- Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166609338
作品紹介・あらすじ
働く女性は、以前より生きやすくなったでしょうか? 上野千鶴子さんの答えは「イエス&ノー」です。 バリキャリは、男性中心の職場のなかで体を壊したり家庭生活が破綻したりしがち。一般職は、社内でお局サマ扱いを受けて煮詰まる。ハケン社員は安いお給料のまま将来の保証もない。自由を手に職場進出を果たしたはずなのに、なぜなのか。それぞれ追いつめられた状況にあるのに、しかしなかなか手を取り合えない女性たち。誰の意図のもと、どのような経緯で女性たちがこのように“分断”されたのか。 そのひとつのキーワードが「ネオリベ改革」です。一般的にネオリベ政権とは小泉政権を指しますが、本書ではその傾向がすでに86年の雇用機会均等法からはじまっていたとします。女性というだけで、いっしょくたに差別されていたその昔。しかし、同法が、少数のエリート総合職と、マスの一般職に女性を分断したのです。その後の四半世紀のあいだに、雇均法が適用されない非正規社員が増加します。 そこには、「女性を活用したいが、保護はしない」自民党ネオリベ政権の意向、グローバル時代に「日本ならではのやり方」で対応しようとした経済界の要請などがありました。その過程で、働く女性自身のなかにも「勝敗優劣」「自己責任」が内面化されてゆきます。 家事や育児を背負いながら働かざるをえず、脱落したら「自己責任」。もはや「お局サマ」にすらなれない厳しい時代を生き抜くための必読書です。
感想・レビュー・書評
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研究のみならず政策形成や運動でもフェミニズムに関わってきた上野氏が本書で取り上げるのは、「ネオリベ改革は女に何をもたらしたのか」という、まさにフェミニズムにとっての大問題。どのようにこれまでの問題を総括し、女たちのサバイバル戦略を示してくれるのかと思ったら…読み終わった瞬間に本投げそうになりました(怒)。
長引く不況と少子化による労働力不足の中で、「女にもっと働いてほしい」という政府の思惑と、「平等に働きたい」という女性たちの要求が合致した結果、ネオリベ政府が国策として「ジェンダー平等」を推進するという状況が生まれてきた。とはいえ、この「ジェンダー平等」は、女性に機会を開きはしても、主婦付き男性を標準型とする労働慣行を変えるものではなく、女性だけに負わされたケア負担を軽減するものでもない。むしろ女性と若者を使い捨てにする労働規制緩和が進行した結果、女がまとめて差別されていた時代から、身体を壊すまで男並みに働くエリート女か、再生産労働負担から逃れられずに差別的待遇に甘んじる一般の女か、どちらにしても苦しい二択の間で女たちが引き裂かれる状況が生じてきた、というわけである。
この見取り図自体には、特に目新しさはない。社会学者としての上野氏の本領は、こうした労働市場の構造変化が、家族や若年層におよぼした影響を論じる部分にあるといえるだろう。たとえば、息子たちだけでなく娘たちも教育投資の対象になるようになったのは、母親がパート労働で得た収入によって、自分自身では実現できなかった高等教育の機会を娘のために開いてやるようになったためだという。医師や弁護士など、組織の中で男に足を引っ張られなくてもすむ職業に、というのはなかなかに興味深い。一方で娘に対する母親の高まる期待と教育投資は、就労継続による収入増期待と、不十分な高齢者ケアを補う介護期待という形での投資回収期待となって、娘たちに二重の圧力をかけることにもなっているという。
というふうに、なるほど鋭いと思わされる部分とか、幅広い社会学の論文を紹介していて、たしかに勉強になる部分はあるのだけれど、全体的に議論のしかたがあまりにランボー。たとえば二重負担に追い詰められた女子たちの間には「メンへラー」が増えている、だとか、「オス負け犬」の老後はメス負け犬より悲惨だが、彼らは否認、逃避、嗜癖、あるいは「切れる」しか選択肢がない、だとか。どんなに暴言を吐いても、その根底に「愛」があれば、そこまで悪い気はしないのだが、実のところ、彼女が若い世代に向ける視線は、「ごくろうさまね…」と書くように、とことん他人事。このような社会システムを若い世代に残していく一人としての責任感というものはないらしい。
ということを、さらにはっきり思い知らされるのが、本書の最後で若い世代の女たち向けに示されるサバイバル方法である。ここにきて突然、「百姓ライフ」とか、地域やNPOで自分を生かすのも素敵よね、って、なんだそりゃ(怒)。
企業社会で賃金労働してる女性たちには何の慰めにもならないし、百姓とかNPOの収入で、女一人で暮らしていくのは大変って、あなた知ってるはずだよね? 何より、リベラリズムとフェミニズムっていうテーマはもうどうでもよくなったんでしょうか。女たちが集合的にエンパワーしていくっていう道は、もう考えもしないのね。そういうご本人は東大教授で年金もばっちり出てる世代だもんな。
ここまであからさまに、「私は勝ち逃げするけど、あと若い世代は高望みせずに適当にがんばって」みたいな態度、それもフェミニストの社会学者がこういう本を書くのって、ほとんど倫理的にありえない気がするんだけど。上野千鶴子、学者としてもフェミニストとしても、もう退場してくださいって気持ちだよ。 -
最近読んだ本のなかでいちばんグサっときた…!
