彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか 昭和陸海軍の失敗 (文春新書)

  • 文藝春秋
3.61
  • (10)
  • (25)
  • (28)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 210
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606108

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  視察先への移動時間に読むために、本棚からぱっと選び出して鞄の中に放り込む。三年ほど前の本ではなかったか。再読。

     ちょっと左傾かなと思われる半藤一利や保阪正康、また、右傾かなともいわれる秦郁彦、福田和也、防衛大学関係の平間洋一、戸部良一等々、なかなかの識者。現代ではこの時代を考証する最強メンバーであろう。

     感想は陳腐なものになってしまうが、結論から言えば、この本を読んででさえも、なぜあのような戦争に突入してしまったのか、一つの理由に帰することはできない。ヒトラーに全てを帰結してしまったドイツと決定的に違うところであろう。

     石原莞爾はあまりに天才が過ぎるがために、誤解されている節もあるが、決してヒットラーではない。東条英機は、逆にあまりに小さ過ぎる。

     さて、先の大戦にまつわる本を読んでいると、ことごとく共通しているのは、服部卓四郎と辻政信の評判の悪さ。詳細は、本書はじめ歴史書に委ねるが、なぜ、こんな暴走コンビが・・・と気が重くなる。

     参謀本部作戦課長として、無謀な戦争の絵を描いた服部は、戦後、すかさずGHQにおもねり、日本の悪口を書きなぐった「大東亜戦争全史」(GHQ戦史部編纂)をまとめあげた。

     現代に繋がる、先の大戦は全て日本が悪であるという呪縛に拘泥されている人に、しかも、そのことさえ気づいていない人に、意識しようがしまいが、しっかりと覆いかぶさっているものである。

     服部は、自分でシナリオを書いた戦争を、「日本」という国の責任にしてしまうことによって、自分の責任をうやむやにしてしまおうとする。

     服部とコンビであった辻政信は、連合国からの戦犯追及を逃れるため、インドシナ半島、中国さらには日本国内にてずっと隠れていた。広田弘毅と正反対である。

     ほとぼりが冷めた頃に、表れ、その潜伏の体験を書き上げベストセラーに。

     常人ではない。

     尚、辻政信はその後、参議院全国区から出馬し、三位で当選。いやはや・・・。強靭な生命力である。

     では、なぜ、そのような人物がそんなことをできたのか。跋扈できたのか。その疑問を解いていく作業こそが、私たち日本にとって、今後、平和を守っていく一つの鍵となっていくのかもしれない。

     最尾に、辻政信についての人物評で面白い記述があった。

     戸部氏の言葉。
     「辻は、その場に応じて『正論』を巧みに使える才能があり、それで生き残ったのではないか」

     保阪氏の言葉。
     「作家の杉森久英は『辻政信』という著書の中で、「彼のする事なす事は、小学校の終身の教科書が正しいという意味で正しいので、誰も反対しようがなく。彼の主張は常に、大多数の無言の反抗を尻目にかけて通るのであった」と書いています」

     組織がおかしくなるのは、そんな人物を淘汰できなくなってきたときであろう。組織とは、外的要因よりも内的要因から崩れていくことが多いとは、まさにそのことを指すのであろうか。

     改めて、胸に刻み込む。

      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
    (2010年7月25日)

     今朝の朝刊、地元紙を見て、思わずホウッと声をあげてしまった。
     私が昨晩書いたばかりの辻政信のことが出ていたからだ。

     記事の出だしがこうだ。

     「”作戦の神様”とあがめられる一方、無責任参謀と非難する人もいて、評価が極端に分かれる人」

     そうだろうか。私がこれまで目にしたいくつかの文献を思い起こしても、辻政信のことを、”作戦の神様”とあがめたものは一つもない。この記者さんの勉強不足もしくはリップサービスであろう。

     おそらくは、記事でわざわざ””(コーテーションマーク)で括っていることから想像するに、記者さんも、その評価については懐疑的でいくらかの皮肉を込めて記述しているのであろう。

     ただ、記事中に、「戦功を重ね」とあるように、現場のまさに戦場においては、勇猛であったことは事実のようだ。だからこそ、一般兵士の間では、評判は良かった。後に、国会議員選挙で当選を重ねたことからも、現場に出て、一般大衆の心をつかむことはうまかったのであろう。それは大いなる魅力だ。

     辻政信。歴史家や研究者の間では、大変厳しい評価しかされてはいないが、経緯はともかくとして潜伏紀行文(?)なるものをもってしてベストセラー作家となり、衆議院議員に4回も当選し、その後、参議院全国区で第三位で当選。

     戦争論、組織論、人物論等々、研究の題材としては、興味の尽きることのない人物である。

  • 「硬直した人事」、「既得権益優先の論理」、「トップのリーダーシップのなさ」等々、指摘されていることはいちいち尤もだと思うのだが、いちばん不思議なのは、そうやって指摘されていること(特に人事)が、いまもって日本の組織のあらゆるところで行われているということ。
    どうしてなんだろう?
    つまりは、そういうことがいちばん日本人の心性には合っているということなのではないか。失敗の指摘よりも、そんなことの方が気になった。

  • 陸軍海軍分けて、識者がそれぞれの軍人や組織の何が問題で昭和の戦争を日本は戦うことになり、負けたのかについて語り合う。

  • その名の通りの本。論述というよりは鼎談をまとめたもの。

  • 『失敗の本質』の裏にある人と組織の問題点がよく分かる。大局感があって先が見える人程、上から煙たがられ出世しないと言うのは現代の組織にも当てはまりそう。
    過去の失敗の教訓が全く活かせない日本の組織って何だ?

