新・百人一首 近現代短歌ベスト100 (文春新書 909)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609093

作品紹介・あらすじ

五七五七七で詠まれる短歌は明治以降、大きく表現の幅を広げ、日本語の豊かな財産となってきた。口ずさめば詠みこまれた情緒がたちまち甦る。現代を代表する歌人が近現代百人の歌人の愛誦したい名歌を精選し、「新・百人一首」がここに誕生した。

感想・レビュー・書評

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  • 岡井隆、馬場あき子、永田和宏、穂村弘の四氏が協同して、明治以来の秀歌(近代短歌から五十人、戦後から現代九○年代あたりまで五十人の歌人)を選ぶ。

    とても楽しく読むことができた。
    何度も読み返す。

    朗らかな歌、ふるさと想う歌、恋の歌。
    戦争を詠んだ歌、安保闘争世代の歌。
    愛する者を亡くしたときの歌、美しい景色を詠んだ歌……

    面白いと思える短歌にも出会えた。
    ずっと覚えていたい、いいなぁと思える短歌にも出会えた。
    それとは逆に、百首味わうたびに違う歌が心に響くこともあった。
    短歌に明るくないわたしが、こんなにも惹きつけられたのは何故だろう。
    それは、どの歌も「ふと口をついて出てしまう」からだ。
    四氏による〈座談会〉でも、歌というのは歌集にあればいいものではなくて、声に出して読み、心に刻むものだと話されている。
    口ずさむ。それがとても心地よい。
    まるで歌が文字という枠から解放され自由になったみたい。


    わたしがずっと覚えていたいと思った歌を数首紹介。

    君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ   北原白秋

    たっぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり   河野裕子

    スバルしずかに梢を渡りつつありと、はろばろと美し古典力学   永田和宏

    産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか   阿木津英

    観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)   栗木京子

  • 「明治天皇から俵万智まで―この一冊で短歌がみるみるわかる」と帯にある。いや、みるみるわかるわけにはいかんかったよ。近現代の歌人を百人選び、見開き2ページに3首、1首は簡単な解説がついている。葛原妙子が好きなので、「他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆうぐれの水」は、おおと思ったりするが、現代になるにつれ、どういう意味?はあ、なにこれという歌が結構あって、俺って短歌って分からんのかなあ、理解力ないのかなあと首を振ってしまう。もう少し解説が多いとなんとかなったのかな。

  • #中原中也記念館 #穂村弘
    「中原中也をはじめてとする詩人たち」穂村弘さんの特別講演に参加、その際にこちらの本の引用があり検索すると現在は中古品のみで取り寄せ購入。

    文藝春秋創刊90周年の記念としての企画。岡井隆、馬場あき子、永田和宏、穂村弘の四者が選者となり明治から昭和戦前の近代歌人、戦後から現代まで割り振って二十五人ずつ秀歌を選んでいる。後半の座談会ではそれぞれの思いを語り会自体の熱気や、歌人とその歌を選ぶ大変さが伝わってくる。

    穂村さんの講演会は、記念館の節目に講演なさっているようで今回は30周年記念講演。
    小説家、詩人、政治家など教養として短歌を詠むたしなみがあり、多くの短歌を詠んで優れた歌も多いという話、そこで中原中也の歌の紹介があった。

    大河に投げんとしたるその石を二度みられずとよくみいる心

    少年時代の短歌。何かを選択した時にその他のすべては選ばれない。日常の一瞬一瞬何気ない選択肢が運命の分岐点という穂村さんの解説。
    短歌をなぜ選んだのかという自らの答えとして、ハンマー投げ砲丸投げ円盤投げの選択、100m、200m、400m走の例え話については会場が笑いに包まれていました。
    短歌の話だけでなく、岐路に立たされたときのふるまいや自らの優柔不断エピソード(結婚や不動産なんてその後どうなるかわからないのに皆決断できてすごいとか)も表情豊かにお話されていて壇上でキラキラ輝いておられました。
    この場にいることができた時間がとても貴重な宝物になりました。

    • ☆ベルガモット☆さん
      まことさん、こんにちは♪コメントありがとうございます!

