ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
3.42
  • (65)
  • (137)
  • (167)
  • (54)
  • (15)
本棚登録 : 1457
感想 : 183
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166608874

作品紹介・あらすじ

違法な労働条件で若者を働かせ、人格が崩壊するまで使いつぶす「ブラック企業」。もはや正社員めざしてシューカツを勝ち抜いても油断はできない。若者の鬱病、医療費や生活保護の増大、少子化、消費者の安全崩壊、教育・介護サービスの低下-。「日本劣化」の原因はここにある。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この本で紹介されている事例を見ると、ブラック企業は本当に恐ろしいと思う。

    人を人として扱わない。

    印象に残った章

    第3章 ブラック企業のパターンと見分け方
    パターン1 月収を誇張する裏ワザ
    パターン2 「正社員」という偽装
    パターン3 入社後も続くシューカツ
    パターン4 戦略的パワハラ
    パターン5 残業代を払わない
    パターン6 異常な36協定と長時間労働
    パターン7 辞めさせない
    パターン8 職場崩壊

    第5章 ブラック企業から身を守る
    ・「戦略的思考」をせよ!
    ・鬱病になるまえに、五つの思考・行動を
     1自分が悪いと思わない
     2会社のいうことは疑ってかかれ
     3簡単に諦めない
     4「労働法」を活用せよ
     5専門家を活用せよ
    ・争う方法
    ・「選別」への対応
    ・「使い捨て」への対応
    ・逃げ続けてもブラック企業はなくならない

  • ブラック企業が持つ本当の怖さを知りました。
    本書の中にはブラック企業で起こった実例がいくつか挙げられていますが、どれもフィクションではないかと思うほど恐ろしいものでした。

    人格を壊されかねないブラック企業という存在は身近な殺人鬼であると私は考えました。


    この殺人鬼から逃れる方法は企業選びを慎重に行うことが最もベターなため、
    ぜひ就職活動や転職をしている(しようと思っている)方々に読んでもらいたいです。

  • ブラック企業が恐ろしいということは分かった。ブラック企業との対峙の方法も分かった。ブラック企業が生まれた背景も、ブラック企業を支える弁護士・社労士の存在も、彼らが生まれた背景も分かった。だけどそれらの多くを多分本書の読者は既に知っているのではないか。
    以下、読書感想文ではなく、ブラック企業に関する個人的な意見を。
    僕には、ブラック企業に関して、一つだけ分からないことがある。
    ブラック企業が、法的なリスクや世間の批判に晒されることのリスクをとってまで、なぜブラック企業でい続けるのかということだ。
    そこには、本書的な批判が批判として機能しない、つまり、「そこはブラック企業でダメだ!」という指摘が意味をなさない文法が存在するはずであり、それをこそ、我々は掘り下げて分析する必要があるのではないか、と僕は思うのだ。
    つまり、我々が本書の視点から見たときに「リスク」とすることであっても、彼らにとってはリスクでない可能性がある。我々がネガティブに捉える事象が、彼らにとってポジティブな事象である可能性がある。我々の合理性と彼らの合理性が異なる可能性がある。
    レヴィ=ストロースが『悲しき熱帯』で、ブラジルの原住民の生活に寄り添うことで、「白人中心主義」の構造を逆説的に導き出したように、我々も、あえてブラック企業に寄り添い、ブラック企業の中の文法・ブラック企業がブラック企業であることから脱け出せない構造を分析することで、新たに見えてくることがあるのではないか。そして、それこそが今後のよりよい社会のための視点なのではないか、というようなことを、僕は思ったりするのだ。
    まあ、お前がやれよ、って話ですよね。

  • いまや社会にすっかり定着した言葉「ブラック企業」。問題の代表的な論客である今野晴貴が執筆し、「第13回大佛次郎論壇賞」を受賞するなど高い評価を受けたのが本書。わたし自身も「ブラック企業」ではないかと疑われる会社に勤務していたことがあり(15日間で休みが1日しかないときがあった、むろんすぐに辞めた)、かねてからこの問題については関心があったので読んでみた。本書を開くと、報道などである程度事例については知っていたが、のっけから目を覆いたくなるような酷い事例のオン・パレード。そこで働いていた従業員の心情たるや、と暗澹とした気持にさせられてしまう。誰もが名を知るような有名企業ですら法令違反のブラック労働が横行し、「ブラック士業」と呼ばれる専門家までグルになっていることがある、と聞かされた日には、いったいどうしたら良いのかわからない。この世に救いはないのではないかとの想いすら浮かんでくる。「働き方改革」が叫ばれるようになった昨今では、執筆当時よりは多少状況が改善していると信じたいが、それでもいまだに大企業でも労働問題が報じられており(今年の「ブラック企業大賞」は三菱電機が受賞)、もはや問題解決は不可能であるような気もするが、だからこそ著者のような人たちの活動は貴重であり、ブラック企業の実態を明らかにした本書にも意義深いものがある。

