夢と魅惑の全体主義 (文春新書 526)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166605262

作品紹介・あらすじ

ヒトラー、ムソリーニ…独裁者たちは「建築」を通じて民衆へうったえかけ続けた。一方、「日本ファシズム」が生んだ風景はバラックの群れだった。建築が明らかにする全体主義の正体。

感想・レビュー・書評

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  • 夢と魅惑の全体主義
    (和書)2013年09月04日 13:19
    2006 文芸春秋 井上 章一


    『夢と魅惑の全体主義』を読んでみた。五十嵐太郎さんのブックガイドに載っていてそれを参考にしました。

    全体主義・ファシズムと建築の関係についての本である。そして建築と人間を統治(支配)する技術との関係である。

    人間を支配するとは、人間の関係に格差を創造することである。そういったものは支配者の論理・いけにえの論理・格差の論理とも言いうる。建築に人間の支配が先行していたとしたら格差の解消としての哲学は建築においてどのようにありえるのかということである。

    この本はファシズムにおける建築のあり方がどのようになっていたかとても面白く調べられている。今までの建築観が変わってくる。建築は人間の統治のためになされてきた。だから駄目だと言いたいわけではない。そういった支配の論理がどのように哲学に昇華するのかが面白いところである。そういった昇華とは格差の解消として哲学となり、止揚とも言われるかもしれない。

    建築は人間を統治(支配)する技術が露骨に現れる芸術である。そういった格差の論理が露骨に現れる建築において格差を解消しようとする哲学が明確に必要とされる芸術でもある。建築と哲学の関係はそういった人間の関係にもっともよく現れている。

    井上さんはファシズムを広い意味で使うのは反対されている。そうしないとファシズムとしての枢軸国の特徴が明確化しにくいからである。ノーム・チョムスキーやハワード・ジンなどは全てに関してファシズムを使っている。企業ファシズムとはそういった意味である。建築に関するファシズムの研究には井上さんのスタンスが正解だとおもう。しかし現代社会の研究にはチョムスキーやハワード・ジンの指摘も重要だと思う。

    井上章一『戦時下日本の建築家』(朝日選書)も読んでみたい。

  • チャイルド44でソ連の全体主義社会に衝撃を受け、何かないかとたまたま行き当たった本。結果、あまりソ連とは関係なかったが面白かった。建築物は確かに、それなりに力がないと建てられないので、当時の為政者の力を示す象徴に結果としてなる。歴史的にずっとそうだった。この本では日本のファシズムでは建築に力を入れてないことが描かれていて、すごく笑ってしまった。ちょっと文章に癖があったけど、また一つ勉強になりました。

  • 「建築」が浮き彫りにするファシズムの正体
    ヒトラー、ムソリーニ……独裁者たちが「建築」へ託した情熱と夢に、建築家はいかに応えたか。そして日本ファシズムの謎とは?

  • 壮大華麗なモニュメントをもって自らの権威を象徴せしめたドイツやイタリアの「ファシズム」とは違い、「日本ファシズム」はバラックなど簡素な建築に終始した。従来のイデオロギー的な戦時批判(つまり、建築も全体主義に奉仕したのだ)をやんわりといなして見せ、また、忠霊塔や様々の戦時のモニュメンタール建築の経緯はなかなか興味深い。しかし、原武史なるショウもない著作に引っ張られて紋切型の「装置」論を述べるとはいかがか、とは思う。しかし、極めて示唆に富んだ労作と、は一応言える。

  • 広島平和記念公園は、ソビエト・パレスを参照しており、また大東亜建設記念営造計画の流れもくんでいた、というくだりや、軍人会館風のは建築を「日本ファシズム」とつなげて考える一般通念は間違っている、というくだりが面白かった。

  • 【自分のための読書メモ】
     長いこと積読状態だったけど、読了。
     庭園と同じように、建築もその時代の権力が反映される。作者は、20世紀の全体主義の時代に焦点を当てていて、分析されるのは、イタリア、ドイツ、ソヴィエト、日本、満州、中国。
     面白いのは、 「為政者の考えがこうだから→こんな建築様式に」というのではなく、建築様式からそれぞれの、政体の違いが比較されているところ。
     学生のころ安西信一先生に影響を受けて、庭園論にはまったけれど、建築物もまたその時代の社会的な背景を色濃く反映している。
     そして、建築物は庭園よりも直接的に雄弁に大衆に為政者のビジョンを示す装置になっている。建築物は、自分のビジョンを隠喩として伝える良い道具であるのを知ってか、ヒトラーもムッソリーニも固執したのかもしれない。
     そういえば、秩序を作るといえば、「キリストも、もともとは大工さんだったし、サリンジャーのグラスサーガの主人公シーモアも大工さんになりたがっていたなぁ」なんてことも、ふと思い出したりした。
     

  • [ 内容 ]
    ヒトラー、ムソリーニ…独裁者たちは「建築」を通じて民衆へうったえかけ続けた。
    一方、「日本ファシズム」が生んだ風景はバラックの群れだった。
    建築が明らかにする全体主義の正体。

    [ 目次 ]
    ファシズムは強く、そして新しく
    ベルリンを南北につらぬいて
    かがやく第三帝国
    建築家と独裁者
    スターリンとフルシチョフ
    モスクワから東京へ
    東京にバラックを
    紀元は二千六百年
    広島に大東亜共栄圏の影を見る
    城と寺の瓦屋根
    大連から新京へ
    蒋介石から毛沢東へいたるまで

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 2006 建築から読み解く比較ファシズム論(ドイツ、イタリア、日本)

  • まどろっこしい文体はともかく、建築の可能性について考えさせられる内容で面白かったです。
    印刷術の発明以後メディアとしての機能は薄れたものの身体性物質性を欠く(少なくともその方向へ進む)情報社会において建築は環境の意識化の最後の砦として…ぶつぶつ。

  • 第二次世界大戦当時のファシズム三国を建築の視点から眺めた新書。こういう視点の持ち方は良いと思う。

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著者プロフィール

建築史家、風俗史研究者。国際日本文化研究センター所長。1955年、京都市生まれ。京都大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。『つくられた桂離宮神話』でサントリー学芸賞、『南蛮幻想』で芸術選奨文部大臣賞、『京都ぎらい』で新書大賞2016を受賞。著書に『霊柩車の誕生』『美人論』『日本人とキリスト教』『阪神タイガースの正体』『パンツが見える。』『日本の醜さについて』『大阪的』『プロレスまみれ』『ふんどしニッポン』など多数。

「2023年 『海の向こうでニッポンは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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