      穂村さんは中原中也記念館の20周年記念の時も講演会なさったらしく、お馴染みの講...
      まことさん、こんにちは♪コメントありがとうございます!

      穂村さんは中原中也記念館の20周年記念の時も講演会なさったらしく、お馴染みの講師のようです。リラックスされた笑顔でのお話で和やかな会でした。200名申し込みだったとのこと、幅広い年齢層の女性でほぼ9割を占めていました。
      あらあ、今回のことで購入者が増えたのでしょうか?!私は定価より若干お安く購入できました。ブグログからのおすすめだなんて、レビュー楽しみにしております!
      2024/03/01
    • たださん
      ☆ベルガモット☆さん、こんばんは♪

      穂村さんの講演会で紹介された、中原中也の歌、とても切迫感がありながら、最後の『よくみいる心』には、それ...
      ☆ベルガモット☆さん、こんばんは♪

      穂村さんの講演会で紹介された、中原中也の歌、とても切迫感がありながら、最後の『よくみいる心』には、それでも落ち着いて熟考する事が大切なんだよと言われているような点に、普段は面白いこと言いながらも、根はとても真面目な穂村さんらしさを感じました。
      読んでいるだけで、素敵な講演会だったのが目に浮かぶようです。
      ありがとうございます(*'▽'*)
      2024/03/01
    • ☆ベルガモット☆さん
      たださん、こんばんは♪コメントありがとうございます!

      穂村さんの短歌大好き!が溢れていて、中原中也の歌の世界観を愛おしむように話されて...
      たださん、こんばんは♪コメントありがとうございます!

      穂村さんの短歌大好き!が溢れていて、中原中也の歌の世界観を愛おしむように話されているのが素敵でした。
      たださんのお言葉のように「落ち着いて熟考すること」についてや、陰の部分もあたたかく見守っている姿勢に「根はとても真面目な穂村さんらしさ」を感じて皆ほむほむワールドにはまるんでしょうね♡
      こちらこそ、一緒に味わってくださって感謝しています(^^♪
      2024/03/01
  •  この本の選者の馬場あき子さんが「カルタで取れる歌」とおっしゃっていましたが、そのせいでしょうか、選ばれている歌が、どちらかというと「角が立たない歌」という印象でした。そこが少々物足りない感じがするのは、ぼく自身の「近代短歌」「現代短歌」に対する思い入れのせいでしょうか。
     同居人と二人で本書から十人つづ選んで「二十人二十首」を作ってみました。ブログに掲載してみましたので覗いてみてください。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202007080000/

  • 眠れぬままに一気に読んだ一書。
    選者のお一人永田氏の「近代秀歌」を読んでから
    そのまま雪崩れ込むように読了した。

    プロの歌人が選ぶと、いずれにしろ一致する結果になるが
    1首を選ぶとは難しく、その歌の隣には、候補になった
    捨て難き今一つの秀歌があるというのは、さもあらん。

    他にどんな歌がと自分で次を探し始めることから
    豊かな世界が始まる気がする。
    更にもう1首という風に、追加で2首が紹介されているのは
    そういう意味でとても親切だ。

    直近のとも言うべき、平成に入ってからの作品も多く
    好んで短歌を深く読んでいないと知らないものも多かったが
    作品の率直さや切れ味はどの歌も逸品。

    難を言えば「近代秀歌」と重なる作品が前半多かったこと。
    両方読む読者を考慮に入れて頂きたかった。

    掲出した作品の中で、「近代秀歌」と重なって収録されたものもあり、同書のレビューでは私が迷って、自分の愛誦歌としては取り上げなかったが、やはり心惹かれるものを、面倒がらずに引くことにしたものが少なからずあるとお伝えしておく。