  • 本当にこの手の本は大好き。もっと熱く色々な軍事官僚について語ってほしい。

  • 駆逐艦の艦長に名将が多かったという。駆逐艦に乗るのは、士官学校とかの学校の成績が、必ずしも優秀ではなかった人たち。彼らは、ハンモックナンバー(成績順)ではなく、現実の中で鍛え上げられ、臨機応変に場にあたっていった結果、能力が磨き上げられていったのだという。

    でも一方で、やっぱり陸大その他、軍の学校で成績優秀な人たちの中にも名を残している。単純に世の中、成績じゃないとも言い切れない。

    陸軍よりも海軍の方が、評判はいい印象がある。でも、陸軍では餓死者が何万人も出た一方で、海軍ではそういうことはほぼなかったという。

    あれこれ読んで感じたのは、先の戦争は誰が悪かったというよりも、日本人全体の在り方によって突入していったのだな、ということだ。そして同じことが、現在の社会、あるいはもっと身近な自分のまわりにも連続したものとしてあると思う。

    歴史を学ぶって、面白いね。

  • 色んな人が昭和陸海軍の失敗を分析した一冊。

    当然ながら、失敗したのは有能な人物が少なかった、あるいは登用されなかったということなのだが、士官学校でエリート教育が行われている以上、当然中には優秀な軍人もいるわけで、それがうまく活用されなかったことがかえすがえすも残念。。

  • 昭和史や昭和時代の軍部に詳しいメンバーが座談会形式で語ったものを活字化した本。一貫して語られるのは、陸軍大学校や海軍兵学校卒のエリートがトップに立つようになった頃から「おかしくなっています」ということ。

    「(陸軍大学校には合格した人は)大変なエリートだったわけですが、今の官僚と同じで彼らはやはり受験エリートでした。しかも戦術に特化して、一般教養という点では大いに問題があった」。
    海軍では航空機主流の時代に移っても、日露戦争における日本海海戦での圧勝により、艦隊決戦主義から首脳部は離れられなかった。また、政治力が弱いとされる海軍だが、政友会と組んで1930年ロンドン海軍軍縮会議の条約批准に反対するため「統帥権干犯問題」を起こしている。
    「軍事だけでなく、広い視野が必要になりますね。しかし昭和の陸軍も海軍もジェネラリストを育ててこなかった」と昭和の陸海軍について語られている。

    メンバーの一人である黒野耐氏が『参謀本部と陸軍大学校』で、作戦教育重視の風潮、人文・社会科学のような大局的な視野を養う教育の欠如が相まって、結果的には幕僚としての資質のなさが露呈してしまった、と書いている通りの指摘がなされている。もう一人、こちらもメンバーである秦郁彦氏も『統帥権と帝国陸海軍の時代』で、参謀本部の肥大化・硬直化・官僚機構化、専門職としての参謀養成よりも能吏型軍事官僚養成へ傾いていった陸軍大学校の教育などに言及している。陸軍の話ばかりになってしまったが、海軍については、池田清『海軍と日本』(中公新書)に詳しい。

    陸軍も海軍も官僚主義的な膠着した組織に凝り固まっていた。陸軍は「日本社会の縮図」と言われるほどの官僚主義に陥り、海軍は戦時においても平時と同じく人事異動をしたり、結局組織の論理で動いていて柔軟性に欠けていたと言わざるをえない。話し言葉で書かれている点、裏話、逸話なども載っている点で、気楽に読める一冊。

  • 第二次世界大戦の敗因を、議論する中で出てくる課題は、現在の日本の組織にも当てはまる課題が多い。考えさせられる事が多い。あんまり変わってないじゃん。

    ・敵は外にあるはずなのに、長州派閥、薩摩派閥、それ以外などで派閥抗争で改革を潰す。
    ・エリートからなる参謀本部、軍令部、参謀の暴走。現場を知らない机上の理論で作戦をじっこう。
    ・なあなあの人事評価。つながりが大事。信賞必罰じゃない。
    ・決戦前でも定期的な大規模な人事異動を実施する海軍。
    ・思った以上に官僚的な軍隊。今以上に官僚的じゃないか
    ・過去の成功体験を神格化し変化に対応できない。前例に縛られる。
    ・良識派は孤立する。成果を上げたものでも
    ・空気の支配
    ・実際に優秀であったのは、現場で叩き上げの指揮官。
    などなど

全27件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

半藤 一利(はんどう かずとし)
1930年、東京府東京市向島区(現在の東京都墨田区)生まれ。東京大学文学部国文科卒業後、文藝春秋新社に入社。編集者として活動しながら匿名記事も記す。1965年に大宅壮一の名義を借りて『日本のいちばん長い日』を執筆、発行。『漫画読本』『増刊文藝春秋』『週刊文春』『文藝春秋』編集長を歴任。1995年に文藝春秋を退社してから作家・評論活動専任となる。
1993年『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、1998年『ノモンハンの夏』で山本七平賞、2006年『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞をそれぞれ受賞。2009年の語りおろし『昭和史 1926-1945』『昭和史 戦後篇 1945-1989』はベストセラーとなった。
妻の半藤末利子は、松岡譲と、夏目漱石の長女・筆子の四女で、夏目漱石が義祖父にあたる。

半藤一利の作品

彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか 昭和陸海軍の失敗 (文春新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする