日本人へ 国家と歴史篇 (文春新書 756)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166607563

作品紹介・あらすじ

夢の内閣をつくってみた。大臣たちは、私が慣れ親しんできたローマの皇帝にする-治者とは?戦略とは何か?現代日本が突き当たる問題の答えは、歴史が雄弁に物語っている。大好評『日本人へ リーダー篇』につづく21世紀の「考えるヒント」。

感想・レビュー・書評

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  • ブックオフで買ったままの積本に着手したが、少々古すぎた。本のタイトルから普遍的な内容を想像して読みだしたが、発刊当時(2010年当時)の情勢(特に日本の政権など)について、著者の考えを述べた部分が多く、ほとんどを駆け足で読み流してしまった。

    塩野さんの合理的でダイレクトな語り口は、当時読んでいたら、歯切れよさに快感を感じながら読めたかもしれないが、今更なので走りました。

    本書の最初の扉に次の言葉が引用されてました。
    「自分で自分を守ろうとしない者を誰が助ける気になるか」(ニコロ・マキアヴェッリ)

    これが「日本人へ」のメッセージなのだろう。

    塩野さんの歴史に対するスタンスは、次のような言葉である程度理解できたのかなと感じています。

    「歴史は私にとって、研究する対象でなくて、ともに生きる相手なのである。」

    「人物を私に引き寄せるのではなく、私からその人物のところへ行く。」

    「良くも悪くも愉快な男たちと過ごしてきた。」

    「作家は絶対に、書く対象に乗り移るくらいの想いで対さないかぎり、それを書ききることはできない。」

    つまり、その時代の人物に自ら会いにゆき、語り合いながら歴史を綴っていくというイメージで、特にその対話の相手は女よりも男であるほうが楽しいようだ。

    また、途中、酒とチーズの話も出てきた。その時代の歴史を綴るのに、その時代性を感じられる酒とチーズを食しながら書くのだと。

    「木を見て森を見ず」を避けたいという言葉も。歴史の細部にこだわるより流れ重視のようだ。「高校で学ぶ歴史こそが歴史全体の流れを感じとるのに適していた。」とも述べていた。

    アンドレ・ジイドの「麓からでもトルストイという山は見える。だが、トルストイという山を登りきると、その向こうにドストエフスキーという山が見えてくる」という言葉を引用し、これが自分の仕事のスタイルだと述べていた。そして山登りと同じく、無理をしない持続と、初めの挑戦は「楽しいこと」から着手するそうだ。

    何事かをなす一つのヒントであるかもしれない。

    著者が「夢の内閣」を構想するページがあった。ここは、著者の知識が最大限に活かされた普遍性のあるページだった。

    ■総務省の大臣:皇帝アウグストゥス
     中央集権と地方分権の絶妙な配合システムを確立した。

    ■外務省の大臣:皇帝ネロ
     「悪帝」は歴史教科書的評価であり、大国、小国などの差別なく、友好関係を樹立できる。

    ■防衛省の大臣:ハドリアヌス
     戦争に訴えないで防衛責任も果たすという、困難ではあっても国民にとって最もありがたい安全保障制度を再構築した人物。効率の鬼。

    ■行政改革担当の大臣:ユリウス・カエサル
     先を見通す知力と、反対派でさえもたらしこむ説得力と世論などには左右されない持続する意志と、手段の目的かに陥らない自己統制力と、目的にむかって進む肉体上の耐久力がある。

