遊動論 柳田国男と山人 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609536

作品紹介・あらすじ

「私は柳田論を仕上げることをずっと待ち望んでいた」(「あとがき」より) 既成の柳田論を刷新する衝撃の論考が出現した。 柳田国男は「山人」の研究を放棄し、「常民」=定住農民を中心とした「民俗学」の探求に向かった。 柳田は長らくそのように批判されてきた。 本書は、その「通説」を鮮やかに覆し、柳田が「山人」「一国民俗学」「固有信仰」など、対象を変えながらも、一貫して国家と資本を乗り越える社会変革の可能性を探求していたことを示す。

感想・レビュー・書評

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  • (01)
    柳田国男が用いた「実験」あるいは「実験の史学」をヒントに,1960年代以降,た評価が左右に揺らいでいる柳田の立場を擁護し,柳田テキストの新たな読みに挑んでいる.
    柳田が一貫して「山人」の実在を手放さなかったこと,それが「一国民俗学」や「固有信仰」となって,当時の国際情況が国内事情(*02)に合わせ批評的に持ち出された概念であることが本書で主張されている.
    民俗学や一国民俗学については誤解されることも多い柳田であるが,農政学や経済「経世済民」との関係により,柳田がその学をどのあたりに位置づけしようとしていたのかが分かる.著者は,柳田が「先祖の話」で説いた魂のゆくえの先を見極め,海と山の同位性や,平田国学や国家神道への批判性にも言及している.
    タイトルにある「遊動」とは何か.柳田自身が使ったわけではないキーワードであるが,現代哲学のノマドや網野史学の成果も踏まえ,柳田のテキストにあった遊動の解明を試みている.しかし,著者が提唱する遊動や交換様式にもいくつかの内実や分類があって,この試論は批判的に継承されていく必要があるだろう.

    (02)
    家の延長に国家があるわけでないこと,オヤコ関係が遊動の双系制にあっては血縁関係に結ばれた親子に限らないことなども本書に指摘されている.おそらくそれは未来の社会に向けた著者の意見でもあるだろう.

  • ゾクゾクしますね!

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    「「私は柳田論を仕上げることをずっと待ち望んでいた」(「あとがき」より)
    既成の柳田論を刷新する衝撃の論考が出現した。
    柳田国男は「山人」の研究を放棄し、「常民」=定住農民を中心とした「民俗学」の探求に向かった。
    柳田は長らくそのように批判されてきた。
    本書は、その「通説」を鮮やかに覆し、柳田が「山人」「一国民俗学」「固有信仰」など、対象を変えながらも、一貫して国家と資本を乗り越える社会変革の可能性を探求していたことを示す。

    担当編集者より
    山に住む「山人」の研究を放棄して、定住農民=「常民」を中心とした「民俗学」へ。これが従来の柳田理解でした。しかし、本書で思想家の柄谷さんは「遊動性」という概念を導入して、この認識に画期的な転回をもたらしました。柳田は「山人」を通じて、社会変革の方法を生涯、探求していた――。読み進めていくうちに柳田の「可能性の中心」がくっきりとした像を結ぶ知的興奮に満ちた新書です。今年二月には文春学藝ライブラリーから柄谷さん編による柳田アンソロジーも刊行されます。こちらもぜひ。(HB)」

  • [出典]
    「世界史の実験」 柄谷行人

  • 遊動論 柳田国男と山人 (文春新書)
    (和書)2014年02月13日 22:52
    柄谷 行人 文藝春秋 2014年1月20日


    「思考実験=抽象化」ということと遊動性。

    抑圧されたものは強迫的に回帰する。

    柄谷さんの言いたいことを理解しようとそれぞれ考え思考実験(抽象化)してきた人たちにとっては柄谷さんがかなりわかり易い言葉と柳田国男という日本人にとってかなり具体的な例より解説されている。

    今まで自分の中で疑問になっていた部分が氷解されています。

    柄谷さんは人間が思考実験と遊動性をどのように実践していけばいいのか?抑圧された自然状態(遊動性)が強迫的に回帰するということが思考実験とどのように関係すればいいのか?を示している様に思う。

    人間を弱者として体系化するのではなく弱者から格差の解消を目指すということ、それは人間の関係にある格差を止揚することを目指す姿勢であるのだろうと思う。それが思考実験としてありえるがスティグマされ不可触民のようにされているものであるが実践として非常に有効なものであると感じた。そういったものが強迫的に回帰するというのは僕のような人間にとって非常にオプティミスティックに感じるところである。

