空気と戦争 (文春新書 583)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166605835

感想・レビュー・書評

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  • 東京工業大学で行われた講義を再現したもの。いまも起きていることと同じような日常性が日米戦を呼び込んだのではないか、という猪瀬氏の主張に頷く。陸軍省燃料課で石油需給を試算した高橋中尉の回想と、総力戦研究所のシミュレーションをめぐるエピソードが秀逸。戦前は軍国主義で、戦後は平和主義という、モノクロ戦争史観をお持ちの方にぜひ読んでいただきたい。

  •  読んだのは2回目。
     「南進、南進と騒いではいても、実際にそれでは石油を取りにいくにはどうするか、という調査なり計画なりは昭和15年まではなにひとつなかった。実際に私たちがそれに取り組み始めたのは買い付け騒ぎが一段落した昭和16年2月か3月だった。」というのは、作中に引用された高橋中尉(当時)の回顧である。
     電力に関して騒いでる今とほとんど同じではないか。歴史は繰り返すと言うがまさにその通りである。

     危機に対する立ち向かい方は、戦争直前の時期と驚くほど共通点がある。こうした性質をもはや変えられないものと考え、どうにか補正するような制度設計ができないものか(制度を作る側がこれだから、かなり難しいことだとは思う)。

     とても読みやすい本である。震災後、特に原発問題に関する雰囲気がなんだかおかしいと思う人にとっては、おそらく腑に落ちる内容だと思う。

  • 山本七平『空気の研究』を援用しながら、太平洋戦争直前に設立された総力戦研究所や、理工系学生の戦争観を記述している。某大学での講義を書籍化したもの。
    「必敗」と分かっていながら、日本は空気に流されて対米戦争に突入した。その過程を丁寧に追っている本書は、「KY」という言葉が流行する今、読んでおくべきであろう。なお、猪瀬氏の著作『昭和十六年夏の敗戦』は総力戦研究所を描いた作品であるので、併せて読むとよい。
    ちなみに、「空気を読む」という言葉自体は戦前期から存在したようで、先日長野の地方名士の日記(昭和初期)を読んでいて「彼ハ空気ノ読メヌ奴・・・」というフレーズを目にした。

  • 太平洋戦争の開戦前にこの様な模擬内閣による研究があった事は意外と知られていない。著者の理系大学の講義という形で進められた内容の様だが、「昭和16年夏の敗戦」などあらかじめ著者の作品に触れた方であれば、綿密・十分な調査のもとに描かれる状況や裏付けに、納得しながら読めるだろう。
    山本七平の「空気の研究」はやや学術的側面があり使われる用語自体も解りづらい。それに比べると学生向け講義という事もあり、随分とわかりやすく解説されていく。日本の組織、日本自体が如何に空気に流され、なし崩し的に物事が決まることの多い事か。会社組織もそうだろう。トップの意向・発言を神の言葉であるが如く受け入れ(妄信的)、それに合わせて理由を後付けしていく。私も技術職だから理解できなくないが、やりたいこと研究したい事が先にありきで、理由などは数字の組み合わせ、書き方自体で如何様にでも取れてしまう。「やる事自体が目的になっている」というのはよく聞く話だ。政治家もそう言った方が多いが、意外にも東條英機の場合、天皇の意に添い開戦を防ごうとした点では、主戦派多数の陸軍においても信念を通すという点では評価できる。結果的に開戦し敗北したのだが。別の本でも東條について何冊か読んだが、最近はその手腕や責任の取り方を評価するものも多い。話は逸れてしまったが、本書は石油技術を志望する陸軍中尉が石油備蓄量の視点から戦争か不戦かの判断材料作りに奮闘する姿を描く。「空気」を読まない事実を持ち出せば、当然の如く否定されて黙殺され、都合の良い数字を出すことが目的になる。そうなってくると大きな流れは変わらない。大河に打ち付けられた杭の様なもの。こう言った事は多くの組織が抱えた問題で昔も今も変わらない。
    因みに専門家・技術職の若い世代が研究した成果、模擬内閣の成果である予想も結果も、その後の日本の敗戦の道のりを良く当てている。結局の所、ちゃんと考えて分析から導き出した答えは合っているという事だ。そこで益々なぜ日本は戦争へ向かったのか、という疑問が再び湧き上がる。
    筆者もこの点は複雑とは言いながらも、陸海軍の利害関係、先進国仲間入りを果たそうとしていた国民意識、満州に確立した国益を守りきれない外交・政治力、その背景にある根本的な経済力の弱さなど、数え上げたらキリがない各種要因が絡み合って「何となく」全体が流されて行った様に見える。ソ連のスパイ工作などもその一つかもしれないが、大国の利害が絡む世界の大きな流れの中で、反対方向に押し戻せずに流されて行った人々。今の我々にもそのまま残されている課題といえよう。そして上手い対処方法が見つからない難題とも言える。
    後半は著者自身が国土交通省の施策ありきの進め方に物申すシーンがある。戦うための材料をしっかり集め、国民の血税を無駄な投資に使わせないという強い目的意識と信念で最後まで闘う。結局答えはその辺りになるはずだ。自分も仕事しながらその様な強い気持ちで挑んだことなど数える程しか無かった。水面でクルクルと回り続ける笹の葉みたいな人生にしてしまうか、流れを鮭の如く逆らっていくか、歴史に学びあなたならどうするか?との問いに答えなければならない。

  • 学生向け講義の再編集ということで、ノンフィクションというよりはコラムの体。
    ライトにつき、業の深さのようなものは浮き出ていないが、アウトラインは理解できる。
    そこで示されているのは戦前と戦後(つまり現代・日常)の連続性や、驚くほど空気に流される大本営の意思決定プロセス、すべての命運を握った石油問題、個人のささいなミスが大きなほころびにつながっていることなど、どれも重要事項。
    しかし、猪瀬直樹特有の自意識過剰、自己承認欲求の強さがくさっくてありゃしない。

  • 忖度は近頃の流行語ではないみたいです。

  • 【要約】


    【ノート】
    ・「昭和16年夏の敗戦」を「ラーメンと愛国」で知り、猪瀬さんて、あの猪瀬さん?と思ってamazonで調べたらそうだった。その著作の中で興味を持った。
    ・「詩歌と戦争」との関連が期待できるかな。

  • 日本が戦争を始めた当時を紐解くことで見えるその場の「空気」の重さ。組織の意思決定はロジックでは行われない。国に限らず・・・。

  • 満州での利権に拘るあまりに、アメリカより石油の禁輸制裁を食らったために、インドネシアへの南進を諮ることとなった日本。完了より石油備蓄の試算の説明を受けた後に決断を請われて、東条は「泥棒せというのか」と怒鳴ったという。

    東条英機は当初は開戦論者であったが、昭和天皇より開戦の回避を指示される。天皇の忠臣であった東条は、なんとかこれを模索するが自らが作った流れは変える事が出来ず開戦と至った。正直以外な事実であった。

    いったん作られた流れが止められずに破壊的な結末に至るのは、もう日本人の民族的な特性といっても仕方がないであろう。しかし、あの時代から学ぶことなく同じ事を繰り返すのであれば、太平洋戦争で死んでいった先人はうかばれない。経済が疲弊していくなか、自らを変えられない日本人。結局、市場による暴力的な調整によって再度の敗戦を迎えなかれば変わる事はできないのであろうか?

  • 本書はぜひ著者の「昭和16年夏の敗戦」と合わせて読みたい本

    昭和後半生まれの者には知ることができないが、当時の様子をしることができる良書であった。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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