    ■総理大臣:空席(不要)
     他の各省の大臣がすべて優れているので。

    ■財務省の大臣:ヴェスパニアヌス帝
     新税を考え出すことにかけて天才。

    ■法務省と国家公安員会のトップ:ティベリウス
     アウグストゥスの後を継ぎ、政治の確立と司法の公正に尽力した。

    ■国土交通省の大臣:トライアヌス
     公共工事の実績が最多。

    ■文部科学省と厚生労働省の大臣:誰でもOK

    以上は、ローマを熟知した著者が考える「夢の内閣」の組閣メンバーだが、その正しさを確かめるには、もっと著者の本を読むしかなさそうだ。

  • 他の「日本人へ」シリーズよりも、穏やかな内容と思えるのは、大作「ローマ人の物語」を書き終えた喜びだろうか。

  • <blockquote>石油があり民主主義化するという目的もありながら数千の犠牲者でたちまち浮足立ったアメリカが、石油もなく民主主義化の必要もない日本の防衛に自国の若者の命を犠牲にすると信じるのは、もはやウブを越えた状態だと言いたいだけである。〔P180〕</blockquote> なるほど!と素直に首肯できた。先日読んだ孫崎享著『<a href="http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E6%80%9D%E8%80%83%E5%85%A5%E9%96%80%E2%80%95%E2%80%95%E6%97%A5%E7%B1%B3%E5%90%8C%E7%9B%9F%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%81%A6%EF%BC%88%E7%A5%A5%E4%BC%9D%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8210%EF%BC%89-%E5%AD%AB%E5%B4%8E-%E4%BA%AB/dp/4396112106" target="_blank">日本人のための戦略的思考入門</a>』の中でも同様のことが書かれていた。<br /><br /> それが正しい認識なのだろうと思うが、米軍には、せめて基地を提供している分ぐらいは働いて欲しいとは思うが・・・・・・。

  • 20年どころか30年経ってしまいましたね…と先生に声を掛けたい。
    でも肝心なのは「ならば、どうする?」なのでいつも考えていきたいです。

  • (2013.01.11読了)(2012.01.17購入)
    【1月のテーマ・[日本人を読む]その②】
    雑誌「文芸春秋」に2006年10号~2010年4月号の間連載したものを一冊にまとめたものということです。
    ローマに居ながら日本の話題を収集したり、出版の用事で日本にやってきた際に見聞きしたものに題材を取りながら、日本人はどうしたらいいのか、とか、イタリア人ならどうするかということを、述べています。
    日本の政治に対する注文をあれこれとしていますが、参考になるところも多々ありそうです。

    【目次】
    Ⅰ 亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起こるのではなく、
      人材はいてもそれを使いこなすメカニズムが機能しなくなるから起こるのだ。
    後継人事について
    葡萄酒三昧
    『ローマ人の物語』を書き終えて
    女には冷たいという非難に答えて
    世界史が未履修と知って
    ……
    Ⅱ 夢の政府を作ってみた。
      大臣たちは、私が慣れ親しんできたローマの皇帝にする。
    滞日三題噺
    ブランド品には御注意を
    バカになることの大切さ
    ローマで成瀬を観る
    夢の内閣・ローマ篇
    ……
    Ⅲ 「始めに言葉ありき」とは、
      最後まで「言葉ありき」なのである。
    一人ぼっちの日本
    海賊について
    拝啓 小沢一郎様
    イタリアが元気な理由
    地震国・日本ができること
    ……

    ●歴史を書く(24頁)
    「歴史とは何か」とか、「歴史をどう書くか」などというタイトルで一冊をモノする時間があるならば、ヴェネツィアとかローマとか、まだ書いていないがアレクサンダー大王とか十字軍とか、具体的な歴史を書くだろう。他人の書いた歴史書を研究するよりも、自分が書く方が好きなのだ。
    ●戦争展示の施設(61頁)
    西洋史上の戦争を書くことが多いので、ヨーロッパ・中近東・北アフリカに点在する戦争展示の施設には、これまでに数多く訪れた。それらの施設は、思わず笑ってしまうくらいに非中立的で非客観的で相当な程度に非学問的ですらある。
    ●一歩を(72頁)
    改革とは何事も、完璧を期しているかぎりは実現しないという性質を持つ。まずは一歩を踏み出す、が、改革したければ忘れてはならない一事である。
    ●具体的な問題の解決を(79頁)
    「夢」や「ゆとり」や「美しい」とかは、個人の性格や好みによるから同一ではない。このように客観的な基準を決めることが不可能な事柄は宗教家や詩人の分野のことであって、政治家や官僚が口をはさむことではない。政治家や官僚は、現実的で具体的な問題の解決に専念すべきであると思う。
    ●『求めない』(106頁)
    「求める」となればそれは欲望であり、この「欲」がよい方向に進めば向上心とか創造力とかに向うが、「求めない」となると、それらはなくなる。こうなると精神上の植物状態で、心は休まるかもしれないが、生きていることにはならないのではないだろうか。
    ●十字軍(218頁)
    中世の十字軍時代の史料を読んでいて感じたことなのだが、当時の西欧のキリスト教徒にとっての十字軍は、イエス・キリストのために行う聖戦だった。ところが攻めて来られた側のイスラム教徒たちは、宗教戦争とは見ずに侵略戦争と受けとったのである。宗教心から起った戦争ではなく、領土欲に駆られての侵略というわけだ。
    ●中東で勝つ(222頁)
    中東に攻めこんで勝ったヨーロッパ人は、後にも先にもアレクサンダー大王ひとりである。アメリカのインテリや指導者たちは、歴史を読んでいるのかしら。
    ●記者クラブ(229頁)
    記者クラブ制度は全廃するべきである。なぜならこの制度が、「日本からの発信」を阻止している元凶であったのだから。
    ●指導者とは(253頁)
    指導者は、たとえ自分は地獄に落ちようと国民は天国に行かせる、と考えるような人でなくてはならない。その覚悟がない指導者は、リーダーの名にも値しないし、エリートでもない。