男女雇用機会均等法って手放しでいいものだと思ってた。というふうに高校生の時から授業でも教えられてきた気がする。
でも。。。均等法の盲点は、「平等」ではなく「機会均等」ということ。そしてそれは「正社員についてのみ」定められていること・・・同年に成立した労働者派遣事業法と両輪となって、使用者に都合のいいような設計にされた。
つまり、この後は使用者にとって女性労働者は「機会を用意するから」男並みに働ける女性か、一般職正社員に代わってすぐ首の切れる非正規雇用かの2種類となってしまったこと。
そしてそれが女女格差を生み女性間での連帯を止めてしまうという…(怖
思うところはいっぱいあったけど、
第4章 電子書籍p.1527/4604
「もし日本社会がほんとうに少子化対策を求めているなら…子産み時の年齢の女性たちに、安定した正規雇用を与えることが最大の処方箋だと。そしてその働き方はワーク・ライフ・バランスがとれるようなゆとりのあるものでなければなりません。」
→ほんとそれ。そしてそういう「現実的な」キャリア教育を、遅くとも中学生から開始することが本当に必要。
社会に出てから、働き始めてしばらくしてから気づく人が多すぎる。
→でもこれは「難しい」。そもそも正社員というパイが少なくなってきてるため。
→なので個人でできることとしては「一人ダイバーシティ」。収入はシングルよりダブル、ダブルよりトリプル。つまりホリエモンのような生き方(「少なくとも3つの肩書きを持て」)だね。
私は未来の子供たちに対して何ができるだろうと思う。
自分が良ければいい、じゃなくて、後輩の女性たちにも、企業にも、日本社会にもためになるような「場」が作れないかと思う。 -
男女雇用機会均等法から30年—。
確かに女性にとっての『雇用機会』は、均等になった。女性の大学進学率は増加し、男性と同じように就職戦線へ進むようになった…。
が、総合職と一般職、さらには正規社員と非正規社員…そんな組織都合の雇用機会が増えるばかり。また結婚や出産による女性に対するマイナス評価は一向になくならない。
そればかりか、かつてのような専業主婦の道は、この不景気では最も危険な選択肢と言わざるを得なくなった。
著者の言うとおり、一部の優秀な女性は総合職としてキャリアを積むことのできる機会ができ、均等法の恩恵を得たかもしれない。
しかし、大部分の女性にとっては、到底一人では生きていけない賃金で両親や夫に依存しながら生きていかざるを得ない状況が顕著になるばかり。それどころか、将来の親の介護…夫の将来…不安要素は尽きる事がない。
女性は男性のように『仕事だけ!』では生きていけない。『就活と婚活』、その後も『仕事、家庭、育児』全てをバランスよくこなさなくてはいけない。扶養されるということは、ありがたいことであるが、つまり、結局は自分は社会的弱者であると認めること。
そんな社会であるからこそ、女性として生き残っていく術をきちんと考えなくてはいけない。
差別のおかげで女たちの方が、正気で人生のバランスシートを考えることができている…という最後の言葉を信じたい。女は賢くしなやかに!
この本を、学生時代に読んでいれば良かったかと問われたら…なんとも言い難い。おそらくダメージが大きすぎて鬱になると思う…。 -
日本のフェミニズム論者として牽引役だった上野先生による、男女雇用機会均等法前後から現在に至る日本人女性の置かれた状況の変遷史。
女の子が人身売買されたり、男の何分の1の給料で働かされたり、寿退職を迫られたり、搾取や差別が当たり前だった近代前期に比べれば、今は相当改善されたといえよう。
だけど、出産、子育て、家事がついて回る女性が男性と対等に伍して働くのは今でも容易ではない。
立法や政治が少しずつ前進しているように見えて、日本の場合それは国際的外圧からであったり、グローバリゼーションによる経済的要請からであったりする。そして実態は決して女性にとって容易なものとはいえない。
自分の社会人生活を振り返っても、訳もわからず社会に飛び込んだ挙句、景気、雇用ビッグバン、日本の雇用慣習などに翻弄されてきたように思う。
大学生の頃にでもこういう本を読んでいれば、多少は良い選択が出来たかもしれない。
日本は結局、社会を産みやすく育てやすい社会にドラスチックに変える代わりに、昭和の家父長的世帯観を最大限に延命させる方向で社会を維持してきた。その結果若者や女性は相対的に冷遇され、希望を持って結婚し家族を作れる社会にはならなかった。
その結果の少子化。もう何をしたって遅いだろう。次の世代に希望を持てと言えない上野先生の筆致は苦く重い。
上野先生自体は独身で子供もいないし、高度の学歴を持ち研究者キャリアを極めた方なので、サバイバル戦略と言われても上から目線だなぁと感じてしまう部分もあるが、知恵や美貌や愛嬌や資格や、実家や夫や婚家や子供や…とにかく使えるものは使って生き延びろということなのかなと受け止めました。子供たちにもそう伝えます。
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週40時間労働が子育てと両立しないのは、経験的に証明されている、とは、明確に認識にしたことがなかったことに気づいた。
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「男女雇用機会均等法」から30年、日本の女たちの受難の歴史を振り返ることができる良書です。
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5月16日読了。図書館。