出版大崩壊 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166607983

作品紹介・あらすじ

著者は2010年5月、34年間勤めた出版社を退社し、これまで培ってきた人脈をネットワーク化して電子出版のビジネスに手を染めてみて。そうしていま言えることは、「電子出版がつくる未来」は幻想にすぎず、既存メディアのクビを絞めるだけだと思うようになった。

感想・レビュー・書評

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  •  著者は光文社に34年間勤め、雑誌と書籍それぞれの第一線を経験してきたベテラン編集者。話題を集めたブログ「リストラなう!」の主「たぬきち」と同時期に同社の希望退職(昨年)に応じ、その後は電子書籍出版ビジネスに挑戦したものの、失敗したという。

     つまり、「電子書籍元年」とも呼ばれた2010年に、実際に電子書籍ビジネスの最前線に身を置いたベテラン編集者が、その経験をふまえた書いた電子書籍本なのだ。
     そういう経緯ゆえ、昨年来続々と刊行された一連の電子書籍本のうち、最も悲観的・絶望的な内容になっている。

     私も電子書籍本は何冊も読んできたが、困ったことに、いちばん悲観的な本書にいちばんリアリティを感じた。なにしろ、著者は電子書籍の可能性に一度は人生を賭けた人物なのだから、本書の悲観論には重い裏付けがあるのだ。旧世代の出版人がたんなる感傷から、「電子書籍にはぬくもりがない」とか言ってくさすのとはわけが違う。

     全11章のうち、1~3章はひどく退屈。電子書籍の歴史や、キンドルやiPadをめぐる騒動の経緯などがまとめられているのだが、従来の電子書籍本に書いてあることのくり返しでしかない。そのへんのことをすでにわかっている読者は、読み飛ばすべし。

     が、4章以降は著者の経験をふまえた生々しいエピソードが随所にちりばめられ、俄然面白くなる。

     ……いや、「面白い」といってはまずいか。なにしろ、4章から11章にさまざまな角度から書かれているのは、“雑誌・書籍・新聞といったプリント・メディアにいかに未来がないか”という話なのだから。

     ただでさえジリ貧の出版界は、現在、電子書籍に新たな収入源としての希望を託している。だが、著者は「電子出版がつくる未来」は幻想にすぎず、むしろ電子書籍の普及が出版社のクビを絞めることになると説く。
     そうした見立ての具体的根拠については本書に譲るが、いずれも私にはうなずける指摘ばかりだった。

    《出版社も新聞社も自前のコンテンツのデジタル化を進めれば進めるほど、収益は上がらなくなっていく。そうして、その混乱のなかで、既成メディアを支えてきた多くの人間が失業する。
     すでに、出版界も新聞界も人間のリストラに入っている。正社員はもとより、デザイナー、カメラマン、フリーライターは、いまこの時点でもどんどん職を失っている。
     それを電子書籍が救ってくれるはずがない。(「はじめに」)》

     フリーライターの1人としては、日頃漠然と感じている「先細り感」に具体的な裏付けが与えられていくようで、読んでいて気の滅入る本なのだが(笑)。

  • 4年前の本ですけど、電子書籍について分かり易く書かれていてこれ一冊で問題点が把握できます。2015年の今でも電子書籍は、普及しているとはいえないかな?

  • 電子出版では出版社の利益が確保できず、編集・校閲・制作・権利調整などの費用負担ができなくなる。リッチコンテンツ制作のノウハウもない。

    活字離れではなく紙離れ、の指摘がありましたが、出版も、グロスだったのが個別機能になって行くのでしょう。

  • 「自炊」や「中抜き」という業界用語やその意味することを理解した。いや、恐ろしい。書籍もデジタル化していくという流れに巻き込まれているけど、出版社の人はこの本を読むと「デジタル化、ちょっと待った!!」と思うだろう。まさに赤信号みんなで渡れば全員死亡の例とみる。
    デジタル化ビジネスモデルの厳しさや印税70%のカラクリについての話が実に興味深かった。

  • 出版社出身の著者による現在の出版業界事情本。タイトルはやや大仰。帯はやりすぎ。
    視点が編集者・出版社に寄りめ…と言うか、立ち位置は完全に出版社の側。だが現状把握が間違っていたり意見が偏っているということはなく、たぶん出版業界から見たら現状はこう見えるんだろう。主要なトピックスを抑えてまとまりが良く、電子書籍事情に疎い人にも安心して紹介できる一冊。

  • 2011 7/26読了。筑波大学図書館情報学図書館で借りて読んだ。
    出版大崩壊・・・というタイトルではあるが主には電子書籍市場についての本。
    確固たるビジネスモデルはないしモデルはあっても日本の出版業界は乗れないだろうし、それでも乗り出すしかないけど結局デジタル化はコンテンツ産業を貧する方向に持っていくだろうという、悲観的な予測の本。
    割とばっさり悲観しているので面白かった。読み物的な意味で。

