新・国富論 グローバル経済の教科書 (文春新書)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166608942

作品紹介・あらすじ

2008年のリーマン・ショックに始まる「グローバル恐慌」は、現在もなお続き、その第2幕は「ユーロ危機」となって現れました。グローバル資本主義の時代にあっては、いかなる事象も「対岸の火事」ではありません。日本はどう生き延びていけばいいのか。浜氏が現状を分析し、日本が進むべき道を提示します。

現在の「グローバル恐慌」の根源には、国境を越えて自由に動き増殖する資本と国民国家体制の齟齬があります。それぞれの国民国家が切磋琢磨し、国富を増やすことで国民を豊かにできた時代は終わりました。しかし、先進諸国は、いまだにその齟齬に気づきながらも、新しい「国富論」を見いだせずにいます。

たとえば、グローバルな資本が安価な労働力によって作った安価な商品が外国からもたらされ、国内の雇用が奪われ、税収が減少するなか、福祉を維持しようとすれば、財政赤字が蓄積していく。そんなとき、自国出身のグローバル資本(たとえばユニクロ)に「出て行かないでくれ」といっても、聞く耳を持ってはくれません。こうして先進諸国はグローバル資本主義に対して、緊縮財政、自由貿易の規制(保護主義)と「愛国消費」によって対抗しようとしますが、この「自分さえよければ」という発想からなされる行動を先進諸国がとればとるほど、国際貿易は縮小し、それぞれの国民は窮乏化していきます。

しかし、逆に人間活動のすべてを市場原理に任せよ、というグローバル資本の要請にしたがって、国民国家が国民生活のインフラ(教育、医療、福祉など)から手を引けば、超格差社会が出現するのは目に見えています。「自分さえよければ」ではなく、「あなた(君)さえよければ」という発想で、経済活動を構築しなおすときが来ています。そのためにはどうすればいいか。根源的な考察と大胆な提案を問う新しい「国富論」です。

感想・レビュー・書評

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  • スミスとリカードの経済論の説明と今のグローバル経済について考えている。
    分業体制で専門性は高まるが作業が単純となり成長がなくなる。
    金本位制と管理通貨制度では政府の役割が変わり、政府が動く必要が出たが、それが機能していない。
    グローバル経済で企業の富がその国に入らなくなっている。
    国だけの利益ではなく、相手の利益を考える、支え合いの世界を目指すべきと説いている。

  • 出だしの軽妙さ、のまま最後まで進むもんで、浅薄すぎ

  • 浜先生の本は、分かりやすい言葉で、話題になっている経済現象を違う角度から見ることの大切さを教えてくれる。

    この本でも、現在のグローバル経済は、過去の歴史で見られたように複数の市場(国)の間での貿易が盛んになっている状態ではなく、一つの市場の中で世界中の企業が国を超えたサプライチェーンを築いている状態であり、「○○立国」というような産業政策ではなかなか国の成長につながっていかないということを指摘してくれている。

    では、どうすればよいのかということについてはなかなか一筋縄ではいっていない感じを受けるが、そもそも国家が経済活動を図る単位として成立しにくくなっている中、どのような枠組みの中で富を生んでいくことができるのかということについて、本書で取り上げられているスミスやリカードといった理論家の言葉に立ち返りながら考えることは大切なのだろう。

    筆者は、金融が本来の姿と信頼を取り戻すことの大切さや、経済活動における地域レベルでの助け合いの大切さを説いているが、それらも一つの観点であると思う。

  • グローバル化の波は過去にもあり、アダム・スミスが「国富論」を書いた1776年も産業革命をはじめ、世界が大きく動いた時代だった。そして現代、正真正銘の国境なき時代を迎えている。
    ヒト・モノ・カネは自由に国境を超える今日、しかし、国々とその政策がグローバル化するまでには至っていない。
    モノとカネのグローバル化により、引きずり回されるヒト。問題の多くは経済に起因するが、その解決は政治的な力を必要としている。そして、その行方を左右するのは、人々の考え方だ。
    この本をテキストとして、浜先生からの講義を受けた。経済や金融の政策の在り方も重要なポイントだが、市民社会の在り方、人々の共同やつながりについても、問題解決のカギがあることを示唆していて、非常に興味深かった。
    自身においては、世の中のあり方を考えるために、経済の勉強をすすめることと、協同組合で働いているということもあり、その可能性を追求していかないといけないと感じた。

