原発敗戦 危機のリーダーシップとは (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609567

作品紹介・あらすじ

福島第一原発事故で、日本は「あの戦争」と同じ失敗を繰り返した。『カウントダウン・メルトダウン』で福島第一原発事故を克明に描いたジャーナリストの船橋洋一氏が、フクシマと「あの戦争」で驚くほど酷似している失敗の原因を徹底検証しました。 船橋氏の方針は、「文化論」を極力避けることでした。「文化決定論」は無責任と敗北主義をもたらし、「日本人だからダメなのだ」だという居直りとあきらめをもたらすだけだからです。 そこで船橋氏は組織論、リーダシップ論、ガバナンス論の視点から、どのような状況におかれた意思決定者が、どのような人間関係や指揮系統のなかで、どのように決断や命令を下したのか、を具体的に検証していきました。そのような方法を選ぶことで、二度とあのような失敗を繰り返さないための処方箋を見いだせるのではないかと考えたからです。 以下に本書で発見、分析されたフクシマとあの戦争の失敗の原因の類似点を挙げておきましょう。○兵力の逐次投入(事態の収拾がつかなくなってから、手当てをする→後手後手に回る。ガダルカナル的状況)○「最悪のシナリオ」が考えられない。○インテリジェンスの軽視(戦前、作戦課は情報課の情報に耳を貸さなかった○「タコツボ」的な指揮系統○大局を見ない組織間抗争(海軍と陸軍、連携しない中央省庁)○誰が意思決定者なのかがわからない。上記のテーマを掘り下げた対談(半藤一利、増田直宏、チャールズ・カストー、野中郁次郎、折木良一)も収録されています。

感想・レビュー・書評

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  • 2022/06/17

  • 先の大戦での敗戦と福島第一原子力発電所事故への対応の病根は、
    同じ性質なのではないかを論じたのが本書である。

    日本の政治・官僚の責任回避、危機に際しての組織としての機能
    不全、権限・指揮系統の不透明性。それは戦時中から連綿と受け
    継がれた。

    そして、福島第一原子力発電所事故のような国家の存亡がかかっ
    た危機に直面するとそれが如実に表面化する。

    国民にパニックを引き起こす可能性が大きいからと、原発事故の
    際の放射能拡散のデータは隠され、官邸も専門家と呼ばれる人も
    「ただちに健康に影響はない」と繰り返した。

    国民のパニックを心配する、その政府中枢が一番のパニックに陥り、
    これまで安全神話のプロパガンダを垂れ流して来た原子力ムラの
    人々は頬かむりをし、関係官庁間では責任の押し付け合いに終始
    する。

    その一方で、「起こりえない」とされて来た全電源喪失が起き、
    予備のディーゼル発電も使えなくなった福島第一原子力発電所
    の現場では吉田所長以下の東電社員、協力会社の人たちが「玉砕」
    覚悟で対応に当たっていた。

    政治家や官僚の無知と無責任、事業者である東京電力本店の能力
    のなさ。そのしわ寄せがすべて現場に押し付けられたのではない
    だろうかと思う。

    あの事故を教訓として、日本は変わったのか?私は変わっていない
    と思う。福島第一原子力発電所事故以前、アメリカのスリーマイル
    島、ソ連のチェルノブイリを持ち出すまでもなく、茨城県東海村の
    JCO臨界事故からも学ばなかったのだから。

    当時の民主党政権の事故対応は確かにグダグダだった。だが、民主
    党だけに責任があるのだろうか。

    2006年、共産党議員から時の安倍晋三に対し「巨大地震の発生に
    伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに
    関する質問主意書」が提出されていた。

    スウェーデンでの二重のバックアップ電源喪失のような事故が日本で
    起きる可能性、冷却系が使用不能になった復旧シナリオの有無、メル
    トダウンの想定の有無、原子炉が破壊された場合の放射能拡散の被害
    予測の有無等に関しての質問だった。

    それに対し「海外とは原発の構造が違う。日本の原発で同様の事態が
    発生するとは考えられない」「そうならないよう万全の態勢を整えて
    いる」と答えるだけ。

