55人の魂の記録 昭和の遺書 (文春新書 713)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166607136

作品紹介・あらすじ

昭和ほど多くの遺書が書かれた時代はない。二・二六事件の磯部浅一は天皇へ呪詛の言葉を投げかけ、死地に赴く山本五十六は愛人に相聞歌を贈った。焼け跡の日本人を勇気づけた美空ひばりが息子に遺した絶筆、そして偉大なる君主・昭和天皇の最後の御製は-。遺書でたどる昭和史、決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 激動の時代に書かれた「遺書」で辿った昭和史。 軍人や政治家、普通の市民の遺書のなかには、死に臨んで社会への批判や世代の主張、時代への無念の抗議が、魂の声として書かれたものが多い。 本書は、二・二・六事件で処刑された青年将校の天皇に呪詛を投げかけた獄中の手記、死地に赴いた山本五十六海軍大将の愛人への手紙、マラソンランナー・円谷幸吉の慚愧の遺書、日航機墜落事故に遭遇した乗客の家族に宛てた最後のメッセ-ジなど、55人の魂の記録てして綴られたノンフィクション。

  • 人は死に接する時、何を想いどの様に表現してきたのだろうか。遺書は解りやすい伝え方ではあるが、音楽家なら最後の曲を、舞台の演者であれば最後の踊りといったように死への接し方は様々だと思う。本能寺の変に倒れた織田信長も有名な人生五十年、のあの舞を演じていたと言われる。戦国に名を馳せ、仏教徒を焼き払い、大うつけと呼ばれながらも戦国に覇を唱えた人物である。今でも上司にしたいランキングは常に上位だ。
    本書は昭和の時代に生きた人物たちが残した遺書を並べて昭和という一時代を一気に振り返っていく。太平洋戦争で戦場に多く散って行った兵士たちや将軍たち、石川啄木をはじめ、三島由紀夫など昭和時代を生きた、もしくは亡くなった文豪たち。そして、戦後の東京裁判で処刑されていく戦争指導者。戦後日本は奇跡的な復興を遂げるが、その様な中でも連合赤軍のあさま山荘事件や、安保条約反対の中で失われて行った若い命。私も未だ記憶している日航ジャンボ墜落事故で揺れる機体の中で家族に送った最後の言葉。美空ひばりや石原裕次郎の亡くなった日のことも未だ記憶に新しい。
    一つの昭和という大時代は戦争の惨禍にも見舞われ、これほど多くの遺書が書かれたことは無いのではないかと感じる(筆者も同じことを感じている)。やはり「きけわだつみのこえ」や特攻隊の遺書を扱った書物にどうしても量的には目が行きがちであるが、自分が生まれた時代に生きた人々の死はそれよりも身近に感じ、あの人も最後にこんな風に考えていたんだと、今更ながら(30年以上たった今でも)懐かしく物悲しさが漂ってくる。
    昭和時代に熾烈を極めたイジメ問題も未だ幼い学生たちの多くの遺書を目にした。これも昭和という一つの時代を形作った出来事だ。
    そして最後に毎日のようにニュースで流れていた昭和天皇の容態と、最後年が明けて崩御された日の記憶。昭和に生まれ初めて経験した天皇の死というものが、若かった私の心にも重たく響いた。
    社会全体が自粛ムードもあり何処となく暗く悲しい日々が続いた。やがて昭和天皇を語る多くの書籍が出版されて、その中で天皇が戦中戦後どのように苦しみ悲しんできたかを知った。
    本書最後に紹介されている、昭和天皇が最後に詠んだ歌は、自然と平和を愛していた陛下の想いが伝わってきて、涙が止まらなかった。
    自分はどの様に最後を迎えるだろうか。そして何を遺すのだろうか。

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    閲覧新書

  • 人の死生観を眺めるに購入した本。次回、ほぼ日の学校の先生の著作。短歌を詠み出して、辞世についても興味を持てた。

  • 歴史
    社会

  • 人が死ぬということは重い。

    二度と戻らないのに、その人生は確かにあったのだ。
    命が消えたその時。
    ほんの数分前には「いた」人がもう今は「いない」。

    くっきりと違う、その差。

    その違いの大きさは、誰か大切な人を見送った者は
    経験があるだろう。

    昭和の初めは芥川の遺書で幕を開け、最後は昭和天皇が
    幕を閉じておられる。

    遺書を残すほどの思いで死んでいったひとたちは
    当たり前だがその時はまだ生きていた。
    そのことが痛い。胸に刺さる。

    昭和の戦争を知っている世代までは、私の印象として
    実によく物事を考えていた世代だと思う。
    自分も含めて、今は、考えてはいけない時代のように
    なってしまっているのが怖い。