    「小さきもの」の思想 (文春学藝ライブラリー)も楽しみにしています。

  • 柄谷行人は『世界史の構造』を書くにあたって、色々と調べ上げたということだが、柳田国男の遊動論もその中のひとつであったという。それでも、なぜ、今となって柳田国男なのか。

    その答えは、彼の交換様式論にとって、柳田国男の遊動民(ノマド)の理論が重要な位置づけを占めていたからであった。二種類の遊動民(その一つが有名な山人)をあり、それが理解の鍵でもあるとする。遊動民と交換様式論の関係について引用すると次の通りである。

    「各種のノマド(遊動民)が、交換様式C(商品交換)の発展を担ったのある」そして、「遊牧民は、交換様式Cとともに、交換様式Bの発展を担ったということができる」
    さらに「定住以前の遊動性を高次元で回復するもの、したがって、国家と資本を超えるものを、私は交換様式Dと呼ぶ」

    そう、『世界史の構造』における交換様式Dが、遊動性に関係しているのだ。

    「交換様式Dにおいて、何が回帰するのか。定住によって失われた狩猟採集民の遊動性である。それは現に存在するものではない。が、それについて理論的に考えることはできる」

    だが、その後の議論は具体的には進まない。

    「彼がいう日本人の固有信仰は、稲作農民以前のものである。つまり、日本に限定されるものではない。また、それは最古の形態であるとともに、未来的なものである。すなわち、柳田がそこに見いだそうとしたのは、交換様式Dである」

    と相変わらずの我田引水っぷりで本文を終える。
    柳田国男を読んだことがなかったこともあり、ちょっとわからなかったな。

  • 今月 花木さん推薦 明通寺読書会の本です

  • 去年読んだ大塚英志の http://www.amazon.co.jp/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%92%E4%BD%9C%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%AE%E5%9B%BD%E3%81%8C%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%A7%E3%82%82%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%9F%B3%E7%94%B0%E5%9C%8B%E7%94%B7%E5%85%A5%E9%96%80-%E8%A7%92%E5%B7%9DEPUB%E9%81%B8%E6%9B%B8-%E5%A4%A7%E5%A1%9A-%E8%8B%B1%E5%BF%97/dp/4040800184/ref=tmm_hrd_title_0?ie=UTF8&qid=1454264566&sr=8-1 に続く柳田国男本です.
    これまた前回同様端折って書けば「富の配分」をいかにするかってことが語られてるてます.
    が,肝心の解答らしきものが書かれてません.大昔にあった(であろう)社会(システム)をバージョンアップして現代に持ち込めってことなんだろうけど,はてさてどうやったらよいのでしょうかね.
    ま,考えてみます.

  • 柳田邦男の「山人」という今は忘れられた人々のことをテーマに、その人々が持っていた概念を遊動性という言葉から解き明かそうとされています。国家などに所属をしないという点では、遊牧民もそうですが、彼らはそれに所属していなくても依存しています。そうではない、遊動性を持った過去の人はどういう人であったのか、その答えに一番迫ったと思われる柳田邦男の書からそれを知ろうとされています。
    現在では、それに近く残っているのは世界宗教もしくは、この日本だけなのではとも思えました。

  • まず、柳田国男は純粋に民俗学の研究者だと思い込んでいた。それは完全に私の誤解であった。柳田は今の東大法学部で農政学を学び、卒業後は官庁で農業の政策にかかわる仕事をする。いろいろな地域で農民などから聞き取り調査をする中で、民俗学的な研究につながっていく。例によって、いろいろと心に響いた箇所はあるのだけれど、全体的には結局きちんと理解できないまま読み進んだ。そして、付論の最後の最後にこうある。「柳田がそこに見いだそうとしたものは、交換様式Dである。」次のページは見慣れた交換様式の4つの形態の表があり、そこで終わっている。交換様式D、いまだ名づけられていないX。何と魅力的であろうか。それを柳田も見つけていたという。もう一度読み直さなければならない。

  • 【柳田国男、その可能性の中心】柳田は「山人」を放棄などしていない。それを通じて、社会変革の方法を生涯、探求していた。画期的な転回をもたらす衝撃の論考。

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著者プロフィール

1941年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学大学院英文学修士課程修了。法政大学教授、近畿大学教授、コロンビア大学客員教授を歴任。1991年から2002年まで季刊誌『批評空間』を編集。著書に『ニュー・アソシエーショニスト宣言』(作品社 2021)、『世界史の構造』(岩波現代文庫 2015)、『トランスクリティーク』(岩波現代文庫 2010)他多数。

「2022年 『談 no.123』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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