    起きたら困ることは起きないんじゃないか。起きないに決まって
    いる。いや、絶対に起きないとして「最悪のシナリオ」を考える
    ことを放棄して来たツケが、福島第一原子力発電所事故なのでは
    ないか。

    きっとまた、国家的危機に直面したらこの国は同じことを繰り返す
    はずだ。

  • 失敗から学ぶことは多いが、生かすことが最も大事。自分の仕事で反省する点が見つかった。
    フクシマ戦記はこれからもフォローすべし。

  • 福島1Fと同様に冷却機能喪失にもかかわらず、冷温停止に持ち込むことができた福島2F増田所長と対談が印象的。
    1Fが増田所長だったら、というコメントが出るのもうなづける。

  • 福島原発事故時、政府・東京電力が失敗した原因を追究したノンフィクション。リスク意識・組織ガバナンス・リーダーシップの欠如という日本人の国民性は、先の大戦の時から進歩が無いのだということを主張しており、自分たちの仕事においても反面教師にすべき点は多いと感じた。

    一番興味深かったのは、当時の福島第2原発の所長へのインタビューでの、メルトダウンした第1原発と、正常に停止できた第2原発との違いについて。
    一番の原因は、中央制御室が第1は停電し第2はしなかったこと。更に、第1はプラント1-6号機で型が3種類あって状況把握が難しかったのに対し、第2は1-4号機まで同型だったとのこと。
    第1原発は、古く多様な設備を使い続けていたツケが来たということなのだろう。

  • 東日本大震災で発生した原発事故で最前線にたっていた方々の話を軸に、あの時に何があったのかということを「敗戦」というキーワードをもとに再構成したノンフィクション。
    現場で何があったのか・・ということをあらためて知ると言う意味においてはよかったのだけれど、あの出来事を太平洋戦争と並べて「敗戦」というキーワードで語ろうとするのはちょっとな・・・というのが正直な感想。

    ある出来事を取り上げて国民性や何かしらの(勝ち負け)の原因を探ると言うのは、歴史家の営みの中でスタンダードなものでは有ると思うけど、今回は「日本は変わっていなかった」ということをまず言いたくてトピックを選んでいるような気がしてならなかった。言いたいことが先にあって、トピックを選んでいるのはわかるのだけれど。
    ・・・個人的には、正誤を語りがちな今はまだ、あの震災とそれに伴う出来事を「歴史」の観点から見るのは早いと思うんだよね。

  • 【日本は再び敗けた】福島第一原発事故で指導者たちは第二次世界大戦での失敗を繰り返した。国家的危機に機能しなかった日本のリーダーシップを検証する。

  • 福島第一原発での事故対応に関して、危機に際してのリーダーシップのあり方、組織のあり方にスポットをあてたノンフィクション。「事故対応で有効に機能したのは自衛隊だけで、それは自衛隊がそもそも何が起こるかわからない状況を常に想定して普段から訓練しているからである」との記述には納得。企業が事故を起こした後で「マニュアルが無い事が事故の原因」という論評をマスコミがする事があります。確かに、いろんな場面を想定してマニュアルを準備するのは大事だと思います。しかし事故って「そんなレアな状況はめったに無いで」みたいに人間の想像力のちょっと及ばない所で発生する事が多々ありますし、そういう状況に陥った時にいかに冷静に論理的に行動できるかという部分が組織の危機対応力につながると思います。
    危機に際して情報欠乏状態になった時「断片的な情報、最初に入ってきた情報の真偽をきちんと確認することなく飛びついて行動を起こし、状況を悪化させるな。まず情報の真偽を確認せよ」という自衛隊指揮官の言葉も管理職として日ごろから心がけたい姿勢だと思います。

  • 感想未記入

  • 第2発電所の所長の話は参考になった。

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著者プロフィール

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。法学博士。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。同社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長等を経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(RJIF)設立。福島第一原発事故を独自に検証する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」を設立。『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)では大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「2021年 『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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