    ☆塩野七生さんの本(既読)
    「緋色のヴェネツィア」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.07.01
    「銀色のフィレンツェ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.11.01
    「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
    「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサルルビコン以前」塩野七生著、新潮社、1995.09.30
    「ローマ人の物語Ⅴ ユリウス・カエサルルビコン以後」塩野七生著、新潮社、1996.03.30
    「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
    「ローマの街角から」塩野七生著、新潮社、2000.10.30
    「日本人へ リーダー篇」塩野七生著、文春新書、2010.05.20
    (2013年1月15日・記)

  • 「なぜリスクをとるリーダーが出ないのか―危機の時代こそ歴史と向き合え!」この台詞をテレビに映っている政治家にぜひとも言いたい。

    この本を最初に読んだのは「日本人へ 国家と歴史編」とあわせて読んでいたような気がします。最近、この人の書いた大作、『ローマ人の物語』を読んでみようと思っています。しかし、あの量の多さが僕に二の足を踏ませている、というのもまた事実でございます。ここに書かれているのは「リーダー論」としての時事評なんですけれど、ぜひとも喧々諤々と不毛な政治闘争を繰り広げている日本の政治家センセイの方すべてに読んでいただきたいと、大マジメに思っております。

    彼女の時事評はローマの歴史を専門にしているだけあってその論法は鋭いので非常に面白かったです。この本が刊行される前に掲載された状態で書かれていた時期はどうも小泉政権のころのようですが、今こうして考えると、いろいろなことが『改革』されていった時期でもございましたね。それは今でも重いくびきになっているのは皆様もよくご存知のことと思います。

    この本の最初に収録されてある「継続は力なり」という文章の最後に
    「政策の継続性の欠如こそが三世紀のローマ帝国にとって、諸悪の根源であったのだった。」
    特にここは政治家のセンセイ方にはよくよく読んでいただきたいと思っています。

  • 気っぷのいい塩野節は健在で、日本の政治家たちをローマの皇帝たちと比較したりと、イタリア在住の日本人から見た日本の凋落ぶりを鋭くえぐっている。それにしてもかつてのローマ人の知恵と行動力には感心するばかり。特に征服したにも積極的に市民権を与えて有能な人材を求めるというのは意外だった。中国では魏の曹操がそうだったというし、モンゴル帝国もそうだった(かな?)アメリカもようやく黒人の血を引く大統領が生まれた。さて、その点我が国はというとなかなか難しい。やはりもっと混血が進まないといけないのかもしれない。

    ところで「ローマの衰亡は500年、日本の衰弱は20年」という帯のコピーがきになるが、なんだかんだで日本は2000年以上も国体を維持しているのだから、経済大国でなくなっただけで滅びるとは限らないと思うけれど。たとえ今より貧しくなったとしても。

  • 流石!と一言。そして、ワインで乾杯。それでいいし、それだけがいい。
    少し前に「国家の品格」という最悪に近いという感想をもった本があったが、本当に品格ある文章には品格という言葉さえ安く見える。

  • 塩野七生さんの本はいつも良い。

  • 月刊「文藝春秋」の連載の新書化。
    塩野七生のごくごくフツーのエッセイ。タイトル買いするとがっかりするかも。(2010.6.23)

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