    では早速。
    これからもっと読みたい歌人・印象的だった歌をあげておく。

    あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな
    (明治天皇『明治天皇御製謹解』)

    父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば
    死なれざりけり (落合直文『萩之家歌集』)

    いちはつの花咲きいでて我が目には
    今年ばかりの春行かんとす

    瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり
    (正岡子規『竹乃里歌』)

    ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
    (佐佐木信綱『新月』)

    みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ
    (島木赤彦『太虚集』)

    木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか
    遠くもあるかな

    君ねむるあはれ女の魂のなげいだされるうつくしきかな
    (前田夕暮『収穫』)

    かたはらに秋草の花かたるらくほろびしものはうつくしきかな
    (若山牧水『路上』)

    やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに

    やや長きキスを交して別れ来し/深夜の街の/遠き火事かな
    (石川啄木『一握の砂』)

    夏はきぬ相模の海の南風にわが瞳燃ゆわがこころ燃ゆ

    君がため瀟湘湖南の少女らはわれと遊ばずなりにけるかな
    (吉井勇『酒ほがひ』)

    桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり

    はてしなきおもひよりほつと起きあがり栗まんじゆうをひとつ
    喰べぬ(岡本かの子『浴身』)

    力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ
    (岡本かの子『かろきねたみ』)

    真命の極みに堪へてししむらを敢てゆだねしわぎも子あはれ

    太白星の光増すゆふべ富士が嶺の雪は蒼めり永久の寂けさ

    これやこの一期のいのち炎立ちせよと迫りし吾妹よ吾妹

    (吉野秀雄『寒蝉集』)

    春の夜にわが思ふなりわかき日のからくれなゐや
    悲しかリける(前川佐美雄『大和』)

    曼珠沙華のするどき象夢にみしうちくだかれて秋ゆきぬべき
    (坪井哲久『桜』)

    われの一生に殺なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は
    (坪井哲久『碧巌』)

    他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水
    (葛原妙子『朱霊』)

    バイカルの湖に立つ蒼波のとはに還らじわが弟は
    (窪田章一郎『六月の海』)

    弟の臨終のあはれ伝へ得る一人の兵もつひに還らず
    (窪田章一郎『ちまたの響』)

    戦はそこにあるかとおもふまで悲し曇のはての夕焼
    (佐藤佐太郎『帰潮』)

    薄明のわが意識にてきこえくる青杉を焚く音とおもひき
    (佐藤佐太郎『歩道』)

    たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思いき
    (近藤芳美『早春歌』)

    乗りこえて君らが理解し行くものを吾は苦しむ民衆の一語
    (近藤芳美『埃吹く街』)

    かきくらし雪ふりしきり降りしづみ我は眞実を生きたかりけり

    桃二つ寄りて泉に打たるるをかすかに夜の闇に見ている
    (高安国世)

    こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり
    (山崎方代『右左口』)

    一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
    (山崎方代『こおろぎ』)

    独り聴く〈北〉てふ言葉としつきの繁みの中に母のごとしも

    死に際を思ひてありし一日のたとへば天体のごとく量感もてり
    (浜田到『架橋』)

    ベッドの上にひとときパラソルを拡げつつ癒ゆる日あれな
    唯一人の為め(河野愛子『木の間の道』)

    梳けばかく光まつはる髪にして厭離の方になづさひにける
    (河野愛子『魚文光』)

    肉叢は死にはんなりとひっそりと水のくちびるを受けや
    しぬらむ(河野愛子『光の中に』)

    灼けつくす口づけさへも目をあけてうけたる我をかなしみ給へ

    硝子屑の上に来て青き夕あかりたれか酷薄のことばきかせよ
    (中城ふみ子『乳房喪失』)

    死はそこに抗いがたく立つゆゑに生きてゐる一日一日は
    いづみ

    ちる花はかずかぎりなしことごとく光をひきて谷にゆくかも
    (上田三四二『涌井』)

