに条件付けされたり、植えつけられている観念を取り払った状態で
    自分はどうしたいのか?
    を純粋に眺めることができる。
    (それゆえに悩み苦しみもつきまとうのだろうが)


    氏も書いておられるが、性能力と性欲とは直接的にはリンクされていない。
    結局、男女間でのセックスにまつわる問題といえば、性能力と、性欲の程度が、不一致だったときにおきるのであろう。

    したいし、できる
    したいけど、できない、
    したくないけど、できる
    したくないし、できない

    この相性を筆者の言葉でいえば「趣味」の問題なのかもしれない。
    性に限らず趣味嗜好の不一致は、不和の原因になりやすい。
    いずれのケースかによって、それを問題だと捉える場合、対処方法も変わってくる。


    さて、性の本能が壊れているのが人間だという前提だが、なぜ動物の中で
    人間だけが壊れているのか?
    最初から壊れているのか?あるいはどこかの時点で壊れてしまったのか?


    この著書は有史以後の(宗教学、文化人類学、民俗学レベルで追跡可能な過去)
    における性の有り様に基づいた説なので、
    「はじめ人間ギャートルズ時代」の人間の性本能はどうだったのだろう?と疑問がわく。

    そもそも動物のように発情期がない、という時点で、「壊れて」いるので、人間という生き物ができたときからかもしれない。

  • [ 内容 ]
    「人間は本能の壊れた動物である」と著者はいう。
    したがって性交も本能ではできない。
    人類は基本的に不能なのである。
    しかし不能のままでは人類は絶滅する。
    不能を克服するため、人類は本能ではなく幻想に頼らざるをえなかった。
    人類において性にまつわる一切は幻想であり、文化の産物なのである―との視点から、性差別の起源、売買春、恋愛と性欲、資本主義と性、などの諸問題に根本的メスをいれる。
    目からウロコが落ちること、うけあい。

    [ 目次 ]
    第1章 すべての人間は不能である
    第2章 男の性欲は単純明快である
    第3章 文句を言い始めた女たち
    第4章 女体は特殊な商品である
    第5章 「女」は屈辱的な役割である
    第6章 母親に囚われた男たち
    第7章 「性欲」の発明
    第8章 「色の道」が「性欲処理」に
    第9章 神の後釜としての恋愛と性欲
    第10章 恥の文化と罪の文化
    第11章 資本主義時代のみじめな性
    第12章 性交は趣味である

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 物心をついた頃から異性との関係で色々と悩んできました。
    もちろん、その内には性的な問題もありました。
    とはいえ答えは出ずに考えることをやめてしまう、それが普遍的な結果だと思うのです。
    長い歴史の中で育まれた性的な差や社会・文化。
    それらが複雑に絡み合って生まれたものが今の性文化であり、おかしなものなのです。
    それを綴る一冊。

  • 自分の持っている恋愛感は実は文化で左右されているもので結局自分の考えではないんだなぁ、と気づかされます。あとこの本を読むと本当に「不能」になりますよ。

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著者プロフィール

精神分析者、エッセイスト。1933年生まれ。早稲田大学文学部心理学専修卒。和光大学名誉教授。『ものぐさ精神分析 正・続』のなかで、人間は本能の壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎない、とする唯幻論を展開、注目を浴びる。著書に、『ものぐさ精神分析』(青土社)、「岸田秀コレクション」で全19冊(青土社)、『幻想の未来』(講談社学術文庫)、『二十世紀を精神分析する』(文藝春秋)など多数。

「2016年 『日本史を精神分析する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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