ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606238

感想・レビュー・書評

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  • モスクワとペテルブルクの比較論が面白かった。モスクワは日本でいう京都的な位置付けにあるらしい。一方ペテルブルクは、西欧の文化を旺盛に取り込みながら変化するしごく人工性の強い街。
    トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」でアンナは鉄道を使ってよく上の二つの都市を行き来していたが、あの空気感がすとんと腑に落ちた。つねに新しさにむかって開かれたフラジャイルな街、ペテルブルクであってこそ、アンナは死ななければならなかったのかもしれない。
    (ついでにというと語弊があるけれど、追悼アンナ・カリーナ。ココ・シャネルがつけた芸名だったらしいけど、明らかに、アンナ・カレーニナ意識しまくり)

    _________
    亀山郁夫が、彼も自認しているとおりロマンティックがとまらなくてついていけないところがあった。この感じを恐れていたのが、ロシアに陵辱された小国チェコ。むしろそっちに共感。クンデラが批判していたのもまさにその点。
    そっちは盛り上がっているかもしんないけど、てめえの不用意に発したおろかな理念の鼻息でさえ、うちの国を吹き飛ばしてしまう力があるんだよ。だから気をつけろよ。

  • 2008年、プーチン・メドベーチェフ体制がスタートした年に出された、対談形式のロシア論の書。かなり難解。そもそも「カラマーゾフの兄弟」を始めとするドフトエフスキーの作品を読んでないと、内容についていけない。ロシア正教を巡る宗教論しかり。
    ブレジネフ期の「腐臭」=貧しい平等=幸福のロシア的基準。ロシア人の精神性「ケノーシス」(謙譲、謙遜、自己犠牲、開き直り)、大審問官(民衆に平等を担保する強権政治)を望むロシア。う~ん、今一つピンとこない。ただ、日本人と相通じるメンタリティを持っていると言われれば、何となく分かるような気もする。もう少しロシアについて深く知りたくなった。

  • ロシア専門家の対談ゆえ、ロシアにある程度詳しくないとついていくことは難しいかもしれない。
    私はついていけなかった。情けない・・・。
    ただ、敬愛する米原万里女史が話題に上った部分は小躍りしながら読んだ。

  • 『カラマーゾフの兄弟』の新訳で知られる亀山郁夫と、元外交官の思想家・佐藤優が、ロシアについて語り合った対談です。

    亀山は、テクストのみに沈潜してきた文学研究者ではなく、現実の中に現われるロシア文化の多極性に深い理解を示しています。他方の佐藤も、単なる実務的な外交官ではなく、実地の経験を思想的な深みに掘り下げることのできる稀有な知性の持ち主です。そんなわけで、対談ではありますがけっして気軽に読み流せるような本ではなく、相当に深い内容が語られています。キリスト教やドストエフスキーの文学、それにロシアの文化と歴史に関してかなりの知識が要求される本で、理解できていない箇所も多く、読みなおす必要があるのですが、ロシアの政治と文化の複雑さについて興味をかき立てられました。

    ドストエフスキーに関して言えば、「大審問官」の物語詩を語り終えたイワンにアリョーシャが何も言わずにキスをするシーンを、「おしゃべりはいらない」と口を封じ、あとは行動あるのみという、受肉を象徴的に示しているという佐藤の解釈がおもしろいと思いました。佐藤はこのことに関連して、チェコの進学者フロマートカの、ドストエフスキーは大審問官を肯定的に描いているという解釈を紹介し、「アンチ・ヒューマニズム」としてのキリスト教から「ヒューマニズム」としてのマルクス主義への接続に触れ、ロシア正教における、神から人への「神人」の思想と、人から神への「人神」の思想の双方向性とのつながりを示唆しています。こうした佐藤の議論にも、ロシアという国の二極的で分裂的な性格を、かいま見ることができるように思います。

    「神人」と「人神」というテーマに関しては、田辺元の哲学を継承した大島康正の思想との関連が自然に連想されます。佐藤は当然この辺りの思想についても熟知しているはずなので、佐藤が大島の思想をどのように評価しているのか、意見を聞いてみたいところです。

  • 仮説を極限まで検討していって、最後に決断した以上はここに欠けるというのは勇気がいること。面白いのは同じ仮設でも、研究面での新しい未来というか新機軸を開いてくれる仮説もあれば、本当に枝葉末節の部分にこだわっていて、無駄な時間を費やしている仮説も存在する。もし自分なりにの直観で新しい議論を呼び出せると確信した時は果敢に攻める。批判されてもいい。批判を恐れたら、学問に進歩は生まれない。

    ソ連ではトイレットペーパーが年に2回10個しか買えなかった。それにロシア人は幸福感を感じていた。
    ロシア人の意識では人工の都市ペテルブルグに対して、モスクワは古都。この辺の復興主義的新庄をうまく利用して、レーニンたちはモスクワをソ連の首都にした。

    昔からロシアは文学中心主義の国。

  • これは面白いな。先のレビューの国家情報戦略は終章以外はほぼ魅力を感じなかったけどこちらは良書。
    歴代ロシアのリーダーの分析、大審問官についての考察。ロシア的とは。
    ドストエフスキー論はバフちんのものしか読んでこなかったけど、一度亀山氏のも読みたくなった。