    瀧の水は空のくぼみにあらはれて空ひきおろしざまに落下す
    (上田三四二『遊行』)

    イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年
    (岩井正『郷心譜』)

    などなど…まだあるけれどこの辺で。

  • 葛原妙子や安永蕗子、渡辺松男の歌のような空想の世界での事象を表現したようにも感じる不思議な作品 道ならぬ恋や悲劇的な結末を迎えた恋愛を経験したとされる近代歌人の相聞歌 石川啄木や高安国世、山崎方代の作品のような自分の現状、己の行く末への痛切な思いを詠ったもの 心打たれる短歌をたくさん見つけることができた 各歌人の代表歌に惜しくも選ばれなかった歌も載せられているが、そちらにも良いなと思ったものが多くある 恥ずかしながら今まで知らなかった歌人がほとんどであったが、其々の他の作品も読んでみたくなった

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「心打たれる短歌をたくさん見つけることが」
      私も読んでみようっと、、、
      「心打たれる短歌をたくさん見つけることが」
      私も読んでみようっと、、、
      2014/04/16
  • 読みやすく、見やすいつくり。解説を控えめにして、歌を全面に出しているのが好印象。この企画のコンセプトに合っていると思う。
    選者が4人というだけあって、大きな偏りもなく、あくまでバランスの良い印象だった。それだけに、読み応えという点ではイマイチ物足りないものを感じもして、やはりきちんと歌集を自分で手に取ってみないといけないなぁ、とも思った。

  • 歌人が選んだ、近現代の百首。言葉の向こうに見える景色をほんのりと教えてもらえるような気がします。良い悪い、うまい下手の区別は私にはわかりませんが、「ああこれはわかるわかる」、とか、「どういうこと?」とかいろいろ思いながら読める。
    好きな歌を見つけて、暗唱したい。でも短歌の暗唱って、あの歌会始みたいにするのかな。

  • 近現代歌人から100人を選び、代表歌を挙げた。私にとっては、未知の歌人との出会いがあった。「亡き子来て袖ひるがへしこぐとおもふ月白き夜の庭のブランコ」(五島美代子)、「二万発の核弾頭を積む星のゆふかがやきの中のかなかな」(竹山広)、「紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく」(安永蕗子)、「イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年」(岩田正)、「ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり」(永井陽子)など。

  • 現代の著名な歌人四人による近現代の短歌100首を抜き出し、それぞれの歌、歌人等について解説している。
    この本を読んでまず感じたのは、日本語の言葉、語彙の豊富さである。いやこれは現代の日本人全員に当てはまることではなくなっているではあろうが、しかし英語等に比べれば、表現方法の多彩さは別格と感じる。
    短歌の中に表現される自然や風景、出来事は五七四七七という短い言葉の中で、それを読む人が想像して理解できなければ、真に感動や共感は受けにくいだろうが、「日本人である」ということだけで「わかる」という部分がある。また「行間を読む」、そして言葉から想像を膨らませていくということができるのは短歌独特のものであろう。
    私自身がこの本に収められている100年以上前の明治や大正の歌人の歌に、共感や感動を覚えることができるということに驚きさえ感じる。

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著者プロフィール

1928年名古屋市生まれ。慶應義塾大学医学部卒。内科医。医学博士。1945年17歳で短歌を始める。翌1946年 「アララギ」入会。1951年現在編集・発行人をつとめる歌誌「未来」創刊に加わり、逝去直前まで編集・発行人をつとめる。1983年歌集『禁忌と好色』により迢空賞受賞。2010年 詩集『注解する者』により高見順賞を受賞。2015年『暮れてゆくバッハ』(書肆侃侃房)。『『赤光』の生誕』など評論集多数。日本藝術院会員。2020年7月10日心不全のため死去。享年92歳。2022年に遺歌集『阿婆世』(砂子屋書房)が刊行される。

「2022年 『岡井隆の忘れもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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