変容する日本の中国人社会 新華僑 老華僑 (文春新書 631)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606313

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  • 日本で暮らす“普通の華僑”の視点でとらえた、日本の華人社会の変遷を描く。

    あまり接したことがない長崎、神戸の華僑社会の様子が垣間見えた。長崎は何度か行っているが、旧香港上海銀行の建物は意識したことがなかった。神戸の豪商・呉錦堂が造ったという孫文記念館(移情閣)と合わせて行ってみたい。

    本書で紹介されていたように、華僑発展史を、華商型、華工型、華僑型、華裔(かえい)型と考えると分かりやすい。

    職場や取引先の中国ルーツの人々は確かに、本書でいう華裔型(高学歴、都市中産階層、高い社会的、地理的移動性)で、「コスモポリタン化した華人」だと納得。

  • 現在、世界の華僑人口はつかみにくいが2000万近いといわれている。その中の約80%が東南アジアに居住している。清末の18世紀以後であり、奴隷貿易の廃止を受け、広東省と福建省を中心とする沿岸地方出身者たちが移民労働力として東南アジア、北米などに向かったものである。
    日本は中国と隣接するため、古来、日本は中国人の避難地、貿易地として重宝がられてきた。近年、労働力不足や留学生を受け入れ政策の大幅な緩和に伴って若年知識労働者的性格をもった中国からの移住者を中心に「華僑・華人」化現象が起きている。その一方、「華僑」をめぐる社会問題もまた頻発しているのが実状である。独立行政法人統計センターによると、2010年12月末時点では、中国大陸と台湾両地域をあわせて687156人が外国人登録されており、その中で東京がもっとも多く164201人で、既に東京では100人に1人は在日中国人であると言えよう。
    本書の最後では「華僑社会は消えない」と述べているが、私はそう思わない。今では、「血に限定した形で華僑の人数はどれくらいいる」という表現はもうあまり意味あると思えない。なぜかというと、居住歴が数世代に及ぶ華裔、居住地生まれで中国語教育を経ていない人々の大半は中国人意識が希薄か、もしくは有しないのが通常である。元華僑で居住国国籍を取得した華人は、政治的、法律的アイデンティティを中国ではなく居住国に求めるのは当然で、理にかなったことでもある。それから見ると、華僑はもはや名前だけで、実質的にもう何も中国の影響を受けていないから、華僑社会は存続していく理由もなくなるであろう。
    本書の前半で、作者は長崎、神戸と横浜という三つの有名な中華街を巡り、その町で住んでいる華僑の後裔を訪ねた。彼らの中は家族産業を継ぎ、中華料理のレストランを経営する人もいるし、華僑の文化を守り、当地の中華会館の館長になった人もいるし、有名な作家になった人もいる。彼らの現状を通して在日華僑の生活を覗き、インタビューをする過程で、さまざまな裏話も出てきた。後半は在日華僑の発展史を紹介し、おおまかに中国が改革開放政策をはじめた1979年を分岐点として、それ以前から日本に住んでいた中国系の人々は「老華僑」、それ以後に来た人々は「新華僑」と呼ばれている。その華僑社会の存続、新老華僑の交流と融和について検討している。
    在日中国人の発展史や三大中華町で世代住んでいる中国人のことに興味があるなら、ぜひこの本を一読されたい。

  • [ 内容 ]
    大陸系と台湾系、老華僑と新華僑、日本と中国、様々な関係の変化が、華僑社会を新たな方向に動かしつつある現在、長崎・神戸・横浜など中華街の発展と共に、独自の文化を築いてきた日本の華僑・華人社会の足跡を辿る。

    [ 目次 ]
    第1部 華僑三都物語(長崎―唐人文化の息づく町;神戸―ふたつの中国世界が混在する町;横浜―政治に引き裂かれた世界)
    第2部 華僑社会の戦後史(「華僑」から「海外華人」へ―「華僑」概念の分析;中国人と台湾人の統合―戦後華僑社会の形成;国民党か共産党か―国共内戦の余波;分裂から融合へ― 変貌する日本の華僑・華人社会)
    対談 「老華僑」と「新華僑」

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 華僑の歴史と現在をわかりやすくまとめた一書。詳しくは<a href="http://d.hatena.ne.jp/rockfield/">こちら</a>です。

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著者プロフィール

1950年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大講師、中国広東省国立中山大学講師を経て執筆活動に入る。現在、慶應義塾大学訪問教授。『柴玲の見た夢』(講談社)、『新華僑 老華僑』(共著、文春新書)、『中国共産党を作った13人』(新潮新書)、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(上下巻、新潮社)、『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)他。

「2017年 『近代中国への旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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