  • とても面白かった。「ヒト・モノ・カネが国境を越えて、移動するグローバル経済では、カネがヒト、モノをひっぱり回し、企業が成長しても、人々は幸せにならない。国民国家も機能不全に陥っている。スミスの「国富論」に立ち返り、ヒト・モノ・カネ、企業と国と人の幸福な関係を再び築く経済を考える」
    とある。グローバル経済で巻き起こる諸問題の事情がわかりやすく平易な表現で語られている。TPP?アベノミクス?これらの言葉はすべて経済の応用であって、基礎ではない。基礎を分からずに応用を理解することはできない。だから、この本は教科書で、本当にいろいろな人に読んでほしい。利益の追求は、必ずしも全体の幸福には結びつかないのがグローバル経済。それはユニクロがどれだけ儲かっても、我々の実生活が変わらないことで安易に示されている。さて、我々は幸せになれるのか?処方箋は何もないけど、考えることをやめてはいけないと説いている。

  • アダムスミスの「国富論」は読んだことがありませんが、1700年代当時に書かれた本がいまだに利用価値があると言うのもすごいことだと思います。

    国富論では、諸国の富は必ずその国に帰属するものであり、現在の様にグローバルに国を超えることは想定していない。また、スミスの時代には労働価値がそのままモノの値段に反映されていたけど、現在はモノの値段が決まり、そこに労働力を投下していると言う事。結果、比較優位の理論を越えて、企業は安い人件費を求めて、中国やアジアの国へ展開して行き、企業栄えて国滅ぶということになるのですね
    ただ、個人的には安くなると言う事は、なにがしかの品質や安全が失われていると考えることが出来るので、揺り戻しはあっても良いかなと思いました。

    カネの流れが世界のGDPの総額を優に超える時代。人はカネに踊らされすぎですよね。
    まとめとして、これからの時代は奪い合いではなく、分かち合いが大切と言うことらしいです。

  • アダム・スミスの国富論をかみ砕いて説明したうえで、現代のグローバル経済の問題点を浮き彫りにして、浜先生の持論の分かち合い経済の必要性を分かりやすく説く。アベノミクスへの警鐘も含まれていて、考えさせられた。

  • グローバル化によりヒト・モノ・カネが国境を越えるようになり、企業の成長が国の繁栄とイコールという常識が崩された。アダム・スミスの国富論に立ち返り、現代の見えざる手はどこにあるのか。著者は差し伸べる手に救いを見出そうと提言する。まさに新・国富論である。

  • グローバルな今の時代に、どう対処すべきか?経済学の古典的考え方と近年の状況の差(影響の受け合う範囲の違いなど)を解説した本。
    読みやすいし、面白かった。
    ☆4
    特に、羊羹チャートの考えが面白かった。
    液晶テレビの例で(素材、パネル、モジュール、セット)各工程の、メーカーの国籍と生産地をグラフにしたもの。



    ◎目次

    はじめに

    第1章 グローバル経済のいま
    1. 世界は越えてはいけない一線を越えつつある
    地球は長屋になった
    ユーロ長屋の火消し役に迫る危機
    中央銀行の本来の役割
    アメリカ長屋もニッポン長屋も悩みは同じ
    海賊長屋のLIBOR騒動
    LIBOR騒動が傷つけたシティの心意気
    ウィンブルドン化したシティ
    2.グローバル経済はどのような壮年期を迎えるのか4。
    カネ先行で進んだグローバル化
    国境を越えるカネに振り回される国民国家
    一九九〇年代のニュー・エコノミー
    二〇〇〇年代のゴールディロックス・エコノミー
    グローバル時代は分かち合いの時代
    3.グローバル時代のアリとキリギリス物語
    ユーロ長屋はグローバル長屋の縮図
    政治的思惑から生まれた通貨ユーロ
    超メタボキリギリス国家アメリカ
    本当に「ビッグ」になれるか、天才子役の中国経済
    どこへ行く、老青年のアリさん国家・日本

