パラドクス・パラダイス 不思議の国サウジアラビア (文春新書 184)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166601844

感想・レビュー・書評

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  • タイトル文字通りの国。読んでいてこんなに興味深い国はない!女性にとっては自由のない全く地獄のような日々かと思いきや。そこでの生活に思いのほか、快適性を見つけたという著者やその義妹、そしてフランス人の女性たちもまた。イスラムの聖地を守る国としてイスラムの中でも特異な国。首切り、腕切りがあるかと思えば、女性は男性の同伴なしに家の外に出られず、宗教警察(ムタワ)が見張りを効かせている中で、アバヤ(マント)ヴェールで顔を覆う生活。3親等以内の男性を除いては、女性の顔を知らないという驚くべき世界。しかし、個人宅では華やかな服装。外国人たちも治外法権の領事館での会合を楽しんでいる。オイルマネーに支えられ、多くの不労所得が舞い込み、税金がなく、物価も安い、知的労働にのみ従事するサウジ人たち。政治活動も必要なし。祈りの時間はたっぷりとれて、宗教心を満足させ、死後の幸福まで期待される。女性は保護され、セクハラなどは存在しない。さぞや天国に近い国だろうとの著者の皮肉とも思える言葉が面白い。正に世界中の人たちが憧れる理想の生活の姿に幸せは…。その中でパラドクス・パラダイスを感じる人の存在が実に面白い。確かに顔を隠している中では「平安時代の女性のように顔を隠しながら御簾を上げて外を見る」という特権階級的な心持を体験できるのだろう。

  • 異文化とは何かについて改めて考えさせられる内容である。我々が普段暮らしている日本の文化は、どこかアメリカやヨーロッパのそれとは異なる独自性の高い物だと感じている。特に冠婚葬祭においては伝統や儀式的な面が重視されるから、例えば少し前の日本なら女性は白無垢、男性は紋付袴と身を整え厳かな雰囲気の中で執り行われるし、各地の伝統的な祭りなどは褌一丁の男達が危険を顧みずに山車を引き、毎年怪我人や死者が出たりする。海外の人から見たらこれらは一体どの様に映っているのだろう。我々日本人同士でも理解できない事は沢山ある。
    もう少し範囲を広げてみると、文化の違い以上に宗教の違いから来る「違和感」はもっと大きいに違いない。今どきこれを違和感という文字で表現するのは多様性を重視する社会においてはやや禁句的な雰囲気もあるが、素直に同一性を感じる事に無理があるのも間違いない。特にイスラム教の世界観はニュース報道で流れるテロなどの影響から、かなりの違和感を感じる事が多い。
    本書はサウジアラビアという日本人が滅多に訪れる事のない国で過ごす筆者が感じた違いについて記載されている。サウジアラビアは勿論イスラム教の国であり、メッカとメディナという二大聖地を抱える国家である。首都リヤドは先進国に引けを取らない近代都市であるが、少し車を走らせれば広大な砂漠が広がる。そこにはラクダと共に住むベドウィン達が暮らし、都市部にはオイルマネーにより一生かけても使いきれない資産を持つ人々が暮らす。この一風変わった国は敬虔なイスラム教徒達が暮らし、イスラムの戒律を守っている。
    外から来た日本人やフランス人達が見たサウジアラビアの国民の行動は前述した様に中々理解し難い文化や慣習がある。しかしそれらはそこに暮らす人々にとってはごく普通の日常であり、それがスタンダードである。
    まだまだ世界には我々の知らない世界、触れる機会の少ない文化や生活が沢山ある。自分が普通だという感覚で触れている限り、いつまで経っても違和感は拭い去れないが、寧ろ自分も外から見ればその違和感の一つだと理解すれば、益々多様性が尊重される社会で生きていきやすいだろう。こうした書籍から学べる事は多い。

  • 初めての中東旅行で見たイスラム文化にカルチャーショックを受け、最も厳格なイスラム社会を知りたくなり手に取りました。そもそも入国が厳しいのでサウジアラビアのルポは貴重です。

    少し古い本ですが全くそんな感じがせず、ミステリアスかつまさに「不思議の国」サウジにワクワクしっぱなしで一気に読みました。女性が運転できるようになっていたり、今はこの時より国の考え方も多少変わっているかもしれませんが、それすらなかなか知り得ないのもまた不思議の国。