  • ドストエフスキーから始まるロシア人の文化、精神、思想を
    多角的視野で分析。
    「カラマーゾフの兄弟」を読んだことがある人間なら非常に
    興味がわくだろうが、残念ながら読んだことが無い
    自分には結構内容が難しくしんどかった。

    是非ともカラマーゾフの兄弟を読破したくなる。

  •  『カラマーゾフの兄弟』を読んでいたらもっと楽しめたかな、と思った。
     ロシア人の精神が印象的だった。あと、他の本とは別の視点からロシアの政治を見ていたのが新鮮で、興味深かった。海外から見ると、「この国、おかしいんじゃないの?」と思われていても、住んでいる国民からすれば、居心地が良いし、幸福が全くないわけではない。簡単には理解できない国だからこそ、多角的に見たりより深い知識を身につけて見たりすることが必要だと思う。
     個人的には佐藤優さんの話が面白かった。亀山郁夫さんからは、ロシアに対する熱意が読者である私にも伝わって来た。

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    プーチンには、ブレジネフ時代の、貧しい平等という幸福の記憶がまだあって、それを取り戻そうとしているように思えます。(…)ブレジネフ時代というと、西側のイメージは著しく悪いんですが、そこに生きる庶民にとっては、もしかすると黄金時代だったのかもしれない。これはぼくがそう主張するのじゃない。中高年のロシア人がみなそう感じています。(亀山) 52
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    肖像画を見比べると、レーニンはだいたい笑っている。マルクスとエンゲルスは様々です。要するに、ソ連の画家たちは、マルクスやエンゲルスをどう描くかについては無関心だったのだと思います。(…)最近、プーチンの肖像画がメランコリックになり始めています。私の理解では、プーチンは『カラマーゾフの兄弟』に出てくる「大審問官」を目指しています。スターリンという国父が殺されたロシアに父を回復したいと思っている。プーチンはスターリンとの連続性を意識しながら、政治論理を組み立てています。(佐藤) 70
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    スターリニズムの場合は、「反革命の子供」であっても施設で教育をすれば、真っ当な革命家になるという構築主義的な「人間中心主義」なんです。(…)これに対して、ナチズムは、アーリア人種ではない人を矯正不能な有害人種として除去してしまうという「アンチ・ヒューマニズム」です。キリスト教とナチズムは同じ「アンチ・ヒューマニズム」だからこそ、お互いが対抗し合って共存できない。人間の原罪を教育によって矯正することはできないとキリスト教は考えます。(佐藤) 89
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    ルターやイギリスのジョン・ウェスレー(メソジスト派の創始者)のように「悔い改め」を強調するグループは、天からイエスが、罪人あふれるこの地上、最も深い深淵にまで降りてきて、磔刑により「ケノーシス」を示した、だからこそ、我々も「謙虚」に、悔い改めることによって救済を待ち望む。これと対極の立場に立つのがカルヴァンです。(…)イエズス会の場合は、この世の正しい行為が救済の根拠になりますから、人間の行為にいささかの肯定的意味も認めないカルヴァン派とは対極的です。(佐藤) 123
    ――――――――――――――――――――――――――――――○
    カルヴァン派の理解では、天国の神様のノートに救済される予定の、選ばれるものの名前がすでに書いてある。だから信者は自分の名前がそのノートに入っているという確信を持つ必要がある。そうした宗教観のもとでは、謙虚な悔い改めという人間の行為が救いを担保するという発想自体が、救済という神の権限を奪い取る傲慢な考えだということになります。(佐藤) 124
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  • 「カラマーゾフの兄弟」を翻訳した亀山さんと、なんかよく見かける名前の佐藤さんの対談本。ロシアの国内の状況と文学における政治の関連性が見える面白い視点の一冊。

    カラマーゾフを徹底的に読解し、その内容を覚えている人にはとっても興味深い内容だろう。ただ、私のように、読んだことはあるけど、その神髄まで読み砕いていない者にとっては、「なんか、色々深いね~、ロシア文学は」で終わってしまう。

    外務省に勤めていた佐藤氏の、ロシアでの恐ろしい体験の方が私には興味深かった。この時代に尚、体制に批判的な人が姿をどんどん消していくロシア。その強大な権力に恐れを抱くばかり。

    もう少しロシア文学に精通してから読んだら、もっと楽しい本になるだろう。この本の内容が理解できるようになるまで、しばらく本棚に寝かしておこうと思った。

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著者プロフィール

ロシア文学者、名古屋外国語大学学長
1949年栃木県生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。天理大学、同志社大学を経て1990年より東京外国語大学外国語学部助教授、教授、同大学学長を歴任。2013年より現職。専門はロシア文学、ロシア文化論。著書に、『ドストエフスキー父殺しの文学』(NHKブックス)、『新カラマーゾフの兄弟』(河出書房新社)『『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する』(集英社新書)など、訳書にドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』( 共に光文社古典新訳文庫)など多数。

「2019年 『ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』 2019年12月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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