  • 大佛次郎論壇賞を獲ったことで本書を見直した。湯浅誠が2008年「反貧困」で同賞を獲った時と、2013年に同賞を獲った今日ではギアが数段上がっていると著者は考えているのかもしれない。もはや徐々に社会から排除される「すべり台社会」ではない、一度ブラック企業に入ってしまったらその時点でアウト「落とし穴社会」になってしまったと著者は云う。

    いろんなブラック企業が出てくる。ワタミやSHOP99、ウェザーニュース。しかしもっとも印象的なのは、訴訟に持ち込まれていないためにX社という言い方でしか紹介されていない(私はあえて言う)ユニクロの実態である。

    私は小さな建設会社でブラック企業的な扱いを受けたことがある。そこでは労基法違反が十数例平気で罷り通っている最低の職場だった。これは親方的な感覚の社長が、自らの小さな財産を守るために行う無知我儘な振舞いだった。よく考えると、売り手市場の労働環境を背景に、入ってからも選抜を繰り返すやり方は、まさに現代のブラック企業の小型版とでも言うべきものだった。私はさっさと辞めたけど、数社を渡り歩いてここを辞めたら将来が無いと悲観していた青年はどうなったのだろうか。鬱を発症したら、それこそ落とし穴に嵌ってしまうだろうに。

    ユニクロはなかなかずる賢く対処している。本人が心の病気で優しくも(訴えらるのではなく)退職しようとすると、いったん休職させて治ってから辞めさせているのである。これで「労働災害」としてのリスクはなくなる。その他よほど優秀な社労士がいるのか、ユニクロは未だ裁判に持ち込まれていない。

    この本には様々な対抗方法が記されているが、最も大切なのは、ブラック企業がいかに国益を害するのかを指摘している処だろうと思う。「ブラック企業の成長それ自体が、日本の医療費等の直接的な、あるいは労使関係の信頼という間接的な財産を食いつぶして成立しており、実質的な意味では「一時的な成長」だということも出来ない。」(177p)

    著者は根本的な社会的対策を提言する。労働時間規制、過労死防止基本法、非正規雇用規制、失業対策。しかし実情は反対方向に向かっているのは、ご存じの通り。残業ゼロ法案、非正規雇用拡大、職業訓練の縮小等々である。対策としては、労組やNPOに相談、加入して労使関係の再生に取り組もうと呼びかけている。また、中学・高校での労働法教育の充実をあげている。大賛成である。というか、「ブラック企業」という言葉のみが一人歩きするのだはなく、多くの労働者がそこに気がついて欲しいと思う。
    2014年6月19日読了

  • もはや市民権を得ている「ブラック企業」という言葉。その企業の実態を事例とともに紹介したうえで、原因や対策にも言及している良書。新書にありがちな事例紹介や著者の思いだけにとどまらず、客観的な分析と俯瞰的な対策についても述べられている。
    フリーターやニートは若者の問題とされがちだが、本書を読めば、決して若者だけの責任だけではなく、企業や社会にも原因があることがうかがえる。特に私が共感したのは、今の若者の就職活動の問題点である。就職活動はネットによるエントリー方式であるため、若者の多くは(大学生の大半は)気軽に企業に応募できる。そのため、若者は多くの企業にエントリーし、そして面接を受ける。その活動を通じて、どうしたら企業に受け入れられていくのか、「自己分析」という名の「自己変革」がもたらされる。その結果、企業に献身的に働くことを誓う、企業にとって都合の良い人材へと変革する。こうした人材は、たとえ就職先の企業から無理難題を押し付けられても、それを疑問に感じない。もはや感覚が麻痺しており、気が付けばうつ病を発病するなど、心身ともに深刻な打撃を受けている。さらに、「そう簡単に他の就職先が見つからない」という思い込みが、若者を視野狭窄に陥らせ、ひたすら今の職場で耐えるという選択に結び付いてしまう。
    私は、こうした要因分析について非常によく共感できた。実際、本書においても、就職活動の経過とともに学生のワークライフバランスや離職率へのこだわりが低下傾向にあることがデータでもって示されている。
    本書にも触れられているように、若者の離職率や失業率の増加はわが国の社会保障問題にも直結する。企業への厳罰化や若者の職業意識の改革など、早急に手を打つ必要があるだろう。