    女性が護られているともとれるし、女性に人権がないともとれるこの国。筆者(日本人女性)が見たサウジの描写とパラドクスという独自の捉え方、その語り口…すべてが面白いです。中東のあの空気が恋しくなったら何度でも読みたいと思いました。

  • 面白すぎだ。古い話だけど、引き込まれる語りでよい。

  • アラブ圏は宗教の締め付けが厳しく、貧富の差や男女差別もひどい・・・というステレオタイプが、この本でだいぶ砕かれた。
    (もちろん、上記のような国もあるのだそうだけれど)

    オイルマネーで国民全員が「中流以上」になってしまった国。
    アメリカや日本が、積み上げて達成してきた物質的な豊かさを当たり前のように享受できる国。
    女性は夫や父の元に服従していなければならないけれど、家事労働も含めて働く必要がなく、夫の「保護」の下に責任を問われることもない。

    いつまでもこんな社会が続くとは思えないが・・・
    それにしても、自分たちの価値観の中での「幸せ」や「自由」が問い直されたり、相対化される経験ができた。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    文庫&新書百冊(佐藤優選)160
    国家・政治・社会

  • 視点を変えると、権利の少なさは責任の少なさ。迫害ではなく保護。

  • [ 内容 ]
    一日五回の祈りタイム、家に閉じ込められる女性たち、金曜日ごとの公開処刑―いかにも窮屈で恐ろしげな事前情報を手に現地を訪れた著者が見たものは、生活コストが安く、女性は働くことさえなく、政治活動や組合活動の必要もない、この世の楽園だった。
    されど、我々が追い求める幸せは、こうした豊かさの延長線上にあるのだろうか?
    黒いヴェールに閉ざされたイスラム大国の「五つのパラドクス」を解きほぐし、真の幸福の意味を問いかける。

    [ 目次 ]
    序章 リヤドから赤いバラの消えた日
    第1章 禁忌と自由―パラドクスその1
    第2章 伝統と現代―パラドクスその2
    第3章 ナショナリズムと多様性―パラドクスその3
    第4章 男と女―パラドクスその4
    第5章 過去と未来―パラドクスその5
    終章 サウジアラビア物語

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 日本人にとってサウジアラビアって馴染みのない国で、どんな生活しているのか未知の世界。
    特に敬虔なイスラムの国で、女性はどのような位置にいるのだろうって不思議だった。
    けどこの本は、イスラム=女性抑圧の認識を覆してくれた。
    別の視点で、イスラム女性の自由を発見させてくれた本でした。

  • サウジアラビア・ルポ。

    サウジアラビアを訪れた日本人女性のルポルタージュ。
    広く浅く、彼の国の日常生活についてリポートしている。今からサウジへ行く予定の人には役に立つのではないかと。

    そこは女性に社会的立場が日本とは大きく異なる国であり、まず入国許可からして一苦労。
    家父制度がハッキリと残る国であり、女性の社会的権利は限りなく少ない。尤も、本書はその事に義憤を表すのではなく、不自由な風習として扱っている。

    私見だが、
    女性問題云々に留まらず、多文化についてどうこう言うのはあくまでこちらの文化から見た場合の意見である事を忘れてはならない。
    もちろん文化を問わない普遍的な観念もあるだろうが、この場合はこちらが女性を解放しろ、と叫ぶより彼女らの意思の方が力を持つだろう。
    その土地の風習が善悪を判断する事は出来ないが、望む人にはチャンスが与えられる社会であってほしいとは思う。・・・この意見も日本で育てられた価値観にすぎないが。

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著者プロフィール

比較文化史家・バロック音楽奏者。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。同博士課程、パリ大学比較文学博士課程を経て、高等研究所でカトリック史、エゾテリズム史を修める。フランス在住。著書に『ヨーロッパの死者の書』『キリスト教の真実』『女のキリスト教史』(以上、ちくま新書)、『ジャンヌ・ダルク』(講談社学術文庫)、『ローマ法王』(角川ソフィア文庫)他多数。著者のホームページhttp://www.setukotakeshita.com/

「2021年 『疫病の精神史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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