    第2章 アダム・スミスの『国富論』から考える
    1.『国富論」は"第二次グローバル化時代"への処方箋だった
    経済学の超前提を作った『国富論』
    スミスが異を唱えた「重商主義」
    スミスもまたグローバル化を目の当たりにした
    2.労働・市場・貨幣は、スミスの時代の"ヒト・モノ・カネ"
    分業ー国富を増やす原動力
    市場は分業を進化させる
    人間は交換する動物だ
    経済学者でなかった"経済学の父"
    モノの動きは「見えざる手」に委ねよう
    「見える手」こそお邪魔虫
    ヒトに優しい『国富論』
    貨幣ー貯めるためではなく、使うためにある
    独り占あと出し惜しみの行き着く先
    諸国民を魅了したベストセラー

    第3章 グローバル市場における分業
    1.グローバル経済を理解するための新しい思考法
    グローバル市場は国際市場にあらず
    タイの大洪水によって垣間見えたグローバル市場の姿
    2.国破れて企業あり、企業栄えて国滅ぶ
    「解体の誤謬」という最大の問題
    「国富論』は国民経済を前提としていた
    3.「二国二財モデル」と「羊羹チャート」
    国際市場を分析したリカード
    「羊羹チャート」から見える現代の分業
    4.「○○立国」で国は立たない御
    リカード・モデルの限界
    日本企業の矛盾と欺購

    第4章 カジノ金融とマジメ金融のはざまで
    1.なぜ、金融が暴走する世界になったのか?
    "前川レポート"の重商主義批判
    カジノ金融に火をつけた「貯蓄から投資へ」
    マジメとカジノの微妙な関係
    金本位制と管理通貨制
    ニクソン・ショックが金融を膨張させた
    2.グローバル・カジノの胴元、ニッポン
    ゴールディロックス経済の生みの親はジャパンマネーだった
    哀れ、胴元通貨の番人は影薄く
    マジメとカジノが出会う時

    第5章 スミス先生と現代へ
    1.リーマン・ショックでミイラ捕りがミイラになった
    清算されなかったリーマン・ショック
    スミス、リカード両先生ならどう考えるか
    カジノ金融が"ホント経済"を窮地に落とし込む
    2.出来の悪い魔法使いの弟子たちー『国富論』的見地から見たG20
    グローバル長屋を管理出来ない管理組合
    弥縫策に走ったッケが…
    3.グローバル長屋はどこへ行く?
    政策が政策でなくなる時
    労働価値説は復活するか

    第6章 そして、「新・国富論」の幕が開く
    1.審査員はスミス先生とリカード先生
    ケインズ先生はお断り
    2.第一次接近:問題の抽出
    まずはパズルのピースから
    3.第二次接近:課題の整理
    ピースを箱に入れてみる
    4.第三次接近:検討項目の設定
    箱の中を区分けしよう
    5.枠組づくリへの挑戦
    パズルにピースをはめ込もう
    6.バズルの中の物語を読む
    ワクはドーナッツの穴
    モノ物語:交換から羊羹へー変貌する分業の世界
    羊羹チャートがもたらす絆
    クニ物語:国破れて地球ありー自己喪失に悩む国民国家
    国に残された役割
    カネ物語:カネは地球の回りものーマトモな回り方をどう確立するか
    サファリパーク方式
    ヒト物語:ヒトを生かすも殺すも地球経済ー労働価値説の復権なるか
    最下位争いと「格差」
    ワク物語:「新・国富論」は何富論?-ー誤謬無き世界はいずこに
    グローバル長屋の心意気と合言葉
    そして思いはスコットランドへ

    あとがき

  •  作者は、クローバル経済の状況、問題点をうまく説明している。
    しかし、結論が陳腐であり。
     クローバル経済の合言葉は、「差し伸べる手」であり。諸国民がお互いに対して差し伸べる手、やさしい手、勇気ある手、知恵ある手だ。
     諸国民から「全市民」に脱皮しなければならないと言っている。
    国境をまたぐグローバル市民の視野があればこそ、お互いに慮りの手を差し伸べ合うことが出来る。
     帝国主義的な風潮が世界を覆う中、この考えが通るのか疑問に思う。

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著者プロフィール

1952年生まれ。同志社大学大学院ビジネス研究科教授。
主著=『新・国富論――グローバル経済の教科書』(文春新書、2012年)、
『老楽国家論――反アベノミクス的生き方のススメ』(新潮社、2013年)。

「2014年 『徹底解剖国家戦略特区』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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