手紙のなかの日本人 (文春新書)

  • 文藝春秋 (2000年11月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (248ページ) / ISBN・EAN: 9784166601387

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  • 本書は、著者が選んだ日本人22人の手紙文を紹介し、その手紙の内容に触れながら、22人の人物像について語られたり、その時代について語られたりしている。

    もともと富士通研究所発行の月刊誌で連載された記事に、この新書のために著者が新たに書き起こして編集されたようである。

    ともかく22人が日本を代表する人物であり、著者のこの人選のよさが、本書の面白さを倍増させているように思う。

    その人物とは、親鸞、日蓮、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、細川ガラシャ、淀殿、大高源五(子葉)、良寛、小林一茶、佐久間象山、吉田松陰、坂本龍馬、勝海舟&西郷隆盛、乃木静子(乃木将軍夫人)、夏目漱石、永井荷風、山本五十六、小泉信三、香淳皇后である(※勝海舟と西郷隆盛は一つの章に二人登場)。

    著者は「手紙」の歴史についても調べられたようで、この「手紙」という言葉が江戸以降使われているが、それ以前は「書翰(しょかん)」「尺牘(せきとく)」「消息(しょうそく)」「玉梓(たまずさ)」「玉信」「書状」「往来」「雁書」などと呼ばれていたということで、こちらの研究のほうもまた興味深い。

    そして本題。やはり手紙にも個性がある。それぞれの人となりがよく表れている。

    例えば日蓮。まず文章が美しく、力強く、内容は知性的であり、しかも相手に対する慈悲の心が半端ではない。死罪ともいえる佐渡流罪時に、弟子日朗を思いやる手紙が紹介されている。

    信長の手紙は面白い。秀吉の正室おね(のちの北政所)に送った手紙の中では、秀吉を「はげ鼠」と呼んでいる。明智光秀らに送った手紙の中では、秀吉を「猿」呼ばわりしている。秀吉が好きだったんだろうなぁ。そして彼の手紙には合理性重視という特長もある。

    明智光秀については、本能寺の変の際、迷いを振り切った出陣に際しての遺言の偈が紹介されていた。
    彼がなぜ信長暗殺に至ったのかの諸説や、秀吉による適当な明智の首検分などについて語られれている。

    秀吉がらみでは、秀吉からおねへ送った手紙や、淀殿の手紙などが紹介されていた。

    淀君の「君」には遊女という悪いイメージがこめられているのだそうだ。これは徳川側に後付けされたイメージのようで、実際の淀殿の手紙文からは、好人物がうかがえる。

    人物像でインパクトが強かったのは佐久間象山。好奇心の塊のような実行家。しかも天才的頭脳の持ち主。砲台だけでなく、ガラス製造、地震計製造、養豚、薬草栽培、葡萄酒製造、電信と多方面に多才を発揮している。そして、そういう自分を「神の寵児」と呼ぶ驕りの人でもある。結局、暗殺により自らの命を落としてしまった。

    ペリーの軍艦が浦賀沖に到着した際、その模様を母親に手紙で伝えた。「丁度大たらひの下にはまぐり貝御座候様に見え申し候」は、ありありとその様子が目に浮かんでくるから面白い。

    そして、松陰、龍馬、西郷、勝と幕末・維新の人物が続く。松陰も手紙の人だ。20歳からその死(29歳)までの約600通の手紙が現存するそうである。

    龍馬は、姉の乙女への手紙の中で、政治思想を語っている。刺しにいった相手の勝海舟に惚れ、弟子入りさせてもらえたここを喜ぶ龍馬がいる。

    なんといっても本書で一番著者の思いがこもっていたのは夏目漱石の章ではなかろうか。漱石は著者の義父に当たる。

    漱石の書簡集にトドメを刺すといいながらいくつかの書簡をとりあげ、その内容に「若き日の稚気から、晩年の天空豁然まで、時に放胆、時に高逸、しかも常に裏側に春風のごとき漱石に微笑が感じられる」と述べている。

    それは、実際に漱石の書簡が実際にけた外れに味わい深いからでもあるだろう。

    ただ人物を語るのではなく、手紙から読み取り人物を語るというこの試みは非常に興味深かく感じた。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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