  • 学生や20代の社会人には、自分には関係ないことだと思っても、一度読んでみてほしい。読むと気持ちのよくなる本ではないが、このままではいけない、という危機感を感じると思う。
    私もブラックな環境で働き、一度心身を壊した身なので、この本を読み、当時を思い出して苦しくて仕方がなかった。今そのような環境にいる人には、自分が悪いのだなどと思ってもらいたくない。潰れてしまう前に、辞めるか戦うかの選択をしてほしいと思う。
    ブラック企業は、入ってしまった個人の問題ではなく、「社会問題」として捉えるべき問題ということ。ブラック企業に必要な人材は、今の就職活動によって作られていること。たくさんの新しい視野を頂いた。
    簡単に解決する問題ではないと思いますが、著者の今野さんを、本当に応援します!

  • 思ってた以上に、インパクトがあった。
    まさに、日本システムを利用して、日本を食い潰す妖怪。
    若者を壊す。つまり次世代の日本を壊す。

    単に若者の責に帰すべきでない。
    かつ、法的な網掛けが難しい。
    宗教法人も問題がだ、こっちもちゃんと取り上げないと、マジに滅びるぞ。

  • 2021.27

    ・専門家にも使用者側、労働者側といった立場に立つ人がいる。
    労働者側:労働弁護団所属の弁護士、個人加盟ユニオン、労基等
    ・固定残業代と呼ばれる残業代を基本給に含めて月収を誇張する裏技がある
    ・ブラック企業と戦うには簡単に諦めない、労働法を活用する
    ・戦う方法は、個人的に交渉する、行政を交えて交渉、労働組合に加入して交渉、裁判

  • 書名が何より雄弁に語っている。
    <blockquote>実際、このままでは日本は「国滅びてブラック企業あり」という状況になりかねない。(P.177)</blockquote>
    本書はウェザーニュースや大庄、ワタミ、SHOP99といった個別なブラック企業を糾弾する書ではない(・・・してるけど)。ブラック企業問題を日本の抱える社会問題として捉え提示している。これは日本社会や経済を破壊しかねない非常に重要な問題だ。何故なら、ブラック企業は若年層を"使い捨て"て将来を潰し、少子化を引き起こし、サービスや技術水準、治安の低下を招き、少子化に拍車をかけ、社会保障や税制をも根幹から揺るがす問題だからだ。

    <blockquote><b>ブラック企業の規制を実現してこそ、日本経済の効率性を高め、社会の発展を実現できる(P.243)</b></blockquote>と著者は結論付けている。

    ブラック企業とは何か。この定義は難しい。ブラック企業とは日本型雇用、日本的企業の変質であり、現在の法(労働法など)では落とし所が無い。いわば日本社会の構造にその要因がある。

    <blockquote><i>すべての企業がブラック企業であるというわけではないが、すべての日本企業はブラック企業になり得る。</i>(P.190)</blockquote>


    では働く側はどうやってブラック企業から身を守るか。著者はパワハラなどによって企業に使い捨てにされる=ウツになる前に5つの思考・行動を進めている。
    1.自分が悪いと思わない
    2.会社のいう事を疑ってかかる。
    3.簡単に諦めない
    4.労働法を活用する
    5.専門家を活用する

    ブラック企業に対するには「戦略的思考」を持たなければならない。企業は戦略的に使い捨てにしようと(労働者をコストとして捉える)しているからだ。それと同じように日本社会全体が、こういった傾向に「戦略的思考」をもって望まなければならない。日本を食いつぶす妖怪=ブラック企業を退治できなければ、日本は滅びてしまうからだ。

全183件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

POSSE代表

「2021年 『POSSE vol.49』 で使われていた紹介文から引用しています。」

今野晴貴の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
クリス・アンダー...
朝井リョウ
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×