高橋是清と井上準之助―インフレか、デフレか (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166608584

作品紹介・あらすじ

いまの日本に必要なのは、国債バラマキか、それとも財政緊縮か。昭和のはじめ、同じ問題に直面していた。インフレ政策の高橋是清と、デフレ政策の井上準之助。だが、ともに劇薬の扱いを誤り、この国を悲劇へと導いた-渾身の歴史経済ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 高橋翁はかなり進んでいたのだなと感じる。100年前にMMTのはしり、ケインズの前というような政策を実行したのは手放して尊敬に値する。一方で、「金融マフィア」とも書かれていてまたそれもおもしろいところ。
    井上さんしかり、ライオン宰相しかり、時勢を読むというのは本当に難しいのだなと再認識させられる。いま起きていることがどこまで拡大するのか、それは後世のみぞ知るということなのだなー。

  • 極めて理解が難しい金解禁について、本書を通じて理解できた。当時、なぜ金解禁にこだわったのか。今のような経済理論がなかった時代、みな手探りで経済政策の舵取りをしていた。インフレへの恐怖もあった。ただ、緊縮財政が、結果として不況を招き、軍部独裁に道筋をつけてしまった。

  • 2017.03.05読了。

  • 二人の金融スペシャリストが戦前の日本に及ぼした影響を先入観抜きに教えてくれます。
    高橋是清が日露戦争最大の功績者という意見には賛成です。

  • 平成24年末第二次安部政権が成立した。デフレ脱却を第一に掲げているが、ちょうど似たような経済環境にあった日本。第一次世界大戦の好況後の不況、東京大震災、NY発の世界恐慌、そして満洲事変という環境下で、緊縮財政を推し進め、金輸出解禁の井上準之助は失敗、日銀の国債引き受けかで建て直しを図った高橋是清。ただし226事件に倒れ、軍事の専制に突き進む。簡潔にコンパクトにまとめられた一冊である。簡潔ゆえに細部にわたる状況は分からぬまま話が進んでいったので、参考文献をさらに渉猟する必要がある。理解を促進するためか現代の用語で過去を説明するのはかえって誤解を生むのではないかと危惧する。

  • 高橋是清と井上準之助。片やケインズの手法を先駆けて行うインフレ型財政家。片や財政緊縮を徹底的に行って健全財政家。

    金解禁を巡って争う二人だが、この書はその具体的な内容については敢えて詳細を避け、彼らの人物像とその行動について語っている。

    当時の流れを概略で掴むには良書だと思うが、過去の経済政策の中から学ぶものはないか?と本書を手に取っただけに、肝心の経済政策についての詳述が欲しかった。

  • 高橋是清と井上準之助。積極財政論者と緊縮財政論者という二つの対立軸で昭和初期における経済政策の帰結を描いている。金本位制や金解禁の具体的な仕組みにはあまり立ち入らないで、対照的に評伝をたどっているので通読しやすい。私自身は城山三郎の「男子の本懐」に感動して経済学部を志望したのだし、尊敬する人物も井上準之助なんだけど、自分の仕事振りはさっぱり。。ゴルフが全然上達しないという点だけは似ているかな(*_*)

  • 【読書その75】昭和初期の日本の金融・財政を動かした高橋是清、井上準之助の生涯とその経済政策について書いた本。
    井上準之助については、首相・浜口雄幸と蔵相・井上準之助が金解禁を断行するドラマを描いた、城山三郎の小説「男の本懐」で
    少し知っていた。
    一方、高橋是清は、与謝野元特命大臣が高橋是清の評伝を他の政治家に勧めていたという新聞記事を読んでからずっとどんな人物かを知りたいと思っていた。
    この本を読んで初めて、
    ・日露戦争の勝利の陰で高橋がその資金融通に奔走していたり、
    ・政府支出の増額等で世界恐慌で混乱する日本経済をデフレから世界最速で脱出させたこと
    ・現在一般化している歳入補填公債の発行を高橋が日本で初めて実行したこと
    を知った。
    また、当時の社会状況についても詳しく、満州事変や金融恐慌、金解禁、5・15事件、2・26事件などの歴史的出来事が当時の時代背景の中でいかに絡み合っていたかが理解できた。

  • 久しぶりにこのふたりの本を読んだ。
    金解禁と其の前後、震災手形の取扱いなどなど
    おもろかった。

  •  本書は、昭和恐慌(1930年~1931年、昭和5年~6年)の時代に政治家として活躍した「高橋是清」と「井上準之助」の詳細な活動内容の紹介だが、現在ではこの二人が当時いったい何を考えて何を行ったのかを知っている人はあまり多くはない。
     昭和初期に日本政府の経済政策の「金解禁」と「金の輸出禁止」が何を意味するのかは、現在の自由化された日本の為替制度からは想像しにくいが、当時の国際貿易制度と国内経済政策の詳細な紹介は、当時の「インフレ政策とデフレ政策」の対立をわかりやすく紹介している。
     本書を読んでわかったことは、現在で言えば、高橋是清は、「インフレ・リフレ政策推進者」であり、井上準之助は「財政均衡政策と小さな政府を推進したデフレを招いた政策推進者」であったのだろうと思えた。
     高橋是清は、原首相の時代に「歴史に残る積極予算を編成し」、「大正七年の高等諸学校創設及拡張計画」では4500万円という膨大な金を投じて高等諸学校を新・増設している。これを読んで、現在の民主党の「子ども手当て」や「最低保証年金」が頭に浮かんだ。
     一方、井上準之助は、金解禁を行うことによって国の財政を縮めた。世界恐慌の「暴風に向かって窓を開ける」結果となっても、「井上は予算を小さくすればするほど無駄はなくなりよい国になると考えている」。この歴史を読んで、現在の「新自由主義的政策者」や財務省の「健全財政政策者」が頭に浮かんだ。
     本書によると、井上準之助の昭和4年の金解禁によってもたらされた経済的打撃は、日本の社会の動揺を引き起こし、昭和6年の浜口総理へのテロや、満州事変などの政治的変動を招いている。
     その混乱を収めたのは、老齢の高橋是清大蔵大臣である。「金の輸出禁止・兌換の停止」を断行すると共に、昭和七年予算でわが国はじめての赤字国債を「日銀引き受け」で発行し、予算のばら撒きを行う。そのばら撒き対象は、満州での軍事費と公共事業費にあてられ、この政策により「日本は世界大恐慌から世界で一番早く脱出することになる」。これは立派なインフレ・リフレ政策であると思え、現在の小沢一郎の「国民の生活が一番」との主張が頭に浮かんだ。
     本書による昭和初期の歴史は、高橋是清のインフレ・リフレ政策により、日本が経済恐慌から脱出できた事実と共に、拡大した軍事費が軍部の発言力の増大を招いて、太平洋戦争への破局を招いたことを私たちに教えている。 本書の興味深い歴史的考察を、現在の日本にあてはめるならば、壮大なインフレ・リフレ政策こそが、不況を克服するためには必要なのだろうか。そしてその拡大する財政赤字と投じられる予算が招く社会的結果は、どのような影響を次の時代に及ぼすのかとの感想を持った。
     本書は、昭和初期のわが国の政治・経済史から、現在の日本の政治・経済をも深く考えさせてくれる良書として高く評価したい。

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著者プロフィール

愛知県立大学外国語学部中国学科専任講師。1973年生まれ。
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程満期退学、博士(法学)。
財団法人日本国際問題研究所研究員などを経て、2011年より現職。
主要業績:『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(共著、慶應義塾大学出版会、2012年)、ほか。

「2012年 『中国共産党の支配と権力 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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