    古い時期の遺書が多いのは、現在に近ければ近いほど
    遺書など残さず亡くなることが多いのかも、と想像した。

    最期に私は誰に向かい、何を語るだろう。
    語るべき言葉を持ちたいなら、今の時間を
    精一杯生きなくては。

    振り向いてみた時に、拙くともいい。
    愛するものに、なんらかの伝えたい言葉を
    持ち得る人生を生きたい。

    私に許された時がどれだけあるかはわからないし
    時折ふと、頭を自分の死が掠めてゆくのが
    寒く、怖くて、いたたまれないことがある。

    それをまた、日々の暮らしの中で宥めすかして
    まだ明日も明後日も生きていられるようなつもりで
    毎日を過ごして。

    無論そういうふうに、死の影を目くらましで忘れながら
    生きることが出来る心というものは、期限の判らぬ
    長い時間を生きるためには必要なことなのだけれど。

    不意に。

    大丈夫だと抱きしめられたくなった。

    読後感は暗くないのに、せつない空気が残る本だった。

  • 時代が進むにつれて、死ぬ理由が自分のことだけになっていくのが印象的。

  • 昭和の遺書を集めた作品。
    『芥川龍之介』の遺書から始まり、『昭和天皇』で終わる。

    高校の頃、ぼんやりとしか見えていなかったバックグラウンドが今になってハッキリと解る。
    この世代を生き抜いた人、凄いな・・・

    勿論、有名な遺書もあり、無名で散っていった特攻の兵士の遺書もある。
    昭和天皇に至っては遺書ではない。

    がしかし。
    時の流れがそうしたのだろうか、世論がそうさせたのか。
    面白かったです。

    遺書を題材にしているので、長くても3頁程で一段落するので、サラッと読めます。

  • 昭和2年の芥川龍之介から昭和天皇まで、昭和年間にこの世を去った
    人々の遺書・絶筆を元に辿る昭和史である。

    先の大戦があった為か、昭和20年代までに亡くなった人々が多くを
    占めているのは致し方ないのか。

    『きけわだつみのこえ』は学徒出陣で犠牲になった人々の手紙を元に
    編まれているが、本書には農村部から徴兵に取られた人の遺書が
    掲載されている。農家の三男は母に向け、出征前に植えた柿の木を
    大切に育てて欲しいと願い、文末に「白木の箱が届いたら何(ど)うか
    泣かずに褒めて下さい。」と記す。

    グンイドノハヤクアゴヲ/ツケテ下サイ、ミンナト一ッシ/
    ョニゴハンヲタベラレル/ヨウニシテ下サイ/グンイドノフネハイツ/
    クルデスカ/ゴハンガタベタイナ/タンヲトッテ下サイ/ダンヲトッテ
    下サイ/クチノナカノチヲフイテ/下サイ/モウネリタクナイ/ヒトリデ
    小便マリマス/デ/ベンキカシテ下サイ/スマナイカ角ザトウ一ツ二ツ
    モラ/ッテクレナイカネ

    従軍した衛生兵が持ち帰った、筆者不明の軍医への訴えである。昼休みに
    読むんじゃなかった。ポロポロと泣けて来た。

    昭和の末期、いじめが原因で自殺した男子中学生が遺書に書き残した
    「生きジゴク」という言葉は、社会的に大きな衝撃を与えた。日航機の
    御巣鷹山墜落事故では、きりもみ状態の機内で家族への言葉を綴った
    人がいた。

    尚、あまりにも有名な、昭和天皇のの弟宮・秩父宮や不出世のマラソン
    ランナー・円谷幸吉の遺書も収録されている。

    「あかげらの叩く音するあさまだき音たえてさびしうつりしならむ」

    昭和天皇最後の御製である。昭和天皇の崩御と共に、激動の時代は幕を
    閉じた。そして、平成を生きている私もまた「昭和の児」である。

  • 時代に翻弄された、あるいは時代に命を奪われてしまった人々の、悲痛な叫びに満ち満ちた本。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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