    Sony readerやガラパゴスが駄目(コンテンツ数やサービス面で)なことは当人たちもわかっているはずなのに、まず調整してから事を始める日本型のモデルでは調整がイノベーションに追いつかないのでうまくいかない、「日本ではアメリカのような電子書籍市場は立ち上がらない」的な批判はなんとなくそれっぽい。
    あと中国の出版/電子書籍化工程のほうが日本より進んでないか、という話は面白い。

  • かりにも出版に関わってきた人が海賊版を使ってるって公言しないで欲しかったよ(;_;)
    (p131)「CDやDVDからPCソフトまで、海賊版以外は買ったことがない。なにしろ、数十万円はするAdobeのグラフィックソフトの「CS5」が100元(1300円)ほでで手に入るし、ハリウッドの新作映画のDVDにいたってはたった10元(130円)だ」って、ちょっとちょっと!

  • いちおう「★」という評価にしたが、実際は評価に値しない。
    これまで多くの電子書籍に関する本を読んできたが、本書ほどくだらなく時間の浪費でしかない本はない。

    こういう本しか出せないところに電子書籍ブーム以前から始まっている出版不況の根本があるということに一体いつになったら出版業界は気づくのだろうか?
    しかも、本書の作者は元大手出版社の人間である。
    その立場の人間が、コンテンツのデジタル化に当たって、これまでの自分の仕事のまま、新たなメディアを取り入れることでの問題点を挙げ連ねているだけで、なんの解決策も示すことなく終始する本である。

    これなら、まだ酒場での愚痴を聞いていたほうがまだ面白い。

    特にユーザに対する視点が全くかけ離れているどころか、全く触れられていないところは作者に限らず、出版業界の人間のメンタリティとしては一般的なもんなんだろうな。
    そういう人が作った本なんか読みたくもないものだ。

  • 有望な未来にあこがれた著者がはまり込んだ電子書籍業界。しかし、そこは魑魅魍魎なダークサイドだった・・・。そんな暗黒界を語る自己世界否定本。

    そこまで電子書籍に失望するかね。被害妄想過ぎるんじゃないの。と、思わなくもない。が、デジタルの世界はカオスであり、それは電子書籍も例外ではない。日本の出版界にカオスな世界はマッチしないというのが、著者の結論。

    それにしても、この本。実用書というよりも厭世な私小説な味わい。電子書籍の将来も気になるが、著者の将来の方が気になった。

  • 音楽のデジタル、オンライン化に始まった、コンテンツのデジタル化に対する憂い。
    確かにここに書いてあることは全てそうだ。
    だけど、終わりが来たということは始まりであり、
    人間は音楽や書物の良さを知っているから、絶望する必要などないと思った。
    この先の答えはまだ見えないけど、自分たちの想像しなかった新しいビジネスの形が生まれるはず。

    以下メモ
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    電子書籍とは何かをきちんと捉えないと、またもやブームとして消えてしまう。
    当たり前だが利便性と品揃えがポイント。
    この二つを兼ね備えたサービスが現状、存在していない。

    アマゾンのジェフ・ベゾスが言った「サービス」の提供は正しい。
    アマゾンだからこそできるサービス。
    本は本であり、電子書籍は別物だ。

    中抜きは確実に起こる。出版社が既得権益にこだわるのであれば。

    宝島社の付録(ブランド品)戦略は雑誌とは言えない。
    付録で釣って、広告価値を上げる事に成功したが、読者は中身を見ていない。
    いずれ崩壊するだろう。

    既に電子書籍売り上げはNo.1、しかしその内情はエロコミック。
    成熟した電子書籍市場を作り上げるには、一致団結したビジネス展開が必要。

    音楽がたどったDRM問題を電子書籍もたどる。
    だけど、音楽がたどった後だから攻略のヒントはあるはず。

    著作権問題は、根本的な問題。
    法の整理、契約の結び直しなど問題山積み。
    これが一番厄介。

    電子書籍販売に対する見方が偏っている。
    電子書籍になると埋もれると言っているが、
    それは書店においても同じこと。
    売れているのは平積み=トップにレコメンドがあるかどうか。
    それとランキングを見せること。
    特集による良質な本の紹介は可能。

    徹底して悲観的で、建設的な言葉がないのが残念。

    高城剛のくだりはおまけ。
    言いたいことは分かるが、それは敗北宣言。
    稼いで引退するのならそれもよし。
    まだまだ稼いで経済活動しなくちゃならない我々にとっては、
    それは余暇に過ぎない。

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著者プロフィール

1952年、神奈川県横浜市に生まれる。立教大学文学部を卒業後、光文社に入社。「光文社ペーパーバックス」を創刊し、編集長を務めた後、2010年からフリーランスになり、国際政治・経済・ビジネスの分野で取材・執筆活動を展開中。
著書には『出版大崩壊』『資産フライト』(以上、文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『「中国の夢」は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『円安亡国』(文春新書)、『地方創生の罠』(イースト新書)、『永久属国論』(さくら舎)、翻訳書に『ロシアン・ゴッドファーザー』(リム出版)などがある。

「2018年 『東京「近未来」年表』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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